築地魚河岸三代目(日本映画・2008年) |
<梅田ピカデリー>
2008年6月8日鑑賞
2008年6月10日記
35歳にして、エリートサラリーマンから「築地の男」に転身!そんな見事な決断は旬太郎ならでは!日本人はこの手の人情モノが大好き!したがって、寅さん、ハマちゃんに続いて旬ちゃんが『築地魚河岸三代目』シリーズの顔となれる可能性は大だが、第1作の出来が勝負!内憂(豊洲新市場への移転問題)、外患(魚介類の食糧自給率の低下)を抱えた今のニッポン、つい先日社長に就任した島耕作を見習って、旬太郎も「三代目」として築地のために頑張ろう!
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監督:松原信吾
原作:はしもとみつお、鍋島雅治『築地魚河岸三代目』(小学館刊)
赤木旬太郎/大沢たかお
鏑木明日香(旬太郎の恋人、装飾デザイナー)/田中麗奈
英二(「魚辰」の従業員、大黒柱)/伊原剛志
千秋(小料理屋「ちあき」の経営者)/森口瑤子
真田正治郎(鮨屋・真田の主人、徳三郎の親友)/柄本明
鏑木徳三郎(明日香の父親、「魚辰」二代目)/伊東四朗
雅(「魚辰」従業員)/マギー
金谷(旬太郎の元上司)/大杉漣
漆原(商社の常務)/佐野史郎
2008年・日本映画・116分
配給/松竹
<また人気コミックが!シリーズ化も決定!>
本作の原作である『築地魚河岸三代目』は、小学館『ビッグコミック』に2000年5月から連載を開始し、現在単行本にして23巻まで発売されているロングラン人気コミックとのこと。サラリーマンの世界から築地市場に飛び込んできた熱血漢赤木旬太郎(大沢たかお)を主人公としたこのコミックは、築地市場で働く人々との心の触れ合いの中で少しずつ築地の男として成長していく旬太郎の姿を描く人情モノ。
魚介類を含む食糧自給率の下落が心配されている昨今のニッポン国、築地から豊洲新市場への移転が大問題となっている昨今のニッポン国、さらにワーキングプアが広がり、『蟹工船』が大人気となっている(?)昨今のニッポン国においては、コミックとはいえ若者の生き方に希望を与えるこんな前向きなコミックが映画化され、日本に広がるのはいいことかも・・・。
また、松竹では『釣りバカ』に続く人気シリーズに育てるべく、『築地魚河岸三代目』のシリーズ化が決定したとのことだから、今後の推移に注目!もっとも、公開翌日の日曜日における観客の入り(の少なさ)を見ていると、先行きは少し不安だが・・・。
<35歳にしてこの決断は立派だが・・・>
原作では旬太郎は大手銀行に勤める銀行マンだが、映画ではなぜか35歳にして課長に抜擢されたばかりの総合商社のエリートサラリーマン。今夜は、銀座で装飾デザイナーとして働いている恋人の明日香(田中麗奈)とのディナーの日。「今日こそプロポーズを!」と婚約指輪の準備までしていたのだが、旬太郎の引き立て役ながら旬太郎を便利屋のようにこき使う漆原常務(佐野史郎)から、「明日ゴルフだから、車を回しとけ!」との電話が・・・。
しかも、旬太郎が課長に昇進できたのは、仕事のイロハを教えてくれた温かい先輩金谷(大杉漣)を含む大規模なリストラ断行のための嫌われ役として期待されたため。職務上やむなく金谷に対してリストラを迫った旬太郎だが、「幸せってなぁ、自分の気持ちに嘘つかないで生きることだって、この歳になってようやくわかったよ」「明日辞職願を出すよ」と穏やかに話す金谷を見て、遂に旬太郎はある決断を!
35歳にして、しかも課長に抜擢されたとたんに下したこの決断は立派だが、さて問題は、今ドキの多くの若者に旬太郎のような決断ができるかどうかということ。若くして課長に抜擢された旬太郎は、頭がいいかどうかは別として、何ゴトにも前向きでやる気だけは抜群。彼が金谷にかわいがられたのはそのためだが、そんな旬太郎なら35歳から全く別の世界に飛び込んでいっても、持ち前の熱意で状況を切り開いていける可能性が大。しかし、もしあなたが何ゴトも安全に、すべてにおいて大過なく・・・とばかり願っているタイプだとしたら、旬太郎のような決断はとてもムリ・・・?
<八重洲、銀座、築地、水天宮は徒歩圏内!>
私は2006年6月から一部上場企業であるコンピューターのオービックの社外監査役に就任したため、月1度は必ず役員会出席のために東京に出張することになった。その他事件関係でも、東京や横浜への出張が時々。そんな中、八重洲と銀座はだいぶ土地カンがついてきたし、築地市場がすぐ近くにあることや、おいしくて安い市場寿司の場所なども少しずつ知ることに。さらに、水天宮のすぐ近くにある某ホテルのフィットネスクラブに2回行ったが、地図を調べるとそこも少し遠いが、私にとっては徒歩圏内!
築地市場には、テレビによく出演しているテリー伊藤の実家が経営している玉子焼の店などを含めてたくさんの店があるが、大阪の中央卸売市場が大好きだった私は、東京の築地市場も大好き。今度出張した時は、時間をかけて市場内をくまなく歩き回り、旬太郎が魚辰でちゃんと頑張っているかどうか確認しなくては・・・?
