少年メリケンサック(日本映画・2009年) |
<東映試写室>
2008年11月14日鑑賞
2008年11月17日記
篤姫ブームによるにわかファンも、『EUREKA(ユリイカ)』(01年)以来の原始ファンも、宮﨑あおいのはじけっぷりにビックリ!また、巧みに硬軟両役を演じ分ける名優佐藤浩市が、ここではとさかのように髪を逆立てて怪演を!そんなクドカンこと宮藤官九郎演出に注目だが、「パンク」ってホントはナニ?そして、25年という歳月の重みをじっくりと・・・。
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監督・脚本:宮藤官九郎
栗田かんな(メイプルレコード新人発掘部のOL)/宮﨑あおい
アキオ(ベーシスト)/佐藤浩市
時田(メイプルレコード代表取締役)/ユースケ・サンタマリア
マサル(ミュージシャン志望の若者)/勝地涼
金子欣二(25年前の現場マネージャー)/ピエール瀧
ハルオ(アキオの弟、ギタリスト)/木村祐一
ジミー(ボーカリスト)/田口トモロヲ
ヤング(最年少のドラマー)/三宅弘城
2009年・日本映画・125分
配給/東映
<ハジけた宮﨑あおいは、クドカン演出によって!>
NHK大河ドラマ『篤姫』への出演によって全国的に人気急上昇の宮﨑あおいだが、私はそんなにわか宮﨑ファンではなく、『NANA』(05年)以来の大ファン。『好きだ、』(05年)(『シネマルーム10』193頁参照)、『初恋』(06年)(『シネマルーム11』180頁参照)、『ただ、君を愛してる』(06年)、『海でのはなし。』(06年)(『シネマルーム12』267頁参照)、『初雪の恋 ヴァージン・スノー』(07年)(『シネマルーム13』172頁参照)、『闇の子供たち』(08年)など、私の宮﨑あおいの追っかけは本格的。
他方、当代随一の人気クリエイターであるクドカンこと宮藤官九郎は、『真夜中の弥次さん喜多さん』(05年)に続く監督・脚本2作目のヒロインとして、現在最も忙しい女優宮﨑あおいにオファーしたが、これは「ダメモト」だったらしい。ところが、彼女は「宮藤官九郎さんと一緒に仕事をしてみたかった!」とそれを快諾。ここに、宮﨑あおい演ずるヒロイン、いやヒロインではなく、中年のおっさんパンクロッカーの面々と向き合い、ユーモアいっぱいにハジける女の子栗田かんなが誕生した。
かんなの彼氏は、牛丼屋でバイトをしながらメジャーデビューを目指す、甘い声の持ち主マサル(勝地涼)。かんなは本来そんな甘い歌が大好きで、パンクは嫌いなはず。そうすると、いくら契約切れ直前のOLだと言っても、そんな女の子がなぜ突然パンクに夢中に?しかも、何を好んでこんなおっさんパンクスたちと?そんな風にとことんハジけた宮﨑あおいは、クドカン演出によって!
<ここでも、物語のスタートは勘違いから>
サタケミキオ監督、永作博美主演の『同窓会』(08年)は、妊娠3カ月と余命3カ月を勘違いしたことから始まる面白い映画だった。それについで『少年メリケンサック』のそれは、動画サイトで見つけた絶叫パフォーマンスのイケメンたちの映像を現在のものと勘違いしたこと。
かんなは時田(ユースケ・サンタマリア)を社長とするメイプルレコードで新人発掘担当の契約社員として働いていたが、これまでは失敗続き。ところが今回ビ、ビ、ビ、ときたこのイケメンバンドは、SMAPにも比肩する掘り出し物。そんなかんなの見立てにお墨付きを与えたのが、実は元パンクスだったという時田が「これぞホンモノのパンク!」と絶賛したことだ。さっそく契約を結び、全国ツアーを展開していくと大層なことになったが、もちろんこれによって切れかかっていたかんなの契約も更新。そのうえ、かんなにはマネージャーの肩書までつくことに。こりゃ頑張らなくっちゃ。
ところが契約を結ぶために出かけていったかんなが見たのは酔いつぶれた50歳くらいのオッサン。「え、ウソでしょう。」かんなはそう思ったが、残念ながら勘違いしたのはかんなの方。あの動画サイトは、実は25年前の「少年メリケンサック」解散ライブの映像だったのだ・・・。
<佐藤浩市のはじけっぷりにもビックリ!>
去る11月6日に観た『Theショートフィルムズ みんな、はじめはコドモだった』(08年)の第1話『展望台』の評論で、私は最近俳優佐藤浩市をよく観ていると書いたが、それに続いて本作では佐藤浩市の怪演にビックリ!俳優は与えられた役を要求されるとおりに淡々と演じるだけ。そういってしまえば身も蓋もないが、かんなとの契約締結の話し合いの最中にゲロを吐いている演技や、ツアー移動中の車の中で得体の知れない会話(?)を連発している演技をみると、これがあの佐藤浩市か、とホントにビックリ。さらに頭の毛をとさかにしたり、パンクスの服を着ること自体は誰でもできるが、問題はそれがサマになるかということ。私には佐藤浩市が『闇の子供たち』(08年)のような社会的問題作はもとより、『壬生義士伝』(02年)のような時代劇から今回のパンクス役まで演じる役がすべてサマになるのが不思議だが、それが超一流の俳優というもの!
