「ダージリン急行」+短編「ホテル・シュヴァリエ」(アメリカ映画・2007年) |
<東宝試写室>
2008年1月31日鑑賞
2008年2月7日記
ダージリン急行に乗った3兄弟のインド珍道中は、何を求めるもの・・・?ウェス・アンダーソン監督独特の風変わりな「家族のドラマ」は、まず3兄弟の脱線ぶりに注目!父の死亡後絶交していた3兄弟が再び「心の絆」を取り戻すことができたのは、一体ナゼ・・・?それを考えた時、あなたの心はフッと温かくなるはず・・・。そしてまた、アッと驚くドンデン返しにもきっと納得・・・。
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監督・共同脚本・製作:ウェス・アンダーソン
フランシス(ホイットマン家の長男)/オーウェン・ウィルソン
ピーター(ホイットマン家の次男)/エイドリアン・ブロディ
ジャック(ホイットマン家の三男)/ジェイソン・シュワルツマン
パトリシア(3兄弟の母)/アンジェリカ・ヒューストン
リタ(列車のアテンダント)/アマラ・カラン
アリス(ピーターの妻)/カミーラ・ラザフォード
村の聖職者/イルファン・カーン
ジャックの元恋人/ナタリー・ポートマン
ダージリン急行の車掌/ワリス・アルワーリア
3兄弟の父/ビル・マーレイ
2007年・アメリカ映画・91分
短編『ホテル・シュヴァリエ』
ジャック(ホイットマン家の三男)/ジェイソン・シュワルツマン
ジャックの元恋人/ナタリー・ポートマン
2007年・アメリカ映画・13分
配給/20世紀フォックス映画
<3人の兄姉弟に対して、こちらは男3人兄弟>
『ダージリン急行』とテイストのよく似た映画が『サン・ジャックへの道』(05年)だった(『シネマルーム13』290頁参照)。しかし『サン・ジャックへの道』は、3人の兄姉弟によるフランスのル・ピュイからスペインの聖地サンティアゴまで約1500kmの巡礼の旅だったのに対し、『ダージリン急行』は男3人兄弟によるダージリン急行に乗ってのインドへの旅。また『サン・ジャックへの道』はそうしなければ遺産相続ができないための旅だったのに対し、『ダージリン急行』は、父親の死亡後疎遠になっていた3兄弟の再生と絆を取り戻すための旅。そして『サン・ジャックへの道』では、イヤイヤ参加した旅ながら最終的には感動的なシーンを迎えたが、さて『ダージリン急行』の旅では・・・?
<ウェス・アンダーソン監督とは・・・?>
『ダージリン急行』の監督は、『ライフ・アクアティック』(05年)のウェス・アンダーソン監督。そしてプレスシートには、「ハリウッドはおろか、世界が今もっとも注目する監督のひとり」「かのマーティン・スコセッシをして『次世代のマーティン・スコセッシは彼だ』と評される」と書かれている。変わり者ばかりが登場した、ちょっと訳のわからない不思議な映画『ライフ・アクアティック』は「練りに練った脚本」であることはたしかだが、私の評価はイマイチで星3つだった(『シネマルーム7』125頁参照)。
アンダーソン監督が描き続けてきたのは「家族のドラマ」だが、この映画のテーマもまさにそれ。そしてこの映画は、アンダーソン監督が興味をもっている3つの対象、すなわち列車、インド、兄弟から誕生したとのこと。
<風変わりな3人のキャラがポイント!>
例によって、アンダーソン監督が描く人物は変わり者ばかり。長男フランシス(オーウェン・ウィルソン)が頭を包帯でグルグル巻きにしているのは、バイク事故で瀕死の重傷を負い、奇跡の生還を果たしたばかりだから。そんな彼は、助手のブレンダンがつくる旅の日程表の下に弟たちに指揮命令し、すべてを取りしきっているが、誰がどうみてもそれは空回り気味。
次に亡父のサングラスをかけているため、フランシスから父親の遺産を一人占めしていると言われているのが長身の次男ピーター(エイドリアン・ブロディ)。彼は目下妊娠7カ月半の妻アリス(カミーラ・ラザフォード)との離婚を考慮中だ。
また三男のジャック(ジェイソン・シュワルツマン)は、自分の家族をネタにした『ルフトヴァッフェ修理工場』を書き終えたばかりの作家だが、失恋した恋人が忘れられず、彼女の留守番電話のチェックに余念が無い。ところがその一方でジャックは、列車アテンダントのリタ(アマラ・カラン)を一目見ただけで恋に落ち、たちまちコトに及んだから、ひょっとしてすごいプレイボーイ・・・?
言葉での紹介はこの程度にするが、映画全編を通じるポイントは、この風変わりな3人のキャラ。トンチンカンな会話が随所に登場し、いつ3人が仲間割れに至るのかと、楽しみにしていたが・・・?
<短編がプロローグとして>
『ダージリン急行』は91分の長編映画だが、なぜかその上映前に13分の短編『ホテル・シュヴァリエ』が上映されることになっている。この短編は、パリのホテル・シュヴァリエの一室に一人でこもっている男ジャック(ジェイソン・シュワルツマン)とそんな彼を訪れてくる恋人(?)(ナタリー・ポートマン)との風変わりな風景を描いたもの。
ジャックは別れたはずの恋人がなぜ自分の居どころを知ったのか不思議そうだが、恋人に言わせると「そんなことは簡単」らしい。そして、なぜか彼女の方から久しぶりのセックスを求め、2人は大満足。と思ったら・・・?
