次郎長三国志(日本映画・2008年) |
<角川映画試写室>
2008年8月6日鑑賞
2008年8月8日記
今なぜ、清水の次郎長を・・・?その狙いがイマイチ不明なため、マキノ雅彦監督第1作『寝ずの番』(06年)ほどのインパクトはムリ・・・?この手の映画は、恋と義理、人情そしてチャンバラのバランスが大切だが、さて・・・?マキノ雅彦監督には、遅まきながら「世界のキタノ」こと北野武監督を追っかけてもらいたいが・・・。
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監督:マキノ雅彦
清水の次郎長/中井貴一
お蝶/鈴木京香
小政/北村一輝
森の石松/温水洋一
桶屋の鬼吉/近藤芳正
法印大五郎/笹野高史
大政/岸部一徳
関東綱五郎/山中聡
大野の鶴吉/木下ほうか
沼津の佐太郎/大友康平
投げ節お仲/高岡早紀
お園/木村佳乃
黒駒の勝蔵/佐藤浩市
三馬政/竹内力
保下田の久六/蛭子能収
2008年・日本映画・126分
配給/角川映画
<監督第2作は、なぜか先祖返り・・・>
俳優津川雅彦は、祖父に“日本映画の父”牧野省三を、母方の叔父にマキノ雅弘監督をもつサラブレッド。そんな津川雅彦が、マキノ雅彦として監督デビュー作『寝ずの番』(06年)をつくるについては、叔父マキノ雅弘から監督名として「マキノ」姓を名乗る許可を得たとのことだ。
「そ○と外(そと)は、一字違いで大違い・・・?」という導入部から始まった『寝ずの番』は、オリジナリティ溢れる最高に面白いエンターテインメント巨編で、「さすがマキノ雅彦!」と感心したもの(『シネマルーム15』433頁参照)。
そんなマキノ雅彦監督第2作は、中井貴一(清水の次郎長)、岸部一徳(大政)、笹野高史(法印大五郎)、木下ほうか(大野の鶴吉)、高岡早紀(投げ節お仲)、木村佳乃(お園)ら第1作と同じ出演者も多く、さらに鈴木京香(お蝶)、北村一輝(小政)、佐藤浩市(黒駒の勝蔵)、温水洋一(森の石松)ら芸達者なオールスターを並べているが、そのテーマは先祖返り・・・?すなわち、プレスシートでライターの相田冬二氏が詳しく解説しているように、マキノ雅弘監督が手がけた“次郎長もの”は計27本あり、まさに『次郎長三国志』は十八番中の十八番なのだ。なぜ、マキノ雅彦監督が監督第2作にそんな先祖返りをしたのか不明だが、私としては監督第2作にはもっとハチャメチャな挑戦をしてほしかった感が・・・。
<やっぱりあの歌が!>
「清水港の名物は・・・」で始まる『旅姿三人男』は1939年にディック・ミネが歌った名曲で、カラオケの持ち歌としている年配のおじさんも多い。かくいう私もカラオケ対決でナツメロバージョンになるとよく歌っていた曲。ところが、数年前に某一部上場企業の監査役に就任した私が各種パーティーに出席する中でわかったのは、この曲はその社長の唯一(?)最大の持ち歌だということ。そのため、以降この曲は封印することに・・・。
そんな名曲が映画の冒頭、宇崎竜童によって現代的にアレンジされたバージョンとオリジナルな歌詞によって登場する。また、エンディングでは宇崎竜童の歌声で1番から3番までフルコーラスを歌ってくれるから、あの曲の復習にはもってこい・・・。
<キーワードは「大馬鹿者でござんす」だが・・・>
この映画のキーワードは、「大馬鹿者でござんす」。清水の次郎長(中井貴一)最大の魅力は「男だて」だから、これは知謀や策略とは無縁。しかし、ホントの大馬鹿者では、どの時期に何をやるべきか、やらざるべきかの判断を適切に下すことができないから、所詮ナンセンス。したがって、「大馬鹿者でござんす」というセリフはホントは本心ではなく、世間受けを狙った政策的なキャッチフレーズ・・・?
