釣りバカ日誌19 ようこそ!鈴木建設御一行様(日本映画・2008年) |
<梅田ピカデリー>
2008年11月2日鑑賞
2008年11月4日記
『釣りバカ日誌19』の10月公開は最悪のタイミング!だって、社員旅行で大盛り上がりという設定は、世界的金融危機の広がりと株安円高で苦しむ今、あり得ない話だから。この映画では派遣社員の「格差」がテーマとされているが、蟹工船ブームで沸く今そのレべルはもっと深刻!しかし逆に、バブル崩壊後の日経平均の最安値7607円を5年半ぶりに下回った今、そして1929年以来の大恐慌の到来が心配されている今だからこそ、そんな苦しみを忘れてハマちゃんと一緒にバカにならなくちゃ・・・。
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監督:朝原雄三
浜崎伝助(ハマちゃん)(鈴木建設万年ヒラ社員)/西田敏行
鈴木一之助(スーさん)(鈴木建設会長)/三國連太郎
河井波子(鈴木建設総務部派遣社員)/常盤貴子
高田大輔(ハマちゃんの後輩社員、高田製薬の御曹司)/山本太郎
河井康平(波子の兄)/竹内力
浜崎みち子(ハマちゃんの愛妻)/浅田美代子
浜崎鯉太郎(ハマちゃんの愛息)/持丸加賀
太田八郎(浜崎家隣人、ハマちゃんのポン友)/中本賢
河井悦子(波子の母)/高田敏江
高田靖彦(大輔の父、高田製薬社長)/北村総一朗
前原運転手(スーさん専用車の運転手)/笹野高史
鈴木久江(スーさんの奥さん)/奈良岡朋子
堀田(鈴木建設社長)/鶴田忍
舟木課長(ハマちゃんの直属の上司)/益岡徹
2008年・日本映画・110分
配給/松竹
<『釣りバカ日誌19』の舞台は?テーマは?>
2002年に始まった私の『シネマルーム』シリーズは6年間で『シネマ19』まで到達したが、1988年に始まった『釣りバカ』シリーズは今年2008年に20周年を迎える中、『釣りバカ日誌19』に到達した。今回の舞台は大分、そしてテーマは社員旅行。
宴会芸はわれらがハマちゃんこと浜崎伝助(西田敏行)の得意中の得意。しかるになぜか今まで、スーさんこと鈴木一之助(三國連太郎)が会長を務めている鈴木建設の社員旅行は『釣りバカ』シリーズのスクリーン上に登場しなかったらしいが、さて今回「鈴木建設御一行様」は大分への社員旅行でどんなドタバタ劇と心温まる物語を・・・?
<公開は最悪のタイミング?>
1988年に始まった『釣りバカ』シリーズは1~7作目まではお正月映画として12月に公開されるのが基本だったが、1994年7月の『スペシャル』と『釣りバカ日誌8』以降は、7~9月に公開されるのが基本になった(『花のお江戸の釣りバカ日誌』と『釣りバカ日誌イレブン』を除く)。やはり『釣りバカ』シリーズは年末年始よりも、夏休みの方がふさわしい。
シリーズ21作目となる『釣りバカ日誌19』は08年6月にクランクアップしたにもかかわらず、なぜか10月25日の公開となったが、それは最悪のタイミング。08年9月末に始まったアメリカ発の世界的規模の金融危機は、サブプライムローンの被害が先進国で1番小さかったはずのわが国にも深刻な影響を及ぼし、円高、株安のダブルパンチは100年に1度と言われるレベルのものに。そのため、2008年の10月~11月に当然視されていた太郎(自民党)VS一郎(民主党)の一大政治決戦である衆議院の解散・総選挙も先送りとなってしまったほどだ。
そんな未曾有の世界的金融危機の今、社員旅行でバカ宴会という『釣りバカ』シリーズ19作目の公開は、いかにも最悪のタイミング!
<マドンナは?>
『釣りバカ』シリーズは、『男はつらいよ』シリーズほど毎回マドンナ役が注目されるわけではない。それは、ハマちゃんはみち子さん(浅田美代子)という愛妻に恵まれているので、フーテンの寅さんのように毎回マドンナに恋してはフラれるというストーリーが不要だから。それでも、ハマちゃんとスーさんの友情物語(?)だけでは面白いストーリー形成は無理だから、適宜マドンナ役を登場させる必要があるところ、『釣りバカ日誌19』のそれは常盤貴子。西田敏行と共演した『ゲロッパ!』(03年)の撮影中に、「『釣りバカ日誌』に出たいんです」と言っていた願いが叶ったわけだが、そんな常盤貴子が『釣りバカ日誌19』では、河井波子として等身大の演技を。
大分県佐伯市の漁港から東京の短大に入学し、そのまま東京の会社に就職したものの、それから10年経った今なお安定した正規社員になることができず、鈴木建設の総務の仕事も派遣社員で今年8月には契約が切れる予定らしい。総務のマドンナである波子はいつも明るく働いているが、このまま東京で働くべきかそれともそろそろ諦めて故郷へ帰るべきかを真剣に悩んでいる状態。地方から東京の大学に入ってそのまま就職したものの幸せな寿退社もできず、そうかといって職場での安定した地位と収入も確保できず、心の中で波子のように悩んでいる30代の女性はたくさんいるのでは?世間ではアラフォー、アラサーともてはやされている(?)ものの、その実態は、波子のようにかなり厳しくかつさびしいのでは・・・?
