ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発(日本映画・2008年) |
<松竹試写室>
2008年6月18日鑑賞
2008年6月21日記
G8洞爺湖サミットに向けて、とんでもない映画が出現!ホスト役が福田康夫首相ではなく、伊部三蔵首相なのはなぜ・・・?他方、大泉純三郎元首相も大胆発言をしながら登場するので、要注目!G8各国の国民気質がよくわかるから、お国柄の勉強にも最適!しかして、地球を救う「タケ魔人」とは・・・?
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監督・脚本:河崎実
隅田川すみれ(東京スポーツ記者)/加藤夏希
戸山三平(カメラマン)/加藤和樹
伊部三蔵(首相)/福本ヒデ(ザ・ニュースペーパー)
大泉純三郎(元首相)/松下アキラ(ザ・ニュースペーパー)
脇谷(ナゾの村人)/渡部又兵衛(ザ・ニュースペーパー)
木村参謀(地球防衛軍)/黒部進
高峰参謀(地球防衛軍)/古谷敏
鳴海長官(地球防衛軍)/夏木陽介
タケ魔人(古代より日本民族を守ってきた神)/?
バーガー(アメリカ大統領)/ジョン・ヒーズ
プッチン(ロシア大統領)/アナトリ・クラスノフ
アンジェリカ(ドイツ大統領)/インゲ・ムラタ
ハリス(カナダ大統領)/クリスト・ピエトロ
ピエトロ(イタリア首相)/ロベルト・コラサンティ
ソルコジ(フランス大統領)/インゴ
2008年・日本映画・98分
配給/トルネード・フィルム
<洞爺湖サミットとは?G7からG8へ>
G8とは主要8カ国首脳会議のことで、「サミット」と呼ばれている。もともとはG7として1975年に第1回が開催されたが、1997年にロシアが加わり現在まで33回開催されている。したがって、2008年7月7日~9日まで開催される北海道の洞爺湖サミットは34回目。サミット開催の意義はいろいろあるが、洞爺湖サミットのテーマは環境・気候変動とアフリカ開発。
2007年9月23日に第91代総理大臣に選出された福田康夫首相は、支持率の急速な低下にもかかわらず、サミットの主催国として、また8カ国の首脳が集う会議の議長として張り切っているようだが、さて実際にはどんな役割を・・・?
<世界破滅3部作シリーズの第2作!>
河崎実監督の『ヅラ刑事』(06年)は、ギャグ満載のバカバカしいだけの映画だった(『シネマルーム12』427頁参照)が、世界破滅3部作シリーズの第1作『日本以外全部沈没』(06年)は、最高に面白い映画だった(『シネマルーム11』58頁参照)。つまり、私はギャグだけのバカバカしい映画は全然受けつけないが、強烈な社会風刺を伴った問題提起作は大好きなのだ。
ネット情報によれば、『いかレスラー』(04年)、『コアラ課長』(06年)、『かにゴールキーパー』(06年)という「超感銘動物3部作」シリーズを撮った河崎実監督は、「世界破滅3部作」シリーズの第1作として『日本以外全部沈没』を撮り、その第2作として『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』を撮ったとのことだ。
8カ国の首脳が集まった洞爺湖サミットのタイミングに突如巨大な宇宙怪獣ギララが現れたのは、中国の火星探査ロケットAACベーター号が札幌の市街地に墜落し、そのロケットに付着していた宇宙胞子が墜落時の爆発によって高熱エネルギーを吸収して、ギララが誕生したため。雄叫びをあげ、火球を吐きながら札幌の町を破壊したギララは、今赤い火の玉となって空中を飛んでいったが、ギララによって札幌は、北海道は、日本は、そして全世界は破滅してしまうの・・・?
<なぜ、洞爺湖サミットを伊部総理が・・・?>
前述のとおり、現在福田総理は洞爺湖サミット開催に向けてウォーミングアップ中(?)だが、映画に登場するホスト役は、福田総理ではなく伊部三蔵総理(福本ヒデ)。それは一体ナゼ・・・?
