奈緒子(日本映画・2007年) |
<GAGA試写室>
2008年1月18日鑑賞
2008年1月18日記
最近私はコミックやケータイ小説の映画化に食傷気味だが、上野樹里主演のこの作品は・・・?ヒーローとヒロインとの間の「ある確執」を背景として展開される「駅伝コミック」は単純だが、それなりの説得力あり!もっとも、彼女の代表作というには程遠い出来だと私はみたが・・・?
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監督:古厩智之
原作:坂田信弘『奈緒子』(小学館刊)
篠宮(しのみや)奈緒子(東京の高校生)/上野樹里
篠宮奈緒子(12歳)/藤本七海
壱岐雄介(波切島高校1年生)/三浦春馬
壱岐雄介(10歳)/境大輝
黒田晋(雄介のライバル、諫早学院3年)/綾野剛
西浦天宣(波切島高校陸上部顧問)/笑福亭鶴瓶
宮崎親(波切島高校陸上部キャプテン、高校3年)/富川一人
奥田公靖(波切島高校3年、陸上部員)/柄本時生
吉崎悟(波切島高校1年、陸上部員)/タモト清嵐
藤本卓治(波切島高校3年、陸上部員)/結城洋平
佐々木黙然(波切島高校2年、陸上部員)/五十嵐山人
五島伸幸(波切島高校2年、陸上部員)/佐藤タケシ
上原高次(波切島高校1年、陸上部員)/兼子舜
吉澤結希(波切島高校陸上部正マネージャー)/佐津川愛美
2007年・日本映画・120分
配給/日活 宣伝/日活
<またもコミックの映画化だが・・・>
最近の邦画はコミックの映画化が多いが、これもその1つ。それは1994年から2001年まで約8年間にわたって長期連載された伝説の「駅伝コミック」『奈緒子』だが、もちろん私は全然知らないもの。最近は洋画の名作が多いため、どうしても邦画が後回しになっているが、『奈緒子』は上野樹里主演だけに観ておきたいと思ったもので、ラスト試写の機会にやっと鑑賞。いかにも単純でわかりやすい夢物語だが、良くも悪くもこれが現在の日本の若者たちのレベル。これ以上複雑な話になると、読んだり観るのがめんどくさくなってしまうようだ・・・?
ハイライトはラストにおける高校駅伝の長崎代表を決定する大会の描写だが、さて優勝を目指して、そこではどんな激しいレースが・・・?そして、ヒロイン奈緒子(上野樹里)の役割とは・・・?
<安易でもわかりやすい導入部・・・>
この映画の底に流れるテーマは、ヒロイン奈緒子と「日本海の疾風(かぜ)」と呼ばれる天才ランナーで1年生ながら波切島高校のエースとなっている壱岐雄介(三浦春馬)との確執、そしてそれを乗り越えていく2人の生きる姿勢・・・。そこで冒頭に設定されるのが、12歳の少女奈緒子(藤本七海)のために父親を失った10歳の雄介(境大輝)が「お父ちゃんを返せ!」と叫ぶシーン。その具体的な状況設定はあなたの目で確認してもらいたいが、私に言わせれはそれはちょっと安易すぎ・・・。なぜなら、海の男がちょっとやそっとのことで簡単に死んでしまうことはないはず・・・?もっとも、コミックを読むにはそんなややこしいことは言わず、素直にその物語に入り込まなければ。そう考えると、安易でもわかりやすい導入部はこんなもの・・・?
<7人の「侍」たちは・・・?>
お正月のテレビはいつも駅伝の中継をやっているが、私はこれを真面目に観たことがない。したがって、詳しいルールもよく知らなかったが、この映画のプレスシートを読むとその知識はバッチリ。それによると、高校駅伝は42.195kmを7区間、7人で競う競技。
そこで、西浦監督(笑福亭鶴瓶)と吉澤マネージャー(佐津川愛美)率いる波切島高校陸上部員として登場するのが、7人の侍プラス1名。つまり、宮崎キャプテン(富川一人)をはじめとし、奥田公靖(柄本時生)、吉崎悟(タモト清嵐)、藤本卓治(結城洋平)、佐々木黙然(五十嵐山人)、五島伸幸(佐藤タケシ)、上原高次(兼子舜)という個性豊かなメンバーたちと雄介の計8名。つまり、1人は補欠というわけだ。
映画中盤は、高校駅伝長崎代表を目指して「仏の西浦」から「鬼の西浦」に変身した西浦監督の指導下、部員たちがしごき合宿(?)に耐えていく姿が描かれる。ちなみに、1人飛び抜けたエースがいる場合のチームワークがとりにくいのはよくある話。それが1年生ともなればなおさらだ。そこで同時に描かれるのが、合宿中に内部対立が進み、心がバラバラになっていく部員たちの姿。ホントにこんな合宿で、長崎代表を決める大会に見込みはあるの・・・?
