グッド・バッド・ウィアード(韓国映画・2008年) |
<東映試写室>
2009年7月17日鑑賞
2009年7月18日記
1930年代の満州の広野を舞台とした、ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ウソン、3人の男たちの地図争奪戦はハチャメチャな面白さ。ところで「WEIRD(ウィアード)」とは?まず、それがわからなくっちゃ!三船敏郎、チャールズ・ブロンソン、アラン・ドロンが激突したかつての『レッド・サン』(71年)、三池崇史監督の無国籍映画『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07年)、そして檀一雄の小説『夕日と拳銃』と対比して観ればもっと面白いが、そのためにはしっかり勉強しなくては・・・。もっとも、映画はエンタメと割り切り、ごった煮の楽しさを味わえれば、それでも十分。とにかく楽しまなくっちゃ!
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督・脚本:キム・ジウン
ユン・テグ(間抜けなこそ泥)/ソン・ガンホ
パク・チャンイ(悪い奴、ギャングのボス)/イ・ビョンホン
パク・ドウォン(良い奴、賞金ハンター)/チョン・ウソン
マンギル(テグの相棒)/リュ・スンス
ソンイ/イ・チョンア
サンカル(対の刀)(チャンイの右腕)/キム・グァンイル
クマ(熊)(チャンイ派のナンバー3)/マ・ドンソク
チャンチュイ(三国派の中国人ボス)/ザリーガル
ビョンチュン(三国派の二番頭)/ユン・ジェムン
ソ・ジェシク(阿片商売人)/ソン・ビョンホ
キム・パンジュ(親日派朝鮮人の大金持ち)/ソン・ヨンチャン
パク・ソバン(キム・パンジュの執事)/オ・ダルス
2008年・韓国映画・129分
配給/CJ ENTERTAINMENT、ショウゲート
<三大俳優の激突!それぞれのキャラは?>
3人のトップ俳優を起用し、2008年時点で韓国映画史上最高と言われる1700万ドル(約17億5000万円)の製作費を投じた本作は、韓国で大ヒット!そのポスターのキーワードは、「撃つ(BANG)」「殺す(KILL)」「走る(RUN)」の3つだが、それは「良い奴」「悪い奴」「変な奴」を表すもの。もっとも、多くの日本人の英語能力では「GOOD」と「BAD」はわかっても、「WEIRD」はわからないのでは?
「WEIRD(ウィアード)」とは<事・人が>異様な、風変わりなという形容詞だが、その「変な奴」ユン・テグを演ずるのは、『殺人の追憶』(03年)(『シネマルーム4』240頁参照)、『グエムル 漢江の怪物』(06年)(『シネマルーム11』220頁参照)、『シークレット・サンシャシン』(07年)(『シネマルーム19』66頁参照)等のソン・ガンホ。一度見たら忘れられないあの丸顔のソン・ガンホ演ずる「変な奴」は、一見ちょっと間抜けなこそ泥。しかし、列車の中で彼が盗んだ1枚の地図が物語全体を引っ張っていく核心となるから、ストーリー展開の面ではこのテグが主役。
他方、「何でも俺が最高!」という異常なまでの自負心と冷酷さを持ったギャングのボスである、「悪い奴」パク・チャンイを演ずるのは、『甘い人生』(05年)(『シネマルーム7』227頁参照)や『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(09年)でのニヒルな悪役がよく似合っていたイ・ビョンホン。そして、常に一匹狼で行動している、懸賞金目当ての名ハンター「良い奴」パク・ドウォンを演ずるのは、『私の頭の中の消しゴム』(04年)(『シネマルーム9』137頁参照)、『DAISY デイジー』(06年)(『シネマルーム10』338頁参照)、『Sad Movie<サッド・ムービー>』(05年)(『シネマルーム13』143頁参照)等のチョン・ウソン。
さあ、そんな三大俳優の激突は?そして、それぞれ面白いキャラは?
