チーム・バチスタの栄光(日本映画・2008年) |
<東宝試写室>
2008年1月25日鑑賞
2008年1月26日記
26連勝中のバチスタチームがたて続けに3例の手術に失敗。偶然の事故?医療過誤?それとも殺人・・・?そんなバカな!と誰もが思うところが、第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞の由縁!リアルなバチスタ手術のシーンにビックリだが、それ以上のミステリアスな「仕掛け」にビックリ!そして何よりも、こんな医師がいることにビックリ・・・?『白い巨塔』『ブラック・ジャック』に続く、医学生・看護学生必見の映画が、ここに誕生!
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監督:中村義洋
原作:海堂尊『チーム・バチスタの栄光』(宝島社文庫刊)
田口公子(心療内科医)/竹内結子
白鳥圭輔(厚生労働省の大臣官房付技官)/阿部寛
桐生恭一(第一外科助教授、バチスタ執刀医)/吉川晃司
垣谷雄次(外科医、第一助手)/佐野史郎
鳴海涼(病理医)/池内博之
氷室貢一郎(麻酔医)/田中直樹
酒井利樹(外科医、第二助手)/玉山鉄二
羽場貴之(臨床工学技士)/田口浩正
大友直美(看護師)/井川遥
藤原看護師(心療内科、不定愁訴外来看護師)/野際陽子
黒崎誠一郎(第一外科教授)/平泉成
高階権太(東城大学医学部付属病院院長、兼第二外科教授)/國村隼
2008年・日本映画・118分
配給/東宝
<100万部、平積み、バチスタ旋風だが・・・?>
例によって私は全然知らなかったが、現役医師海堂尊(たける)が書いた小説『チーム・バチスタの栄光』(06年2月発売)は、第4回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、07年秋の文庫化で100万部を突破し、書店では平積み状態が続いているとのこと。つまり、バチスタ旋風が吹き荒れているわけだ。
もっとも、わからない人にはサッパリわからないはずだから説明しておくが、プレスシートによるとバチスタ手術とは、「拡張型心筋症に対する非常に難易度の高い手術で、創始者の名前を取ってバチスタ手術と呼ばれている。肥大した心臓を切り取って小さくし、心臓の収縮機能を回復させる」手術とのこと。
この映画は、そのタイトルどおり、成功率60%といわれるそんなバチスタ手術を専門に行う7人のチームの栄光を描いたもの。と思ったら大間違い!だって、それではミステリー大賞に選ばれることはないはず。つまり、この映画はミステリーなのだ。さて、チーム・バチスタの、どこに、どんなミステリーが・・・?
<26連勝の後、3連敗>
バチスタ手術は、何と一度心臓の動きを停止して人工心肺につなぎ、手術が終わればまた心臓を再起動させるというもの。すると、それはひょっとして一度人間を殺してしまい、また生き返らせる、ということ・・・?そんな成功率60%の恐ろしい手術を行う医師のプレッシャーは相当なものがあるのでは・・・?
しかし、東城大学付属病院の桐生恭一医師(吉川晃司)は、アメリカ帰りの心臓外科の権威。そして「チーム・バチスタ」は、「チーム・バチスタの奇跡」と呼ばれるほど、これまで26例をすべて成功させるという脅威の実績をあげていた。これではチーム・バチスタの7人の面々が鼻高々になるのは当然だが、何と26連勝の後3連敗は痛い・・・。
しかし、桐生にしてみればこれといったミスがあったわけでもないうえ、患者の心臓が再起動しない原因がつかめない。そこで、桐生は自ら調査チームの結成を病院長の高階権太(國村隼)に申し出たが・・・。
<凸凹コンビ(?)がいい味を・・・>
阿部寛はシリアスドアラマもできる2枚目だが、どちらかというと『バブルへGO!タイムマシンはドラム式』(07年)や『大帝の剣』(07年)のような、破天荒で喜劇的なキャラの方がよく似合う・・・?それに対し、竹内結子は正統派美女だから、『春の雪』(05年)のようなお嬢サマ、お姫サマの方がよくお似合い・・・?
ところがこの映画では、阿部寛扮する白鳥圭輔は阿部の持ち味をそのままストレートにぶつけた役柄だが、竹内結子扮する田口公子はちょっとコミカルな味の一見頼りない心療内科医。そんな公子が「チーム・バチスタ」の内部調査にあたったのだから、その報告書がきわめて平凡な「問題なし」になろうとしていたのは当然。そこに、「厚生労働省大臣官房付技官」の名刺をチラつかせながら突然登場してきたのが白鳥。白鳥は公子の聴き取り調査を全否定したうえ、再度自分流のやり方で聴き取り調査を始めたが、それは公子に言わせればハチャメチャなもの。もっとも弁護士の私の目には、内部調査にはそれくらいの「つっこみ」が必要なのは当然、と思えたが・・・。
それはともかく、この2人の凸凹コンビ(?)がうまくいい味を出しながら内部調査を進めていったのが、大金星を挙げた最大の理由・・・?
