線路と娼婦とサッカーボール(スペイン映画・2006年) |
<東映試写室>
2007年12月18日鑑賞
2007年12月22日記
中米グアテマラに、娼婦たちによるサッカーチームが生まれたのは一体なぜ・・・?また、彼女たちは一体何を目指したの・・・?日本ではありえないそんな現実を映し出したドキュメンタリー映画は、ベルリン国際映画祭観客賞を受賞!たまにはこんな変わった映画で、変わった問題点を考えてみるのもいいのでは・・・?
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監督:チェマ・ロドリゲス
バレリア(売春婦のサッカー選手、主将)
メルシー(売春婦のサッカー選手)
ビルマ(売春婦のサッカー選手)
カロル(売春婦のサッカー選手)
チーナ(売春婦のサッカー選手)
キム(旧ゴールキーパー)
ルーペ(新ゴールキーパー、ビルマの恋人)
マリナ(元売春婦のサポーター)
キンバリー(ユニフォームのデザインとコーチ担当、同性愛者の男性)
アンドレス(マネージャー役のジャーナリスト)
ランディ・ピット(「ラ・リネア・オールスターズ」のスポンサー、
「グアテマラ・トラベルズ・ネット」の社長)
2006年・スペイン映画・90分
配給/アニープラネット 宣伝/おふぃす風まかせ
<たまには、こんな変わった映画も・・・>
タイトルを見ただけで、こりゃ一体何の映画と思うのは当然。原題は『The Railroad All Stars』だから、邦題の方がまだ少しわかりやすい。娼婦とサッカーボールは誰にでもわかるが、わからないのは線路。そこでプレスシートを読むと、「線路(リネア)と呼ばれるのはグアテマラ・シティの一画」と書いてある。そしてスクリーン上にはそんな「線路」が登場する。
なるほど、その線路沿いの一画で、1回2ドル半という報酬で「仕事」をしている娼婦たちが立ち上がり、サッカーチームをつくって闘う姿を描いたのがこの映画。またこれは、トラベル・ライターとして100を超える国を旅行し、世界各地でドキュメンタリーを撮る新鋭とされているチェマ・ロドリゲス監督がつくったドキュメンタリー映画。
したがって、さまざまな知的好奇心を満たしてくれるという意味では面白い映画だが、ドラマの楽しさを味わいたいという人には不向き。しかし、たまにはこんな変わった映画も・・・。
<なぜサッカーチームを・・・?>
映画の冒頭、線路沿いの空き地でチーム名を討論している娼婦たちの姿が登場する。議論の結果、チーム名は「リネア・ガールズ」から「リネア・フッカーズ」、そして最終的に「ラ・リネア・オールスターズ」に決定した。しかし、コーチのキンバリーの指導の下、ストレッチからボール回しの練習をしている姿を見ると、これでホントにサッカーがやれるのかいな、と誰もが思うはず。
映画は、チームに参加している娼婦たちへのインタビューを挿入しながら、まずはラ・リネア・オールスターズが最初の試合を「アイス・デビルズ」という女子高生のチームと行うところまでを描いていく。その試合では当然のように負けたのは仕方ないが、娼婦たちのチームだと知ったアイス・デビルズの保護者たちはサッカー協会に抗議の声を挙げたから大変。
日本では娼婦たちのサッカーチームが公式に活動することができないことは100%明らかだが、中米のグアテマラではどうかナと少し思っていたが、こんな反応を見ればやはり予想どおり。そしてそれは、線路沿いの娼婦たちもわかっていたはず。すると、そんな反感や反応を予想したうえで、サッカーチームを結成し、公式の対外試合に出ようとした彼女たちの狙いは、一体ナニ・・・?まずは、それを考え、理解しなくては・・・。
<抵抗勢力と支持勢力が・・・>
世の中に新しい動きが起こると、それに対する抵抗勢力と支持勢力が生まれるのは当然。ロドリゲス監督はそれを注意深くフォローしていく。抵抗勢力の攻撃には、「汗でエイズがうつる」というひどいものも・・・。また、内部対立の発生も不可避で、「おっぱいが邪魔で」と言い訳していたキムが辞め、新たにルーペがゴールキーパーとして参加することに。
他方、支持勢力も着々と拡大していったからすごい。まずは、「グアテマラ・トラベルズ・ネット」の社長ランディ・ピットというスポンサーの登場。これによって、ラ・リネア・オールスターズのメンバーたちはチャーターされたバスに乗り、公式ツアーに出発することに。また、テレビ・ニュースでは、チームの未勝利を伝えるとともに、差別問題への関心が高まったことが報道された。さらに、チームの影響を受けた隣国エルサルバドルの娼婦たちもサッカーチームを結成し、娼婦たちが国を代表して闘うという前代未聞の状況に・・・。
<増大する抵抗勢力の力・・・>
グアテマラとエルサルバドルという国を代表して娼婦たちのチームが闘うことに対して、多くの団体が反対の大合唱を挙げてきたのは当然。2007年9月26日に発足した福田政権の支持率が今急速に落ち込んでいるのは、年金問題における公約違反の問題が大きいが、渡辺喜美行政改革担当大臣を中心とした独立行政法人法改革の後退など、全体的な改革の後退が大きな原因だと私は考えている。つまり、小泉総理が徹底的に排除し、安倍政権も排除しようとした抵抗勢力が、福田政権の下で今復活しているのと同じように、娼婦たちのサッカーチームに対する抵抗勢力が、今大きく盛りあがってきたわけだ。
そんな中、エルサルバドルからグアテマラへの国境を越えるエルサルバドルチームの遠征は可能なの・・・?また、試合はホントに決行できるの・・・?そこらあたりは是非あなたの目で。また、はじめて結成された娼婦たちのサッカーチームのその後と、娼婦たちのその後の人生についても、この映画を観ながらしっかり考えてみたいものだ。
2007(平成19)年12月22日記