つぐない(イギリス映画・2007年) |
<東宝東和試写室>
2008年3月21日鑑賞
2008年3月29日記
13歳の少女がついた1つの嘘。それが1人の男の運命を大きく変え、恋人の未来をも奪うことに・・・。第2次世界大戦直前のロンドンから始まる3部構成の壮大な物語は、そのタイトルどおり人間に対する根源的な問いかけがいっぱい!大ベストセラー小説を約2時間の映像にまとめたジョー・ライト監督の構成力はさすがだが、圧巻はラストシーンで明かされるもう1つの真実!『プライドと偏見』(05年)に続く、じっくり味わいたい名作の誕生だ。
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監督:ジョー・ライト
原作:イアン・マキューアン『贖罪』(新潮社刊)
セシーリア・タリス(タリス家の長女)/キーラ・ナイトレイ
ロビー・ターナー(タリス家の使用人の息子、セシーリアの恋人)/ジェームズ・マカヴォイ
ブライオニー・タリス(タリス家の次女、13歳)/シーアシャ・ローナン
ブライオニー・タリス(18歳)/ロモーラ・ガライ
ブライオニー・タリス(老年)/ヴァネッサ・レッドグレイヴ
グレース・ターナー(ロビーの母親)/ブレンダ・ブレッシン
リーオン(タリス家の長男)/パトリック・ケネディ
タリス夫人/ハリエット・ウォルター
ポール・マーシャル(リーオンの友人)/ベネディクト・カンバーバッチ
ローラ・クィンシー(セシーリア、ブライオニーの従姉妹)/ジュノー・テンプル
シスター・ドラモンド(看護主任)/ジーナ・マッキー
2007年・イギリス映画・123分
配給/東宝東和
<『プライドと偏見』に続いて、キーラ・ナイトレイが登場!>
私が注目しているイギリス生まれの美女キーラ・ナイトレイは『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズよりも、ジョー・ライト監督がジェーン・オースティン原作の小説を映画化した『プライドと偏見』(05年)の方がよほど魅力的。したがって、この映画でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたのは喜ばしい限り。そんなキーラ・ナイトレイが、ジョー・ライト監督がイアン・マキューアン原作の『贖罪』に挑戦した『つぐない』で、再び登場!その美貌にはますます磨きが・・・。
時代は、第2次世界大戦のキナ臭いにおいがただよい始めた1935年。舞台はイングランドにある政府高官ジャック・タリスの広大なお屋敷だ。キーラ・ナイトレイ扮するセシーリアはタリス家の長女だが、ケンブリッジ大学を卒業して家に戻ったものの、今後の身の振り方が決まらず、屋敷の中で退屈な日々を過ごしていた。そんな中、大変な事件が・・・。
<物語としては、ブライオニーが主役・・・?>
『つぐない』は、映画としてはセシーリアとその恋人となるタリス家の使用人の息子ロビー・ターナー(ジェームズ・マカヴォイ)との恋物語がメインで、この2人が主役とされている。しかしストーリーとしては、セシーリアの妹である13歳のブライオニー(シーアシャ・ローナン)が犯したある1つの罪をどう償うかをテーマとした壮大な物語。
ジョー・ライト監督はそんな壮大な物語を2時間にまとめるにあたって、13歳のブライオニーの他に18歳のブライオニー(ロモーラ・ガライ)と老年のブライオニー(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)を登場させ、その贖罪意識がどのように受け継がれていくかを要領よくかつスリリングに描いていく。したがって、ストーリーとしてはむしろブライオニーが主役。
<過ちは、感受性と想像力の豊かさが招いたもの・・・?>
ブライオニーは生涯に21冊もの小説を書くことになった女性だから、13歳の頃から感受性と想像力が豊かだったのは当然。映画の冒頭、ロビーとセシーリアとのぎこちない関係を示す印象的なシーンが展開される。それは庭の噴水前のシーン。セシーリアの持っていた花瓶が壊れ、その一部が水中に落ちた時、セシーリアが見せた行動は、良家のお嬢サマには考えられないエキセントリックなものだ。そんな2人の行動を屋敷でじっと見ていた13歳のブライオニーが、そこに感じたものは・・・?
<問題の発端は?>
問題の発端は、セシーリアに対するお詫びの手紙を何度もタイプで打ち直していたロビーが、途中でふざけて女性器を表わすある放送禁止用語(?)を使った卑猥な文章をタイプしていたところ、誤ってそれを封筒の中に入れてしまったこと。しかも、その手紙を持って晩餐会に向かっていたロビーは、途中出会ったブライオニーにその手紙を託したところ、ブライオニーが少女らしい好奇心からそれを読んでしまったから大変。これによって、ブライオニーの頭の中でロビーは色情魔となってしまったが、それがこれから起こる大きな過ちの伏線に・・・。
<ブライオニーが目撃したのは・・・?>
ブライオニーは13歳の時から作家としての才能があったよう。今彼女は、自ら書きあげた戯曲『アラベラの試練』の原稿を手に屋敷の中を走り回っていた。その芝居を演じるのは、タリス家に一時的に引きとられている従姉妹のローラ(ジュノー・テンプル)とその双子の弟ジャクスンとピエロたち。そして観客は、休暇で帰省してくる兄リーオン(パトリック・ケネディ)とその友人でチョコレート製造で財を成したポール・マーシャル(ベネディクト・カンバーバッチ)たち。つまり、彼らを歓迎するためのお芝居というわけだ。
リーオンたちが帰ってきたその日は晩餐会だが、そこにローラと双子の兄弟ジャクスン、ピエロが集まらない。どうも、彼らはそろって家出したらしいというから、さあ大変。晩餐会そっちのけで全員が彼らを探し回ることになったが、懐中電灯を手に恐る恐る森の中を探していたブライオニーが発見したのは、ローラが何者かによって強姦されている姿。懐中電灯の明りが当たった瞬間、男は顔を隠しながら逃げ出したが、あの男は色情魔のロビーにちがいない・・・。ブライオニーは直感的にそう理解し、屋敷に戻りそれを訴えたから屋敷内は上へ下への大騒ぎに。
ところが、肝心のロビーはなかなか戻ってこない。こりゃ、きっと逃走したに違いないと考えたのは自然で警察のお出ましとなったが、翌朝早くロビーが双子の兄弟ジャクスンとピエロを連れて戻ってきたから、一同はビックリ。さあ、そこでのブライオニーの証言がロビーの一生を左右することになるのだが・・・。
<あなたが裁判員ならどう判断?>
2009年5月からの裁判員制度の実施に向けて今いろいろな準備が進んでいるが、私には不安がいっぱい。それは、この映画における13歳のブライオニーの目撃証言のみでロビーが逮捕され、懲役刑とされたことをみても明らかだ。映画にはロビーが有罪となる裁判シーンは一切登場しないが、どんな流れで懲役刑とされたのかは容易に想像がつく。
しかして、こんなケースが日本の裁判に登場した場合、裁判員たちは至極簡単にブライオニーの目撃証言を信用し、この映画と同じような結論=有罪判決を下してしまうのでは・・・?さて、あなたが裁判員ならブライオニーの目撃証言をどう判断するの・・・?しかして、真実は・・・?
