縞模様のパジャマの少年(イギリス、アメリカ映画・2008年) |
<角川映画試写室>
2009年7月9日鑑賞
2009年7月11日記
タイトルだけで「こりゃ名作!」と思える映画だが、ドイツ語ではなく英語劇であるため、星1つ減・・・。主人公は探検好きな8歳の少年だが、ナチスの高級将校たる父親の転勤先は?8歳同士でも男の信義は大切だから、一度裏切るとその回復は?そして、2人の和解が悲劇の序章になろうとは・・・。シェイクスピアの四大悲劇以上の悲劇を、しっかりと味わおう。
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監督:脚本・製作総指揮:マーク・ハーマン
原作:ジョン・ボイン『縞模様のパジャマの少年』(岩波書店刊)
製作:デヴィッド・ハイマン
撮影監督:ブノワ・ドゥローム
ブルーノ(8才の少年)/エイサ・バターフィールド
シュムエル(縞模様のパジャマを着た少年)/ジャック・スキャンロン
グレーテル(ブルーノの姉、12歳)/アンバー・ビーティー
ブルーノの父親(ナチス将校)/デヴィッド・シューリス
ブルーノの母親/ヴェラ・ファーミガ
ブルーノの祖父/リチャード・ジョンソン
ブルーノの祖母/シーラ・ハンコック
コトラー中尉(ブルーノの父の部下)/ルパート・フレンド
パヴェル(縞模様のパジャマを着た初老の男)/デヴィッド・ヘイマン
2008年・イギリス、アメリカ映画・95分
配給/ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン
<やはり最初は違和感が>
『ライフ・イズ・ビューティフル』(98年)と『聖なる嘘つき その名はジェイコブ』(99年)は涙なくして観ることのできない、ホロコーストの悲劇を描いた名作(『シネマルーム1』48頁、50頁参照)。そんな思い入れを持っている私にとっては、「禁じられた幼い友情と、ホロコーストの真実を描く感動作」と謳われた本作は、決して見逃すことのできない作品だ。原作や原題と同じタイトルの邦題を見ただけでも、そのイメージが伝わってくる感じ。
しかし、映画のスタートと同時に、私には違和感が。それは、トム・クルーズ主演の『ワルキューレ』(08年)を観た時と同じで、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺の悲劇を英語でやること。イギリス人監督がイギリス人俳優を使って作った映画だからそれはやむをえないし、物語が進行していくにつれて少しずつ馴れてきたが、やはり最初は大きな違和感が。
<主人公はナチス将校の息子>
本作には中盤に「縞模様のパジャマの老人」パヴェル(デヴィッド・ヘイマン)が登場し、その後タイトルになっている「縞模様のパジャマの少年」シュムエル(ジャック・スキャンロン)が登場する。そのためタイトルだけ見れば、このシュムエルが主人公かと思ってしまうが、実は本作の主人公はナチスのエリート将校(デヴィッド・シューリス)の8歳の息子ブルーノ(エイサ・バターフィールド)。それなのに、このタイトルは一体ナゼ・・・?
8歳といえば小学校2年生くらいだから、男の子同士の遊びといえば、日本では昔はチャンバラごっこ(?)など勇ましいものが多かったが、今は小2でもゲームに夢中?日本でもかつて軍国少年という言葉があったように、ブルーノもドイツ版軍国少年とみえて、学校からの帰りは友達と一緒に戦闘機の真似をしながら街中を走り回っていた。そんなブルーノにとって、父親の昇進はうれしいが、それによる田舎への転勤は友達との別れを伴うから悲しいこと。しかし、やさしい母親(ヴェラ・ファーミガ)、4歳違いのしっかり者の姉グレーテル(アンバー・ビーティー)に慰められながら、一家は列車と車で人里離れた田舎の屋敷へ。学校は一体どこにあるの?一緒に遊ぶ友達はどこにいるの?
少年を主人公にした映画は数多いが、本作では好奇心旺盛で探検好きな活発性と、友達に対するデリケートな感受性の両面を兼ね備えた演技を要求されるから、ブルーノ役は大変。冒頭に登場するこんな無邪気な少年ブルーノに対して、ラストには何とも言えない悲劇的な大ドラマが待っていようとは・・・。
<やはり「孟母三遷」の教えが大切?>
昇進祝いのパーティーに出席していたブルーノの父親の両親、つまりブルーノの祖父(リチャード・ジョンソン)と祖母(シーラ・ハンコック)の言葉を聞いていると、あまり息子とうまくいっていない様子。特に祖母はナチスのやり方に不満らしいから、ブルーノの父親とウマが合わないのは当然?
