レンブラントの夜警(カナダ、フランス、ドイツ、ポーランド、オランダ、イギリス合作映画・2007年) |
<東映試写室>
2008年1月16日鑑賞
2008年1月17日記
『アマデウス』(84年)にはあっと驚いたが、この映画にも・・・。レンブラントの『夜警』は有名。また、彼の栄光と転落の生きザマも客観的な事実。しかし、『夜警』に描かれた人物たちをめぐってこんな謎があり、かつこんな解釈があったとは・・・?三人三様の女たちをめぐるストーリーも面白く、レンブラントの男としての強さと弱さがくっきりと・・・。それにしてもピーター・グリーナウェイ監督のこの解釈は多数説・・・?それとも珍説・・・?
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督・脚本:ピーター・グリーナウェイ
レンブラント・ファン・レイン/マーティン・フリーマン
サスキア(レンブラントの妻、ヘンドリック・アイレンブルグの姪)/エヴァ・バーシッスル
ヘールチェ(家政婦)/ジョディ・メイ
ヘンドリッケ(家政婦)/エミリー・ホームズ
ヘラルド・ダウ(レンブラントの弟子)/トビー・ジョーンズ
ヘンドリック・アイレンブルグ(レンブラントの画商)/ケヴィン・マクナルティ
マリッケ(ロンバウトの養女)/ナタリー・プレス
マリタ(ロンバウトの養女、マリッケの妹)/フィオナ・オシャーグネッシー
ロンバウト・ケンプ(軍曹)/クリス・ブリトン
カール・ハッセルブルグ(旧隊長)/ハリー・フェリアー
エグレモント(旧副隊長)/マチェイ・ザコシェルニー
フランス・バニング・コック(リッペンダムの領主、新隊長)/アドリアン・ルーキス
ウィレム・ファン・ライテンブルク(新副隊長)/アダム・コッツ
2007年・カナダ、フランス、ドイツ、ポーランド、オランダ、イギリス合作映画・139分
配給/東京テアトル、ムービーアイ 宣伝/オフィス・リブラ
<独特のすごい解釈は『アマデウス』級・・・>
『夜警』は、17世紀のオランダの画家レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レインが36歳の時(1642年)の代表作だが、『夜警』のもう1つの名前は『フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルク副官率いる市民隊』という長ったらしいもの。画家レンブラントの名前はほとんどの日本人が知っているはずだが、彼は『夜警』によって市民隊員34名の集合画を描いた時期を絶頂期とし、その後は仕事面でもプライベート面でも没落していったらしい。つまり、彼が現在のように、「バロック3大画家の1人」「世界3大名画の1枚を描いた画家」「ルネッサンス以来最高の画家」と称賛されるのは、その後約100年の経過を必要としたわけだ。
独特のすごい解釈を加え、ライバルだった宮廷音楽家(?)アントニオ・サリエリの目で、音楽の天才ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを描いた大傑作が『アマデウス』(84年)だったが、この『レンブラントの夜警』は、それと同じように『夜警』と天才画家レンブラントを、ピーター・グリーナウェイ監督独特のすごい解釈で描いたもの。
グリーナウェイ監督自身が美術学校の出身で絵画も手がけているため、『夜警』について長年たくさんの疑問点を抱き続けてきたらしいが、それをこの映画で一気に開花させ、世に問うたわけだ。
さて、その独特のすごい解釈によると、『夜警』の中にいるあの人物、この人物が語っているものは一体ナニ・・・?またあの動作、この動作が意味しているものは一体ナニ・・・?さらに、この『夜警』を境に、レンブラントが転落し、破滅していったのは一体なぜ・・・?
<この映画の鑑賞には勉強が不可欠>
レンブラントの『夜警』は、フランス・バニング・コック隊長(アドリアン・ルーキス)からの注文で市警団員全員を有料(かなりの高額)で巨大なキャンバス上に描く、いわば集合写真。すると難しいのは、団員たちの配置とポーズだ。つまり、全員を平等に描かなければ、団員から文句が出ること必至ということだ。もっとも、レイアウトの位置や大きさに応じて料金を個別に設定して交渉すればいいのかもしれないが、さすがに当時のレンブラントにはそこまでの商売気はなかったよう・・・?