もちろんナタリー・ポートマンの美しいヌード姿を拝むことができた私は大満足だが、『ダージリン急行』上映前のこの短編上映は一体何を意味するの・・・?とよくわからなかったが、実はジャックが再三勝手にチェックしていたのは、この別れた(?)恋人の留守番電話・・・。
<インドへの旅は、母を求める旅だが・・・>
父親の死亡後1年間も絶交していた3人兄弟がダージリン急行に乗ったのは、ずっと行方不明になっていた母親パトリシア(アンジェリカ・ヒューストン)がヒマラヤの修道院で尼僧をしていることがわかったため。その旅の日程一切を取りしきるのは長男のフランシスだが、3兄弟の様子をみていると初日からトラブル続きで、先が思いやられることおびただしい。
列車が道に迷うという考えられないトラブルもあったが、毒蛇を列車内に持ち込んだり、兄弟同士で取っ組み合いのケンカを始めたりと、トラブルの原因は大半が3兄弟にあるもの。もっとも、いくらトラブルをひき起こす乗客でも、列車から強制的に降ろしてしまうという処置をとることができるのはなぜか、私にはよくわからないが、とにかく3人は旅の途中で強制的に列車から降ろされてしまうことに。
そこでよく考えてみると、この映画のエッセンスは3兄弟が列車を降ろされた以降の旅にあるから、『ダージリン急行』というタイトルはそのエッセンスから少しずれているのでは・・・?ちなみにフォークソング全盛時代のチューリップの名曲の1つが『心の旅』だったが、この映画のタイトルはそれと同じ『心の旅』の方がピッタリでは・・・?
それはともかく、途中下車を強いられた3兄弟には、ブレンダンを通じて母親からの「会えない」という手紙が手渡されたが、この後3兄弟は無事に母親のいる修道院まで行きつくことができるのだろうか・・・?
<あなたならどうする・・・?>
この映画を観ていると、たしかに3兄弟はケッタイな奴ばかりだが、同時に決して悪い男でなく、ただ人間的な成長にどこか未熟な点があるだけ、ということがよくわかる。したがって、その心の中に流れているのは純真無垢な少年の心・・・。
映画には中盤、それがよくわかるシークエンスが登場する。列車から降ろされたため、やむなく荷物を引きずりながら空港を目指して歩いていた3兄弟が目撃したのは、急流の川をロープづたいに渡ろうとしているインド人の幼い3兄弟の姿。「こりゃ無茶だ、危ない」と思った瞬間、ロープが切れ、少年たちは激流に飲み込まれてしまったから大変。さあ、そんな光景を観た場合、あなたならどうする・・・?
「かわいそうに」と思いつつ、実際に飛び込む勇気がある人は少ないかもしれないが、この3兄弟は少年の心を持った半分未熟な男たち。したがって、自分の身の危険も省みず即座に激流に沿って走り出し、適当な位置をキープするや、激流の中に飛び込んでいったからご立派。その結果、岩場に激突してしまった1人の男の子は助からなかったうえ、ピーターも血を流すことになったが、後の2人は何とか救出することに成功。これによって、少年たちの住む村に向かった3兄弟はそこで村民たちから大歓迎を受けることに。
さて、インドの民族衣装に身を包み、インド式の葬儀に参加する中、3兄弟の心の中にはどのような変化が起きるのだろうか・・・?
<アッと驚くドンデン返しが・・・>
そんなハプニングを経験した3兄弟は、今やっと空港に到着した。今3人の頭の中を駆け巡るのは、いろいろなハプニングのあったダージリン急行による旅と、列車を降ろされた後の旅、そしてその中で培われた3人の心の絆。また同時に思い出していたのは、1年前の父の葬儀のこと。すなわち、3人兄弟で協力し合いながら父を弔っていたあの良き時期のことだった。
空港内でも予定を指示するのは、相変わらず長男のフランシス。「あと○○分あるから、○○分まで各自電話。△△分は自由行動。そして○時○分にゲートに集合」と何とも細かい指示が・・・。ここで面白いのは、3人がそれぞれ電話した相手は誰かということ。ジャックはもちろん別れた恋人。ピーターは妻のアリス。そしてフランシスは解雇してしまった助手ブレンダンだった。そしてその結果明らかになったのは、ジャックはかつての恋人とイタリアで再会することに。ピーターはお腹の子供が男の子ということが判明。そしてフランシスはブレンダンと和解し、再雇用で合意することに。
インドへの旅のラストの段階でこんな風にすべてがうまく運んだが、そこで彼らが取ったアッと驚くドンデン返しの行動とは・・・?ネタばらし覚悟で書いてしまうと、それは飛行機に乗り込む直前、乗務員から「チケットをどうぞ」と要請されたところで何とチケットを破り捨ててしまったこと!つまり、今やっと3人の心の絆はつながったものの、まだ母親を求める旅が完結していないことに気づき、それを目指すことで一致したわけだ。
するとこれから彼らが向かう先はどこ・・・?それは言わなくても誰にでもわかるはず・・・。「めでたし、めでたし」のハッピーエンドではないものの、3兄弟がインドへの珍道中の中で学んだものがいかに大きかったかは明らかだ。さて、3兄弟の未来は・・・?
2008(平成20)年2月7日記