スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師(アメリカ映画・2007年) |
<梅田ピカデリー>
2008年1月19日鑑賞
2008年1月19日記
デップ×バートンの最強コンビ最新作は何とR-15、そしてミュージカル!なぜR-15とされたのかを考え、ブラックユーモアたっぷりの楽曲を楽しみたいが、それには少し度胸が必要かも・・・?18世紀末のロンドンにこんな伝説の物語があったとは。映画から学べることがいかに多いかをあらためて実感!是非あなたも、自分自身の目でその確認を・・・。
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督: ティム・バートン
ベンジャミン・バーカー、スウィーニー・トッド(殺人理髪師)/ジョニー・デップ
ミセス・ラベット(パイ屋の女主人)/ヘレナ・ボナム=カーター
ターピン判事/アラン・リックマン
役人バムフォード(ターピン判事の子分)/ティモシー・スポール
ピレリ(イタリア人理髪師)/サシャ・バロン・コーエン
トビー(ピレリの弟子の少年)/エド・サンダース
ルーシー(スウィーニーの妻)、物乞いの女/ローラ・ミシェル・ケリー
アンソニー(船乗りの青年)/ジェイミー・キャンベル・バウアー
ジョアナ(スウィーニーの娘)/ジェイン・ワイズナー
2007年・アメリカ映画・117分
配給/ワーナー・ブラザース映画
<最強コンビの最新作は? その1 R-15指定!>
ティム・バートン監督と主演ジョニー・デップのコンビは、過去『シザーハンズ』(90年)、『エド・ウッド』(94年)、『スリーピー・ホロウ』(99年)、『チャーリーとチョコレート工場』(05年)、『ティム・バートンのコープス ブライド』(05年)の5回。そんな最強コンビの6度目となる最新作は、何とR-15指定。つまり、15歳未満(中学生以下)の入場禁止だが、それは一体ナゼ・・・?
それは、復讐、連続殺人、おびただしい鮮血、死体損壊、人肉パイ等々、気の弱い人なら卒倒してしまいそうなシーンが連続するから。そう、この映画は18~19世紀のロンドンで生まれた、「フリート街の悪魔の理髪師」というおどろおどろしいスウィーニー・トッド伝説をスクリーン上に甦らせたものなのだ。
したがって、2007年最高の興行収入をあげた『パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド』(07年)のジャック・スパロウ船長役や『チャーリーとチョコレート工場』のウィリー・ウォンカ役とは全く雰囲気の違う、死神のようにクールなジョニー・デップの姿を見ることができるはず。これも演技力だといえばそれまでだが、正直あんまり気分のいいものでないこともたしか・・・?
<最強コンビの最新作は? その2 ミュージカル!>
しかも、最強コンビの最新作は何とミュージカル。何度も観た予告編で突然ジョニー・デップが歌い出すシーンがあったので、ひょっとしてそうかナと思っていたが・・・?予告編でみる限り、両手にもった自慢の剃刀で次々と復讐を遂げていくという暗くて重いストーリーだから、全然ミュージカルには向いていないのではと思っていたが、意外にも・・・?また、もちろんジョニー・デップにとってミュージカル出演ははじめてだが、さてその出来は・・・?
ちなみに、私の映画好きの友人でミュージカルが大嫌いな人がいるが、その人に言わせれば、ジョニー・デップと敵のターピン判事(アラン・リックマン)がかけ合いで歌う『美しい女たち』のシーンは真っ先にやり玉にあげられるはず。なぜなら、やっと手中に収まった獲物と楽しそうにデュエットしつつ、そのノドをかっ切ろうとしているのだから、そのアンバランス性は極限のもの・・・?もっとも、そこがミュージカルのいいところという人もいるから、面白いのだが・・・。
<明確なキャラ その1─ミセス・ラベット>
私は全然知らなかったが、「理髪師とパイ屋の話」(『The String Of Pearls:A Romance』)が舞台ではじめて上演されたのは1847年。この演劇は、以降150年間にわたって世界の人々から愛されてきたとのことだ。また、ミュージカル『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』がブロードウェイで初演されたのは1979年。
このように伝説の殺人理髪師スウィーニー・トッドの物語が長い間世界中から愛されてきた理由は、ストーリー展開の面白さや楽曲のすばらしさの他、きっと登場人物たちのキャラが明確なことにあると私は考えている。無実の罪をきせられて島流しの刑に処され、復讐の鬼となったベンジャミン・バーカー(ジョニー・デップ)のキャラはもちろん、15年後脱出して「スウィーニー・トッド」と名を変えてフリート街に戻ってきた彼を喜んで受け入れ、昔と同様に2階で理髪店をやらせることになるパイ屋の女主人ミセス・ラベット(ヘレナ・ボナム=カーター)のキャラも明確。彼女は若い頃からスウィーニーにホレていたのだから彼の帰りを喜んだのは当然だが、まさか人肉パイの発案によりロンドンで一番まずいパイ屋から大人気のパイ屋に変身しようとは・・・?
