アンダーカヴァー(アメリカ映画・2007年) |
<東宝試写室>
2008年12月4日鑑賞
2008年12月5日記
『インファナル・アフェア』3部作以降、多くなった「潜入モノ」の新作。本作のオリジナリティは、警察官の次男坊であるホアキン・フェニックス演ずるボビーのキャラ。彼はマフィアにつくの?それとも警察に?ちなみにこの映画では、絶世の美女エヴァ・メンデスを添えモノ扱いにしないための工夫にも注目!
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監督・脚本:ジェームズ・グレイ
ボビー・グリーン(ナイトクラブのマネージャー)/ホアキン・フェニックス
ジョセフ・グルジンスキー(ボビーの兄、ニューヨーク市警)/マーク・ウォールバーグ
アマダ・フアレス(ボビーの恋人)/エヴァ・メンデス
バート・グルジンスキー警視監(ボビーの父親)/ロバート・デュヴァル
ニジンスキー(マフィアのボス、マラットの甥)/アレックス・ヴィードフ
マラット(ナイトクラブの経営者)/モニ・モショノフ
ジャンボ(ボビーの友人)/ダニー・ホッチ
2007年・アメリカ映画・117分
配給/ムービーアイ
<潜入モノに新たな一作が>
警察内に潜入した若きマフィアVSマフィア組織に潜入した若きエリート捜査官。それが『インファナル・アフェア』3部作(2002年~2003年)のテーマだったが、本作も警察官一家の次男坊ボビー・グリーン(ホアキン・フェニックス)のマフィアへの潜入モノ・・・?
だって彼は本名のグルジンスキーを名乗らず、母方の姓であるグリーンを名乗っているのだから。いや、それほど単純ではなさそう・・・?新たな潜入モノが登場するについて問題になるのは、本作のオリジナリティ。さて、それはどこに?
<本作のオリジナリティ その1>
それは第1に、この次男坊を警察組織に反発して今はロシアンマフィアと関わりのあるちょっと怪しげなナイトクラブのマネージャーとして働いているという面白いキャラにしたこと。オーナーであるマラット(モニ・モショノフ)から、「次に展開する店も責任者としてやってくれ」と言われているくらいだから、その信頼はかなり厚いようだ。
しかしそれでは、ニューヨーク市警のエリート警察官で、ロシアンマフィア撲滅のための新しい麻薬取締班の責任者となった兄ジョセフ・グルジンスキー(マーク・ウォールバーグ)と対立することはミエミエ。すると、この映画における警察官VSマフィアの対決は、兄と弟の対決?もしそうなら、かなりのオリジナリティが・・・。
<本作のオリジナリティ その2>
本作のオリジナリティの第2は、今なおニューヨーク市警の警視監として尊敬を集めている父親のバート・グルジンスキー(ロバート・デュヴァル)からの「ある依頼」をボビーが断った時、父親から「いつかお前は、警察か麻薬組織かどちらかの味方につく。これは戦争だ」と「予言」されることからわかるように、ボビーが一体マフィア側なのかそれとも警察側なのかがなかなかわからないところ。
ネット上での岡本太陽氏の映画批評は、「この映画は観る前から期待はしていなかったのだが、わたしの予想通り特に新しい発見も驚きもない映画だった。というのも映画が始まってからすぐにこの映画がどういう展開になるか読めてしまうのである。」と書いているが、私は彼のように読むことは全然できなかった。したがって、主人公ボビーがどちら側につくのかを容易に見せないところが、この映画のオリジナリティと私は思ったのだが・・・。
<天下の美女は添えもの?>
この映画はボビーを主人公として警察VSマフィアの男社会の抗争を描くものだから、そこに女性をどう絡ませるのかは難しいところ。
映画の冒頭、すごい美女が悩まし気なポーズでソファに寝そべり、ボビーとの「ラブ」を楽しむシーンが登場する。この美女が、ボビーの恋人アマダ・フアレスを演ずるエヴァ・メンデス。このエヴァ・メンデスは、『最後の恋のはじめ方』(05年)でウィル・スミスと共演した主演級女優。その評論で「『レジェンド・オブ・メキシコ』(03年)や『タイムリミット』(03年)で私もおなじみの美女だが、この映画では面白い味(?)を出している」と書いた(『シネマルーム7』100頁参照)ように、「添えもの」ではちょっともったいない女優。
そんなエヴァ・メンデス演ずるアマダは、前半は単なるボビーの恋人としてキスシーンばかりが目立つ存在だが、後半はがぜん緊迫感を伴うことに。さて、それはなぜ?
<80年代のニューヨークでは、コップ殺しが頻繁に?>
治安の良さナンバー1を誇っていた日本では、報復のための暴力団員による警察官殺しということはまず考えられない。しかし、この映画が描く1980年代のニューヨークはドラッグが横行し、犯罪率が急上昇したらしい。マフィアのボスである、ニジンスキー(アレックス・ヴィードフ)は、ナイトクラブのオーナーであるマラットの甥。したがって、ナイトクラブの常連客だが、ジョセフが指揮する新チームによるナイトクラブの一斉検挙もうまくすり抜けて、麻薬の密売を派手にやっているようだ。映画前半のハイライトは、そんなニジンスキーがやっている麻薬製造工場への某人物による潜入捜査だから、その緊張感をタップリと。
命懸けの危険を伴う潜入捜査によってニジンスキーを逮捕することができたのは上出来だったが、その直後にその報復として、ジョセフが覆面の男に襲われて瀕死の重傷を負うことに。80年代のアメリカでは、こんなコップ殺しが頻繁に起きていたわけだ。
<マフィアの手は父親にも>
この映画では、どうみてもニューヨーク市警の捜査能力不足ぶりが浮かびあがってくる。その第1は、やっと逮捕したニジンスキーの裁判が始まる前に、彼の逃亡を許してしまうこと。日本では絶対に考えられない失態だが、これによって身の危険を感じざるをえなくなったのはさて誰?
第2は、ニューヨーク市警の懸命の捜査にもかかわらず、逃亡したニジンスキーの行方が容易に判明しないうえ、逆にボビーとジョセフの父親バートがマフィアに襲われ、激しいカーチェイスと銃撃戦の末にバートが死亡してしまうこと。これでは、ニューヨーク市警の面目丸つぶれだが・・・。
<クライマックスに向かって一気呵成に・・・>
日本の古典的なヤクザ映画では、我慢に我慢を重ねた挙げ句、遂に立ち上がったヒーローは、単身ドス1つで殴り込みをかけるパターンが多いが、この映画でも、兄が襲われ父親まで殺されてしまったボビーの決断とその後の行動が最大の焦点。
ワルはニジンスキーと決まっているが、そのおじさんでナイトクラブのオーナーであるマラットも何らかの形で麻薬取引に関与していることは明らか。さあ、ニューヨーク市警は、数々の失態の後、それをどう暴いていくの?
そこでキーマンになるのが、映画の冒頭からチラホラと登場していたボビーの友人でナイトクラブで働いていたジャンボ(ダニー・ホッチ)。誰が敵で誰が味方かを容易に見せないのが「潜入モノ」の1つのテクニックだが、ラストからクライマックスにかけてこのジャンボが果たす役割に注目したい。
そして訪れるクライマックスをじっくりと味わいたいが、さてそれについてのあなたの採点は・・・?
2008(平成20)年12月8日記