紀元前1万年(10,000BC)(アメリカ映画・2008年) |
<TOHOシネマズ梅田>
2008年4月27日鑑賞
2008年4月30日記
近未来に目を向けた、オリジナリティあふれる企画と映像美を誇るドイツ人監督ローランド・エメリッヒが、今回は何と「紀元前1万年」というとてつもない過去に着目!そこでは、マンモス、サーベルタイガー、恐鳥のCG映像と、ピラミッド、宮殿の巨大セットに注目!テーマは「旅」。全編マヤ語だったメル・ギブソン監督の『アポカリプト』(06年)との共通点も多いが、旅の構成は正反対・・・?こんな映画は企画と脚本が勝負!想像を絶する世界を楽しめるかどうかは、あなたの感性にかかっているが・・・?
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監督・脚本・製作:ローランド・エメリッヒ
デレー(ヤガル族、勇気ある若者)/スティーブン・ストレイト
エバレット(デレーの恋人)/カミーラ・ベル
ティクティク(ヤガル族のリーダー、デレーの父親の親友)/クリフ・カーティス
2008年・アメリカ映画・109分
配給/ワーナー・ブラザース映画
<「未来」から「過去」へ!>
アカデミー賞視覚効果賞を受賞した『インデペンデンス・デイ』(96年)は、ドイツ生まれのローランド・エメリッヒ監督の名を一躍世界に知らしめた大ヒット作。また、「地球温暖化そしてそれによる地球の北半分の寒冷化と新たな氷河期の到来」という、近未来に必ず到来する(?)であろう地球的規模の大災害を真正面から描いたのが『デイ・アフター・トゥモロー』(04年)(『シネマルーム4』84頁参照)。
このように、未来に目を見据えてヒット作を連発したローランド・エメリッヒ監督が、突然過去、しかも紀元前1万年というとてつもない過去に目を向けたからビックリ。予告編を数回観たが、そこでは巨大なマンモスを追う主人公たちの姿が印象的だった。しかし、それだけで面白い映画をつくるのはとてもムリ。未来を描いたエンタテインメント巨編で世界をアッと言わせたローランド・エメリッヒ監督が、さて今回はどんな面白い紀元前1万年の世界を見せてくれるのだろうか・・・?
<『アポカリプト』と共通点が・・・>
私がこの映画を観ながらずっと考えていたのは、『アポカリプト』(06年)との共通点が多いこと。『アポカリプト』は『パッション』(04年)に続くメル・ギブソン監督の衝撃作だが、ちょっと不思議な2時間18分の大活劇だった(『シネマルーム14』19頁参照)。
共通点の第1は、両作とも映画の特徴が、主人公のアスリート能力とりわけ走る能力に置かれていること。第2は、『アポカリプト』の冒頭に登場する迫力満点の狩猟シーンと、『紀元前1万年』冒頭のマンモスの狩猟シーンがきわめて似ていること。そして第3は、双方とも主人公の「旅」をテーマとしていること。さらに第4の共通点は、映画後半に登場する巨大なピラミッド、神殿、生贄という展開だ。
このように、『アポカリプト』との共通点を考えながら、『紀元前1万年』を観るのも一興。そこで以下私の評論では、その対比をいろいろと・・・。
<あえて、ビッグネームを起用しなかったのは・・・?>
この映画のキャスティングをみて、若き2人の主役を演じたスティーブン・ストレイトとカミーラ・ベルの名前や準主役のクリフ・カーティスの名前がわかる人はかなりの映画通・・・?私を含めて多くの人は、多分この3人の名前と顔が一致しないのでは・・・?