私はそう思っていたが、映画を観ている限りどうもそうではなく、次郎長は本気でそう思っているようだ。そのことは、字幕が流れ終わった後確認するかのように次郎長がこのセリフを決めるシーンの登場にも表れている。しかし・・・。
<政策決定のカギは大政が・・・>
私が思うに、次郎長にこれを決めゼリフとすることを認めたのは、清水一家ただ1人の知恵者(?)である大政(岸部一徳)だろう。
この映画を観ていると、相撲の興行の開催や親分衆を集めての賭博の開帳など、清水一家の重大な「政策決定」はすべて大政に相談したうえで、次郎長が決定していることがよくわかる。逆に言えば、次郎長だけの判断で決定しているのは、いろんなところで拾うロクデナシの男たちを一家に入れるかどうかや、愛妻お蝶(鈴木京香)を連れて一緒に旅するかどうかなど些細なことばかり・・・?
それほど、政策決定における大政の存在感が際立っているわけだ。そんな姿を観ていると、私の目には何となく大政が、8月1日に断行された福田改造内閣における、与謝野馨経済財政担当大臣にダブってきたが・・・。
<大切なのはバランス!>
プレスシートの最初にある『次郎長三国志』の謳い文句は、「恋、義理、人情、そしてチャンバラ!」。昔の東映時代劇の魅力は何といってもチャンバラだったから、チャンバラが断トツの優先順位で、恋や義理や人情は二の次、三の次・・・?しかし、21世紀を迎えた今日、チャンバラだけを全面に押し出したのでは観客受けは難しく、恋と義理、人情そしてチャンバラのバランスが大切。
そんな時代的ニーズを敏感に感じとったマキノ雅彦監督は、恋にかなりのウエイトを。とは言っても、この映画は次郎長とお蝶との恋模様は回想シーンでわずかに登場するだけ。しかし、祝言を挙げた後、次郎長が東海道でその名をあげていく過程における夫婦愛の展開模様がこの映画の大きなポイントに。
<悪役は三馬政と久六が一手に!>
清水の次郎長最大の宿敵となるのは、甲州に勢力を誇る黒駒の勝蔵(佐藤浩市)だが、今回は勝蔵には悪役としての働き場は全くなく、ホンの顔見せだけ。もっとも、私の目には旧態然としたヤクザ稼業を貫こうとしている次郎長よりも、近代的経営に脱皮しようとしている(?)勝蔵の方が断然経営戦略はすぐれていると思えたうえ、2人の「ご対面シーン」を見れば、その知識レベルの違いは明白。マキノ雅彦監督の『次郎長三国志』パート2では、きっとこの勝蔵が宿敵として大きな存在感をみせつけるだろう。
しかし、今回の敵役のメインは勝蔵の世話になっているという三馬政(竹内力)。こいつは、森の石松(温水洋一)の宿敵でもあるわけだが、『難波金融伝 ミナミの帝王』におけるお馴染み萬田銀次郎のイメージとは大きく異なるド派手な悪役キャラの竹内力に注目!もう1人、若い女房と権力におもねるイヤな裏切り者の久六(蛭子能収)も敵役だが、所詮こいつは小者。まあ今回はこの程度の敵役だから、それをやっつけるのは意外と簡単だったが、恋女房の病気と三馬政に撃たれた銃弾キズは大丈夫・・・?
<遅まきながら、「世界のキタノ」を追っかけて!>
1947年生まれの「世界のキタノ」こと北野武の監督デビューは1989年の『その男、凶暴につき』。そんな北野武監督は、『アキレスと亀』(08年)を来る8月27日~9月6日に開催される第65回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品するが、これは既に監督14作目。これに対して、1940年生まれのマキノ雅彦の監督デビューは、2006年の『寝ずの番』。2作目となる『次郎長三国志』の撮影後、彼は早くも3作目として『旭山動物園物語 ペンギンが空を飛ぶ』に挑戦しており、その公開は09年春の予定。
私は「異端派」監督北野武に対し、「正統派」監督マキノ雅彦として、彼にはこれからも面白い映画をつくってもらいたいと期待している。誰が考えたって、俳優より監督の方が面白いはず。俳優津川雅彦は既にいっぱいいい役を演じてきたはずだから、これからは監督として遅まきながら「世界のキタノ」を追っかけて!
2008(平成20)年8月8日記