レッドクリフPARTⅡ(アメリカ、中国、日本、台湾、韓国映画・2009年) |
<試写会・TOHOシネマズ梅田>
2009年2月5日鑑賞
2009年2月7日記
『レッドクリフPartⅡ』のクライマックスは、赤壁を真っ赤に焦がす水上戦の一大スペクタクル!そりゃ当然だが、その後の陸上戦=城攻めも迫力満点、見どころいっぱい!また2人の美女の起用の妙や、オリジナルキャラによるオリジナルストーリー展開の妙もしっかり味わいたい。ここまでの出来なら、『レッドクリフPartⅠ』に続く大ヒットまちがいなし!そう考えると、100億円の製作費の回収は既に射程距離・・・。
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督・脚本・製作・製作総指揮:呉宇森(ジョン・ウー)
周瑜(連合軍の最強指揮官)/梁朝偉(トニー・レオン)
諸葛孔明(劉備に仕える天才軍師)/金城武
曹操(漢帝国の支配者)/張豊毅(チャン・フォンイー)
孫権(「呉」の若き君主)/張震(チャン・チェン)
孫小喬(周瑜の妻)/林志玲(リン・チーリン)
孫尚香(孫権の妹)/趙薇(ヴィッキー・チャオ)
甘興(周瑜に仕える武人、オリジナルキャラクター)/中村獅童(特別出演)
趙雲(劉備に仕える将軍)/胡軍(フー・ジュン)
劉備(漢帝国の末裔)/尤勇(ヨウ・ヨン)
関羽(劉備軍の猛将)/巴森扎布(バーサンジャブ)
張飛(劉備軍の豪傑)/臧金生(ザン・ジンシェン)
華佗(曹操のお抱え医師)/謝鋼(シェ・ガン)
蒋幹(曹操軍の参謀)/師小紅
孫叔材(曹操軍の兵士、オリジナルキャラクター)/佟大為(トン・ダーウェイ)
2009年・アメリカ、中国、日本、台湾、韓国映画・144分
配給/東宝東和、エイベックス・エンタテインメント
<主役は周瑜と孔明!>
『三国志』を完全映画化しようとすれば、少なくとも全10巻、欲を言えば全30~50巻にならざるをえない。1月29日に観た李仁港(ダニエル・リー)監督の『三国志』(08年)は、趙雲に焦点をあて、史実と虚構を混在させた「The Life of 趙雲」としたが、呉宇森(ジョン・ウー)監督は「赤壁の戦い」に焦点をあてて『レッドクリフPartⅠ』『レッドクリフPartⅡ』の2部作とした。そこで問題は誰を主役にするかだが、ジョン・ウー監督は明確に周瑜と孔明に。配役は当初梁朝偉(トニー・レオン)が孔明役で周瑜役は周潤發(チョウ・ユンファ)とされていた。ところがトニー・レオンが体調を崩して降板したため、孔明役が金城武に変更されたが、今度はチョウ・ユンファが降板。そんな中、体調が回復したトニー・レオンが再び出演をオーケーし、周瑜役に収まったという裏話も有名。
このように、周瑜と孔明を『レッドクリフ』の主人公としたため、2人共私たちが読んだ『三国志』とはかなり異なった人物像になっている。『三国志』の時代は権謀術数が渦巻いていた時代だから、キレイごとだけで国や民を守ることができないのは当然。したがって周瑜や孔明といえども、あるいは「徳の人」といわれた劉備玄徳といえども、あらゆる場面で策略を練っていたはず。「したたかな中国外交」は、この時代から長年にわたって培われてきたわけだ。
<テーマは勇気・友情・愛!>
他方、周瑜と孔明を主人公とし、全世界の人々に共感してもらうストーリーにするためには、勇気、友情、愛というテーマが不可欠。したがって『レッドクリフPartⅠ』『レッドクリフPartⅡ』に登場する周瑜と孔明は固い絆で結ばれ、曹操率いる80万の大軍といえども恐れず立ち向かう勇気がいっぱい。そしてまた、そんな2人の行動力の源は愛。そんな熱いメッセージをこの映画からはっきり読み取ることができるはずだ。
しかしこれは、悪く言えば物事を単純化し、キレイごと的に描いていると批判される危険性もある。そんな批判を跳ね返しかつストーリーに深みをもたらしているのが、張豊毅(チャン・フォンイー)演ずる曹操の圧倒的な存在感。周瑜と孔明とは全く異質の性格でアクの強い漢の丞相曹操を、『さらば、わが愛 覇王別姫』(93年)で段小樓役を見事に演じたチャン・フォンイーが演ずることによって、そんな批判は完全に封印されているはずだ。さらに、これだけしっかりしたストーリー構成とこれだけ迫力ある戦闘シーンを観れば、誰もが率直にジョン・ウー監督のメッセージに納得できるのでは・・・?
