僕は君のために蝶になる(蝴蝶飛/Linger)(香港映画・2007年) |
<GAGA試写室>
2008年9月9日鑑賞
2008年9月13日記
香港のハードボイルドの巨匠杜琪峰(ジョニー・トー)監督が、「F4」のハンサムボーイ周渝民(ヴィック・チョウ)と大陸の美女李冰冰(リー・ビンビン)を起用して、ちょっと不思議な恋愛映画に初挑戦!キーワードはタイトルとなっている蝶だが、さて蝶は何を象徴?それがわかれば、「旅立ち」をテーマとしたストーリーの枠組みが明らかに・・・。もっとも、『言えない秘密』(07年)ほどの重大な秘密はないものの、少し頭が混乱することは覚悟のうえで・・・。
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監督:杜琪峰(ジョニー・トー)
アトン/周渝民(ヴィック・チョウ)
エンジャ/李冰冰(リー・ビンビン)
アトンの父親/尤勇(ヨウ・ヨン)
シュー/黄又南(ウォン・ヤウナン)
精神科医/張耀揚(ロイ・チョン)
エンジャの父親/林雪(ラム・シュー)
2007年・香港映画・88分
配給/クロックワークス、ツイン
<私の注目はリー・ビンビン!>
この映画の注目点は第1に、人気コミック『花より男子』をドラマ化した『流星花園』で大ブレイクした台湾の人気ユニット「F4」の周渝民(ヴィック・チョウ)がスクリーンデビューを飾ったこと。『花より男子』や「F4」を熱狂的に支持する女性は、きっとこのヴィック・チョウ見たさに映画館に集まるのだろう。
しかし、私の注目は女優の李冰冰(リー・ビンビン)。リー・ビンビンは『ただいま』(99年)(『シネマルーム17』421頁参照)、『パープル・バタフライ』(03年)(『シネマルーム17』220頁参照)、『イノセントワールドー天下無賊ー』(04年)(『シネマルーム17』294頁参照)、『ドラゴン・キングダム』(08年)の4本で私が注目していた女優だが、その映画の採点はいずれも4点、4点、5点、4点と高得点。
そもそも、『エレクション』(05年)など香港のハードボイルドの巨匠杜琪峰(ジョニー・トー)監督が、なぜ今初の女性映画に挑戦?また、そんな映画の主人公となる男性に、彼はなぜ映画初主演となる台湾のヴィック・チョウを起用?さらに、彼はヴィック・チョウの相手役となるヒロインのエンジャ役に中国黒龍江省生まれのリー・ビンビンを起用?
ちなみに、1981年生まれのヴィック・チョウに対して、リー・ビンビンは1976年生まれだから5歳も年上。したがって、ホントはヴィック・チョウの恋人役はきついのだが・・・?
<スタートはベッドシーンから・・・>
いくら改革開放政策が進んだといっても、中国映画ではベッドシーンはまだまだ少ない。そう思っていた私は、李安(アン・リー)監督の『ラスト、コーション』(07年)における激しくリアルなベッドシーンにビックリさせられたが、ジョニー・トー監督の『僕は君のために蝶になる』でも、はじめてリー・ビンビンのベッドシーンを拝むことに。しかも、この映画のスタートは、リー・ビンビンとヴィック・チョウとのベッドシーンから。
もちろん、大陸の人気女優リー・ビンビンと台湾の「F4」の人気アーティストヴィック・チョウは当然この映画が初顔合わせだから、2人ともいきなりベッドシーンからの撮影には戸惑ったよう・・・?私としては、『ラスト、コーション』の湯唯(タン・ウェイ)のようなハードなセックスシーンをリー・ビンビンに見せてもらいたかったが、所詮それはムリというもの。でも、過去の4作では全然観ることのできなかったリー・ビンビンのそんなベッドシーンを観ることができたことを、ジョニー・トー監督に感謝しなければ・・・。
<『忘れえぬ想い』と比較すれば?>
最愛の恋人を突然の交通事故で失った女性がどう生きていくかを感動的に描いた、涙々の名作がジョニー・トー監督、セシリア・チャン主演の香港映画『忘れえぬ想い』だった(『シネマルーム17』186頁参照)。
それと同じように、『僕は君のために蝶になる』は恋人アトン(ヴィック・チョウ)を突然の交通事故で失った事を受け入れることができないまま3年後の今も苦悩している女性エンジャ(リー・ビンビン)の生きざまを描くものだが、そのアプローチは、『忘れえぬ想い』とは大きく違い、かなり現実離れしたもの。つまり、精神科医(ロイ・チョン)の助言を受け入れて薬の服用を止めたエンジャの前には、以降、夢の中にアトンが現れることになるわけだ。
毎夜夢の中にアトンが現れるのは、きっと3年前のあの時、車に乗ったエンジャをバイクで追いかけながら「君は僕を本当に好き?」と問いかけてくるアトンに対してエンジャが明確な回答をしなかったため。つまり、今なおアトンはエンジャに対して、その回答を求めており、回答をもらえない限り安心して「あの世」に旅立つことができないというわけだ。事態をそう理解すれば、エンジャはアトンに対して自分の正直な気持を打ち明ければいいだけなのだが、そんな中何故かアトンの前に突然登場したのがシュー(ウォン・ヤウナン)という男。この男は一体何者・・・?