他方、中盤から見えてくるのは、母親も父親の本当の任務を知らされていなかったようだし、聞いていた任務だけでも本当はこんなところに来たくなかったらしい。そのため、子供たちにも、所長として赴任した父親の仕事が何なのかをきちんと説明していない。ちなみに、父親の部下コトラー中尉(ルパート・フレンド)が、縞模様のパジャマの老人を怒鳴りつけている姿を見れば、子供たちは脅えるに決まっている。もっとも、ちょっとおませな12歳の姉グレーテルは、クールな印象のコトラー中尉と仲良くなって、急に色気づくとともに、ナチス化していったからビックリ。中国には「孟母三遷」の教えがあるが、子供の教育を優先するのなら、やはり父親はこんな任務に伴う転勤を拒否するか、単身赴任しなければ・・・。
<探検好きのブルーノが見つけたものは?>
探検好きのブルーノは窓からチラリと見えた裏の農場(?)や、もくもくと煙があがる煙突に興味津々だが、母親から探検を禁止されてしまったから大いに不満。しかし、8歳の男の子のエネルギーはすごいから、ある日母親の目を盗んで1人裏山の探検へ。そこでブルーノが見つけたものは?それは、鉄条網の中で縞模様のパジャマ姿でうずくまっている同じ8歳の男の子シュムエル。彼の服は汚いが、そこに縫い付けてある番号は?彼は一体誰と、どんな番号遊びをしているの?
やっと会えた同年代の友達に対してブルーノの質問が次々と飛んだが、それに対するシュムエルの答えは?
<ブルーノ君、そりゃ卑怯だよ・・・>
以降、ブルーノは母親の目を盗んでは裏庭を抜けてシュムエルに会いに行き、ゲームをしたり、ユダヤ人のことを聞いたりしながら、楽しい時間を過ごしていた。また、お腹のすいているシュムエルにチョコレートを持っていくと大喜びだったから、「今度は家に食事においでよ」と誘ったところ、なぜか今日はシュムエルが家でグラスふきをしていたからビックリ。そこで、シュムエルが空腹と知ったブルーノが、テーブルの上にあるケーキを与え、シュムエルがそれを食べていたところをコトラー中尉に見つかったから大変。怒鳴りあげるコトラー中尉に対して、シュムエルは「ブルーノからもらった」と弁解したが、それをブルーノに対して問い質すコトラー中尉に対して、ブルーノはどんな答えを?
コトラー中尉の迫力に圧倒されたことが原因とはいえ、そこで首を横に振り、さらにシュムエルとは親友ではなく初対面だと答えたのは、いかがなもの?ブルーノ君、そりゃ卑怯だよ。いくら8歳でも、男同士の友情と信義は大切にしなければ・・・。
<まやかしのプロパガンダの実態が>
ナチスドイツによるユダヤ人の大虐殺は歴史的な事実だが、ある日大勢の軍人たちがブルーノの家を訪れたのは、収容所所長として父親が製作したプロパガンダ映画を観るため。収容所内では食事はもちろん、娯楽設備も完備し、ユダヤ人は快適な条件下で明るく働いているようだ。そんな映像を覗き見たブルーノは、やっぱり僕のお父さんは立派な軍人だと誇りに思ったが、その本性は?それは、あれほど仲の良かった夫婦関係が、ある日のある出来事を契機として急転換していく中で描かれるから、是非あなた自身の目で。
ちなみに、ここで流された短いプロパガンダフィルムは、現実に当時のナチスドイツが製作した貴重なものらしい。ホントにこんな快適な収容所なら私だって入りたいが、さてその実態は?
<ブルーノとシュムエルの和解が、悲劇の序曲に>
あの日のひどい嘘以来、良心の呵責に苛まれ続けたブルーノは、毎日のようにシュムエルに会いに行ったが、シュムエルは出てこないまま。そんな中、夫婦仲が極端に悪化した父親は単身ここに残り、子供たちは母親と一緒に引っ越すようにと命じられたから、ブルーノの焦りは頂点に。そんな中、やっといつもの場所でシュムエルと会えたブルーノをシュムエルは許し、固い握手を交わしたが、それが悲劇の序曲になろうとは?
ここでシュムエルがブルーノに打ち明けた不安は、いつもいるはずの場所に父親の姿が見えないこと。そう言われたブルーノが「じゃ、僕が一緒に探してあげる」と言ったのは当然だが、それは口だけで現実には不可能だったはず・・・。
<この悲劇はシェイクスピアの四大悲劇以上?>
悲劇の序曲の第1章がブルーノとシュムエルの和解なら、悲劇の序曲第2章は、鉄条網の下を少し掘れば子供1人の身体なら収容所の中に入れるとわかったこと。ブルーノが収容所の中に入るには、シュムエルと同じ縞模様のパジャマが必要だが、それはいくらでもあるらしい。よし、それなら明日シャベルとサンドイッチを持ってくるから、ブルーノが収容所の中に入ってシュムエルと一緒に父親を探そう。8歳の少年は互いにそんな固い約束を交わしたが、これが悲劇の序曲第3章。なるほど、本作のタイトルはそういう意味。つまり、『縞模様のパジャマの少年』とは必ずしもシュムエルのことではなく、ブルーノのこと?
コトは順調に(?)運び、無事(?)ブルーノは縞模様のパジャマを着て収容所の中に入り込んだが、さてそこから起きる悲劇とは?シェイクスピアの四大悲劇は『ハムレット』『オセロ』『リア王』『マクベス』だが、重厚なバック音楽が響き渡る中で本作が描く悲劇は、それ以上?そんなクライマックスは、是非あなた自身の目で。
2009(平成21)年7月11日記