<25年も経てば・・・その1>
オヤジになると老眼が出てきたり歯が悪くなったりするのは当然だが、屁も臭くなるの?移動中の車の中でのかんなとアキオたちとの会話にはさかんにそんな話が出てくるが、クドカンはどうもそんな奇妙なことに興味が・・・?また車の振動に加えて、巨乳アイドルのグラビアを手で揺すれば、おっぱいが揺れて見えるらしいから、興味のある人はお試しを。もっとも、そんな恥ずかしいことを平気でできるのは、おやじになった証拠。この映画には、そんなおやじに関するクドカン演出の過激さがタップリと。
それはともかく、かつてイケメンだった「少年メリケンサック」の面々だって、25年も経てば風貌のみならずすべてがサマ変わり(老化?)するのは当然。「少年メリケンサック」の結成の仕掛け人で当時のマネージャーだった金子欣二(ピエール瀧)は、今でもTELYA事務所の社長として厳しい芸能界を生き延びているが、その顔を見るといかにも芸能界の裏をかいくぐってきたようなイヤらしさ・・・?
その対極にあるのが、モヒカン、眉なし、筋肉バカで気のいいおじさんで、中卒の元ヤンキーのヤング(三宅弘城)。ヤングはまだ42歳と若くて元気だから、復活した「少年メリケンサック」では事実上、中心的役割を?
<25年も経てば・・・その2>
他方、「山高ければ谷深し」という株式相場の世界の格言が最もよく妥当するのが、ボーカルのジミー(田口トモロヲ)。かつてはバンドの顔だったが、今では車イス生活であるうえ、滑舌が悪いため何を言っているのかよくわからない。もっとも、そんな歌詞回しでも十分通るのがパンクらしいが、ホントにそんなボーカルでつとまるの?
もう1人、これは決してアキオの呼びかけに応じたものではなく、かんなの説得によって復活してきたのが、アキオの2歳年下の弟ハルオ(木村祐一)。彼はバンド解散後宮城の実家にこもり、父の跡を継いで酪農に従事していたが、もともとアキオとは性格が正反対。そのうえ、バンド解散にいたるまでによほど激しい兄弟の確執があったらしく、今では没交渉であるうえ、今でもアキオを殺したいほど憎んでいるらしい。
アキオはえらく張り切っていたが、そんなヨレヨレの「少年メリケンサック」の全国ツアーが1日目からコケてしまったのは当然。しかし、なぜか時田社長は今後もかんなをマネージャーとしてツアーをやり抜くと宣言。もっともそれは、キャンセルすればその方が高くつくため、というケチな根性だったが・・・。
<後半には、すごいネタも・・・>
08年11月1日に公開されたのが吉永小百合113本目の映画『まぼろしの邪馬台国』。これは邪馬台国の発掘に情熱を燃やした島原の盲目の鬼才宮﨑康平(竹中直人)とそれを支えた妻和子(吉永小百合)の姿を描く感動作だが、後半には康平の長男が東京に住む前妻佐野朋子(余貴美子)のところを訪れるシーンが登場する。その時はこれが何を意味するのかわからなかったが、ラスト近くになってそれが意外な展開となり感動的なフィナーレに結びつくことになる。
それと同じように(?)、この映画でも後半、烏丸せつこが登場し、ヤンキーの息子がハルオに紹介されるが、烏丸扮する美保とは一体誰?誰だって若い頃は女の1人や2人はいるもの。ましてや人気抜群のパンクバンド「少年メリケンサック」のメンバーであれば、うぶなハルオを除けば、誰だって・・・。
クドカン演出のこの映画は単にパンクでバカ騒ぎするだけではなく、後半にはアキオとハルオの兄弟の確執をより決定的にするすごいネタも詰まっているからお見逃しないように。
<ニューヨークマラソン?それとも・・・?>
ミュージシャンは誰でもメジャーデビューを夢みるものだが、テレビ出演が決まればその可能性がグっと高まるのは当然。長い間続いた全国ツアーもいよいよラストに近づく中、ブチ切れたかんなが父親(哀川翔)の経営する回転寿司屋に戻ったり、恋人のマサルが浮気(?)している現場を発見したりというハプニングをからませながら「少年メリケンサック」という名の「おじんパンクバンド」は遂にテレビ出演が決まったが、多分これもハプニングの連続がなせるワザ・・・?
それはそれでいいのだが、近時のテレビ界には放送禁止用語が多い。そんな中、果たしてジミーの歌詞は大丈夫?まあ直前のケンカで大ケガをしたためアキオとハルオが2人で一人前というギターだってテレビカメラの前ではごまかせる(?)から、歌詞だって何を言って(?)るのかわからない分には大丈夫・・・?そう思って安心していたのだが、いざ本番となるに及んでなぜかジミーの言葉が明瞭に・・・。そこで明らかになったのは、「ニューヨークマラソン」とくり返し叫んでいるだけと聞こえていた歌詞が、実は××××。こりゃ、明らかに放送禁止用語だが、クドカン演出によるこの映画の最後はどんな結末に・・・?
2008(平成20)年11月17日記