ジプシー・キャラバン(アメリカ映画・2006年) |
<東映試写室>
2008年2月7日鑑賞
2008年2月9日記
ロマ(ジプシー)とは何か・・・?まずはそんな興味をもち、島国ニッポンの狭い視野を広げることが大切!4つの国、5つのバンドのミュージシャンたちの素顔を知れば、あなたの世界観も大きく変わるはず。そしてあとは、今まで聴いたこともないすばらしい音楽とまだ見たことのない踊りに身を委ね、ただ感動すればいいだけ・・・。
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監督・脚本・プロデューサー:ジャスミン・デラル
タラフ・ドゥ・ハイドゥークス(ルーマニア)(クレジャニ村出身のバンド)
エスマ(マケドニア出身の女性歌手、“ジプシー・クイーン”)
アントニオ・エル・ピパ・フラメンコ・アンサンブル(スペイン)(フラメンコ・ファミリー)
ファンファーラ・チョクルリーア(ルーマニア)(12人編成の超高速ブラスバンド)
マハラジャ(インド)(インドの砂漠芸能民バンド)
2006年・アメリカ映画・115分
配給/アップリンク、AMGエンタテインメント
<まず、デラル監督に注目!>
島国のニッポン人には想像もできないが、世の中にはホントに「これぞ国際人!」と思える人がいるもの。この映画を監督・脚本・製作したのは女性監督ジャスミン・デラルだが、彼女はイギリスに育ち、子供時代の多くを祖父母と共に南インドの村で過ごした後アメリカへ渡り、オックスフォード・ユニヴァーシティでフランス語とスペイン語を学んだ後、映画関係の仕事に入ったとのこと。
そして、彼女は1990年代初頭にジプシーに関するある一冊の本に巡り合い、それが彼女を10年にわたるロマ(ジプシー)の映画づくりに踏み出させたとのこと。また彼女は、現在はニューヨークに拠点を構え、社会性の高い芸術的映画をつくるリトル・ダスト・プロダクションを設立し、若い監督たちが、自分の映画を作れるように導くことに喜びを見出しているというから、すごいもの。
まずは、こんなジャスミン・デラル監督に注目だ!
<すごいミュージシャンが結集!>
この映画はロマ(ジプシー)に関心をもち、2000年の作品である『AMERICAN
GYPSY:a stranger in everybody’s land』でジプシー文化にのめり込んだジャスミン・デラル監督が、ある日ワールド・ミュージック・インスティチュートからジプシー・ミュージシャンたちのコンサートを企画したら、そのコンサートを撮影したくないかという連絡が入ってきたことによって企画がスタートしたとのこと。
北米の各都市を6週間かけて巡る「ジプシー・キャラバン・ツアー」に参加するのは、冒頭に記載したとおり、ルーマニア、マケドニア、スペイン、インドの4カ国、そして5つのバンド。ジプシー・キャラバン・ツアーが実施されたのは2001年。ところがそのツアーの実施については、彼らがすべてジプシーであるうえ、浅黒い肌のイスラム教徒であるため、①コンサートに客は来るのか、②アーティストが国を出られないのではないか、③北米に入れないのではないかという不安でいっぱいだったらしい。
ところが実際には、「案ずるより産むが易し」で、ミュージシャンたちの入国手続はスムーズに進んだうえ、彼らは各都市で熱狂的に迎えられ、コンサートは大成功!だって、一目見れば、またちょっとでもその音楽を聴けば、何とすごいミュージシャンたちが結集しているのかということがすぐにわかり、ビックリするのは当然だから。昨年12月11日に観た『ヴィットリオ広場のオーケストラ』(06年)の多国籍にして無国籍音楽のすごさにも驚いたが、この映画で観たロマ(ジプシー)音楽のすばらしさにもビックリ!
<1粒で3度おいしい・・・>
この映画の撮影が始まったのは2001年9月下旬とのこと。そして記録は200時間を超したとのこと。
この映画はドキュメンタリーだが、その視点は大きく3つに分かれている。第1は、北米の各都市で開催されたコンサートの様子を撮影したもの。このコンサート風景を観るだけでも、十分元はとれるというものだ。第2は、多少勉強しなければわかりにくいところもあるが、スペイン、マケドニア、ルーマニア、インド出身の各ミュージシャンたちの故郷にカメラを入れ、彼らの私生活に迫りながら、それぞれの音楽のルーツをたどるもの。そして第3は、6週間のバスによるツアーの様子を内部に入り込んで、ミュージシャンたちの生の表情をイキイキと撮影したもの。当初不安でいっぱいだった彼らが、次第に自信を持ちはじめ、また各地のロマ(ジプシー)音楽の違いをぶつけ合う中、実はそれが同じルーツであることを確認しあっていく姿は、実に感動的。
もちろん、カメラの撮影手法はさまざまだが、まさにこの映画は「1粒で3度のおいしさ」を味わうことができるから、超おトク・・・。
<エスマとタラフの生きザマは印象的!>
5つのバンドのルーツに迫るカメラの中で特に印象的なのが、①マケドニア出身でジプシー・クイーンと呼ばれている歌手エスマと、②ルーマニア出身の80歳を超えた高齢のバイオリニスト、タラフの生きザマ。
4歳の頃から歌い始めたというエスマの歌声と立派な体形(?)の存在感は圧倒的だが、その輝かしい音楽活動以上に、身寄りのないロマの孤児たちを引き取って育て、50人近いミュージシャンを養成しているという生き方にも圧倒される。映画ラストの難民救済チャリティーコンサートで、そんなエスマが見せるパフォーマンスと歌声はまさに絶品!
また、タラフ・ドゥ・ハイドゥークスを率いるタラフの飄々とした表情と、いかにも「俺の方がうまいだろう」と言いたげなバイオリンの演奏風景は味わい深い。また「今はいい時代になった」「俺の稼ぎで家族を食わせることができるから幸せだ」と語る彼の言葉は重く、味わい深い。そんな彼は「ワシの命もいつまでもつかわからないから」と言っていたが、まさか映画の中でそんな彼の葬儀シーンが登場しようとは・・・?
他の3つのバンドのミュージシャンたちもそれぞれに興味深いが、このエスマとタラフの生きザマは特に印象的!
<百聞は一見に如かず!是非映画館へ!>
島国のニッポン人には、この映画に登場する5つのバンドによるロマ(ジプシー)音楽の解説をいくら読んでも、まずはその名前を覚えにくいから、容易にそのイメージを固めることができないはず・・・?しかし、①タラフ・ドゥ・ハイドゥークスのリーダーである、バイオリンを弾く老人タラフは、1度その演奏風景を見れば、絶対に忘れることはできず、②ファンファーラ・チョクルリーアの超高速のバイオリン演奏は、1度聴けば圧倒され、③アントニオ・エル・ピパ・フラメンコ・アンサンブルのフラメンコの踊りにはうっとりさせられ、④エスマの迫力ある美声と魂のこもった歌声には涙するはず。そして、⑤マハラジャの踊りも、一目みれば忘れられないはず。
もっとも、『ヴィットリオ広場のオーケストラ』と同じで、そのすばらしさをいくら私が文章で表現しようとしても、それは到底ムリ。まさに百聞は一見に如かず、ということだ。そんな5つのバンドのすばらしさを味わうためには、是非映画館へ。わずか1800円でこんなすばらしいミュージシャンたちのコンサートを観たり聴いたりすることができると思えば、安いもの。また、映画通の人は1000円の日を選んで是非鑑賞を!
2008(平成20)年2月9日記