Mr.ブルックス~完璧なる殺人鬼~(アメリカ映画・2007年) |
<GAGA試写室>
2008年4月21日鑑賞
2008年4月23日記
「二重人格」はジキルとハイドだけにあらず。人間の本質をえぐるこのテーマに、ケビン・コスナーが華麗に挑戦!「連続殺人鬼」を追う女刑事は、円熟味を増した(?)デミ・ムーア。捜査の輪が狭まる中、いかなる想像を絶する展開が・・・?映画は脚本が命。それを地でいくスリリングなサイコスリラーを楽しみつつ、この際、あなた自身の中にある「二面性」についてじっくり考えてみては・・・?
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監督・脚本:ブルース・A・エバンス
製作・脚本:レイノルド・ギデオン
製作:ケビン・コスナー、ジム・ウィルソン
アール・ブルックス(連続殺人鬼、大物実業家)/ケビン・コスナー
トレーシー・アトウッド(女性刑事)/デミ・ムーア
ミスター・スミス(アパートに住む青年)/デイン・クック
マーシャル(謎の存在?)/ウィリアム・ハート
エマ・ブルックス(アールの妻)/マージ・ヘルゲンバーガー
ジェイン・ブルックス(ブルックス夫妻の一人娘)/ダニエル・パナベイカー
シェイラ/レイコ・エイルスワース
2007年・アメリカ映画・120分
配給/プレシディオ
<ケビン・コスナーが満を持して登場!>
今から15年ほど前に、私と同世代の女性弁護士から「ケビン・コスナー、命!」と熱く語られたことがある。そして、なぜか私はそれを鮮明に覚えている。
ケビン・コスナー主演の『ボディガード』が大ヒットしたのが1992年、その直前には『フィールド・オブ・ドリームス』(89年)、『ロビンフッド』(91年)、『JFK』(91年)などのヒット作が目白押しだし、私もケビン・コスナーに関してはすぐにその顔と名前と作品が一致していたから、彼女の熱狂ぶりに納得したもの。その後、彼が主演した『ポストマン』(97年)、『メッセージ・イン・ア・ボトル』(99年)、『13デイズ』(00年)(『シネマルーム1』63頁参照)は良かったが、『守護神』(06年)(『シネマルーム14』26頁参照)では主役を若いアシュトン・カッチャーに譲った感も・・・?
しかし、彼は1955年生まれだから、まだまだ主役を張れる能力は十分。そんなケビン・コスナーが満を持して登場したのがこの『Mr.ブルックス~完璧なる殺人鬼~』だが、彼はこの映画の脚本とアール・ブルックス役がよほど気に入ったとみえて、製作にも・・・。
<『ジキル博士とハイド氏』のサイコ・スリラー版・・・?>
1886年に出版されたロバート・ルイス・スティーヴンソンの『ジキル博士とハイド氏』は、人間のもつ二面性をトコトン明らかにしたことで大きな功績を残し、「二重人格を題材にした代表的な小説」と言われている。そして『Mr.ブルックス~完璧なる殺人鬼~』は、大成功を収めた大物実業家アール・ブルックス(ケビン・コスナー)の裏の顔が連続殺人鬼という彼の二重人格をテーマにしたものだから、『ジキル博士とハイド氏』のサイコ・スリラー版・・・?
今日も、アールは妻のエマ(マージ・ヘルゲンバーガー)と共に、あるパーティーの主賓として出席し、出席者から拍手喝采を浴びていたが、その裏ではある欲望が沸々と・・・?もっとも、今のアールは何とか殺人の欲望を抑えようと努力していたから、連続殺人鬼というレッテル貼りが正しいかどうかは微妙なところ・・・?
<マーシャルはどんな存在・・・?>
私はウラの存在、陰の存在とも言うべき人物が登場してくる映画は、どうしても不自然になるのであまり好きになれないが、この映画でアールの陰の存在として登場するのがマーシャル(ウィリアム・ハート)。せっかくアールは内心から沸々と湧きおこる殺人の欲望を抑えようと努力しているのに、マーシャルは「お前にはそれはムリだ。心に忠実に生きなければ・・・」とさかんにアールのウラの部分をたきつけているから始末が悪い。その結果、アールは「これが最後だぞ」と言いつつ、2年ぶりに「指紋の殺人鬼」の犯行を犯すことに。
オレゴン州ポートランドで起きた、若い男女カップルの殺人事件はもちろん残忍なものだが、その直前の美しいセックスシーンやスタイリッシュな殺しのスタイルは、結構楽しめるかも・・・?
<弘法も筆の誤り・・・?>
アールが二重人格の裏の存在ともいうべきマーシャルと共に2年ぶりにやってしまった、指紋の殺人鬼の犯行は、従前どおり完璧なはず。私たち観客にはそう思えたが、その被害者となった若いカップルは、カーテンを開け、自分たちのセックスを近所の人たちに見せびらかすのが趣味だったというから驚き。というよりも、本来であればアールとマーシャルはバッチリとそのリサーチをしたうえで完璧な犯行を行うべきだったのだが、殺害が終わった後で、「あれ、カーテンが開いていた・・・?」はちょっと考えられないチョンボ。まさに、弘法も筆の誤りというべきもの・・・?
<目撃者、登場!>
そりゃ誰だって夜な夜なそんなセックスを見せつけられていれば、それに興味を示す奴がいるはず。犯行の翌日(?)、ある写真を持ってアールの会社へ面会に訪れたのがミスター・スミス(デイン・クック)。彼は、あの若いカップルの夜毎のセックスとアールによる殺人シーンを目撃し、写真に収めていた、向かいのアパートの3階に住む青年だった。通常そんな彼がアールに対して要求するのは口封じのための金銭だが、ミスター・スミスの要求は一風変わったものだったから、お立ち会い!
