同窓会(日本映画・2008年) |
<GAGA試写室>
2008年6月19日鑑賞
2008年6月21日記
平凡なタイトルからは、懐かしく心温まる平凡な物語を予想するが、何の何の、この映画のテーマは「勘違い」。せっかく離婚したのに、妻の余命は3カ月だった!それなら離婚する必要はなかったのに・・・?30代半ばの主人公たちの現在と高校時代を錯綜させながらテンポよく展開していく物語は小気味いいが、才人サタケミキオの脚本にはあちこちに「騙し」の伏線が・・・?「勘違いは、人生最高の悲劇であり喜劇である」ことを教えてくれる名作に拍手!
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監督・脚本:サタケミキオ
南克之(映画プロデューサー、通称かっつ)/宅間孝行
友永雪(克之の元妻、通称ゆき)/永作博美
石川えり(雑誌編集者、雪の親友、通称ひめ)/鈴木砂羽
浪越文太(不動産会社経営、克之の同級生で親友、通称ぶんちゃん)/二階堂智
和田政子(旅館の女将、通称わだまさ)/阿南敦子
利根川一(克之と文太の仲間、通称トネイチ)/飯島ぼぼぼ
友永雪(少女時代)/尾高杏奈
南克之(少年時代)/兼子舜
浪越文太(少年時代)/渡辺大
中垣(雪のボーイフレンド)/窪田正孝
南美佐子(克之の母)/うつみ宮土理
南ひろし(克之の父)/笑福亭鶴瓶
2008年・日本映画・105分
配給/エスピーオー
<はじめて知ったサタケミキオの才能に拍手!>
この映画の脚本を書き監督したのは、サタケミキオ。そして、南克之役で主演したのは宅間孝行だが、実はこれは同一人物。つまり脚本家としてのサタケミキオは、『花より男子』シリーズなどの脚本で成功し、俳優としての宅間孝行はNHK大河ドラマ『新撰組!』などで成功しているらしい。そんな脚本家サタケミキオが今回はじめて監督としてデビューしたわけだが、その映画づくりの才能にビックリ!
物語は、30代半ばの主人公たちを中心とする現在と、20年前の高校時代を錯綜させながら展開していくから、ヘタをすると話がややこしくなってしまうが、この映画に関してはそれは全くないうえ、スピーディーでリズミカルな場面転換がこの映画の特徴。また、高校時代の克之(兼子舜)と現在の克之、高校時代の雪(尾高杏奈)と現在の雪(永作博美)、さらに高校時代のヤンキーの文太(渡辺大)と現在の文太(二階堂智)が、それぞれイメージがピッタリ重なり合うから話がわかりやすい。
他方『同窓会』というタイトルから、この映画は長崎県島原市を故郷にもつ、克之と雪を中心としたほのぼのと心温まる物語かと思ったら、何の何の!この映画のテーマは「勘違い」。つまり、「勘違いは、人生最高の悲劇であり喜劇である」ことを教えてくれる名作なのだ。泣いて笑って感動する、そんなすばらしい映画を脚本・監督したサタケミキオに拍手!
<物語は離婚話からスタート>
高校時代、水泳部の雪に惚れていたのが、映画研究会に所属していた同級生の“かっつ”こと克之。克之はそんな雪と結婚し、今は小さな映画会社「サウスピクチャーズ」を立ち上げ、新作のプロデュースにチャレンジしようとしていたから順風満帆の人生のはず。ところが、物語はそんな克之の雪に対する離婚話からスタートするから、何かヘン・・・?
何が不満というわけでもないのだが、克之にしてみれば、高校時代に雪がいつも一緒にいたボーイフレンドの中垣(窪田正孝)から結婚式の時にもらったという万年筆を、今なお大切に使っていることが気に入らないらしい。つまり、雪は今でも中垣のことを想っているのではないか、と克之はずっと疑っているわけだ。
そんな心のすき間もあって(?)、克之は目下新進女優の大崎めぐみ(佐藤めぐみ)とお気楽な浮気中。そんな状況下、軽く(?)離婚話を切り出したところ、なかなか子供に恵まれないことを気にしていたらしい雪は意外にも簡単にそれを承諾し、例の万年筆を使って離婚届にサインすることに。おいおい、そんなことでホントに離婚していいの・・・?そんな私の心配をよそに、克之は新作映画のロケの手配のため故郷島原にいる両親ひろし(笑福亭鶴瓶)と美佐子(うつみ宮土理)の元に戻り、さまざまな活動を開始したが・・・。
<雪の身体に異変が・・・>
『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(07年)でブルーリボン賞などの映画賞5冠を総ナメにし、『人のセックスを笑うな』(07年)でもいい味を出していたのが、私の大好きな永作博美。そんな永作博美扮する雪は、克之との離婚手続終了後、東京の出版社で働いている親友の“ひめ”こと石田えり(鈴木砂羽)におでんを食べながら長崎弁丸出しで報告会(?)をしていたところ、急に身体に異変が・・・。
「ちゃんと病院で診てもらいなさいよ!」というえりの助言を受け入れて、数日後病院に赴いた雪は、そこで「3カ月!」という宣告を。そして直ちに雪は入院。えりは雪と離婚したばかりの克之のケータイに電話をかけて、「どうするの!」と迫ったが、克之としても今さら何ができるの・・・?
