崖の上のポニョ(日本映画・2008年) |
<TOHOシネマズ梅田>
2008年7月20日鑑賞
2008年7月22日記
4年ぶりの宮崎アニメにニッポン国をあげて大絶賛だが、さて・・・?素朴な物語への回帰、CGから手描きへの回帰が、枯れの境地に入った(?)宮崎駿監督最新作の特徴だが、さて・・・?「神経症と不安の時代に立ち向かおうというもの」だが、さて・・・?ひねくれ者であまのじゃくな私の「文句」は、私の評論でタップリと・・・。
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監督・脚本・原作:宮崎駿
声の出演
ポニョ/奈良柚莉愛
宗介(5歳の男の子)/土井洋輝
リサ(宗介の母親、“ひまわりの家”の職員)/山口智子
耕一(宗介の父親、内航貨物船の船長)/長嶋一茂
グランマンマーレ(ポニョの母親、海なる母)/天海祐希
フジモト(ポニョの父親)/所ジョージ
婦人/柊瑠美
ポニョのいもうと達(稚魚の群)/矢野顕子
トキ(“ひまわりの家”の車椅子の老人)/吉行和子
ヨシエ(“ひまわりの家”の車椅子の老人)/奈良岡朋子
2008年・日本映画・101分
配給/東宝
<4年ぶりの最新作の特徴は?>
4年ぶりに公開される宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』に、ニッポン国中の人たちは双手を挙げて最敬礼・・・?
今回の宮崎アニメは、①内容的には、人間になりたいと願ったおさかなのポニョ(奈良柚莉愛)と、「僕が守ってあげるからね」と約束した5歳の少年宗介(土井洋輝)との絆を中心としたシンプルなストーリー、②技術的には、CGを使わず、すべて手描き方式で挑んだ手づくりの味、が特徴だが、さてその出来は・・・?
<『キネ旬』特集は?6名の評論家の意見は?>
『キネマ旬報』8月上旬号は、「巻頭特集」として14~37頁まで「宮崎駿と押井守」の特集を組んだ。そして、6名の評論家が「映画評論家はどう観た?」というタイトルでさまざまな視点から意見を述べている。しかし、同じ『キネ旬』の記事でも「REVIEW 2008」とは違い、こういう特集の中で述べられる意見は「応援演説」と決まっており、批判的な意見はゼロ。
さらに、公開日直前の7月18日(金曜日)の夕刊各紙に一斉に載った『崖の上のポニョ』評も、みんな似たりよったりの宮崎讃歌ばかり。しかし、ホントにそう・・・?ホントにみんなこの作品がそんなにすばらしいと思っているの・・・?あまのじゃくのせいなのかもしれないが、私はそんなに大した作品とは思えなかったんだけど・・・。
<「監督企画意図」への異論 その1>
プレスシートの冒頭には、「海辺の小さな町」というタイトルで、宮崎駿監督の「監督企画意図」が掲載されている。また前記『キネ旬』特集にも、その全文が載せられている。しかし、1本の映画製作について、こんな形で監督企画意図が冒頭に載せられるのはきわめて異例。そして、上から押しつけられることが何よりも嫌いな私には、これは今やアニメ界、映画界の天皇陛下ともいうべき宮崎駿監督の「この映画をこのように理解しなさい」という押しつけメッセージのように思えてならない。それは、私のあまのじゃく的性格のせいかもしれないが、こんな「監督企画意図」を全面に打ち出すことへの反発が、「監督企画意図」への異論その1だ。
<「監督企画意図」への異論 その2>
アンデルセンの『人魚姫』がこの作品の下敷きになっていることはまちがいないが、浦島太郎や桃太郎の絵本ならともかく、今ドキの子供は『人魚姫』の物語をお母さんから聞かせてもらっているの・・・?また、30代のお母さんたち自身が、それを知っているの・・・?そう考えると、評論家諸氏によっていかにも物知り顔でその点を論じられると私は白けるばかり・・・。
つまり、アンデルセンの『人魚姫』をお母さんも小さい子も知っていることを当然のようにしていることが、「監督企画意図」への異論その2だ。また「監督企画意図」には、「アンデルセンの『人魚姫』を今日の日本に舞台を移し、キリスト教色を払拭して、幼い子供達の愛と冒険を描く」と書いてあるが、この作品を「すばらしい」と賞賛している人たちは、ホントにそんな「意図」を理解しているの・・・?私にはとてもそうは思えないのだが・・・。
<「監督企画意図」への異論 その3>
2008年の盛夏の今、洞爺湖サミットが終わり、内閣改造人事構想をめぐらした(?)福田総理の夏休みも終わったところ。しかし、そんなわがニッポン国が混迷の時代状況にあることはまちがいない。それを表す宮崎駿監督のキーワードは、「神経症と不安の時代」だ。
プレスシートの「作品解説」には、宮崎駿は「まもなくこのような時代がやってくることを予見していたかのように本作を作りました」とあるし、「監督企画意図」には「神経症と不安の時代に立ち向かおうというものである」というえらく大層なアナウンスがされている。
しかし、1本の映画、1本のアニメをつくるについて、ここまで身構える必要があるの・・・?、もちろん、何が楽しいかは人によって違うし、アニメによる表現には実写版とは違う特異性があるが、日本の危機的状況について共通認識をもつ私でも、こんな大層なお題目を大上段にかざされると、白けるばかり・・・。
<交通事故に関する講演者の立場で観ると・・・>
今のガソリン代は1リットル約180円だが、さらに値上がり基調。これによって、都心部、市街地では車の量が減ってるから、「災い転じて福となす」という政策に思い切って転じることができればいいのだが、福田政権下ではちょっと期待薄・・・?