<観客動員の工夫あれこれ 前説と字幕>
2008年11月1日、日本で公開された『レッドクリフPartⅠ』(08年)は興行収入50億円を超える大ヒットとなったため、その要因が色々と分析されている。TVや新聞での大量宣伝が大きく寄与したことは明らかだが、プレスシートにある『日経エンタテインメント!』編集委員、品田英雄氏による「まさか、まさかの大ヒット!『レッドクリフ』大成功の背景にあるもの」の分析は興味深い。PartⅠでこれだけ大ヒットしたのだから、完結編であるPartⅡはそれを超える大ヒットになるはず、と予想するのは当然。しかし逆に、PartⅠを観ていない人がPartⅡだけ観ても楽しめるようにするためには、何らかの工夫が必要では?日本人はそういう細かいところに気がつく国民性・・・?
そこでPartⅡで工夫されたのは、第1にオリジナル版にはない、日本語による前説。つまりオープニングでPartⅠのポイントを要領よく示し、PartⅡへの興味を引きつける工夫だ。第2は字幕。当然日本人には中国人の英雄豪傑の字を読めないケースが多いうえ、登場人物が多いからその身分立場を理解するのが困難。さらに地名や位置関係の理解も難しい。そこで工夫されたのが、ルビをふって頻繁に登場する字幕。このようなやり方は映画の品位を損ねるという意見もあるだろうが、そんなマイナス面を差し引いても圧倒的にプラス面の方が大・・・?
<オリジナルキャラクターがストーリーの一角を!>
曹操は周瑜の妻、小喬を我が物にするため呉に攻め入った。そんな仮説を強くうち出した『レッドクリフPartⅠ』では、小喬の面影を映した踊り子驪姫(宋佳/ソン・ジア)が登場したが、これはほんの顔見せ程度だった。しかし『レッドクリフPartⅡ』では、蹴鞠の名手である孫叔材(佟大為/トン・ダーウェイ)をストーリーの一角を担うキャラクターとして登場させた。これは男勝りの孫権の妹、尚香(趙薇/ヴィッキー・チャオ)が曹操軍にスパイとして入り込み活動している姿をリアルかつコミカル(?)に描くため。ヴィッキー・チャオは中国四大女優の1人だから、いくら兵士の姿に化けていてもバレそうなものだが、そう言ってしまっては身も蓋もない。
孔明が愛用している鳩による遠隔地からの情報入手は、まさに情報化社会の今日を先取りした戦略。しかし、そのためには曹操軍の中に情報提供者がまぎれ込むことが不可欠だ。そんな役を兄孫権も知らない間に尚香が担っていたわけだが、スパイだとバレかかった時に、尚香を助けてくれたのが、人のいい孫叔材。2人の友情(?)は蹴鞠の試合を兵士姿で見物していた尚香がちょっと手助けしてやった(?)ことに始まったが、尚香の正体を知らないまま無邪気に尚香を友達と思ってくれる孫叔材に対して、尚香は次第に恋心を・・・?
もちろんスパイの仕事が終われば尚香は直ちに孔明の元に戻り、重大な報告をしなければならない立場。蹴鞠の試合での見事な活躍によって孫叔材は『千人隊長』に取り立てられたうえ、チーム全員は戦いに勝利すれば3年間の租税免除という特権まで曹操からもらったが、そんな孫叔材と尚香が敵として再会する日も近い・・・。
<敵を欺くには、まず味方から・・・>
外交音痴の日本人は、『三国志』の随所に登場する策士たちのしたたかな外交から学ぶことがたくさんあるはず。その典型が「敵を欺くには、まず味方から」を実践した劉備玄徳の外交。
この映画では、曹操軍との孫権・劉備連合軍の戦いは、意外にも疫病による死者の搬送劇から始まる。曹操軍の兵士たちには南の風土が合わず疫病が蔓延したため、曹操のお抱え医師の華佗(謝鋼/シェ・ガン)は大いに苦労していた。しかし、曹操による「死者を船に乗せて、対岸に送れ」との命令によって、たちまち連合軍にも疫病が蔓延したから大変。こんな戦法(?)はいかがなもの、と誰もが思うが、これによって「わが軍の兵士にこれ以上疫病が蔓延したのではやってられない」と劉備が言い始め、連合解消となったのだから、曹操の戦法は功を奏したことになる。
中国でも日本でもこの勢力、あの勢力が手を結んだり離れたりするのは当然だが、もともと劉備と孫権の連合は劉備が持ちかけた話なのでは?それなのに、疫病が蔓延したからといって連合を解消し、スタコラ現場を離れるとは何ゴト!関羽(巴森扎布/バーサンジャブ)、張飛(臧金生/ザン・ジンシェン)、趙雲(胡軍/フー・ジュン)らはそう思いながら仕方なく劉備に従ったが、なぜか孔明だけは孫権軍に留まることに。死体搬送作戦の思わぬ戦果に、曹操はほくそ笑んだが・・・。
<2人とも人が悪い・・・?でも、賭けは本気!>
軍師は戦略・戦術を練るのが商売。そして孔明は稀代の軍師だから、どんな変化球でも投げることができるし、受け止めることができる。ところが、周瑜は軍人だからあまり神経戦は得意ではなく、どちらかというと直球型。私はそう思っていたのだが、曹操軍を抜け出し、わざわざ幼なじみの周瑜を訪ねてきた蒋幹(師小紅)に対する周瑜の扱い方を見ていると、意外に周瑜も人が悪いし、神経戦が得意そう・・・?