<地元島原では・・・?>
私の故郷は愛媛県松山市。同窓会(同期会)で故郷に戻った時は、懐かしのあの顔、この顔と出会いながら、昔話に花を咲かせることになるのは当然。
それと同じように、克之が故郷島原に戻ってきたことを知った“ぶんちゃん”こと浪越文太(二階堂智)は、島原にいる“わだまさ”こと和田政子(阿南敦子)や“トネイチ”こと利根川一(飯島ぼぼぼ)らを集めて克之を歓迎しようとしたが、何としても文太の腹の虫がおさまらないのが克之と雪の離婚。だって、文太は克之と同じように雪に惚れていたが、「親友のかっつ(克之)だから・・・」と雪への恋心を諦めたのだから、2人の離婚の原因が克之の浮気だと聞いて怒るのは当然。
そんな文太から手荒いパンチを浴びた克之だが、腹を割って話し合えば理解し合えるのが同級生のいいところ。なぜ雪と離婚したのか自分でもよくわからないと文太に告白した克之のケータイにかかってきたのが、前述のえりからの「雪は3カ月!」という電話。さて、克之はどうするの・・・?
<映画業界は見かけ以上に不安定・・・?>
映画業界は一見華やかだが、その経営は見かけ以上に不安定・・・?それがこの映画を観ているとよくわかる。克之は今故郷島原に戻り、新作映画のロケ協力などに奔走していたが、「雪が3カ月!」との知らせを受けて今や放心状態。
そんな中で東京に戻り、ちょっと臭い演出(?)で雪にプロポーズした思い出の居酒屋で1人ふさぎ込んでいた時、会社からかかってきた電話は不渡手形をつかまされたというもの。「サウスピクチャーズ」のような小さな映画会社では、不渡手形をつかまされれば倒産は必至だが、悩める今の克之に会社倒産の危機を乗り切るだけの気力と体力は残っているの・・・?
<『キサラギ』や『アフタースクール』との共通点は・・・?>
近年活気づいている邦画は2006年には417本が製作されたが、斉藤守彦氏が『日本映画、崩壊 邦画バブルはこうして終わる』で鳴らした警鐘に私は全く同感。とりわけ、安易なTVドラマの映画化と、安っぽいケータイ小説やコミック本の安易な映画化にはうんざり。
もっとも、邦画のすべてがそうではないところが救い。最近私が大阪日日新聞の「弁護士坂和章平のLAW DE SHOW」で書いた『北辰斜にさすところ』(07年)、『歓喜の歌』(08年)、『チーム・バチスタの栄光』(08年)、『明日への遺言』(07年)、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(07年)、『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(08年)、『アフタースクール』(08年)などの邦画は絶品だ。
映画にはさまざまなジャンルがあるが、『キサラギ』(07年)や『アフタースクール』は最初から観客を騙すことを狙ったタチの悪い(?)映画。しかし、それが最高に面白いから映画という芸術は奥が深い。また、それに騙されて喜ぶ観客は、ある意味マゾヒスト・・・?
『同窓会』の評論で私はなぜこんなことを書いているの?それは、『同窓会』という平凡なタイトルのこの映画が、実は『キサラギ』や『アフタースクール』の系譜を引く、観客を騙す映画という共通点があるからだ。5月24日付で書いた『アフタースクール』紹介の見出しは「きっとあなたもダマされる!」だが、『同窓会』でも、きっとあなたはダマされる!
<「勘違い」あれこれ>
この映画では、克之と雪がしゃれたフランス料理のレストランでデートする時に展開される面白い「勘違い」がある。それは、白ワインを注文した後、「今日の魚料理は?」と質問した克之に対して、ウェイターが「スズキ(鈴木)です」と答えたところ、克之が立ちあがって「南です」とあいさつを返すところ。そんな勘違いを雪はクスクス笑いながら見ていたが、これによって克之の好感度が急上昇したことまちがいなし!
この映画は「勘違い」をテーマとした面白いものだが、そもそもなぜ克之が雪に離婚話を切り出したのかが最大の勘違い。つまり、雪が克之と結婚した今も、克之は雪が高校時代にいつも一緒にいた中垣のことを想っていると邪推していたのだが、実はそれがとんでもない勘違いだったことが、映画の終盤明らかになる。もちろん、その実態をここで明かすことはできないが、中垣役の窪田正孝がいろいろな姿を熱演(?)しているので、それに注目!
<こんな「勘違い」は大歓迎!>
克之がそんな勘違いに気づけば、雪との離婚は一体何だったの?それが大問題になるはず。つまり、克之と雪が離婚する意味は全くなかったことになるわけだ。そうすると、「3カ月!」と宣告された雪の病院に行き、離婚した妻に対して克之が再度プロポーズするという手はあるの・・・?たしかにそれはありだ!余命いくばくもない雪のために自分にできることは、雪がずっと想っていた中垣を探し出して雪に会わせること。そう信じて中垣探しのために必死の行動をくり広げ、東京での「同窓会」開催の幹事を務めた克之だったが、中垣の真相を知った今、涙を流しながら再度雪へのプロポーズに挑むことに。
女は押しに弱い動物・・・?涙をいっぱい浮かべながらの克之からの再度のプロポーズに、雪が泣き笑いしながら大きくうなずいたのは当然。しかして、その後の展開は、映画を観てのお楽しみに・・・。こんな勘違いは大歓迎!
2008(平成20)年6月21日記