インビジブル・ターゲット(香港映画・2007年) |
<ユウラク座>
2008年9月13日鑑賞
2008年9月16日記
チャン刑事、ワイ巡査、フォン警部補、三人の若手警察官が香港発のポリスアカデミー映画を正統に承継!これなら、「ジャッキー先輩、おつかれさまです!香港の平和はオレらに任せてください!!」との“叫び”にも説得力が・・・。さて、彼らが立ち向かう「見えざる標的」とは?それはとてつもなく強い、イケメンの凶悪犯人グループ?それとも・・・?
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監督:陳木勝(ベニー・チャン)
チャン刑事/謝霆鋒(ニコラス・ツェー)
ワイ巡査/房祖名(ジェイシー・チャン)
フォン警部補/余文樂(ショーン・ユー)
ヨンサン(凶悪犯罪グループのリーダー)/呉京(ウー・ジン)
ヨンイー(ヨンサンの右腕)/安志杰(アンディ・オン)
ホー(ヨンサンたちの仲間)/李璨琛(サム・リー)
ウォン警部(チャンの上司、叔父)/盧惠光(ロー・ワイコン)
2007年・香港映画・129分
配給/アートポート
<香港発「ポリスアクション映画」を若者たちが承継!>
香港発のポリスアクション映画は香港映画の一翼を担うもので、ジャッキー・チェンが主演した『香港国際警察』(04年)(『シネマルーム17』489頁参照)や『プロジェクトBB』(06年)(『シネマルーム17』494頁参照)が近時の代表作。
しかして、この『インビジブル・ターゲット』は若者たちがその系譜を正統に承継した香港発のポリスアクション映画だから、若者たちによるスタントマン顔負けの激しいアクションシーンが満載。こりゃ、楽しめるよ!
<タイトルの意味は?主人公は?>
この映画のタイトル「インビジブル・ターゲット」って、どういう意味?それは直訳すれば「見えざる標的」。
他方、この映画の主人公は、①チャン刑事(謝霆鋒/ニコラス・ツェー)、②ワイ巡査(房祖名/ジェイシー・チャン)、③フォン警部補(余文樂/ショーン・ユー)という香港警察の若き3人の警察官。
映画の冒頭、結婚指輪を選んでいる若い女性が、凶悪犯罪グループによる現金輸送車襲撃事件に伴う爆破事件によって多くの被害者と共に死亡するという痛ましい事件が描かれる。この女性がチャン刑事の恋人。一方、怪しいバンを取り締まった際、逆に凶悪犯罪グループの反撃にあい、フォン警部補は銃の弾丸を飲み込まされてしまうという屈辱を味わされることに。その後、チャン刑事もフォン警部補も凶悪犯罪グループの摘発に執念を燃やしたが、彼らの動きは杳として知れなかったから、彼らこそ「インビジブル・ターゲット」・・・?
<ワイ巡査は何の調査を?>
他方ワイ巡査は今、特捜班のロー警視(マーク・チェン)から、優秀な警察官でありながら今は音信不通となっている兄のタツ(アーロン・クォック)から連絡が入っていないかという調査を受けていたが、これはまるで容疑者扱い。タツがなぜ今、何の容疑で浮かびあがったの?