この映画のプレスシートには、アムステルダム国立美術館ホームページによる『夜警』についての「公式」な説明があるうえ、キャンバス上に描かれている市警団員を中心とした34名すべての名前と主要人物のキャラが解説されている。そして、映画でも解説される『夜警』の構図に対してグリーナウェイ監督がもつ6つの疑問点も提示されている。もちろん、こんな疑問は、『夜警』について詳しく勉強した人でなければ抱くはずはないが、そう言われてみるとたしかに「なぜ・・・?」と思えてくるから不思議・・・?そして最大の疑問とポイントは、絵画中央後半に少しだけみせているレンブラント自身の目。さて、わかるかナ・・・?
ここでこれ以上『夜警』についての私の孫売り知識を披露しても無意味だから、あとはあなた自身がパンフレットやネット情報で勉強してもらいたい。この映画を理解し、楽しむためには、『夜警』とレンブラントについての勉強が不可欠だ。
<「依頼者迎合型」VS「依頼者教育型」の実践は・・・?>
私は法科大学院が発足した2004年に『いま、法曹界がおもしろい!』(民事法研究会)を出版し、その第4章の「弁護士像あれこれ」の中で「依頼者迎合型VS依頼者教育型」を論じた。つまり、「依頼者迎合型」が次第に増えている中、私は弁護士登録以来一貫して「依頼者教育型」に誇りを持っているし、今後の弁護士にはそれが要請されると主張したわけだ。そんな目でこの映画を観ると・・・?
もともとレンブラントは、「ただ顔を並べて描くのはまっぴら」という理由で集団肖像画の注文には乗り気でなかったらしい。ところが、妊娠中の愛妻サスキア(エヴァ・バーシッスル)から、「息子のためにもっと富を蓄えたい」と言われたため、やむなくこの注文に応じたらしい。このように、レンブラントはもともと自分の絵にこだわりをもち、顧客のニーズに合わせていく依頼者迎合型ではなかったよう。
もっとも、弁護士は依頼者との話し合いを通じて「依頼者教育型」を実践していくことが可能だが、画家は注文を受けた以上話し合いを通じて依頼者を教育していくことはムリで、完成させた作品によって何らかの結果と主張を示さなければならない職種。そこで、依頼者教育型の弁護士である私が依頼者に対して示すやり口ではなく、もともと「依頼者教育型」(?)のレンブラントが依頼者である34名の市警団員に対して示した作品(『夜警』)による主張は・・・?
<EUの強さがここにも・・・?>
アメリカの「サブプライム・ローン」問題に端を発したアメリカの景気後退と日本売りは、ついに1月15日には日経株価平均が1万4000円割れという事態に至った。ところが、ヨーロッパはその影響を受けながらも景気は堅調で、EU(ヨーロッパ連合)の力強さが際立っている。中国の人民元引き上げの必要性は当然だがそれは別として、ドル安と円高そしてユーロ高の基調はまだしばらく続くことはまちがいなし・・・?
そんな経済情勢を反映するかのように、ハリウッドではイラク戦争の帰還兵の悲劇を描いた『勇者たちの戦場』(06年)がつくられ、また日本ではケータイ小説や安易なテレビドラマの映画化が目立っているのに対し、ヨーロッパではカナダ、フランス、ドイツ、ポーランド、オランダ、イギリス合作でこの『レンブラントの夜警』のようなオリジナリティあふれるすばらしい映画がつくられている。これでは米日に対して、ヨーロッパが強いのは当然・・・?EUの強さがここにも・・・?
<三人三様の女たち その1─サスキア>
男が成功できるかどうかは、本人の資質や才能だけではなく、結婚した女によることが多い。いわゆる「あげマン」か「さげマン」かということだ。その点、レンブラントが35~36歳にしてオランダのアムステルダムで一流の肖像画家としての名声と富を手に入れることができたのは、妻サスキアのおかげともいえるもの。
サスキアは、8年間にわたってレンブラントの画商をしていたヘンドリック・アイレンブルグ(ケヴィン・マクナルティ)の姪で、公私ともに有能なパートナーとしてレンブラントを支えてきたわけだ。そして今、サスキアは待望の男の子を出産。レンブラント家の幸せは永久に続くかと思われたが・・・?