<時代状況に則したテーマもあるが・・・>
もっとも、『釣りバカ』シリーズが生まれてきた1988年から2008年までの20年間は、バブルの頂点から失われた10年、そして小泉構造改革という大きな時代的流れに則したもの。そこで、シリーズ6本目の監督となる朝原雄三監督は、08年10月公開の『釣りバカ日誌19』では次の2つの格差を大きなテーマとした。すなわち①映画冒頭に、ハマちゃんの胃カメラ検査騒動を面白おかしく描きながらも、釣り船屋を営む太田八郎(中本賢)とハマちゃんとの「論争」によって、大企業の社員と零細自営業者との間にある格差。②鈴木建設総務部勤務のマドンナ河井波子が実は派遣社員で8月には契約が切れるという設定によって、正規社員と派遣社員との間にある格差。
しかし同時に、『釣りバカ日誌19』にゲスト出演して大きな役割を果たす鈴木建設営業三課に中途採用された高田大輔(山本太郎)は、実は大企業高田製薬の御曹司という設定。しかもストーリーの軸は、波子が大輔のプロポーズを受けて御曹司と華やかな結婚式を挙げるというハッピーエンド。大輔は高田製薬の御曹司と呼ばれることを極端に嫌う不器用な男、そして波子が大輔に惹かれたのは高田の御曹司という玉の輿に乗れることではなく、彼の不器用さだという点が救いだが、それでも庶民の目にはこの結婚は夢のような話。
そうすると、「蟹工船」ブームが起き、どうしようもない格差の広がりとその定着に憤っている多くの人たちには、この映画が描く格差は甘すぎると映るのでは・・・?
<いい加減、営業三課もリストラと職場改善が必要では?>
「タダで健康診断を受けることができ、病気になって休んでも、半年や1年はちゃんと給料を払ってくれる。ハマちゃんはそんないい会社にいるんだよ」、そのように隣人の太田は言うし、愛するみち子さんもそう言うのだが、どうも当のハマちゃんにはそんなありがたみの実感はないようだ。そのうえハマちゃんの勤務態度は『釣りバカ』シリーズ始まって以来一向に改善していないことは明らかで、今回は出社するやまずはトイレ通いというパターンが少しだけやり玉に。
彼のような異色のキャラクターは貴重。そういえる面はたしかにあるが、ハマちゃんが出社するやすぐにハマちゃんのバカ話に花を咲かせている営業三課の姿をみていると、今ドキこんなノー天気な会社があるの?と多少イライラする面も。バブル崩壊後不動産業界は冬の時代を迎えたが、その後の小泉都市再生戦略にもとづく東京を中心とした再開発の進展とファンドマネーによる不動産投資の拡大、さらにREITの拡大等によって不動産業界は大きく復活した。ところが07年7月のアメリカ発のサブプライムローン問題以降、再び不動産業界は冬の時代に入りアーバンコーポレイションなどの有力業者も倒産した。今回の金融危機の深刻化によって不動産業者がバタバタと倒れていくことが確実視される中、一人鈴木建設だけが、こんなノリノリの大学サークルのような営業でこの苦境を乗り越えることができるの?
いくらハマちゃんがスーさんのお友だちで釣りの師匠だとしても、いい加減こんなダメ社員のリストラと営業三課の職場改善が必要では?
<竹内力がいい味を>
竹内力といえば『難波金融伝 ミナミの帝王』、『難波金融伝』といえば竹内力というほど、竹内力のイメージは『難波金融伝』の銀ちゃん一色。そんな銀ちゃん、いや竹内力が『釣りバカ日誌19』では波子の兄河井康平役としていい味を出している。
康平と波子の故郷は大分県佐伯市の漁港。そして康平は、父親の死亡後波子の父親役として波子を育て、かつ母を守ってきたやさしい兄。そして実は1964年生まれの竹内力の出身地がこの大分県佐伯市というからビックリ。すると、ひょっとして寡黙で働きものの漁師という『釣りバカ日誌19』の康平が竹内力の本来の姿で、『難波金融伝』の銀ちゃんはつくりもの・・・?思わずそう考えてしまうほど、竹内力が妹思いの康平役でいい味を・・・。
<あっと驚く隠しネタが>
『釣りバカ』シリーズは、何の予備知識もないままただ映画館へ足を運んで、アハハと笑いながらストレス発散をすればいい映画。したがって、「結末は決して話さないで下さい」ともったいつけるインドのM・ナイト・シャマラン監督作品の対極にあるもの。そう思っていたが、実は『釣りバカ19』にはあっと驚く隠しネタがあり、それが大輔と波子の結婚披露宴のシーンで明らかになるから、お楽しみに。
その隠しネタの伏線は、映画の冒頭ハマちゃんが胃カメラを飲む前の患者を演ずる某漫才師にある。胃カメラを飲むくらいなら死んだ方がマシだと確信しているハマちゃんが目撃した直前の患者の苦しみようは並大抵でなかったうえ、その髪の毛の振り乱しようは尋常ではない。そんな患者役を演ずるのは、誰でも知っているあの漫才師・・・?どうもこの人物が波子の直属の上司らしく、営業三課を代表してスピーチするハマちゃんの前のスピーチがこの上司の上司。そんな奴の形式ばったスピーチは、面白いエピソードをユーモアいっぱいに語るハマちゃんのスピーチに比べれば、目じゃない。ハマちゃんもスーさんも、そして営業三課の面々もみんなそう信じていたのだが、意外にもその上司のスピーチは・・・?
そんな、あっと驚く隠しネタは是非あなた自身の目で・・・。
2008(平成20)年11月4日記