<ミスター・スミスの要求は・・・?>
写真家のミスター・スミスは、カーテン開けっぴろげの状態で夜な夜なくり広げられる隣家でのセックスシーンを撮り続けていたらしい。そのため、犯行完了後カーテンの前に立つアールとマーシャルの姿がバッチリ撮影されていた。したがって、この写真が警察に提出されたら、有名誌の表紙を飾るセレブな実業家アールの化けの皮がはがれることは必至。
ところが、ミスター・スミスがアールに要求したのは、そんなネタをバックとしたカネではなく、「俺も一緒に殺人のスリルを味わいたい」という意外なものだった。なるほど、なるほど、「類は友を呼ぶ」とはよく言ったものだ。
<ミスター・ブルックスの対応は・・・?>
ケビン・コスナー演ずるミスター・ブルックスは、悩める連続殺人鬼(?)として陰の存在マーシャルと会話をしているシーンでは、内心の弱さやいらつきを露呈し、やっぱり完璧な人間はいないと実感させてくれる。しかし、それ以外の場面では、少なくとも表面上は、家庭では愛する妻エマにやさしく、会社の中ではあくまでリーダー、そしてミスター・スミスとの対応は「クールかつスマート」というスタンスを崩さないから、その姿は実にカッコいい。つまり、この映画でもミスター・スミスへの対応について「ケビン・コスナー、命!」と言われた大スターぶりをいかんなく発揮していたが・・・?
<親が親なら・・・?>
アメリカでは家族というものの価値観が非常に高いから、いくら仕事がよくでき、大企業を率いていても、それが家族の犠牲の上に成立しているような男では評価が低い。ところが、アールはその点でも理想的な男で、妻のエマはもちろん一人娘のジェイン(ダニエル・パナベイカー)も心から愛していた。
ところが今、ミスター・スミスの問題が発生したため、その適切な対応に頭を悩ましていたアールにもう1つ新たな悩みが発生した。それは、親から離れて大学に通っていたジェインが突然、「大学を辞めた。パパの会社で働かせて」と言って戻ってきたこと。父親がこんなに極端な二重人格者なら、その血を受け継いだ娘だってその可能性が・・・?まして思春期を終え、女として最も自由な大学生活の中で彼女が得たものは・・・?そして失ったものは・・・?
ジェインの言葉がインチキだったことは、「今、妊娠しているの!」との告白を引き出す中で明らかになるが、さらになぜかジェインは警察から殺人容疑の参考人として事情聴取されることに・・・。これには、てっきり自分の家にまで捜査の輪が狭まってきたと感じとっていたアールもビックリ!
ひょっとしてジェインにも、アールの殺人願望の血が引き継がれているのかも・・・?もしそうだとすると、そのターゲットは一体誰に・・・?映画の終盤、そんな恐ろしいシーンが登場するかもしれないので、十分ご用心を・・・。
<デミ・ムーアには、刑事役もお似合い!>
デミ・ムーアの代表作は何といっても『G.I.ジェーン』(97年)。女海兵隊員としてのあの熱演にはビックリしたもの。1962年生まれの彼女が、『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』(03年)では、キャメロン・ディアス、ルーシー・リュー、ドリュー・バリモア扮する3人の美女エンジェルたちの敵役として登場。そこでは、4800万円をかけて徹底した整形と肉体改造をし、黒いビキニ姿をはじめとする華麗な先輩エンジェル姿を披露した(『シネマルーム3』274頁参照)。
そんな円熟味を増す(?)デミ・ムーアがこの映画で演ずるのは、離婚歴1度、現在も2度目の夫と離婚調停中という、仕事一筋の女刑事トレーシー・アトウッド。2年間も途切れていた「指紋の殺人鬼」の活動再開に敢然と立ち向かったトレーシーは、地道な捜査でマーシャルとの接点を見つけ出すなど、少しずつ捜査の輪を狭めていった。ところが、彼女には離婚に伴って多額の慰謝料をせしめようと狙う夫とその代理人たる女弁護士からの執拗な要求が続いたうえ、脱獄した凶悪犯ミークスが着々とトレーシーへの復讐を狙っていたから大変。そんな逆風の中、トレーシーは今日もアールを追っていたが・・・?
<サイコ・スリラーの出来映えをじっくりと!>
この映画は私には少し違和感があるが、アールとマーシャルとの会話を通じた二重人格の本性へのアプローチが面白い試み。そしてストーリーとしては、①アールと目撃者ミスター・スミスとの絡み、②アールと愛娘ジェインとの絡み、③アールと女刑事トレーシーとの絡み、がメインストーリー。
他方トレーシーをめぐっては、①離婚調停中の夫とその女弁護士との絡み、②凶悪犯ミークスとの絡み、③犯人を追っていく中でのミスター・スミスとの絡み、というストーリーがある。このように、この映画はさまざまなストーリーが同時展開していくので少し複雑な面もあるが、「映画は脚本が命!」を地でいくスリリングな展開となっているから、十分楽しめるはず。
トレーシーの捜査の手がすぐ近くまで延びてくることを知ったアールは、さまざまの知恵を絞り、反撃の手を打っていったから、それがこの映画後半の見モノ。そんなケビン・コスナー渾身のサイコ・スリラーの出来映えをじっくりと味わいたいものだ。
2008(平成20)年4月23日記