そんな「現実派」(?)の彼女の夢は、スウィーニーと結婚して海辺の家で楽しく暮らすことと膨らんでいったが・・・?
<明確なキャラ その2─ピレリとトビー>
自称イタリア人理髪師ピレリ(サシャ・バロン・コーエン)とその助手のトビー(エド・サンダース)との出会いは面白いが、この2人のキャラも明確。5ポンドを賭けたヒゲ剃りの勝負には負けたものの、スウィーニーの正体を見破ったピレリはその後スウィーニーの店を訪れ、「店の儲けの半分をよこせ」と恐喝したから、イタリア人の行動は直線的・・・?
それに対するスウィーニーの対応は素早いもので、お見事のひとこと。これにはミセス・ラベットもビックリしたが、そこから人肉パイのアイデアが生まれたのだから、物語構成は実によくできている・・・?
また、これによってトビーもパイ屋の助手として働くことになったのだから、万々歳。もっとも、子供のトビーには、なぜ急にミセス・ラベットの店がはやり始めたのかわからなかったのは当然だが、もしその秘密を知ったら・・・?
<明確なキャラ その3─役人バムフォード>
ターピン判事に子分のように仕える役人バムフォード(ティモシー・スポール)のキャラは、21世紀を迎えた今も共通する小役人特有のあの嫌らしいもの・・・?スウィーニーとピレリのヒゲ剃り競争を無料で審判したのは珍しいボランティア活動だろうが、それだってホントは次の見返りを期待していたのかも・・・?つまり、彼が約束したように今週中にスウィーニーの店を訪れてヒゲを剃ってもらった場合、防衛省の守屋武昌元次官のように、きっとその料金は支払わないまま・・・?
それはともかく、このバムフォードがターピン判事に腕利きの理髪師がいると紹介してターピン判事がスウィーニーの店を訪れてきた時が、スウィーニーにとって千載一遇のチャンスだったことは明らか。したがって、ホントはスウィーニーはそんなチャンスをつくってくれたバムフォードに感謝しなければならないのだが・・・。
<ジョアナをめぐる2人の男たち・・・>
ミセス・ラベットの説明では、ターピン判事はベンジャミン・バーカーを無実の罪で捕らえて島流しにした後、その妻ルーシー(ローラ・ミシェル・ケリー)を仮面舞踏会に誘い出して辱めたため、ルーシーは毒をあおったとのこと。そして、その1人娘ジョアナ(ジェイン・ワイズナー)はターピン判事が養女にして家に閉じ込めているとのことだった。自由を奪われているものの、ターピン判事から虐待を受けることもなく、今や美しい娘に成長したジョアナは、色気狂い(?)のターピン判事にとって格好の狙い目。つまり、彼は年甲斐もなくジョアナとの結婚を迫ったわけだ。
そんなことを言い始めたターピン判事に調子を合わせたのが前述した役人のバムフォード。ここでのバムフォードの珍しく適切なアドバイスは、髪を整え、ヒゲを剃り、香水を振りかけなければ若い女にはもてないよということだった。裁判官という人種は、概ね頭はいいが世間を知らないということで共通している(?)。このターピン判事もそうだったから、彼はスンナリとバムフォードのアドバイスに従うことに。そこでターピン判事は単身スウィーニーの理髪店を訪れることになったのだが・・・?
他方、窓辺に座るジョアナを道端から見つめ、何とか彼女を救い出したいと胸を焦がしていたのが、島流しされたオーストラリアから脱出したスウィーニーを助けた若き船乗りのアンソニー(ジェイミー・キャンベル・バウアー)。ここにアンソニーのジョアナ奪取作戦が開始されるのだが、やはり謀りごとには知恵と経験が必要で、愛や情熱だけではダメなことがその後すぐ明らかに・・・?