多分一番有名なのは、ヤガル族のリーダーであるティクティクを演じたクリフ・カーティス。 『ピアノ・レッスン』(93年)で映画デビューした彼はニュージーランドで最も成功を収めている俳優の1人で、『クジラの島の少女』(02年)など多くの映画に出演している。しかし、ヤガル族の若きハンターであり、恋人を取り戻しかつ部族を救うための旅に出る主人公デレーを演じたスティーブン・ストレイトは、これまでほとんど無名に近い俳優。
他方、青い瞳の恋人エバレットを演じた1986年生まれのカミーラ・ベルは、『リトル・プリンセス』(95年)で長編映画デビューし、その後いくつかの映画に出演していたが、ほとんど目立たなかった女優・・・?もっとも私は、彼女についての情報はバッチリ。なぜなら、『ストレンジャー・コール』(06年)というB級映画(?)のヒロインとして、ほとんど87分間という上映時間中出ずっぱりだった彼女に注目し、「若きヒロインに拍手!」「ヒロインの勇気に感動!」と評論していたのだから(『シネマルーム15』444頁参照)。
ところで、ローランド・エメリッヒ監督はこんな話題性の高い大作になぜビッグネームを起用せず、こんな3人を起用したの・・・?パンフレットでは、『インデペンデンス・デイ』でウィル・スミスを、『パトリオット』(00年)でヒース・レジャーを、また『デイ・アフター・トゥモロー』でジェイク・ギレンホールを抜擢したことについて、記者から「あなたは、自分には俳優を見る目があると思いますか?」と質問されているが、それに対するローランド・エメリッヒ監督の回答は・・・?その自信タップリの回答を聞けば、なるほど、なるほど・・・。
<映像上の売り その1─CG映像のつくり方>
『デイ・アフター・トゥモロー』で観た、大津波に襲われるニューヨークのまちの特撮シーンはすごかった。それによってわかるように、ローランド・エメリッヒ監督の映像クリエート能力は抜群。そんなローランド・エメリッヒ監督が、構想15年の末に発表した『紀元前1万年』の映像上の売りは2つある。その第1は、CG映像のつくり方。
この映画のCG映像ですごいのは、なんといっても①マンモス、②サーベルタイガー、③恐鳥の3点セット。とりわけ、映画冒頭に登場するマンモス(ヤガル族はマナクと呼んでいる)の狩猟シーンは圧倒的な迫力。むかし、むかし私が小学生の頃、マンガでこんなシーンを見た記憶があるのだが、さて、あれは何だったのだろうか・・・?
それに比べれば、人間と恐鳥との対決シーンはスピードが早すぎて少しわかりにくいし、恐鳥の姿を見ると少しユーモラスだから恐さ半減・・・?また、デレーと牙をむくサーベルタイガー(ネットを調べると、これは第四紀更新世(163万~1万年前)時代のホントの生き物)との対決(対話?)は緊迫のシーンだが、このサーベルタイガーは『ライラの冒険 黄金の羅針盤』(07年)に登場する鎧熊族のイオレクと共通点が多い(?)から、新鮮味に乏しい面も・・・?
映像を学ぶ人たちは、しっかりこのCG映像のお勉強を!
<映像上の売り その2─巨大セット>
この映画のもう1つの映像表現上の売りは、ピラミッド、宮殿、石切り場そしてマンモスが石を運ぶ傾斜路などの巨大セット。ちなみに、『茶々─天涯の貴妃(おんな)』(07年)での大坂城のセット建設には1億円かかったらしいが、この巨大セットの製作には一体いくらかかったのだろうか?またこの巨大セットは、ミニチュアとの併用で大いに活用されたそうだ。一体どうやってあんなシーン、こんなシーンを生み出すのかは興味深い。
さらに、この映画の撮影には、ヘリコプターと同じような働きをするスパイダーカムが活用されたとのこと。つまり、スパイダーカムを使えば、ヘリコプターと同じように、ミニチュアセットの中を自由に撮影することができるというからすごいもの・・・。
<ホモ・サピエンスの進歩に言語はどんな役割を・・・?>
ホモ・サピエンスと呼ばれる現代人が、アフリカの地に誕生したのは紀元前15~20万年前頃らしい。ネアンデルタール人や北京原人などの「原人」から、ホモ・サピエンスに進化していく考古学的な考察は、パンフレットにある佐藤宏之東京大学教授の「考古学から見た紀元前1万年の世界」に詳しいから、そういう方面がお好きな人は是非そのお勉強を。
佐藤解説によれば、人類が部族、氏族という形で祖先を共有する集団をつくっていったのは、世界中どこでも共通するらしい。また、本格的な言語の獲得によってコミュニケーション能力を向上させたことが、集団生活を営む上で大きな効用を果たしたらしい。このように、ホモ・サピエンス(現代人)の進歩に言語が果たした役割は甚大!