「『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』製作発表会見」のネット情報によると、福田首相役になるはずの渡部又兵衛に河崎実監督はナゾの村人役を用意したが、それはいつ解散するかわからない国会情勢をにらんでの苦肉のアイデアらしい。2001年4月から結果的に5年半もの長期政権を築いた小泉純一郎総理の正当な後継者であったはずの安倍晋三総理が就任約1年後の2007年9月12日に突如辞任したのは、日本国にとって大きな痛手。彼の総理就任時に洞爺湖サミットの開催は決定していたはずだから、安倍総理はそれに向けて「あれもしよう、これもしよう」と構想を練っていたことは明らかだ。
ところが、この映画に登場する伊部総理は、サミット開催国としてのリーダーシップはゼロ。ギララの登場にうろたえるばかりか、大変な事態の連続にお腹を下してトイレ行きの連続。これでは、ギララ登場という危機的状況下において、G8のリーダーシップをとるのは到底不可能。各首脳の母国への帰国を促し、その安全を保証するのがせいぜいだったが・・・。
<『タイタニック』のあの話がリアルに・・・>
世界各国の国民気質はそれぞれに面白い。ちなみに、今顕著なのは、四川大地震に見舞われた中国の寄付金競争に見る中国人気質。日本人は慈善活動や寄付行為は人知れず、秘かにやるのが美徳と考えているが、中国人は大違い!四川大地震への寄付金をめぐっては個人、企業を問わず、誰(どの会社)がいくら寄付したかをめぐって大競争が展開されている。
他方、映画『タイタニック』(97年)では、女子供を助けるため多くのイギリスの紳士たちが沈みゆく船と運命を共にしたが、『タイタニック』にまつわる有名なお話がある。それは、「ある豪華客船が航海中、海に沈没しつつあった。船長は救命ボートの定員には限りがあるから、女性と子供以外は船に残るように求めました」。そこで船長はその説得のために、アメリカ人に対しては「あなたがここで残ったらヒーローになれるよ」と言い、イギリス人に対しては「この船に残ったらあなたは紳士ですよ」と言い、イタリア人に対しては「あなたがここに残ったら女にモテるよ」と言いました。しかして、日本人にはどのようにアピールすれば船に残る決断を・・・?
その答えはじっくり考えてもらいたいが、この映画ではギララ退治のためにG8各国のトップたちが主張するさまざまな方策を見ていると、まさに『タイタニック』のあのお話にみる各国の国民気質がモロに・・・?
<「G8宇宙怪獣対策作戦本部」への衣替えは、アメリカ大統領の発言から>
帰国を促す伊部首相に対してまず立ちあがったのが、こんな危急時に本国へ帰ることを潔しとしないバーガーアメリカ大統領(ジョン・ヒーズ)。つまり、「こんな時先頭に立って闘ってこそ、アメリカ大統領はヒーローになれるんだ!」と言うのが彼の主張だ。
これに応えたのが同盟国イギリス。そしてイタリア、ドイツ、フランス、カナダも次々と賛成することに。ちなみに、ロシアの本心はわからないが、いつも仲間外れにされるのはかなわないことと、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の権益が絡むため、最終的にロシアもそれに賛成。ここにG8洞爺湖サミットは「G8宇宙怪獣対策作戦本部」に衣替えし、G8の総力をあげてギララ退治に立ち向かうことに・・・。
ちなみに、フランスのソルコジ大統領(インゴ)は新妻を迎えたところなのに、生まれつきの女好きは変わらないよう。そのため、ギララ退治はそっちのけで、会議中からウインクを交わしていた通訳の美しい女性と今某所で懇ろに・・・。もっとも、これだって立派なフランス流・・・?
<この作戦もダメ!あの作戦もダメ!>
突如札幌に出現したギララを退治するべく、サミット主催国の日本が地球防衛軍日本支部として、まず最初に役割を果たさなければならないのは当然。そこで、地球防衛軍長官鳴海(夏木陽介)らが考え出したギララ退治の作戦は、特殊マイクロウェーブ波を使い、昭和新山の地下を流れるマグマを活性化させて高熱エネルギーを放出させ、そこにギララをおびき寄せて新型ミサイル“ハゲワシ”で攻撃するという「ハゲワシ作戦」。その作戦は形の上では見事に成功!もっとも、戦後63年間も平和を満喫してきたわがニッポン国が開発したミサイル“ハゲワシ”が、ギララ退治に何の役にも立たなかったのは実に残念だが、ある意味当然・・・?
もっとも、その後次々と展開された②イタリアのピエトロ首相(ロベルト・コラサンティ)発案の「ローマ魂作戦」、③ロシアのプッチン大統領(アナトリ・クラスノフ)発案の「ポロニウム210毒殺作戦」、④ドイツのアンジェリカ大統領(インゲ・ムラタ)発案の「タブリンⅤⅩⅧ毒ガス作戦」、⑤イギリス発案の「洗脳電波作戦」もすべて失敗したから、今や西欧列強の力の限界も明らか・・・?ちなみに、これら各国の作戦は単なるパロディではなく、それぞれ深い意味を含んでいるから、この映画を観た後はその方面のお勉強もしっかりと!
<ネタの「使い回し」もこの程度なら・・・?>
ネタの「使い回し」が暴露された高級料亭船場吉兆は2008年5月廃業に追い込まれたが、「世界破滅3部作」の第2作には、明らかな第1作のネタの使い回しがある。それは、ギララ退治の最後の手段として大胆にも核兵器の使用を提案した大泉純三郎元首相(松下アキラ)が、実は某国の独裁者の化けた姿だったこと。そもそも、日本は核兵器を持っていないのだから、いくら変人・奇人で有名な大泉元首相であっても、核兵器の使用を提案できるはずはない・・・?
