あの空をおぼえてる(日本映画・2008年) |
<試写会・梅田ブルク7>
2008年2月19日鑑賞
2008年2月21日記
この映画は、4人家族の喪失と再生の物語。現在と過去をゴチャ混ぜにした構成に少しまごつくかもしれないが、馴れてくると次第に観客席からはすすり泣きの声が・・・。繊細な少年の心をもつ10歳の英治と、6歳のおしゃべりなおてんば娘絵里奈を演じた2人の子役に大拍手!
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監督:冨樫森
原作:ジャネット・リー・ケアリー『あの空をおぼえてる』(ポプラ社刊)
深沢雅仁(写真館経営)/竹野内豊
深沢慶子(妻、リトミック教室の教師)/水野美紀
深沢英治(長男、10歳)/広田亮平
深沢絵里奈(妹、6歳)/吉田里琴
ユリコ先生(英治の小学校の担任教師)/小池栄子
高橋勇雄(雅仁の中学の同級生)/品川祐
笠井玲奈(慶子の同僚)/中嶋朋子
福田正幸(英治の通う小学校のスクールカウンセラー)/小日向文世
2008年・日本映画・115分
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
<アメリカ発の、家族の喪失と再生の物語だが・・・>
この映画の原作は、アメリカ人女性ジャネット・リー・ケアリーが書いた小説『あの空をおぼえてる』だから、その舞台はもちろんアメリカ。そして、主人公は11歳の少年ウィルと妹のウェニーで、亡くなった妹に対する兄からの手紙形式で進行するらしい。
そんなアメリカの小説を日本人俳優によって映画化したのは、家族の喪失と再生の物語には国境がないうえ、家族の絆が失われている今ドキの日本にこそ、そんな物語が必要だと冨樫森監督をはじめとするスタッフが考えたため。さて、そんなスタッフたちの熱い思いの成否は・・・?
<2人の子役を誰が・・・?>
子供の信じる力と「蜂は飛ぼうと思ったから飛べたんだ」という奇跡をテーマとした面白い映画が『遠くの空に消えた』(07年)だった(『シネマルーム15』336頁参照)。そこでは、都会から来た転校生楠木亮介を演ずる神木隆之介と、UFOに父を連れ去られた少女柏手ヒハルを演ずる大後寿々花の2人の子役がポイントだった。それと同じように本作でも、ポイントは深沢家の10歳の長男英治と6歳の妹の絵里奈を誰が演ずるかということ。そんなプレッシャーの中、英治役の広田亮平と絵里奈役の吉田里琴も、すごい熱演を。
この映画は、ある日ある交通事故によって娘を失ってしまった家族たちの再生の物語。英治は1度は天国の近くまで妹を見送りながら、再度両親のもとへ帰還したものの、苦悩する両親の姿を見て自分も思い悩むことに。そんな繊細な男の子の揺れ動く気持を広田亮平が実にうまく演じている。他方、絵里奈役の吉田里琴は、無茶苦茶活発でいたずら好きの女の子。そのうえ、男の子顔負けの度胸の持ち主だから、そんな絵里奈役を演じるのは結構大変だが、こちらも吉田里琴が申し分ない演技を。
映画のつくり方としては、過去と現在をゴチャ混ぜにしているから、最初はこりゃ一体何の話なんだろうと少しわかりにくい。また、エピソードが結構多いから中盤にやや中だるみ感があるものの、後半からクライマックスにかけては、一気に感動が盛りあがってくるはず。その盛りあがりの立役者は明らかに英治だから、この映画で英治を演じた広田亮平の功労は大!
<写真館ってそんなに儲かるの・・・?>
この映画の舞台はとある地方都市。父親の深沢雅仁(竹野内豊)は写真館を営み、母親の慶子(水野美紀)はリトミック教室で働いている。そして家族4人が住むのは、美しい田園風景の中にある雅仁が建てたアメリカン・ハウスという設定。
この映画のロケハン上の見どころの1つがこのアメリカン・ハウスだが、プレスシートによると、これを見つけるのにかなり苦労したらしい。だって、アメリカなら郊外にこんな家がゴロゴロあるだろうが、日本では別荘地に行かないとなかなかこんな家はないだろうから。
実際に使われたのは岐阜県にあるM邸とのことだが、これはすごく立派なもの。そのうえ映画では、M邸の敷地内に子供たちの秘密基地となるツリーハウスが建てられているし、子供部屋は別にセットでつくられているから、こんな家に家族4人で住むのはかなりの年収がなければムリ・・・?
そう考えると、写真館ってそんなに儲かるの?とつい意地悪な疑問をもってしまう。まあ、そんなところにアメリカの原作をそのまま日本にもってきたことのムリが出ているわけだが、この映画を観て感動するにはそんなくだらない疑問をもってはダメだと考え、自ら封印・・・。
<トンネルとギリシャ神話>
子供たちが冒険が大好きなのはアメリカでも日本でも同じだが、最近の日本の子供たちは外で遊ぶ機会が極端に減っているのが心配。しかしこの映画では、英治と絵里奈はもちろん、その友人たちもよく外で遊んでいるからひと安心。
そんな子供たちの冒険の場となり、この映画のロケハン上のもう1つの見どころとなっているのが、トンネルと死のネット・・・?これには栃木県の東荒川ダム公園内のトンネルが使われたとのことだ。トンネル内には真ん中に川が流れ、両側に狭い管理用の通路があるが、トンネル内は薄暗く懐中電灯がなければとても通れない。そのうえ、ずっと奥に入っていくと、そこには「死のネット(?)」があり、それを越えると・・・?さて、子供たちのうち誰がそんな恐いトンネル内に入っていくことができるのだろうか・・・?