<笑福亭鶴瓶の活躍に拍手!>
2007年12月31日の『紅白歌合戦』の白組司会者が落語家の笑福亭鶴瓶と聞いた時はビックリ。そして、紅組の司会者が中居正広クンと聞いてなおさらビックリ。こりゃよほど紅組司会者に人材がいなかったせい・・・?それはともかく、笑福亭鶴瓶は山田洋次監督の『母べえ』(07年)に続くこの映画の出演で、俳優業もしっかり板に。と言えるかどうかは、あなた自身の目で・・・?
コミックらしいひねりをきかせているのは、主人公周辺の人間関係。その第1は西浦監督が雄介の父親と同じ陸上部員であり、彼が雄介の父親代わりをつとめていたこと。そのため、彼が今は高校3年生となって東京の高校で陸上部に入っている奈緒子を知った後、奈緒子をマネージャーにしようと画策すること。もちろん、それを受けるかどうかは奈緒子の決断によるわけだが、そんなストーリー展開になれば、受けることになるのは当然。第2のひねりは、彼がなぜ急に「鬼の西浦」に変身したのかということ。そこらあたりの微妙な心理描写を俳優笑福亭鶴瓶がいかに演じているか、よーく注目してみよう。
<ライバルの役割はイマイチ・・・?>
団塊世代のおじさんたちの愛読マンガの1つが、週刊少年マガジンに1968年から73年まで連載された『あしたのジョー』だが、これが面白かったのは主人公ジョーと終生のライバル力石徹との力が拮抗し、長い間にわたって競い合ったため。「スポ根モノ」にライバルが不可欠なことは、大鵬VS柏戸の例を挙げるまでもなく明らか。しかし、その点、この映画に登場する雄介のライバル黒田晋(綾野剛)の役割は少し軽すぎ・・・?
彼は諫早学院3年生で陸上部のエース。そして、映画冒頭の九州オープン駅伝では雄介を振り払って堂々の1位だったが、さてラストの高校駅伝長崎代表を決めるレースでは・・・?いったんヘロヘロに失速してしまった雄介を大きく引き離して悠々トップを走っていたのに、奈緒子に元気づけられた雄介から急に追いあげられ、とうとうゴール直前では・・・?こんな扱いでは真のライバルとはいえず、これでは単に雄介を引き立てるための刺し身のツマ・・・?
<私の時速は8kmだが・・・?>
私は毎週日曜日の朝、フィットネスクラブで20km走をしているが、その時速は8km。したがって、その所要時間は約2時間40分。男子マラソンでは、42.195kmを約2時間10分で走るから、何とその時速は約20km。
この映画は「駅伝コミック」を映画化しただけあって、走るシーンにはかなりのこだわりをみせており、出演者にもそれなりの「演技」を要求したようだ。そのおかげで雄介と「七人の侍」はもちろん、ヒロインの奈緒子が走るシーンもそれなりにサマになっている。ちなみに上野樹里は、「中学1年生まで陸上部だったから、一応形はできていた」そうだが・・・。
また、プレスシートによると、高校駅伝長崎代表を決めるレースの某シーンにおける某選手のスピードは時速27kmくらいとのこと。それは、「それ以下だと撮っていても迫力がないから」とのことだ。しかし、時速27kmなんてスピードは現実の駅伝ではありえないし、私の足では全力疾走でも追いつかないくらいのスピードだ。したがって、そこらあたりを映画用に編集して撮る方がいいのか、それとも現実そのままに撮るのがいいのかは微妙なところ。もっとも、私の速度である時速8kmで撮影したのでは全く意味がないことだけはたしかだが・・・。
<代表作には程遠い・・・?>
上野樹里は1986年生まれだから、今年22歳。日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した『スウィングガールズ』(04年)はすばらしかった(『シネマルーム4』320頁参照)が、その後の『笑う大天使(ミカエル)』(06年)はダメだった(『シネマルーム11』400頁参照)し、『出口のない海』(06年)(『シネマルーム12』223頁参照)や『虹の女神 Rainbow Song』(06年)『シネマルーム12』218頁参照)もまずまずの出来。そして、それは『奈緒子』も同じ・・・?
もっとも、この映画はヒロイン名をタイトルにしているものの、実際には雄介とその仲間たちの出番が多いから、ヒロイン1人が輝く映画でないこともそれに大きく影響しているかも。雄介が小さい時の確執を今なお引きずっていることを知った奈緒子のいわゆる「内面的演技」に注目していると、上野樹里の成長ぶりはよくわかる。しかし、彼女の代表作には程遠いことも事実・・・?
2008(平成20)年1月18日記