<「7人の侍」のキャラに注目!>
公子の内部調査はたしかに頼りないもので、表面をなぞっただけのものだったが、「7人の侍」のキャラについての公子の分析は、さすが心療内科医だけあって正鵠を射たもの。桐生をトップとするチーム・バチスタの7人の侍は①桐生の他、②外科医で第一助手の垣谷雄次(佐野史郎)、③病理医の鳴海涼(池内博之)、④麻酔医の氷室貢一郎(田中直樹)、⑤外科医で第二助手の酒井利樹(玉山鉄二)、⑥臨床工学技士の羽場貴之(田口浩正)、⑦看護師の大友直美(井川遥)だが、公子が動物にたとえてみれば○○、△△と表現したように、それぞれキャラの際立った面々ばかり。ここでは1人1人紹介しないので、スクリーン上で是非確認を。
したがって、再度白鳥が挑発的な質問をぶつけながら調査を進めていくと、出てくるわ、出てくるわ、医療をめぐる、病院をめぐる、そしてチーム・バチスタをめぐるさまざまな人間模様が・・・。するとひょっとして、ホントにこの中の誰かが殺人を試みたとしても不思議ではない・・・?いやいや、やはりそんなバカなことは・・・?
<「このミステリーがすごい!」大賞受賞の理由は・・・?>
この映画のプレスシートには、①「犯人は、あなたですね。」、②「犯行現場は、半径10cm。この7人の中に、いる。」、③「豪華キャスト&日本映画史上最高の“仕掛け”があなたに挑む。」等の挑発的な言葉が並んでいる。これは、それだけこの映画のミステリー性に自信をもっていることの表れ!そして、それこそが、この映画の原作が「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した最大の理由!
もちろん、ここでそのネタばらしをすることは厳禁だが、ヒントは至るところに散りばめられているので、それをしっかり見逃さないように・・・。また、単なる医療過誤事件ではミステリーにならないから、やはりこの映画は、挑発的な上記の言葉どおり、誰かが殺人を計画し実行しているの・・・?そんなバカな・・・。そんなことが病院の中で現実に起こるはずはないし、私が必死に観ているスクリーン上でも「7人の侍」たちはそれぞれ最大限の努力をしているように見える・・・?すると、そんな断定をする白鳥は何の根拠もないまま、自分の存在感を見せつけたいだけ・・・?そんなこと、こんなことを考えながらこの映画を観て、なぜこの映画の原作が「このミステリーがすごい!」大賞を受賞したのかとよく分析してみたいものだが、さて・・・?
<見どころはリアルな手術シーン>
この映画最大の見どころは、何といってもリアルなバチスタ手術のシーン。素人がこんな最高水準の手術シーンを目にすることはまずありえないうえ、子供の心臓、おじさんの心臓、おばさんの心臓とバリエーションも豊富だから、よく勉強できるはず・・・。
人間の心臓ってこんな風に動いているんだ、またそれをいったん停めるということはこんな意味なんだ、ということが実によくわかる、もっとも、それと同時に桐生が言っていたように、そして公子が手術に立ち会って体験したように、患者の心臓が再起動するかどうかのプレッシャーはその場に居合わせた者でなければわからない、ということもよくわかるはず・・・。
<あの看護学生たちも是非鑑賞を>
私は今年1月9日、和歌山県立医科大学保健看護学部で「映画から学ぶ医療従事者の生き方」と題する特別講義を行った。そして、大学の講義を聴くことによって学ぶこと以上に、映画を観ることによって学べることが多いことについて熱弁をふるった。私がそこで看護学生たちに必見の映画として示したのが『白い巨塔』と『ブラック・ジャック』だったが、さすがにこれは半分以上の学生が知っていた。
しかし、①安楽死に関する『ミリオンダラー・ベイビー』(04年)、『海を飛ぶ夢』(04年)、②医療保険制度に関する『ジョンQ』(02年)、『シッコ』(07年)、③優生保護法、人工妊娠中絶に関する『ヴェラ・ドレイク』(04年)、④成年後見制度に関する『そうかもしれない』(05年)、⑤認知症に関する『私の頭の中の消しゴム』(04年)、『博士の愛した数式』(06年)、『明日の記憶』(06年)、⑥クローン人間に関する『アイ,ロボット(i,ROBOT)』(04年)、『アダムー神の使い 悪魔の子ー』(04年)等になると知っている学生はごくわずか。しかし、私に言わせれば、わずか2時間の映画鑑賞でこんないろいろな医学上のテーマを勉強できるのだから、映画ってホントに便利な芸術。
そんな和歌山県立医科大学の看護学生たちに薦めたいのが、この『チーム・バチスタの栄光』。『白い巨塔』も『ブラック・ジャック』も結局最後に行き着くところは、医師の人間性!したがって、人間性を失った人間が医師の資格で日常の医療業務に従事していれば、大変なことになることは明らか。その点、厚生労働省のいかにも権力的で役人臭がプンプンする白鳥は、当初嫌な奴だと誰の目にも映ったはずだが、意外と人間的・・・?それに対比して○○や△△は・・・?
2008(平成20)年1月26日記