<ロビーは今ダンケルクの戦場に・・・?>
この映画は3部構成となっており、第2部の舞台はダンケルクの戦場がメイン。「あの事件」から4年後だ。1939年9月1日にポーランドに侵攻したナチスドイツ軍は、1940年5月にはオランダ、ベルギーに侵攻し、北フランスを席巻した。イギリス、フランス、オランダ、ベルギー等の連合軍はダンケルクまで追いつめられたが、そこでイギリス首相チャーチルが下した決断は、約35万人の将兵を全員撤退させること。部隊とはぐれたロビーは今、メイスとネトルという2人の伍長と共に部隊への合流を探っていたが、そんなダンケルクでの大規模な撤退作戦を知ってるの・・・?
フランス語を流暢にしゃべるロビーは、メイスとネトルから「あんたみたいな上流の男が、なんで兵卒なんてやってんだ」と質問されたが、それに対するロビーの答えは「俺は上流階級の男ではない」「刑期を短縮するために従軍したのだ」だったから、「あの事件」がロビーに及ぼした打撃がはかり知れないほど重く深刻だったことは明らかだ。
<セシーリアは今・・・?セシーリアからの手紙は・・・?>
あの日連行されていくロビーの耳元で「愛しています。戻ってきて。わたしのところへ」とささやいたセシーリアは、「あの事件」以来、家族のもとを離れ、今は看護師になっていた。ロビーとセシーリアの半年前の束の間の再会はロンドンだったが、そこで最後に交わされた言葉は「次の休みには、海辺のコテージへ行きましょう」というもの。戦争が終わりロビーがセシーリアのもとへ帰ってくれば、それは可能だが、さて・・・?
今のロビーの宝物は、そんなセシーリアから送られてくる手紙の束。その最後の手紙には「妹から手紙が来ました。大学に進まず、看護師の訓練を受けているそうです。あの時の自分の過ちをつぐないたいと・・・」と書いてあった。ロビーがブライオニーを許すことができないのは当然だが、その手紙を読んでロビーが思い出した若き日のブライオニーとのエピソードは・・・?それは、「私が危険な目に遭ったら助けてくれる?」との言葉を試すかのように、自ら川の中に飛び込んでいったブライオニーの常軌を逸した行動だった。あの行動をみても、ブライオニーがかなり変わった少女だったことは明らかだが・・・。
<ブライオニーは今・・・?>
セシーリアと同じく看護師を目指したブライオニーは、今ロンドンの病院で見習いをしていたが、書くことが大好きなブライオニーは毎晩ある物語を書き綴っていた。それはきっと自分のあの過ちをどう償うのかをテーマとした物語だろうが、さてその展開は・・・?
第3部は、あの事件から5年後、18歳となったブライオニーの心の葛藤ぶりを示す2つのエピソードが描かれる。その第1は、あの事件の真犯人は誰かというミステリータッチ(?)のエピソード。そして第2は、贖罪を願うブライオニーの心の葛藤とそれを聞くセシーリアとロビーの心の葛藤を描くエピソード。この2つのエピソードはいずれもあっと驚く展開をみせていく。その真実味と深みのすばらしさがアカデミー賞作品賞にノミネートされた理由だから、ここでネタばらしをすることを避け、あなた自身の目でしっかりと・・・。
<77歳のブライオニーが語る真実とは・・・?>
前述したように、この映画はストーリーとしてはブライオニーが主役だが、第3部は特にそれが著しい。もちろん第3部にもローラとマーシャルの結婚式のシーンやブライオニーが訪れたアパートに住むセシーリアとロビーの姿も登場するが、ストーリーの主役は完全にブライオニー。
そんな展開の中、ジョー・ライト監督は最後の数分間にこの映画のエッセンスを実に見事にまとめている。それは、77歳になったブライオニーが発表した21作目の作品『つぐない』について、ロンドンのテレビ局のスタジオで語るシーン。ブライオニーは「これは私の遺作です」とショッキングな発言をしながらこの作品に寄せる思いを語っていったが、その中で明らかになる、もう1つの真実とは・・・?ジョー・ライト監督の構成力の見事さに、あなたもきっと脱帽するはずだ。
2008(平成20)年3月29日記