真夏の夜の夢(日本映画・2009年) |
<GAGA試写室>
2009年5月27日鑑賞
2009年5月28日記
沖縄独特の節回しの歌で始まる「真夏の夜の夢」には、妖精に代わってキジムンが登場!さて、キジムンとは?子供の頃キジムンと遊んだゆり子は東京での恋に破れて故郷に戻ってきたが、そこで起きる大騒動とは?美しい世嘉冨(ゆがふ)島で展開される心温まる物語は、さてどこまでが現実?そして、どれが真夏の夜の夢?それは、あなた自身の目でしっかりと。
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監督・脚本:中江裕司
原作:ウィリアム・シェイクスピア『真夏の夜の夢』
ゆり子(東京から世嘉冨島に帰ってきたOL)/柴本幸
マジルー(島の守り神キジムン(精霊))/蔵下穂波
タンメー(キジムンの王)/平良とみ
アンマーハーメー(キジムンの女王)/平良進
敦(ゆり子の不倫の恋人)/和田聰宏
梨花(敦の妻)/中村優子
本島から世嘉冨島までの連絡船の船長/照屋政雄
手登根権三(世嘉冨島の村長)/玉城満
昭彦(世嘉冨島の青年会のリーダー的存在)/普久原明
智文(世嘉冨島の青年会のメンバー)/津波信一
哲夫(世嘉冨島の青年会のメンバー)/川満聡
弘人(世嘉冨島の青年会のメンバー)/島袋寛之
手登根権吉(村長の息子)/高宮城実人
ゆり子(子供時代)/中村玲月
2009年・日本映画・105分
配給/オフィス・シロウズ、シネカノン、パナリ本舗
<どこかで聞いたタイトルだが・・・>
シェイクスピアの名作の2枚看板は『ハムレット』と『ロミオとジュリエット』(?)だが、『真夏の夜の夢』も相当有名。したがって、本作のタイトルを見た時こりゃシェイクスピアの「パクリ」では?とつい思ってしまったが、案の定・・・。もっとも、「パクリ」と言うと表現は悪くなってしまうが、森に入った貴族や職人たちと森に住む妖精たちが登場するシェイクスピアの『真夏の夜の夢』の物語を、中江裕司監督とその妻である中江素子氏が大胆にアレンジしたのが本作。
舞台はアテネ近郊の森に代わって世嘉冨(ゆがふ)島。また、妖精たちに代わるのは、沖縄や奄美など南東の古い木(ガジュマル)に宿るという精霊キジムン。シェイクスピアが1590年代中頃に書いた全5幕からなる喜劇形式の戯曲のストーリーは結構複雑だが、所詮は真夏の夜の夢?映画冒頭には世嘉冨島を守るキジムンの王タンメー(平良とみ)が歌う沖縄独特の何ともユニークな曲が流れてくるから、まずはそれに注目。これがそもそも夢?それともこれは現実?さて物語はこれからいかに展開し、ラストにはどんなハッピーエンドが?
<あの「キジムナー」は恐かったが・・・>
日本は広いから、いろいろな地方にいろいろな幽霊、精霊、妖怪が住んでいても不思議ではない。「初めて明かされる琉球奇譚!」としてそれを実感させてくれたのが、岸本司監督・脚本、田丸麻紀主演の『アコークロー』(07年)だった(『シネマルーム14』373頁参照)。「アコークロー」とは沖縄の方言で昼と夜の間を意味する言葉。「エイリアン」や「あまんじゃく」に対応する沖縄のそれが「キジムナー」で、赤い髪のキジムナーは「アコークロー」、すなわち昼と夜の間の黄昏時に出てきて、人間に対してさまざまな悪さをしかけるらしい。したがって、そこに登場したキジムナーはそりゃ恐かった。
しかし、中江裕司監督が描く本作の準主役になるのは、キジムンの王タンメーとキジムンの女王アンマーハーメー(平良進)の孫であるマジルー(蔵下穂波)だが、マジルーは至って善良。さて、マジルーは世嘉冨島でどんな役割を?
<主人公はダレ?なぜ世嘉冨島に?>
本作の主人公は東京での恋に破れて、故郷の世嘉冨島に戻ってきたゆり子。子供時代のゆり子を演ずる中村玲月に代わって美しく成長したゆり子を演ずるのは、大河ドラマ『風林火山』で由布姫を演じた美人女優の柴本幸。さて彼女の演技力と頑張りぶりは?キレイなワンピース姿で登場するのはいいが、たった1人で船長(照屋政雄)の船に乗って世嘉冨島に戻り、かつての同級生たちと出会うその姿はかなり無防備?聞くところによれば、ゆり子の東京での彼氏だった敦(和田聰宏)には妻がいるらしいから2人は不倫の仲。ゆり子はそれを断ち切るため敦宛の手紙を書き世嘉冨島に戻ってきたのだが、何とその島に敦のみならず、妻の梨花(中村優子)まで押しかけてきたから大変。
さらに、手登根権三村長(玉城満)の計画する島全体のリゾート計画や、村長のバカ息子(高宮城実人)の結婚式、そして結婚式のために島の青年会の昭彦(普久原明)、智文(津波信一)、哲夫(川満聡)、弘人(島袋寛之)らが企画する芝居の練習など、狭い世嘉冨島を舞台に展開していく物語はシェイクスピアの原作に勝るとも劣らない混乱ぶり?
そんな中、ゆり子の目だけに見えるキジムンのマジルーとゆり子はさまざまな心の交流を重ねていくのだが・・・。
<マジルーの弥勒節は?マジルーの武器は?>
本作は沖縄特有の言葉や習慣、芝居や歌、服装等が登場してくるから、それらをタップリと楽しみたいが、私の目にはポイントが2つある。1つはマジルーが歌う弥勒節(みるくぶし)で、その名調子に注目!もっとも、マジルーはゆり子の目には見えるけれども村民には全く見えないのだから、マジルーが歌う弥勒節は村民たちに聴こえるの?
もう1つは、マジルーが祖父のタンメーから引き継いだ「恋の花の汁」という怪しげ(?)な液体。一見目薬のようなものだが、これはタンメーが世界中の美女をモノにしようと長年溜め込んでいたという代物。したがって、これを眠っている人間の目に1滴させば、その人間は目が覚めた時最初に見た人間とたちまち恋におちるという効用があるというからすごい。こんな武器(?)をマジルーが駆使したら、世嘉冨島の村民たちは一体どんなになってしまうのだろうか?
<「真夏の夜の夢」はあなた自身の目で>
『シックス・センス』(99年)をはじめとするM・ナイト・シャマラン監督の映画は「決して結末を明かさないで下さい」と警告されているが、本作にはそれはない。しかし、本作を鑑賞した人間が本作で観た夢の中身をベラベラと他の人に語るのは明らかにマナー違反。真夏の夜の夢は、観客1人1人が自分の目で観て楽しまなければ・・・。
しかして、中江裕司監督が描く、ゆり子とマジルーの心の交流を中心とした真夏の夜の夢は、あなた自身の目で。
2009(平成21)年5月28日記