宝塚歌劇花組公演「哀しみのコルドバ」(ミュージカル) |
<梅田芸術劇場>
2008年5月9日鑑賞
2009年5月26日記
久しぶりに宝塚歌劇を観劇。闘牛士を主人公にしたストーリーはシンプルながら、クライマックスへのもっていき方はさすがにお手のもの。今再会し、恋の炎を燃え上がらせた2人は、なぜ結ばれないの?あちらの決闘、こちらの決闘と恋のためとはいえ命がいくらあっても足りないお国柄は大変だが、それによって男は磨かれていくもの?さて、『カルメン』と同じように訪れてくる本作の悲劇的な結末とは?それは、あなた自身の目でしっかりと。
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作:柴田侑宏
演出:中村暁
エリオ・サルバドール(スペインきっての花形闘牛士)/真飛聖
エバ・シルベストル(エリオの初恋の女性、ロメロの愛人)/桜乃彩音
リカルド・ロメロ(マドリードの少壮実業家、エバのパトロン)/大空祐飛
マリア(エリオの母)/京三紗(専科)
アントン・ナバロ(或る闘牛グループの主宰者)/夏美よう
セバスチャン伯爵(マドリードの司法長官、メリッサの夫)/眉月凰
パウラ(エバの母)/絵莉千晶
ビセント・ロペス(闘牛士、アントンの弟子)/愛音羽麗
アルバロ(闘牛士、アントンの弟子)/未涼亜希
アンフェリータ・ナバロ(アントンの娘)/桜一花
フェリーペ・マルティン(ロメロの甥)/真野すがた
バシリオ(闘牛士、アントンの弟子)/朝夏まなと
メリッサ(セバスチャン伯爵の妻)/華燿きらり
2009年・宝塚歌劇
制作/宝塚歌劇団
<『ベルばら』ほどではないが・・・>
宝塚歌劇の代表作は何といっても『ベルばら』こと『ベルサイユのばら』だが、『哀しみのコルドバ』も1985年公演、1995年公演に続く3回目らしいから、『ベルばら』ほどではないがいわば宝塚の定番ものの1つ。闘牛士を主人公にした物語は、ビゼーの歌劇『カルメン』が有名。カルメンが幼なじみのドン・ホセを振って花形闘牛士ルカスのもとに走ったため、皆様ご存じの悲劇が起きるわけだが、本作の主人公も花形闘牛士のエリオ・サルバドール(真飛聖)。
時代は1980年代。舞台はスペインの首都マドリード。冒頭は、近頃財界に名を挙げている、少壮実業家リカルド・ロメロ(大空祐飛)の別邸で開かれたエリオを迎えた盛大な夜会。闘牛の師であるアントン・ナバロ(夏美よう)の娘アンフェリータ・ナバロ(桜一花)との婚約も整い、順風満帆のエリオがここであっと驚く再会をしたのが、ある事情によって引き裂かれた初恋の女性エバ・シルベストル(桜乃彩音)。今エバはロメロの愛人として社交界の花形になっているが、そこにはエリオとの仲を引き裂いたエバの母親パウラ(絵莉千晶)のある野心と陰謀があったらしい。もっとも、今のエリオにとってエバとの初恋は過去のお話。エリオもエバもそのように考え、過去に戻るのではなく将来を見据えようとしていたが、「わかっちゃいるけどやめられない」のが男女の恋・・・?
<こちらの闘牛士も、ヤバい恋を>
エリオはロメロが主催する夜会で初恋の女性エバと出会ってもまだ大丈夫なようだった(?)が、エリオの好敵手である闘牛士ビセント(愛音羽麗)は司法長官セバスチャン伯爵(眉月凰)の妻であるメリッサ(華燿きらり)と道ならぬ恋に落ちていたから大変。エリオの忠告にも全く耳を貸さず、「恋は盲目」状態となって突っ走っていたビセントは、メリッサとの密会をセバスチャン伯爵に発見されたから大変。今なら多額の慰謝料請求の裁判になるところだが、当時はそんな法的解決ではなく、決闘による男の解決が常套手段。ピストルによる決闘ではビセントが勝ったものの、セバスチャン伯爵を傷つけてしまったビセントには闘牛士としての栄光を求める道は閉ざされ、メリッサと共に駆け落ちすることに。
こんな好敵手のとんでもない失敗を現認していたのだから、エリオはよもやエバとの初恋の復活に溺れることはないと思ったのだが、実はその後のストーリーはそんな展開に。そうするとエリオは、アンフェリータとの婚約をどうするの?ホントにそれを破棄するの?さらにエバのパトロンであるロメロとの決着を、どうつけるの?こちらも決闘するの?そんなバカな選択をすべきでないことは明らかだが、あれほどビセントをいさめていたエリオが今度は・・・?
<遂に決断したが>
本作は登場人物が特定し、論点が整理されると、ストーリーの展開方向がすぐにわかってくる。つまり、ビセントとメリッサとの道ならぬ恋に続き、きっとエリオとエバもどつぼにハマっていくだろうということ。案の定、エリオはアンフェリータとの婚約解消を自分の師であり彼女の父であるアントン・ナバロに告げたが、それに対するアントンの反応は?
こんな場合、普通は娘の父親は烈火の如く怒り、娘はショックで泣き崩れてしまうものだが、2人の反応が意外にも冷静だった。しかも、最後の闘牛試合を故郷のコルドバで行うことを師が許してくれたからエリオは大感激。もっとも、ビセントと同じようにエリオもロメロからの決闘の申し出を受けなければならないのは当然だ。
潔く決闘の場に臨んだエリオだったが、そこに登場したのが意外にもエバの母親のパウラ。そこでエリオが聞かされた驚くべきパウラの告白とは?そんなバカな!そんなことはありえない!エリオは叫んだが、そこにやって来たエリオの母親マリア(京三紗)の証言はさらにそれを裏づけることに。もちろんその告白をここで明かすわけにはいかないから、その真相は是非いつかの舞台であなた自身の目で。
<これは悲劇?それとも?>
危険と隣り合わせで生きている男の理想的な死に場所とは?それは軍人にとっては戦場だし、闘牛士にとっては大勢の観客が見守る闘牛場の舞台。
そんな覚悟を持っていなければ一流の闘牛士になれないことは明らかだ。そんな目で見ると、女性ばかりで演じている宝塚歌劇ながら、ビセントの潔さといい、エリオの潔さといい、こりゃ普通の劇以上に男はかっこよく、かつ男らしい。ロメロとの決闘の中で、はじめて重大な秘密を明かされたエリオは気持の整理ができないまま闘牛場に臨んだが、そこで迎える意外な結末とは?
もっとも、私は闘牛のルールをよく知らないのでその危険性を十分わかっていないが、いくらキレイに着飾っていても、猛牛の突進を受けるのが商売だから、一歩間違えば命取りになってしまうことは明らか。もっとも、今やスペイン随一の闘牛士と言われるほど冷静な判断力と内に秘めた情熱の持ち主であるエリオのことだから、よもや失敗することはないだろうと思うのだが・・・。
ところで、本作が設定する悲劇的結末は、ホントに悲劇?それとも?
2009(平成21)年5月26日記