<『レッド・サン』の3人を彷彿?>
韓国を代表する三大俳優のCGなし、スタントなしの激突は見事だが、それをはるかに凌ぐかつての三大俳優の競演を実現させた映画が『レッド・サン』(71年)。合衆国大統領に献上する宝刀をめぐって、①護衛の武士、三船敏郎、②西部名うての強盗団のボス、チャールズ・ブロンソン、③かねてよりボスの座を狙っていた相棒のアラン・ドロンの三つ巴の激突はこれぞエンタメ!そしてこれぞ、かつてホリエモンこと堀江貴文が目指していた通信と放送の融合と同じ価値のある、西部劇とチャンバラの融合だった。
映画は始まりがあれば終わりがある。序盤の問題提起、中盤の手に汗を握るスリリングな展開を経て、終盤にはどんなクライマックスが?それが映画鑑賞最大の楽しみだが、『レッド・サン』では日米仏のどこが勝ったの?テグ、チャンイ、ドウォンの3人は共に朝鮮人だから『レッド・サン』ほどの国際色はないが、1930年代の満州国を舞台とした本作は、朝鮮語、中国語、日本語が入り交じったごった煮映画。さて、絶対にネタばれすることは許されない本作において、終盤に訪れるクライマックスは?3人の男の一体誰が勝つの?
そんな3人の男の対決は、『レッド・サン』を彷彿?
<マカロニ・ウエスタンVSスキヤキ・ウエスタンVSキムチ・ウエスタン>
レオーネ監督、クリント・イーストウッド主演、エンリオ・モリコーネ音楽によるマカロニ・ウエスタン「3部作」が、『荒野の用心棒』(64年)、『夕陽のガンマン』(66年)、『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』(67年)。それにオマージュを捧げる形で、1960年生まれの三池崇史監督がその盟友である1963年生まれのクエンティン・タランティーノ監督を参加させてつくったのが『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07年)。日本人なら誰でも知っている平清盛(佐藤浩市)を総大将とする平家と、源義経(伊勢谷友介)を総大将とする源氏の対決に割り込んでくるのが、第3の男である謎のガンマン(伊藤英明)。さて、その展開と結末は?(『シネマルーム16』14頁参照)
プレスシートの中で「西部劇の荒野を吹き抜ける風、広い砂漠の地をひとり歩くガンマン、突然火を放つ銃口、秋風に一掃される落ち葉のごとく倒れる悪党たち、銃を抜く直前の息詰まる静寂の中で燃え上がる視線、広い荒野を追いつ追われつしながら疾走するガンマンたち。どれもお決まりのシーンだが、私を魅了して止まない」と述べている1964年生まれのキム・ジウン監督も、三池崇史監督と同じようにマカロニ・ウエスタンへの憧れが強いようだ。その結果生まれた本作は、三池崇史版がスキヤキ・ウエスタンと呼ばれたことに対比すれば、これぞまさにキムチ・ウエスタン!
<これぞ、ごった煮の魅力!>
1930年代の満州を舞台にした面白い小説が、檀一雄の『夕日と拳銃』。満州の大地で大活躍する「大陸浪人」伊達麟太郎の姿に、高校生の私は胸を踊らせたものだ。また『戦争と人間』3部作も、五代財閥を軸とし、満州を舞台とした日本軍、中国共産軍、朝鮮パルチザン軍などの動きをリアルに描いていた。それと同じように(?)本作にも①日本軍や石原大佐、②チャンチー(ザリーガル)率いる三国派、③阿片窟のボスながら朝鮮独立軍と詐称してテグをたぶらかすソ・ジェシク(ソン・ビョンホ)、④親日派朝鮮人の大金持ちキム・パンジュ(ソン・ヨンチャン)などが登場し、誰が味方で誰が敵かわからなくなる錯綜した戦いが展開されるから、これぞごった煮の魅力。
その争いの芽は、大陸を疾走する列車の中からテグが財宝のありかを示した地図を奪ったことだが、そこには一体どんな金銀財宝が?