<なぜスウィーニーは大量殺人に・・・?>
このように登場人物のキャラが明確な「フリート街の悪魔の理髪師」の物語はよくできた面白いものだが、私には1つだけ納得できない点がある。それは、なぜスウィーニーがターピン判事のノドをかっ切る千載一遇のチャンスを逃した後、彼は急に無差別大量殺人路線に切り替えたのかということ。その1つは絶望だろう。つまり、もはや2度とターピン判事のノドをかっ切るチャンスは来ないだろうという絶望。しかし、そのチャンスを逃したのは、スクリーンを観ている限り、スウィーニー自身の状況判断ミスによるものだから、そのとばっちりがあの当時のロンドンの一般市民に向けられたのでは市民が迷惑では・・・?
そんな状況下でスウィーニーによって歌われるのが『救世主』という迫力タップリの名曲だが、私にはどうもそんな動機の説得力がイマイチ・・・?
<人肉パイの対象として弁護士は2番目・・・>
スウィーニーのソロによる『救世主』に続くのは、『リトル・プリースト』というスウィーニーとミセス・ラベットのかけ合いで歌われる名曲。しかし、その歌詞とテーマは実におどろおどろしいもの。つまりこの曲は、スウィーニーが次々とノドをかっ切っていく被害者たちの肉をパイにするについて、どんな職種の人間の肉がどんなパイに向いているだろうかと歌う恐ろしくブラックユーモアの効いた曲だ。
歌詞の1番最初に登場するのは神父の肉だが、さてその味は・・・?私がビックリしたのは2番目に登場したのが弁護士の肉だったこと。それに対する反応が「それは高いのでは・・・?」というのは、18世紀末から19世紀初めのロンドンでは、弁護士がいかに高級な職種と考えられていたかを物語るもの。
ちなみに2008年1月19日現在、日弁連と大阪弁護士会では熾烈な会長選挙が実施されているが、その焦点は弁護士3000人体制を維持するのかということ。つまり、このままでは弁護士がリッチな特権階級として生きていけないのではという危機感をめぐる論点だ。日本の弁護士がおかれているこんな現実を作詞者が知っていたら、この曲での弁護士の登場はずっと劣後していたはず・・・?
この映画の観客にはいろいろな職種の人がいるはずだが、そんなブラックユーモアを考えつつ、あなたの肉の価値について考えてみては・・・?
<物乞いの女はダレ・・・?>
その後スクリーン上では、アンソニーによるジョアナの奪取計画の発覚とターピン判事によるジョアナの精神病院への隔離という大きな動きがあるが、ストーリー展開のメインはスウィーニーの理髪店とミセス・ラベットのパイ屋をめぐって展開される。
2階、1階、地下を通した、パイの需要に応じた肉の供給体制(?)は今やバッチリだから、店の経営が軌道に乗ったのは当然。そのためミセス・ラベットの店は今や大繁盛。
そんな状況下で突然登場するのが、フリート街をうろつき、さかんにミセス・ラベットの店の煙突から黒い煙が出ていると吹聴する物乞いの女。薄汚れた顔をしているうえ、髪の毛がボロボロだからその顔はよくわからないが、この女が映画後半のストーリー構成に大きな役割を果たしそうな予感がありあり。さて、この物乞いの女は一体ダレ・・・?そして、彼女はいつ、どんな役割を・・・?
<意外な結末はあなた自身の目で・・・>
この映画の究極のテーマはスウィーニーのターピン判事への復讐だから、それが実現できるのかどうかが第1の焦点。そしてその答えは「実現」と決まっているはず。したがって、ハイライトに向けてはスウィーニーの夢(?)がいつどんな形で実現するかに注目したい。
他方、映画にはハッピーエンドとそうでないものの2種類があるが、さてこの映画はどちら・・・?まさかミセス・ラベットが夢物語のように語り歌っているように、2人が結婚し、海辺でのリッチな生活でハッピーエンド・・・?そうなることはないはずだが、どんな結末になるのかは大いに興味のあるところ。
ひょっとしてジョニー・デップのファンはハッピーエンドを期待するかもしれないが、それは「ひいきの引き倒し」というもの。つまり、彼がいくらハンサムでいい男だとしても、彼は罪のないロンドン市民を何十人、何百人と殺してパイの材料にしている罪深き男であることは明らか。また、その共同事業者であり、実質オーナーである女主人ミセス・ラベットもかわいい顔をしており、スウィーニーとの幸せな結婚を望んでいるとしても、それを神サマが許してくれるはずがないことは明らか。
そうすると、きっとこの映画はアンハッピーエンド・・・?しかして、その意外な結末はあなた自身の目で・・・。
2008(平成20)年1月19日記