<あの時代、人々はどんな言語を・・・?>
紀元前1万年の時代を映画で描く場合、何より難しいのは、登場人物たちにどんな言語をしゃべらせるのかということだ。『アポカリプト』はマヤ文明の時代のある狩猟部族の物語だったから、全編マヤ語というのが面白い試みだった。もちろん、その分マヤ語を一から学習しなければならない俳優は大変だが・・・。
『紀元前1万年』では、デレーたちヤガル族はみんな英語をしゃべっている。ところが、ヤガル族以外のナク族のナクドゥや四本脚の悪魔の隊長がしゃべる言語は全く不明。ローランド・エメリッヒ監督はそこらの矛盾点を追及されるのを避けるため(?)、なぜかデレーの父親が一人部族を見捨てて見知らぬ国に旅立ったという設定にした。その秘密を知っているのは、父親の親友だったティクティク一人だけだ。ストーリー展開の中、デレーたちが旅していく過程でその世界はどんどん広がっていくが、たまたまデレーの父親からヤガル族の言葉を教わったというナクドゥがいたから、彼の通訳によってやっとヤガル族とナク族の会話が成立することになるのだが、これはかなり不自然。このようになぜヤガル族が英語をしゃべるの?を含めて、そんな不自然さを本格的に追及すればいろいろとおかしなことになるので、そこらあたりは大目に・・・。
<地味なキーマンとキーウーマンにも注目!>
私は映画でナレーションを多用することには反対だが、この映画では観客を紀元前1万年の世界に誘うためには、一定のナレーションは仕方なし。この映画でナレーションを担当するのは、『ドクトル・ジバゴ』(65年)に主演し、『アラビアのロレンス』(62年)でピーター・オトゥールの相手をつとめた名優オマー・シャリフ。
紀元前と紀元後を分けるのは言うまでもなくイエス・キリストの誕生だが、救世主の誕生は長い間ユダヤの民の間に語り継がれていた予言が実現したもの。このように、人間と宗教は不可分の関係だから、紀元前1万年の時代ともなれば、予言者が幅を利かせていたのは当然。しかして、この映画に登場するヤガル族最後の予言者である巫母の存在とそのキャラは興味深い。未来を見ることができる彼女は、映画の冒頭、青い目を持つ者が部族を救うと予言し、エバレットを育てた他、最後のマンモスを倒すハンターとエバレットがヤガル族の未来を背負うと占ったが、さてその予言や占いは・・・?
観客の目が青い目の美女エバレットに向くのは仕方ないが、この映画ではこんな地味なキーマンとキーウーマンにも注目!
<どんな旅が?そしてどんな結末が・・・?>
『紀元前1万年』と『アポカリプト』との共通点の1つが旅をテーマとしていることは、前述したとおりだ。もっとも、『アポカリプト』は主人公たちがマヤ帝国の傭兵たちに捕虜として連れていかれる旅であったのに対し、『紀元前1万年』は「四本脚の悪魔」によって捕虜とされてしまったエバレットや一族の者たちを救うために、主人公のデレーたちが追っかけていく旅だから、その内容は大違い。また考えてみれば、主人公たちの旅をテーマとした壮大な物語はたくさんある。ホビット族のフロドたちの「滅びの山」への旅をテーマとした『ロード・オブ・ザ・リング』(01、02、03年)シリーズもそうだ。
しかし、紀元前1万年の時代における旅にどのような世界が待ち受けているのかはサッパリわからないはず。さて、デレーたちの旅にはいかなるドラマが待ち受けているのだろうか・・・?そしてまた、その旅にいかなる結末が待ち受けているのかについては誰も想像できないのは当然。この映画のクライマックスは、巨大セットがつくられたピラミッドや神殿における「大神」とデレーとの「対決」だが、さてそこにはどんなドラマと結末が・・・?
それをここで明かすわけにはいかないのは当然。スリルいっぱいの旅をいかに楽しむかはあなたの感性次第。そしてまた、圧倒的迫力の映像美はあなた自身の目で・・・。
2008(平成20)年4月30日記