どうもそれは、例の現金輸送車襲撃事件にタツが絡んでいるという容疑らしい。それを察知したチャン刑事とフォン警部補は、凶悪犯罪グループとの接点を探るべく直ちにワイ巡査に接触したが・・・。
<結婚したって本当ですか?>
今から30年以上前、私が弁護士登録をした1974年の夏に大ヒットしたのが、ダ・カーポの2人が歌った「結婚するって本当ですか」という歌詞とタイトルが印象深い曲。陳凱歌(チェン・カイコー)監督の『PROMISE』(05年)はたいした映画ではなかった(『シネマルーム17』102頁参照)が、共演したニコラス・ツェーとセシリア・チャンが結婚したことを、私はこの映画のパンフレットを読んではじめて知った。しかも、2人の間には子供が生まれており、ニコラス・ツェーは今一児の父親とのこと。
そういえば、『忘れえぬ想い』(03年)以降私はセシリア・チャンをスクリーンで見ていなかったが、それは、ニコラス・ツェーが彼女と結婚したことによって、彼女を独占してしまったため。そう考えると、ニコラス・ツェーは罪作りな男・・・。
<ジャッキー・チェンは、いつでも引退オーケー?>
この映画のパンフレットには、「ジャッキー先輩、おつかれさまです!香港の平和はオレらに任せてください!!」とある。また、『花都大戦 ツインズ・エフェクトⅡ』(04年)で映画デビューしたジャッキー・チェンの息子のジェイシー・チャン(『シネマルーム17』108頁参照)が、本作では父親譲りの派手なスタントをきっちりこなし、最後には死んでいくものの、チャン刑事とフォン警部補と並ぶ3人の主役の一翼を立派に担っている。さらに、この映画で魅せる香港警察若手3人衆の身体を張った活躍は、はっきりいって『香港国際警察』や『プロジェクトBB』で見せたジャッキー“おじさん”以上!
前述のメッセージが決して誇張ではないことがこの映画で実証された今、ジャッキー・チェンは少なくともアクション俳優を卒業し、今後は映画製作や後輩の育成に専念してもいいのでは・・・。
<過度な2世叩き、3世叩きの世論に異議あり!>
安倍がダメ、福田がダメと、2代続けて総理大臣がコケてしまったこともあり、近時は「世襲はダメ!」「2世はダメ!」との世論が厳しくなっている。今は5氏の立候補による自民党総裁選の真っ只中だが、本命視されている麻生太郎は吉田茂の孫だし、石原伸晃は石原慎太郎の息子。さらに、石破茂も2世議員だ。
しかし不思議なことに、大関貴ノ花の2人の息子で共に横綱となった若乃花、貴乃花の2人については、「2世はダメ」という声は聞こえなかった。そして、若乃花と妻美恵子との離婚騒動や貴ノ花の遺産処理をめぐる花田家のドロドロとした内輪もめが明るみに出るまでは、成功物語として広く語り伝えられていた。仮に、2世はダメ、3世はダメと本気でいうのなら、あえて言えば万世一系の天皇家はどうなるの・・・?
このように私は、過度な2世叩き、3世叩きの世論に異議ありだから、ジャッキー・チェンの2世ジェイシー・チャンにはとりわけそんな声を気にせず、頑張ってもらいたいものだ。
<悪役の存在感もバッチリ!>
昔から「勧善懲悪」を旗印とした邦画では、善玉は善人顔、悪玉は悪人顔というイメージにするのが約束ゴト・・・?したがって、俳優も顔つきによって善玉役と悪玉役が用意されている。さしずめ、日本では悪玉役の典型が、『難波金融伝 ミナミの帝王』の萬田銀次郎役が定着(?)し、マキノ雅彦監督の『次郎長三国志』(08年)でも典型的な悪役三馬政を演じた竹内力。
しかし香港映画では、とりわけ香港の若手俳優ではもともとイケメンが多いためか、善玉、悪玉どちらでもオーケーという俳優が多い。その典型が、この映画で凶悪犯罪グループのボス、ヨンサンを演じた呉京(ウー・ジン)と、その右腕ヨンイーを演じた安志杰(アンディ・オン)の2人。たまたま、ウー・ジンは『SPL(殺破狼)/狼よ静かに死ね』(05年)で冷酷な殺し屋を(『シネマルーム17』73頁参照)、アンディ・オンは『香港国際警察』でジャッキー・チェンの敵役を演じたうえ、『インビジブル・ターゲット』でも悪役を演じているが、もともとかわいい童顔だからいつでも善玉への役柄変更はオーケー。
そんなウー・ジンとアンディ・オンがこの映画では、戦争孤児として互いに助け合いながら育ち、共に軍事訓練を受けて高い戦闘能力と仲間に対する厚い信頼を持ち、今やアジアを股にかけた凶悪犯罪を展開する犯罪グループに成長したトコトン冷酷な悪役をしっかりと演じている。したがって、この映画では、善玉となる3人の警察官と同程度に、悪役となる2人の若手イケメン俳優の存在感もバッチリ!