通訳に化けていたよろこび組の美女たちによってG8首脳たちが拘束される中、この独裁者の手によってポテドン55号の発射スイッチが今押されようとしていた。もし、ポテドン55号がギララに当たれば、ギララの細胞が世界中に飛散し、人類滅亡は避けられないはず。そんな事態を救った(?)のは、某所で密会していたよろこび組の女性から秘密を語ってもらったフランスのソルコジ大統領。バスタオル1枚でG8サミットに駆けつけてきたソルコジ大統領の必殺技は・・・?
第1作と同じネタの使い回しは本来禁じ手だが、船場吉兆ほど頻繁でなければ、少しくらいはいいのでは・・・?
<結局、地球を救うのは・・・?>
この映画の「語り部」となるのは、東京スポーツの記者、隅田川すみれ(加藤夏希)とカメラマンの戸山三平(加藤和樹)。もっとも、常に局面をリードするのはすみれの方だから、今ドキの若い女性は強い。
迷い込んだ奥深い山の中で、すみれと戸山が発見したのは、神社の庭で太鼓のリズムに合わせて「ネチコマ!ネチコマ!」と歌いながら、奇妙な踊りを踊っている村民たちの姿。部外者を一切受け入れない閉鎖的な村だったが、すみれの熱心さにうたれた神主は神社の中にすみれたちを招き入れ、「ある日空から魔物が現れ、世界を滅亡に導こうとするが、洞爺湖の守り神、タケ魔人がそれを阻止する」という予言が書かれた古文書を説明するのだった。
G8各国がくり出すあの手もダメ、この手もダメとなる中、すみれがギララを倒してくれるのはタケ魔人サマしかいないと信じ込んでしまったのはちょっと恐いが、村民たちと一緒になって一心不乱にあの奇妙な踊りを踊っていると、神社の中には少しずつある異変が・・・。そして、遂にタケ魔人が登場してくることに・・・。結局、ギララを倒し地球を救うのは、このタケ魔人サマ・・・?
<怪獣映画の本流は怪獣対決!>
怪獣ギララの登場は、1967年の『宇宙怪獣ギララ』以来41年ぶり。怪獣映画はたくさんあるが、ゴジラやガメラそしてモスラほどギララが有名ではないのはなぜ・・・?
それはともかく、怪獣映画もスポコン映画と同じで、ライバルがいなければ面白くない。そんな怪獣映画の本流をしっかり押さえた河崎実監督は、G8各国の総力をあげた作戦では全然歯が立たなかったギララ退治のため、誰もがアッと驚く謎の「タケ魔人」を登場させた。『日本以外全部沈没』は世界情勢を見据えながら、小松左京の名作『日本沈没』をパロディ化した怪作だったが、『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』は、G8サミットをパロディ化しただけでなく、怪獣対決を演出したのが大きな特徴。
安倍総理をパロったのが伊部総理、そして『日本以外全部沈没』と同じように登場する小泉純一郎元総理をパロったのが大泉純三郎だが、さてタケ魔人を演ずるのは誰・・・?私は天才松本人志の初監督作品『大日本人』(07年)のバカバカしさにはほとほとイヤになった(『シネマルーム15』410頁参照)が、怪獣映画の本流をキープする『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』におけるギララとタケ魔人との対決シーンには十分満足。そんなタケ魔人を演じた顔を見せない(?)大俳優の熱演に拍手!
ちなみに、この人は08年6月19日の第30回モスクワ国際映画祭で特別功労賞を受賞したというニュースが飛び込んできたほどだから、誰もが知ってる世界的著名人。
<こんな映画、私は大好き!>
この映画でまともな演技をしているのはすみれと戸山だけで、他はみんなパロディ!その中でカッコいい(?)のは、強固な日米同盟を築きあげたアメリカのバーガー大統領と大泉元首相。逆にカッコ悪い(?)のは、フランスのソルコジ大統領と伊部首相。
ここまで女好きを強調されたソルコジは心外かもしれないが、それ以上に心外なのは、ここまで無能さを強調された伊部首相。弁護士の目で見ても、まともに問題提起すれば、名誉棄損による損害賠償請求が認容される可能性もあるのでは・・・?逆に言えば、そこまで徹底的にパロっているところに、河崎実監督がつくったこの映画の面白さがあるわけだ。
若者たちの政治離れが顕著な今、こんな映画を楽しみながら洞爺湖サミットの意義と成り行きに興味をもたせることができれば大成功。また、そこまでいかなくても、98分間頭をカラッポにして楽しむことができれば、それでいいのでは・・・?とにかく、こんな映画、私は大好き!
2008(平成20)年6月21日記