<恋人に隠しゴトは・・・?>
築地で働く男たちの心意気を描くだけでは、女性ファンの注目を集めるのはムリ。やはり、そこには築地にふさわしい(?)ラブストーリーが不可欠だ。ところが、映画の冒頭に登場する高級レストランにおける、エリートサラリーマン旬太郎と銀座の装飾デザイナー明日香の語らいを観ていると、2人には築地のつの字も関係なさそう・・・。
金谷へのリストラ勧告で精根尽き果てた旬太郎がある朝、Tシャツにジーパン、ゴム長姿で自転車をこぐ明日香を偶然見かけたところから、この映画の実質的な物語がスタートすることに・・・。必死にそれを追いかけて行った旬太郎がたどり着いたのは、魚辰で働いている明日香の姿。つまり、銀座で働くファッショナブルで近代的な娘だと思っていた明日香の実家は、歩いて10~15分程の距離にある築地市場内の仲卸の名店・魚辰だったわけだ。
今彼女がそこに立っているのは、父親の徳三郎(伊東四朗)が膝の手術のため入院することになり、人手が手薄になったため退院まで手伝うためだが、恋人が築地の仲卸商の娘だったとは・・・?また、それを旬太郎が知らなかったとは・・・?明日香にしてみれば、別にそれを隠していたわけではなく、ケンカ別れして飛び出したいきさつを旬太郎に説明するのが面倒だっただけ・・・?しかし、明日香も既に28歳。婚約指輪を貰おうかという恋人に対して、きちんと自分の身の上を説明していなかったのはいかがなもの。さらに、雅(マギー)、拓也(荒川良々)、エリ(江口のり子)らから「兄貴」と慕われており、また徳三郎が「何としても三代目に!」と目をかけている英二(伊原剛志)が明日香の結婚相手として前々から決まっていたとは・・・?
恋人に隠しゴトが良くないのは当然だが、明日香はそんな大事なコトまで旬太郎に隠していたの・・・?
<『寅さん』『釣りバカ』との共通点は・・・?>
2008年夏に公開される『釣りバカ日誌19』の舞台は大分県佐伯市、ヒロインは常盤貴子。今や『釣りバカ』シリーズは、シリーズ全49作を誇る日本の国民映画「フーテンの寅さん」に次ぐ松竹のドル箱シリーズとなっている。そんな松竹の系譜を受け継ぐ『築地魚河岸三代目』シリーズが、『寅さん』『釣りバカ』シリーズと共通するのは、登場人物がいい奴ばかりだということ。
ちょっとワルぶった男は、旬太郎の上司の漆原常務くらい。明日香の父親徳三郎のケンカ友達で、リハビリ中の徳三郎とプールの中で大激闘をくり広げるなど、あらゆるシーンで徳三郎とバトルをくり広げる鮨屋・真田の主人真田正治郎(柄本明)も根は単純でいい人。つまり、築地市場で働いている人たちは、みんな決して頭は良くないし、千秋(森口瑤子)の熱い想いに気づかない英二のようなニブく鈍感な男たちばかりだが、大切なことは寅さんやハマちゃんと同じように、みんな単純でいい奴ばかりだということ。シリーズが長く続き、日本人から長く愛され楽しまれるためには、主人公はもちろん、登場人物がそんなキャラばかりであることが絶対的な条件。そんな目で見ると、『築地魚河岸三代目』の主人公旬太郎をはじめとして、その周りを固める人物のキャラはその条件を満たした奴ばかりだ。
第1作でたちまち旬太郎と結婚してしまった明日香は、魚辰での三代目就任を目指して頑張り始めた旬太郎を見習って、自分も銀座の装飾デザイナーの職を投げうち、魚辰のために頑張るはずだから、第2のさくら、第2のみち子となる可能性大。そして倍賞千恵子や浅田美代子と違って、田中麗奈は1980年生まれの若手有望株だから、今後の成長可能性は十分。松竹はそんな長い目で旬太郎と明日香のコンビを考え、長期シリーズを目指してみれば・・・?
もっとも、明日香がさくら役、みち子役のようにレギュラー出演となれば、2作目以降は別の「マドンナ」役を設定しなければならないが、それは明日香の父親徳三郎が向島の芸者の魅力に負けた前例を踏まえ、旬太郎に少し浮気させてみれば面白いかも・・・?
<絡まった糸が見事に収束!>
私はこの映画は単純で典型的な人情小話だと思っていたが、意外に複雑なストーリーを持っている。それは、①何ゴトにも思い込みが激しく、何ゴトも自分1人で決定し実行してしまう旬太郎が折にふれてトンチンカンな行動に走ること、②築地生まれの明日香が、旬太郎にも自分の身の上を話していなかったこと、③魚辰の三代目と嘱望されている英二が、周りが期待するほどお嬢さん=明日香に対して結婚のアプローチをしないこと、④小料理屋「ちあき」を経営している千秋が英二に対して熱い想いを寄せていることは明らかなのに、どうも英二はそれに気づいていないこと、等によって加速されるのだが、それらはすべて説明不足と勝手な思い込みによる誤解の集積・・・。ところが、この映画ではラストに向かってこれらの絡まった糸が見事に収束していく。
その第1は、英二と千秋の結婚。英二に自分の気持が伝わらないと諦めた千秋は、リーゼント男、片岡青果の若旦那片岡十四郎(鈴木一真)からの求婚を1度は受け入れたものの、旬太郎と明日香に背中を押され、『卒業』(67年)まがいの行動によって、遂に2人は結ばれることに。
そして第2は、もちろん明日香が旬太郎との結婚を承諾し、徳三郎もそれを認めたこと。すると、魚辰の三代目は・・・?徳三郎は「それは絶対英二に!」と決めていたはずだから、必然的に旬太郎ははみ出されることに・・・?そこらあたりの権力争い(?)の収束のつけ方が『築地魚河岸三代目』第1作の見どころだが、それは同時に第2作、第3作の見どころにも繋がっていくのでは・・・?
2008(平成20)年6月10日記