<『言えない秘密』と比較すれば?>
あなたは台湾の人気俳優兼歌手の周杰倫(ジェイ・チョウ)を知ってる?彼は『頭文字(イニシャル)D THE MOVIE』(05年)、『王妃の紋章』(06年)、『カンフー・ダンク!』(08年)に出演している天才アーティストだが、『言えない秘密』(07年)では主演の他、監督・脚本にも初挑戦し、すばらしい作品を完成させた。7月23日に観た私の採点は星5つ。
M・ナイト・シャラマン監督の『シックスセンス』(99年)の謳い文句は「結末は絶対にしゃべらないで下さい」だったが、タイトルからわかるとおり、『言えない秘密』もそれと同じテイストで、ネタばれ厳禁のちょっと不可思議な映画。「タイムスリップ」や「時空を超えた」という言葉を使うことすらダメだったから、その秘密主義は徹底したもの。しかし、『僕は君のために蝶になる』は映画が始まってすぐに、エンジャの車をバイクで追いかけたアトンが交通事故で死んでしまう。したがって、その後に登場してくるアトンについては、エンジャがこの交通事故の痛手から今なお立ち直れず、精神科医の治療を受けていることと相まって、その存在が何なのか観客は容易に想像できるもの。
したがって、ラブストーリーとミステリーの融合という狙いは両者に共通しているが、秘密保持の必要性の度合いは、『言えない秘密』とは大違い・・・?すると、『僕は君のために蝶になる』では、「それから3年後」の物語はどんなストーリーを核に展開していくの・・・?
<シューは完全に主役喰い?>
エンジャは現在司法試験を射程距離におきながら、法律事務所で働いていた。弁護士からの信頼も厚く、有能なアシスタントぶりを発揮しているようだが、弁護士から「車で送ろうか?」と言われても、「不要、不要」と答えるのは、あの日の事故以来車を受けつけなくなっているため。
エンジャがシューと出会ったのは、いっぱい問題を抱えて裁判沙汰になったシューが法律事務所を訪れたため、依頼者の1人として。もちろん、エンジャは弁護士の補助をしているだけだが、シューはなぜか弁護士よりもエンジャに心を開き、何やかんやとチョッカイを・・・?そんなシューの口車に乗って(?)、エンジャがアトンの父親(尤勇/ヨウ・ヨン)のことを調べてもらい始めたところから、物語は意外な展開に・・・。
そんな問題児のシューを演ずるウォン・ヤウナンを、私は『ハリウッド★ホンコン』(01年)(『シネマルーム5』286頁参照)と『スター・ランナー』(03年)(『シネマルーム17』97頁参照)で観ているわけだが、全然記憶にない。しかし、本作でウォン・ヤウナンは、主人公ながらセリフの少ないアトンを演ずるヴィック・チョウを完全に喰うようなキレのいい演技を至るところで見せている。とりわけ、自宅に招いた食事の席で、エンジャの父親(林雪/ラム・シュー)らの前で見せるシューの食べっぷりと会話はピカイチ。また、シューがいつの間にかアトンの父親の家に住み着いたのは一体ナゼ・・・?
そんな、「F4」の大スターを喰ったようなシューの存在感と、シューを演ずるウォン・ヤウナンの演技力に注目!
<「旅立ち」のイメージは?>
「旅立ち」とは便利な言葉で、さまざまな意味に使うことができる。その1つが「あの世への旅立ち」。ウディ・アレン監督が『マッチポイント』(05年)に続いてスカーレット・ヨハンソンを起用した『タロットカード殺人事件』(06年)は、シンプルでおしゃれなプロローグとエピローグが魅力的だった。その魅力は、3日前に急死したばかりの敏腕新聞記者が大きな船に乗って三途の川(キリスト教でどう言うのか知らないが)を渡るシーンと、そこにおけるおしゃれな会話(『シネマルーム16』47頁参照)。つまり、あの世への旅立ちには船がピッタリというわけだ。
そんな風に思っていると、この映画では1人乗り(?)のヨットが登場する。ネタばれを避けるため詳しくは書けないが、この映画ではあの世への旅立ちは、『タロットカード殺人事件』のような大きな船による集団旅行ではなく、1人1人ヨットに乗ってのプライベート旅行になるらしい・・・。映像美の美しさや幻想性だけなら絶対本作の方がベターだが、ストーリー形成という点では『タロットカード殺人事件』の方が・・・?さて、あなたのお好みは・・・?
<タイトルから何を連想?>
この映画の原題は『蝴蝶飛』、英題は『Linger』。「Linger」とは「居残る、残存する」という意味だから、この映画全体の実態に注目した英題・・・?それに対して、原題のキーワードは蝶。さて、蝶に込められた意味は・・・?
プレスシートによると、「蝶は、死者の象徴である。それと同時にキリスト教では、“復活”の意味もある」とのことだから、その意味がわかると、この映画のエッセンスがわかるはず。しかして、邦題は『僕は君のために蝶になる』。なるほど、なるほど。この邦題なら映画を観なくてもすべて理解・・・?そう言ってしまえば、身も蓋もない。
ジョニー・トー監督が描く、幻想的な幽霊(おっと、筆がすべってしまった・・・)との恋模様と、そのさわやかな結末を、蝶をキーワードとしてしっかりあなたの目で・・・。
2008(平成20)年9月13日記