<女っ気なしは、ちょっと寂しい?>
本作の面白さは抜群だが、1つ残念なのは女っ気がないこと。阿片窟に迷い込むように足を踏み入れたテグの前にソ・ジェシクの配下にある2人のチャイナドレスの女が登場し、まんまとテグを籠絡させるシーンがある。しかし彼女らは名の通った女優ではないから、セリフなしで、演技もそれだけ。これではちょっと寂しすぎるのでは?
そう思っていると、驚いたのは2008年のカンヌ国際映画祭の部門外の招待作品として本作が上映された後、再編集が行われ、新たに人気女優オム・ジウォンが登場する結末の異なる韓国劇場版が製作されたとのこと。もし可能なら、そのオム・ジウォンが登場する別バージョンを是非観てみたいものだ。
<キム・ジウン監督に拍手!>
キム・ジウン監督の『箪笥(たんす)』(03年)は、ホラー嫌いの私にとっては星2つと評価が低かったが、しかし同監督の『甘い人生』は星5つで、「アラン・ドロンかイ・ビョンホンか?」という小見出しの文章が評論のラストだった(『シネマルーム7』227頁参照)。それ以外に彼の監督・脚本作品が4本あるがそれは観ていないので、私にはキム・ジウン監督作全体を評論することはできないが、本作の脚本づくりと監督としての演出には拍手を送りたい。
本作が面白いのは、何よりも1930年代の満州大陸というちょっと思いつきにくい舞台を設定し、3人の際立ったキャラの主人公を設定したこと。また、本作のポイントは、ストーリーの焦点を地図の争奪戦という一点に絞り込み、ややこしい話をすべて切り捨てたこと。多国籍映画にしたためたくさんの人物が登場するが、彼らの立場はすべて地図に対してどんな距離感なのかという一点で判断されるため、わかりやすくなる効果を生んでいる。これは、かつて小泉純一郎元総理が2005年9月11日に郵政民営化の一点に絞って国民の信を問いたいと主張して仕掛けた衆議院議員総選挙の構造と同じだ。
さらに各種の食品偽装のオンパレードが続くこのご時世に、『チョコレート・ファイター』(08年)と同じようにソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ウソンという3大スターに対してCGなし、スタントなしの生のアクションを要求したことがエライ。映画はエンタメだから韓流純愛モノもいいが、三池崇史監督の無国籍映画『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』とテイストを同じくするキム・ジウン監督の多国籍映画のオリジナル性は秀逸。1964年生まれのキム・ジウン監督に拍手!
<「そして3人が残った」が・・・>
『そして誰もいなくなった』はアガサ・クリスティーの有名な推理小説の印象的なタイトルだが、それと同じ感覚で表現すれば、本作では、「そして3人が残った」・・・?
満州の荒野をバイクに乗って疾走するテグ。テグが持つ地図を奪い取るため、これを追うのがチャンイとドウォン。ところが、そんな単純な構図ではなく、その追跡劇に三国派や日本軍が加わったから話はややこしい。しかも、馬を走らせながらの銃撃戦だけではなく、日本軍は惜しげもなく機関銃や大砲まで投入したから戦いは激しくなる一方。しかも、誰が味方で誰が敵かよくわからないから、とにかく目の前の敵をやっつける大混戦に。
その中では、単騎で日本軍を次々とやっつけるガンマン、ドウォンの活躍が顕著だが、そんな大激戦の中で生き残るのは一体誰?ひょっとして、財宝のありかを示す「かの地」に生きて到着することができるのは、あの3人だけ?しかして、「そして3人が残った」場合、そこではどんな対決が?そして、どんな結末が?ひょっとして、「そして誰もいなくなった」状態に・・・?そんなあっと驚く展開はここでは決して書けないので、それはあなた自身の目でしっかりと。
2009(平成21)年7月18日記