<三人三様の女たち その2─ヘールチェ>
サスキアはレンブラントが描く『夜警』の完成を待たず、幼い男の子を残して死んでしまった。これは運命としか言いようがないが、レンブラントが『夜警』を描く中で熱中していたのは、市警団の中で起こった「ある事件」についての告発。つまり、彼は『夜警』の中にその事件を描き、告発しようと躍起になっていたのだった。姪の葬儀に出席したヘンドリック・アイレンブルグは、そんな絵が「お前に災難をもたらす。破って描き直せ」と忠告したのだが、レンブラントは逆に無断で完成前の絵を見たヘンドリック・アイレンブルグに対して激怒し、当初の思惑どおり『夜警』を完成させることに。
そんな中、完成した『夜警』を見て復讐を誓ったフランス・バニング・コック隊長以下の市警団がレンブラントのセックススキャンダルを起こそうとの陰謀のもとに送り込まれてきたのが家政婦のヘールチェ(ジョディ・メイ)。たっぷりと性愛テクニックを仕込まれたヘールチェの前にあっけなく降伏したレンブラントは、たちまちサスキアを亡くした悲しみを忘れ、ヘールチェの肉体に溺れていくことに・・・。さて、ヘールチェのどんなテクニックがよかったのか・・・?それは映画の中でタップリと・・・。
<三人三様の女たち その3─ヘンドリッケ>
レンブラントとヘールチェの仲は長く続かなかったが、それは一体ナゼ・・・?その理由は簡単。つまり飽きだ。どんな巧妙な性愛テクニシャンでも、長く続いてくると飽きてくるもの。それが男というものだ・・・?
私が見る限り、天才画家レンブラントも男としてはわりと単純だったようで、レンブラントが次に求めたのはヘールチェと正反対の若くて清純な家政婦のヘンドリッケ(エミリー・ホームズ)。ヘンドリッケは少女の頃からずっとレンブラント家の家政婦をしていたのだが、レンブラントはある日、ある時美しく成長したヘンドリッケの清純さに心を打たれたらしい。しかし、この時期は既に市警団の陰謀は着々と進んでいたうえ、レンブラントの画家としての人気は下降気味の福田内閣の支持率以上に下落中。したがって、多少乱暴なことをしても、レンブラント支持派が騒ぐことはないと判断したフランス・バニング・コック隊長以下の市警団は、ある日レンブラントの家に押し入り、レンブラントに対して殴る蹴るの大暴行を。そのうえ「目をえぐりとってしまえ」となったから大変・・・。そんなレンブラントを、ヘンドリッケはホントに支えていくことができるのだろうか・・・?
<R指定スレスレのマーティン・フリーマンの熱演にビックリ・・・>
「レイティング」とは、映画を鑑賞することのできる年齢制限を定めた規定で、日本では映倫が審査し、一般(あらゆる年齢層が鑑賞できる)、PG-12(12歳未満(小学生以下)の鑑賞には成人保護者の同伴が適当)、R-15(15歳未満(中学生以下)の入場禁止)、R-18(18歳未満の入場禁止)の4段階に分かれている。この映画では、主人公レンブラントを演ずるマーティン・フリーマンの冒頭のキワどいシーンや、サスキア死亡後、2番目の女性となる性愛テクニック抜群のヘールチェとのエッチシーンにおいて男性器モロ見えの一瞬があるが、どうも映倫はそれもOKとしたよう・・・。
この映画はもともとH度を期待するものではないうえ、中年男のそんなヌードシーンを見ても仕方ないという人が多いだろうが、それでもマーティン・フリーマンの熱演は大したもの。
もっとも、復讐のために送り込まれた性愛テクニック抜群のヘールチェに飽きてしまったレンブラントが、その後純愛のお相手として見出した、20歳も年下の家政婦ヘンドリッケの美しいヌード姿は私には大いに見モノだったが・・・。
<レンブラントが告発しようとしたことは・・・?>
この映画はレンブラントの伝記モノではなく、『夜警』をめぐって生じたレンブラントと市警団との対決、そしてその後のレンブラントの転落、破滅をグリーナウェイ監督独特の推理と視点で描くもの。たとえば、市警団のフランス・バニング・コック隊長と副隊長のウィレム・ファン・ライテンブルク(アダム・コッツ)とはホモ関係にあったらしいが、それはこの絵のどこをどうみれば推察できるの・・・?そしてレンブラントが『夜警』で告発しようとしたことは・・・?
プレスシートにあるグリーナウェイ監督のインタビューによれば、『夜警』には51の謎があると歴史家は言っているが、グリーナウェイ監督の仮説はそれを一挙に解明することができるらしい。したがって、そんなミステリーの解明をじっくりとあなたの目で。2時間19分の長丁場だが、そんなミステリー仕立てのこの映画は決して長く感じることはないはずだ。
2008(平成20)年1月17日記