これに関連して面白いのが、学校でユリコ先生(小池栄子)が朗読するギリシャ神話のオルフェウスの物語。これは、死んだ妻の後を追って真っ暗なトンネルを進み、冥界の王に妻を返してほしいと訴えるオルフェウスの物語だが、さて、そんな物語がこの映画のストーリー展開とどんな関連性が・・・?
<父親と母親、どちらが強い・・・?>
おてんばで口やかましい絵里奈だっただけに、彼女が欠けてしまった今、深沢家にその喪失感が大きかったのは当然。英治が入院している間の、父親と母親2人だけの食事はとてつもなく暗いものだったが、それは英治が退院を許され帰宅しても基本的には同じ。絵里奈の席に誰も座っていないこと、あのにぎやかなおしゃべりがないこと、そんな現実を受け入れられない雅仁は、英治が懸命に明るく振る舞っても余計に自分の殻に閉じこもるばかり・・・。
しかし、さすがに妊娠中に絵里奈を失ったものの、日々おなかが大きくなっている慶子は雅仁とは違うし、強い。担当医から、「ちゃんと食べないと。ちゃんと眠らないと。赤ちゃんが全然成長していませんよ。これでは出産が大変ですよ」と言われた慶子は、ある日以降、友人の笠井玲奈(中嶋朋子)の前で突然もりもりと食べ始めることに。さすがに女は強い!母親は強い!
<絵里奈の部屋の撤収がポイント>
2月12日に観た長嶋一茂主演の『ポストマン』(08年)でも、妻の死の3回忌を契機として形見分けをしようと提案する父親に対して、母親の死をいつまでも受け入れられない娘が大反発していた。それと同じように、絵里奈の死を現実のものとして受け入れるために、また現実にもうすぐ生まれてくる赤ちゃんの部屋をキープするために、絵里奈の部屋を片づけ、思い出の品を片づけてしまおうとした慶子とそれを手伝う英治に対して大反発したのが、本来一家の支柱として最もしっかりしなければならない雅仁。その挙げ句、「もっと私や英治を守ってよ!」と泣き叫ぶ慶子に対して反論もできず、また生まれてくる赤ちゃんに対する位置づけも明確にできない雅仁に対してキレてしまった慶子は、家を飛び出してしまうという最悪の事態に・・・。
こうみていくと、竹野内豊が演ずる雅仁は写真館の店主らしく(?)実にやさしくていい父親だが、あまりにも繊細にすぎ、精神的に弱すぎる感が・・・。
<この映画でも「手紙」がポイントに・・・>
『ポストマン』では、主人公が亡妻との間でやりとりしていた16年間の手紙が大きなポイントだったが、この映画でも手紙が大きなポイントに。つまり、絵里奈が亡くなった後も英治が絵里奈に対して書き続けている手紙だ。この手紙の束は英治の部屋のベッドの下に箱に入れて隠されていたものだから、いくら両親でも勝手に開けて読んではならないはずだが、この際そういう堅いことは言わないでおこう。
一時は同時に子供を2人とも失ったと思った両親にしてみれば、息子だけでも奇跡の生還をしてくれたことを喜ぶべきだし、現にそれはそれで喜んでいるのだが、やはりそれだけで気持の整理がつかなかったのは当然。とくに父親にしてみれば、「なぜ、あの時俺が車で送ってやると言ったのに、走って買い物に出かける子供たちを止めなかったのだ!」と自責の念にかられたのは当然。自分のケガがやっと治って退院し自宅へ戻ってきた息子をもちろん両親は喜んで迎えてくれたが、そこから3人がいかに再生できるかがこの映画のテーマ。そして、そのポイントとなったのが息子英治の手紙だが・・・。
<「なぜ絵里奈なんだ・・・?」の言葉は微妙・・・>
この映画は前半の、おしゃべりでおてんばな絵里奈の明るさが強調されているだけに、その絵里奈がいなくなった場合の、残された家族が抱く喪失感が際立ってくるのは当然。そして、後半はそんな家族の再生のための試練と歩みが描かれていくが、そんな中、観客席には少しずつすすり泣きの声が・・・。そのクライマックスとなるのは、あの時、雅仁が「なぜ絵里奈が・・・?」と言ったことをめぐって雅仁と英治が向き合うシーン。たしかにこの言葉は解釈の仕方によっては大変な誤解を生む可能性があるもの・・・。
英治はスクールカウンセラーの福田正幸(小日向文世)のアドバイス(?)を受けながら、誰よりも早く立ち直りかけていたのだが、ある日学校にも行かず、一人山の中に入っていったのは一体なぜ・・・?英治が学校にもおらず、家にも帰っていないことがわかった深沢家は大騒動となり、町をあげて英治の捜索に乗り出したが、そんな中で迎える感動的なクライマックスとは・・・?そんな感動はあなた自身が劇場で・・・。
2008(平成20)年2月21日記