もちろん、蒋幹は曹操から周瑜への投降の勧めという任務を持ってやって来たのだが、そこで周瑜が蒋幹に対して仕掛けたのは、偽造文書とちょっとしたお芝居によるペテン。つまり、今は曹操の軍門に下り水軍を率いている蔡瑁と張允が周瑜に通じていると見せかけるためのお芝居だ。実際はもっと複雑な手練手管を使ったのだろうが、ジョン・ウー監督が描く周瑜の騙しっぷりを見ていると、蒋幹のバカさ加減が際立っている。周瑜のこんな策略によって蔡瑁と張允が周瑜に通じていると疑ってしまった曹操は2人を「斬り捨てろ!」と命令してしまったが、そのツケは大きかったようだ。
しかも、周瑜は蒋幹にかけたそんな策略が必ず成功すると信じ込んでいたよう。つまり、蔡瑁と張允のクビがとれなかったら、自分のクビを賭けると言うから、私はビックリ。本気でこんなことにクビを賭けていたら、周瑜のクビはいくつあっても足りないと思うのだが、さて周瑜の成算は?
他方、孔明も自分の策への自信では負けていない。矢が不足している孫権軍に「10万本の矢を3日のうちに用意します」と大言壮語したが、さてその成算は?見事10万本の矢を曹操軍からくすねてくるストーリーは、『三国志』好きの人にはチョー有名なお話だが、コロンブスの卵的発想は実にお見事。それが出来なかった場合、やはり孔明もクビを賭けたが、2人の賭けは本気!しかし、ホントに2人とも人が悪い・・・。
<3つのハイライトシーン その1-10万本の矢>
『レッドクリフPartⅠ』の見どころは、九官八卦の陣による陸上戦だったが、『レッドクリフPartⅡ』にはハイライトシーンが3つある。その1は、孔明が曹操軍から10万本の矢をもらい受ける水上戦。『三国志』を読んだ人はみんなそのシーンを頭の中で想像するはずだが、ジョン・ウー監督はそれをどのようにスクリーン上に表現するの?「何や!意外とチャチやったナ!」と言われては、ジョン・ウーの名が廃る。まずは、第1のハイライトシーンの見事さをあなた自身の目で。
<3つのハイライトシーン その2-水上戦>
スクリーン上で展開される軍艦同士の戦いはスペクタクル性が高い。邦画では、かなり古いが『日本海大海戦』(69年)の艦隊戦が迫力満点だった。洋画では古くは『クレオパトラ』(63年)におけるアントニー率いるエジプト海軍とオクタヴィアヌス率いるローマ海軍との決戦が、新しくは『エリザベス:ゴールデン・エイジ』(07年)でのウォルター・ローリー率いるイギリス艦隊とスペインの無敵艦隊との決戦が印象に残っている。
2000隻の曹操軍と200隻の孫権軍がまともに正面衝突したのでは最初から勝敗は明らかだが、面白いのは戦略・戦術によってそれが変わる可能性があること。私が少し納得いかないのは、周瑜と孔明が「小よく大を制す」には「火攻め」しかないと考えたのはよくわかるが、曹操もそれと同じことを考えたように描かれていること。私の考えでは、あんなに長く長江を挟んで赤壁に軍船を並べておかず、一気に全軍船で対岸に攻め込めば、周瑜軍はすぐに壊滅できると思ったが、曹操がなかなか動かなかったのはナゼ?