都心部はともかく、田舎では車は生活必需品。したがって、崖の上にある海辺の一軒家に住む宗介と父耕一(長嶋一茂)と母リサ(山口智子)にとっても、車は必需品。特に、宗介を「ひまわり園」に送り届け、自分はその隣りの「ひまわりの家」で働くリサにとって、車は家と職場を結ぶ唯一の交通手段。ところが、こんな田舎町(村?)でも、中央線はないものの、チャンと舗装した道路が整備されているから、さすが土建国家でならしたニッポン国はすごい。
ところで、交通事故に関する講演者としての私が気になるのは、リサの運転ぶり。朝出勤するのに急ぐのは仕方ないが、カーブの多い道路をキーキーと車をきしませながら、猛スピード(?)で走るのはいかがなもの・・・?また、隣りに座る宗介のアイスクリームをなめにいくのも、運転中してはダメな行為では・・・?さらに問題は、ある事件によってリサたちの町が大洪水に襲われようとする際、リサは警備員の静止を振り切って、宗介を乗せたまま強引に帰路を急ぐこと。人間になりたいと願うポニョが巨大な波の上を走りながら追いかけてくる中、リサは「さあ、急ぐわよ」と自分自身にハッパをかけてアクセルを加速・・・?こんな行為が、思いがけない事故に繋がるのだが・・・。
<家庭教育のあり方からは・・・?>
父親殺し、母親殺しが続く日本国での最新ニュースは、7月19日に起きた中学3年生の女の子による父親殺し事件。そんな暗澹たる世の中になった最大の原因は、家庭の崩壊と学校の崩壊であり、その根本にあるのは教育の荒廃。
そんな視点からこの映画を観て気になるのが、宗介が母親のことをママともお母さんとも呼ばず、「リサ」と呼んでいるところ。また、リサが夫のことを「耕一」と呼び捨てにしているところ。これはきっと、家庭内でも上下の区別をせずみんな対等という意味と親しみをこめて、互いに耕一、リサ、宗介と呼んでるのだろうが、ホントにそれでいいの・・・?
67歳となった宮崎駿監督の長男吾朗は既に『ゲド戦記』(06年)を監督するなど、立派に成長しているから問題ないのだろうが、宮崎アニメがこれだけ広く子供達に影響を与えているのであれば、映画の中でこんな呼び方を当然のようにしているのはかなり問題では・・・?
<「うんちく」でいっぱいだが・・・>
この映画は、さまざまな分野で見識の高い宮崎駿監督のうんちくがいっぱい。それはプレスシートやパンフレットを読むとよくわかる。それを読んで「なるほど」と思う面もあるのだが、これだけいっぱいうんちくが詰まっていると、ひがみ根性の強い私は、「そんなこと俺にわかるかい!」と叫びたくなってしまうのだが、さてあなたは・・・?
うんちくの第1はもちろん『人魚姫』のモチーフだが、その他にもうんちくがいっぱい。すなわち、①宗介という名前と夏目漱石との関係は?②ポニョの本名はブリュンヒルデらしいが、その由来は?③地球崩壊の危機を表す月の接近が意味するものは?④グラジオラスの「花言葉」とは?⑤デボネンクスという古代魚は?
新聞や雑誌に載っているこの映画に関するたくさんの評論は、これらのうんちくに関するものも多いが、みんなホントにそんなうんちくを知っているの・・・?
<ポニョって、ホントに魅力的・・・?>
みんなが絶賛する宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』について、いろいろと「悪口」を書いているのは、私が「大政翼賛会」的な風潮に体質的に嫌悪感を覚えるため。つまり、私くらいしか宮崎アニメに対して文句をつける映画評論家はいないだろうと思うから。
前述の『キネ旬』の6人の評論家の意見の中で、私が唯一ひざを叩いて賛成したのは、「現代美術の主流を乗っ取るばかりの勢い」と全体としては絶賛しながら、部分的には「金魚のポニョはいまひとつ、と思うのだが、どうだろうか」と遠慮がちに文句をつけた(?)佐藤忠男氏。そう、金魚のポニョをあなたはホントにかわいいと思う・・・?また、手足が生えて人間の姿となったポニョが、波の上を走る姿はそんなに魅力的・・・?私には、佐藤氏と同じようにそう思えないのだが・・・。
また「監督企画意図」には、「『人魚姫』からキリスト教色を払拭して」と書いているが、ポニョの父親フジモト(所ジョージ)の顔つきを見ていると、明らかにキリスト教的・・・?その点についても、私は「海の魔法使いが、なんだか西洋の魔法使いみたいな目つきをするのは、ちょっと違うのではなかろうか」との佐藤氏の指摘に大賛成。
<さすがに、映画館は満席だが・・・>
私は『崖の上のポニョ』を試写室ではなく、封切り翌日の日曜日に映画館で観たが、座席は満席。もちろん夏休みに入ったところだから子供連れが多いが、さて興行収入はどれくらいまで伸びるのだろうか・・・?宮崎アニメの中で最高の興行収入をあげたのは、『千と千尋の神隠し』(01年)の304億円。しかし、優勝回数22回と大鵬、北の湖、千代の富士に次ぐ暦代4位を誇る朝青龍も、2008年7月場所は3敗を喫して休場に追い込まれている。別に宮崎アニメの力が衰えたと言いたいわけではないが、やはりその絶頂期は過ぎ、下り坂に入っているのではないだろうか・・・?あえて、私はそんな大胆な見方をしたが・・・。
2008(平成20)年7月22日記