言えない秘密(不能説的・秘密/SECRET)(台湾映画・2007年) |
<角川映画試写室>
2008年7月23日鑑賞
2008年7月24日記
台湾の若き天才アーティスト周杰倫(ジェイ・チョウ)が監督業に進出!「彼女にしたい映画女優」トップの桂綸鎂(グイ・ルンメイ)を起用した単純なラブストーリー・・・。と思いきや、M・ナイト・シャラマン監督ばりの(?)絶妙なミステリーとの融合はお見事!ジェイ・チョウとグイ・ルンメイの魅力を最大限に引き出した名作の誕生だ。私が星5つを付けた「看板に偽りなし!」と断言。
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監督・脚本・音楽:周杰倫(ジェイ・チョウ)
小倫(シャンルン)/周杰倫(ジェイ・チョウ)
小雨(シャオユー)/桂綸鎂(グイ・ルンメイ)
小倫の父親/黄秋生(アンソニー・ウォン)
チンイー(小倫のクラスメート)/曹愷玹(アリス・ツォン)
2007年・台湾映画・102分
配給/エイベックス・エンタテインメント
<あの女優に再会!>
17歳の少女の初恋を瑞々しく描いた台湾映画『藍色夏恋』(02年)のヒロインは、この映画のために台北市の西門町でスカウトされた高校生の桂綸鎂(グイ・ルンメイ)。しかし、普通の17歳の女の子とは少し違った、すごく硬い女の子を見事に演じており、そりゃすばらしい出来だった(『シネマルーム5』379頁参照)。
私は、そのグイ・ルンメイに『言えない秘密』で再会できて大感激。そして、あらためてその美貌と演技力に脱帽。今や彼女は台湾の「彼女にしたい映画女優」のトップに立っているらしいが、この映画を観てそれも当然と納得。グイ・ルンメイ扮する小雨(シャオユー)は映画前半では少し謎めいた音大生、そして後半では悲劇のヒロインとして、雰囲気をガラリと変えながらすごい存在感を見せつけてくれる。是非あなたもそんなグイ・ルンメイに注目を!
<やはり本業の方が・・・>
『頭文字(イニシャル)D THE MOVIE』(05年)は知らないが、『王妃の紋章』(06年)で名前と顔を覚えたのが、台湾のイケメンスター周杰倫(ジェイ・チョウ)。そのジェイ・チョウを6月17日に『カンフー・ダンク!』で観たが、これは彼がバスケ選手として超人的な活躍をする大活劇。
それに対し、この映画は淡江音楽学校に転校してきたジェイ・チョウ扮する小倫(シャンルン)が“ピアノ王子”と呼ばれるユーハオとのピアノバトルやシャオユーとの連弾等で、ピアノの腕前を存分に発揮する映画。考えてみれば、ジェイ・チョウはミュージシャンとしてその才能を発揮してきたアーティストだから、やはりバスケ選手より本業のピアニストの方がピッタリ。さまざまなシーンで見せてくれる、彼のピアノ演奏の冴えに注目、そして脱帽!
<監督としての才能も!>
この映画の主役はもちろんジェイ・チョウだが、この映画ではミュージシャンとしてジェイ・チョウは音楽を担当したうえ、何と脚本・監督も。つまり、この映画は彼の監督デビュー作なのだ。現在、バブル状態にある(?)日本映画界では、年間400本超の映画が製作されているから、監督初デビュー作も多いが、それは玉石混交となるのは当然だ・・・?
1979年生まれのジェイ・チョウはまだ30歳前の若造だから、「監督としてはまだまだ・・・」と思っていたが、プレスシートによるとこの映画は「青春時代に誰もが経験する淡く切ない恋を描きながら、誰も予想し得ない衝撃的な展開を見せるラブストーリーは、アジア全域で熱狂的に支持され、監督デビュー作ながら、台湾、中国、香港、韓国で20億以上の興行収入を上げる大ヒットを記録」とのこと。
さらにプレスシートには、暉峻創三氏の「映画監督ジェイ・チョウは、日本映画史における北野武監督の誕生に匹敵する事件だ。」という大層なタイトルの解説がある。映画を観る前の私は、そりゃどうせ「月並みな応援演説」と考え、ジェイ・チョウの監督としての才能には懐疑的だったが、映画中盤からラストにかけてその認識は一変!そして鑑賞終了後、暉峻創三氏の解説を読むと、心底から納得。インドのM・ナイト・シャマラン監督のテイストを感じさせるこの映画によって、まさにジェイ・チョウの監督としての才能も開花したようだ。
<ラブストーリーとミステリーが絶妙に融合!>
この映画前半のメインは、シャンルンとシャオユーの心温まるラブストーリー。これまで聴いたことのない曲に惹かれてピアノ室に入ったシャンルンが、そこではじめて出会ったのがシャオユー。たちまち恋におちたシャンルンは、シャオユーと一緒に連弾したり、2人乗りの自転車で家に帰ったり、CD店で好きな曲を一緒に聴いたりと実に楽しそう。しかし、シャオユーが時々学校に来なくなったり、シャオユーの家の中に入れてもらえなかったりするのが少し不安。また、ある日シャオユーは喘息の症状を見せたが、それってかなり重いの・・・?
他方、シャンルンに恋する美少女チンイー(曹愷玹/アリス・ツォン)からのモーションに容易に乗らないシャンルンだが、シャオユーのライバルとなるチンイーとシャオユーとの接点が全くないのも少し気がかり・・・。そんなミステリーじみた要素を絡ませながら、前半が微笑ましく過ぎていくが、後半は一転してラブストーリーとミステリーが絶妙に融合した展開に!
<キーマンは意外にも・・・>
『インファナル・アフェア』シリーズ(02年、03年、03年)で圧倒的な存在感を見せつけた黄秋生(アンソニー・ウォン)が、この映画ではシャンルンのやさしくも厳格な父親役、そして淡江音楽学校の教授役として登場する。それだけならもっと小粒な俳優でよかったのかもしれない(?)のに、こんな大物を起用したのは、後半彼が意外なキーマンとしての役割を果たすから。
さて、その意外な役割とは・・・?それは、絶対にここでは「言えない秘密」・・・。
<視覚効果賞に注目!>
この映画は、台湾金馬奨で最優秀台湾映画賞、主題歌賞、視覚効果賞の3部門を受賞したが、ここで注目すべきは、なぜピアノを媒介としたラブストーリーのこの映画が視覚効果賞を受賞したのか、ということ。映画前半にも時々カメラワークの不自然さ(観客へのヒント?)が見られるが、後半からラストにかけて映像表現の手法をガラリと変えたシーンが再三登場する。それは1979年と1999年という20年間の時空を超えた、この映画の根幹を表現するため。
この映画のタイトルは『言えない秘密』だから、ここでその「言えない秘密」を言ってしまったのではブチ壊し。M・ナイト・シャマラン監督の『シックスセンス』(99年)の謳い文句は「結末は絶対にしゃべらないで下さい」だったが、それと全く同じことがこの映画にも妥当するわけだ。したがって、視覚効果賞の受賞をヒントとして、「言えない秘密」のあれこれをじっくり味わってほしいものだ。決してあなたの期待を裏切らないことは、私が保証しよう。
2008(平成20)年7月24日記