それはともかく、火攻めのポイントは風向。そこで登場するのが、古代版気象予報士ともいうべき孔明の気象学の知識。今は北西の風だが、東南の風に変わるのはいつ?それを予報し、それに合わせて全軍船を動かさなければならないが、そんなことがホントに可能なの?これくらいの予備知識は『三国志』好きの人はみんな持っているはずだが、スクリーン上で展開される火攻めのストーリーとスペクタクル性は想像を絶するもの。『PartⅡ』最大のハイライトである水上戦は、タップリ楽しめること請け合い。
<3つのハイライトシーン その3-陸上戦>
『クレオパトラ』ではアントニーの敗色濃厚だとみると、クレオパトラを乗せた軍船は戦線を離脱して帰ってしまった。そして、それを見て慌てたアントニーはすぐにクレオパトラの軍船を追っかけたから、戦線はメチャメチャになり、結局エジプト海軍は総崩れになってしまった。その後陸上戦が残っているのかなと思っていたが、『クレオパトラ』ではそれは全くなし。しかし『レッドクリフPartⅡ』では、赤壁を真っ赤に焦がす水上戦が迫力満点なら、それに続く陸上戦も迫力いっぱいの第3のハイライトシーンになっている。
水軍は炎に包まれて全滅しても、曹操が籠もっている城内には夏侯雋、曹洪、張遼たちの勇将率いる多くの兵士がいるから、それを正面から攻略するのは大変。少ない兵力で城を攻略するのは一般的には不可能だが、そこで曹操すら予想もつかなかった出来事が。それは何と、関羽、張飛、趙雲率いる劉備軍が城の背後から襲ってきたのだ。これは一体ナニ?あの連合解消はお芝居だったの?
正面から攻め込む甘興(中村獅童)は矢で倒れたが、彼の働きによって大門を破った周瑜軍はドッと城の中に攻め入ることに。城攻めの醍醐味をタップリ見せてくれたのは『キングダム・オブ・ヘブン』(05年)だったが、『レッドクリフPartⅡ』の陸上戦=城攻めの迫力も満点。連合を解消したためしばらくはお役御免となっていた関羽、張飛、趙雲の豪傑たちはここでやっと働きの場を見つけ、それぞれ大活躍。さすが、ジョン・ウー監督の俳優の使い方はお見事。
<2人の美女の使い方の妙は?>
孫権の妹尚香は赤壁の戦いの後劉備の妻となるが、これは劉備が尚香に惚れたため。とすると、尚香はかなりの美女のはずだが、ジョン・ウー監督は尚香役のヴィッキー・チャオにはあえて男装させて美女色を封印させた。これは姉の大喬と共に「江東に二喬あり」と言われた小喬の美しさを際立たせるためだが、林志玲(リン・チーリン)とヴィッキー・チャオに美女競争をさせなかったジョン・ウー監督の演出の妙はさすが。
尚香は映画前半に孫叔材と絡みながら大活躍するが、ハイライトとなる水上戦に向けて1人曹操の城に乗り込み、お茶によって静かな大活躍をするのが小喬。この女のためにわざわざ呉まで戦争しに来たのだから、その女が自らわが手に落ちてくれば、随喜の涙。曹操がそんな心境だったかどうかは知らないが、スクリーン上に見る曹操の対応はスケベ親父風ではなく、さすが大人の風格。しかし、女の魅力とお茶の魅力に引きずられて戦いの開始時刻が遅れていったのは、明らかな曹操のミステイク!
それにしても、周瑜や孔明たちの軍議(?)を密かに聞いた小喬が、独断でこんな大役を果たすとは!映画の上だけのつくり話だったとしても、実によくできたストーリー。
<ラストの、ちょっと意外な人間ドラマは?>
『レッドクリフPartⅡ』の終わりはきっと、わずかの手勢に守られながら敗走していく曹操を発見しこれを追い詰めた関羽が、そこで「武士の情け」を発揮し曹操を見逃すシーン。私はそう予想していたが、それは見事に大ハズレ!ジョン・ウー監督が描く「赤壁の戦い」のラストは、ちょっと意外な人間ドラマになっていくから、それに注目。
退却を進言した武将に対し、曹操は断固それを拒否。しかしそんな中、前面からは孫権と周瑜が、後面からは関羽、張飛、趙雲が獅子奮迅の働きを続けながら曹操に迫ってきた。
他方、「あの女のおかげで戦いに敗けた!」と考える武将は、小喬に恨みをはらそうと迫っていたから、小喬の命は風前の灯。さて、小喬の運命やいかに・・・?
そんな緊張感の中で展開されるラストの人間ドラマはもちろんここで明かすことはできないから、それはあなた自身の目で。そして、そんなラストについての、あなたのご意見は・・・?
2009(平成21)年2月7日記