シェルブールの雨傘 デジタルリマスター版(フランス、ドイツ合作映画・1964年) |
<松竹試写室>
2008年12月25日鑑賞
2008年12月27日記
全編のセリフが歌。そんな不思議な魅力のフランス映画に酔った高1の時の記憶が、今鮮やかにデジタルリマスター版で!あの哀愁に満ちた美しいメロディの背景が、アルジェリア戦争だったとは・・・。そしてカトリーヌ・ドヌーヴの美しさとカンヌのグランプリ作品にふさわしい印象的なラストシーンに拍手!
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督・脚本・作詞:ジャック・ドゥミ
ジュヌヴィエーヴ(傘店の娘)/カトリーヌ・ドヌーヴ
ギイ(修理工の青年)/ニーノ・カステルヌオーヴォ
ロラン・カサール(宝石商)/マルク・ミシェル
エムリー夫人(ジュヌヴィエーヴの母)/アンヌ・ヴェルノン
マドレーヌ(ギイの幼馴染)/エレン・ファルナー
エリーズ(ギイの伯母、育ての親)/ミレイユ・ペリー
1964年・フランス、ドイツ合作映画・91分
配給/ハピネット
<今あのメロディと美しい映像がデジタルリマスター版で!>
私が『シェルブールの雨傘』を観たのは高1の時。松山市の銀天街という商店街を歩いて約10分のところにある「封切館」での試写会に父親に連れていってもらったものだが、その帰り道に自然に口ずさんでいたのが、今ではスタンダードナンバーになっている哀愁に満ちた美しいあのメロディ。ストーリーそのものは忘れてしまったが、あのメロディとセリフ全編が歌という強烈なインパクト、そしてカトリーヌ・ドヌーヴという女優の美しさと映像の美しさはその後も強く印象に残っていた。
そんな45年前の名作が、デジタルリマスター版という技術によって再び目の前に。上映開始とともに流れてくるのが、あの名曲。そしてスクリーン上には、フランス北部の英仏海峡に面した港町だというシェルブールのとある交差点を、色とりどりの傘をさしながら行き交う人々の姿が。そんなオープニングだけで、私の心はたちまち高校時代にタイムスリップだ。
<なるほど、アルジェリア戦争だったのか・・・>
2008年11月23日に観た『いのちの戦争 アルジェリア1959』(07年)は、1974年生まれの戦争を知らない世代である俳優ブノワ・マジメルが「アメリカがベトナムを描いたように、フランスもアルジェリアを描かねばならない」という意気込みで立案し主演した問題提起作。1954年から62年まで続いたアルジェリア戦争をフランスは長い間「戦争」と認めず、あくまでフランスの国内問題とするために「北アフリカ作戦行動」と呼んだが、その実態は民族解放、独立を求めるアルジェリア人民をフランスが武力で抑圧しようとしたものであることは明らかだ。
1964年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した『シェルブールの雨傘』の悲恋物語の前提には、そんなアルジェリア戦争の悲劇があったことを45年ぶりに再認識。母親のエムリー夫人(アンヌ・ヴェルノン)が経営する傘屋の娘ジュヌヴィエーヴ(カトリーヌ・ドヌーヴ)の恋人が自動車修理工の青年ギイ(ニーノ・カステルヌオーヴォ)だが、ギイとジュヌヴィエーヴが別れなければならなくなったのは、ギイに対して1957年11月アルジェリア戦争への召集令状が届いたため。
兵役の義務は2年間だが、16歳のジュヌヴィエーヴと20歳のギイにとってそれはとてつもなく長いもの。2人きりで過ごした最後の夜は甘美なものだったが、別れた2人にはその後どんなドラマが・・・?美しいテーマ音楽が流れる中、そんな不安を内包したまま第1部「旅立ち」が終わり、続いて第2部「不在」へ。
<揺れ動く少女心をドヌーヴが熱演!>
一夜限りの肉体関係で妊娠というのは映画ではよくあること。妊娠に気づいたジュヌヴィエーヴが困惑しているのは、第1にギイからの手紙が来なくなったこと、第2に宝石商のロラン・カサール(マルク・ミシェル)から求婚されたこと。
母親が若いギイより社会的地位と収入のあるカサールとの結婚を望んだのは当然だが、それを無理強いせず娘の気持を尊重するところがいかにも人権の国フランス流。しかし、そうされればされるほど、妊娠していることを告げてもカサールの求婚の気持は変わらないだろうかとジュヌヴィエーヴの少女心が揺れ動いたのは当然。日本人的感覚で言えば、求婚した娘が兵役に行った恋人の子供を宿しており、恋人の帰りを待っているとなれば、求婚中止となるところだが、ジュヌヴィエーヴの口から妊娠の話を聞いても、「2人の子供として育てよう」と心の広いところを見せるのもいかにもフランス流。
しかして話はトントン拍子に進み、既にかなりお腹の大きくなったジュヌヴィエーヴはカサールとめでたくゴールイン。すると、続く第3部「帰還」のストーリーは?