<「インビジブル・ターゲット」はやっぱり・・・?>
最初にタイトルの意味を解説したが、実はヨンサンとヨンイーを中心とした凶悪犯罪グループの顔はスクリーン上に見えているから、ホントのインビジブル・ターゲットは別モノ・・・?
ヨンサンたちの凶悪犯罪グループが、香港の繁華街セントラル地区で起こした現金輸送車襲撃事件の余韻がまだ残っている半年後に、再び香港に現れたのは一体なぜ・・・?ヨンサンたちの凶悪犯罪の実行場所は今やアジア各国に広がっていたから、本来なら警察の捜査が厳重に続いている今、あえて香港に戻る必要はないはず。にもかかわらず彼らが香港に戻ってきたのは、ヨンサンたちと警察内部で内通していた仲間との間で仲間割れが起きたため・・・?そういえば、優秀な警察官であるワイ巡査の兄タツは、潜入捜査官として凶悪犯罪グループに潜入していたのでは・・・?
ジャッキー・チェンが主演する香港発のポリスアクション映画は、どうしてもコメディタッチとなる傾向がある。しかし、『インファナル・アフェア』3部作(02年、03年、03年)や『SPL(殺破狼)/狼よ静かに死ね』などは、かつての東映の「実録路線」と同じくリアルさを「売り」としたものだから、潜入捜査がテーマとなることが多い。警察内部に凶悪犯罪グループとの内通者がいたというのはよくある話だが、そんな場合それは現場第一線のバリバリ刑事ではなく、功なり名遂げた幹部が多いもの・・・?
すると怪しいのは、あの現金輸送車襲撃事件の捜査を指揮しており、今は特捜班の指揮をとっているウォン警部(盧惠光/ロー・ワイコン)や、今具体的にワイ巡査を尋問しているロー警視など・・・?いやいや、いくら何でもそんなバカなことは・・・?警察の幹部が凶悪犯罪グループと裏で手を結んでいたうえ、現金輸送車から盗んだ大量の金をネコババしていたなんて、そんなバカなことはありえない・・・?
<二転三転、四転五転!>
ワイ巡査は少しひ弱いが、チャン刑事とフォン警部補は腕っぷしには相当自信を持っている一匹狼的な警察官。しかし、幼い頃から軍事訓練を受けたというヨンサンとヨンイーの格闘能力は人並み外れているから、1対1ではチャン刑事もフォン警部補も到底敵わないようだ。
インビジブル・ターゲットとは果たして誰?そんな謎が少しずつ明らかになっていく中、最後のクライマックスは、消えた1億USドル奪取のために香港にやってきたヨンサンとヨンイーたちと、チャン刑事、フォン警部補、ワイ巡査たちとの対決だ。その迫力溢れるアクションの魅力は満点。もっとも彼らが闘う動機は、チャン刑事は恋人を殺された恨み、フォン警部補は弾丸を飲まされた屈辱からの回復、ワイ巡査は潜入捜査官として殺された兄タツの復讐、と三者三様。しかし、警察官という立場は3人とも共通だから、そこにはそれなりの自制心が必要だが・・・。他方、強奪金をネコババした1番悪い奴は、次第に追いつめられていく中どんな行動を?
したがって、クライマックス対決はそれほど単純ではなく、二転三転、四転五転していくから面白い。大いに泣かせてくれるワイ巡査の働きぶりに手を合わせつつ、これなら「香港の平和は君たちにお任せ!」と確信できるはずだ。
2008(平成20)年9月16日記