<帰還したギイを待っていたのは?>
第1部「旅立ち」、第2部「不在」であれほどの熱演を見せたドヌーヴがこの映画で主演女優賞を受賞しなかったのは、第3部「帰還」でほとんど出演しなかったため?そう思わざるをえないほど、第3部は帰還してきたギイが主人公。負傷した足をひきずりながらどこよりも先にギイがジュヌヴィエーヴの店を訪れると、そこには「持ち主が変わりました」との貼り紙が。そしてアパートに戻ると、ギイの育ての親である伯母のエリーズ(ミレイユ・ペリー)は病床につき、ギイの幼馴染の女性マドレーヌ(エレン・ファルナー)がその世話をしていた。そして、そこでやっと、ジュヌヴィエーヴがカサールと結婚したことを聞かされることに。
時代は、第1部から2年後の1959年4月だ。兵役中に手紙をしっかり書かなかったギイも悪いが、帰還するなりこんな状況ではギイの心が荒れていったのは仕方ないところ。また、エリーズ伯母が死亡した日にギイは娼婦の店で外泊という巡り合わせも最悪。そんなギイに見切りをつけたマドレーヌは、エリーズの葬儀の後すぐに出て行こうとしたが、そこでギイが今の自分にとって大切な人がマドレーヌだと気づいたのは不幸中の幸いだった。マドレーヌはギイの心の中にジュヌヴィエーヴの影が残っていることを心配したが、「ジュヌヴィエーヴのことはもう忘れた」というギイのきっぱりした言葉を聞いてひと安心。ギイは荒れていた心を整理したうえ、エリーズ伯母の遺産でガソリンスタンドを買い取り、新たな事業にも意欲的。そんな中、無事2人はゴールインすることに。
それから4年、フランソワーズと名付けられた男の子を中心に楽しく3人で過ごす1963年12月のクリスマスは本当に幸せそう。あれれ、これではカトリーヌ・ドヌーヴは全く登場しないまま、この映画は終わってしまいそうだが・・・。
<名作にふさわしいラストシーンに拍手!>
この映画は91分と短いが、その中には多彩な物語がいっぱいつまっている。また、この映画が描く時代は1957年11月から1963年12月末までの6年間。20歳のギイと16歳のジュヌヴィエーヴがデートを楽しみながら語り合っていた将来は「傘屋をしよう」「ガソリンスタンドをやろう」という仕事の話の他、「子供が生まれたら・・・」という家庭の話。そんな中、2人は将来生まれてくる子供の名前はフランソワーズと決めていたことを、映画がラストを迎えようとする今しっかり思い出さなければ。フランソワーズが男にも女にも使える便利な名前なのだろうか、今スクリーン上にみるギイとマドレーヌの子供フランソワーズは男の子だが・・・。
マドレーヌがフランソワーズを連れてクリスマスプレゼントの買い物に出かけた時、ゆっくりとガソリンスタンドに入ってきた車の運転席には何とあのジュヌヴィエーヴが。そして、助手席には1人のかわいい女の子が。一目でジュヌヴィエーヴと気づいたギイは彼女を事務所の中に招き入れたが、そこで交わされる会話とその後の別れのシーンは実にオシャレ。そんな、名作にふさわしいラストシーンに大きな拍手を送りたい。
2008(平成20)年12月27日記