ホースメン(アメリカ映画・2008年) |
<角川映画試写室>
2009年9月1日鑑賞
2009年9月2日記
ホースメンとは、ヨハネの黙示録における赤・黒・緑・白の4人の騎士のこと。7つの大罪をテーマとした『セブン』(96年)の向こうを張った(?)、サディスティック・サスペンス・スリラーとは?そしてその美学と恐怖とは?美しき殺人者に扮するアジアン・ビューティー章子怡(チャン・ツィイー)に注目だが、どちらかというとサスペンションの世界へは深入りしない方が・・・。
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監督:ジョナス・アカーランド
製作:マイケル・ベイ/ブラッド・フラー/アンドリュー・フォーム
エイダン・ブレスリン(デトロイト警察のベテラン刑事)/デニス・クエイド
クリスティン・スピッツ(被害者の養女)/章子怡(チャン・ツィイー)
アレックス・ブレスリン(ブレスリンの長男、高校生)/ルー・テイラー・プッチ
ショーン・ブレスリン(ブレスリンの次男)/リアム・ジェイムズ
スティングレイ(刑事、ブレスリンの相棒)/クリフトン・コリンズJr.
2008年・アメリカ映画・90分
配給/カルチュア・パブリッシャーズ
<良くも悪くも、好き嫌いがハッキリ!>
「いまだかつて体験したことのない、衝撃のサディスティック・サスペンス・スリラーの誕生!!」これが本作の売り。つまり、1991年の『羊たちの沈黙』、1996年の『セブン』、2004年の『ソウ』に続いて、2009年秋、「至上最も美しき殺人者」すなわち『初恋のきた道』(00年)から10年の間に急成長を遂げたアジアン・ビューティー章子怡(チャン・ツィイー)が仕掛けた罠「あなたに、解けるかしら?」が公開されるわけだ。
私は『羊たちの沈黙』は面白く鑑賞したが、『セブン』はワケがわからんという感じが強くてイマイチだった。また『ソウ』はハナから拒絶反応があったが、さて本作は?サイコ・スリラーという言葉は定着したが、サディスティック・サスペンス・スリラーとは?良くも悪くも、こんな映画は好き嫌いがハッキリ!
<日本人にはヨハネの黙示録はちょっと?>
『セブン』はキリスト教の「7つの大罪」すなわち憤怒・嫉妬・高慢・肉欲・怠惰・強欲・大食をテーマとした強烈なサイコ・スリラーだった。それに対して本作は、ヨハネの黙示録における、世界に暗黒をもたらす赤・黒・緑・白の4人の騎士(ホースメン)がテーマ。また『セブン』では、血で書かれた「GLUTTONY=大食」、「GREED=強欲」、「SLOTH=怠惰」、「LUST=肉欲」などの文字がポイントだったが、本作では鮮血のような真っ赤なペンキで書かれた「COME AND SEE」(直訳すれば、来たれ そして 見よ」という言葉がポイント。
しかし、多くの日本人がキリスト教の7つの大罪をよく知らないのと同じように、プレスシートに詳しく書かれている新約聖書ヨハネの黙示録第6章の1節から17節もほとんど知らないはず。そうすると、日本人には4人の騎士やヨハネの黙示録はちょっと荷が重い?それは、トム・ハンクス主演の『ダ・ヴィンチ・コード』(06年)や『天使と悪魔』(09年)が日本人に少し難しすぎるのと同じかも?
<銀のトレーの中には何が?>
まず冒頭、不気味な雰囲気の中、凍りついた池の上にぽつんと設置された銀のトレーが登場する。そこに駆けつけたのはデトロイト警察のベテラン刑事エイダン・ブレスリン(デニス・クエイド)。つまりここが殺人現場というわけだが、なぜか死体は存在しない。さて、そのトレーの中にブレスリンが見たものは?
怖がりの私は薄目でしかそのシーンを見られなかったこともあり、実はよくわからなかったのだが、それは被害者の口から抜かれた大量の歯らしい。つまり、管轄外の殺人現場にブレスリンが呼び出されたのは、彼が歯科法医学の権威だったからというわけだ。そしてそこには「COME AND SEE」の文字がくっきりと。さらにブレスリンがこの歯を分析してみると、その歯は30代前半の男性のもので、被害者はまだ生きている可能性があるというからビックリ。一体誰がこんなひどいことを?
<「サスペンション」の世界へは深入りしない方が>
ヨハネの黙示録第6章にはさまざまな予言があるらしい。そして、「赤のホースメン」らしいチャン・ツィイー扮するクリスティン・スピッツをキーパーソンとする本作の連続殺人事件は、そんな時代の予言に根差しているらしい。本作における殺人の特徴はサスペンションつまりそれは、人間の皮膚にフックなどを貫通させ身体を吊り下げる行為だが、それは絶滅したアメリカ先住民マンダン族によって行われていた儀式にさかのぼるらしい。
また、このサスペンションはここ数年で芸術性の高いパフォーマンスとして世界的なサブカルチャーになってきたらしい。プレスシートにはそんなサスペンションの世界を恐る恐るリサーチし、その実演を見学した話が詳しく書かれているが、あまりこの手の世界には深入りしない方がいいのでは?映画製作上の苦労話としては興味深いかもしれないが、本作に何度も登場する人間のサスペンションのシーンは、私にはちょっと・・・。
<ブレスリンはなぜこんなに忙しいの?忙しいことは罪?>
映画に登場する職業で一番多いのは刑事。私はそんな印象を持っているが、それに加えて映画に登場する刑事はみんな忙しい。本作におけるブレスリンは、その典型例だ。
彼には長男アレックス・ブレスリン(ルー・テイラー・プッチ)と次男ショーン(ショーン)がいるが、序盤で描かれる彼の日常風景をみると、妻がおらず父親一人で2人の息子の世話をしているよう。しかし冷蔵庫の中には食料品が全然なく、朝のコーヒーに入れる牛乳パックも空っぽという状況だから、そりゃひどいもの。これは、こんな刑事生活に愛想をつかされた挙げ句、妻からの離婚請求の結果と思ったが、実はそうではなく妻とは死別らしい。そこで大きなポイントは、仕事優先だった彼が妻の死に目にも会えなかったということ。そして、それを子供たち、特に長男のアレックスがどう受けとめたのかということだ。仕事優先で家庭を省みない夫はたくさんいるが、なぜ現代人は、そして刑事のブレスリンはこんなに忙しいの?そして、ヨハネの黙示録で言えば、忙しいことは罪?
<チャン・ツィイーの演技力は?新境地は?>
今回の試写室には「ホラーは観ない」と宣言していたあるおじさんが来ていたが、その理由はチャン・ツィイーが出ているから。つまり、事前にチャン・ツィイーが「美しき殺人者」になるらしいという噂が飛び交っていたわけだ。近時日本人俳優以上に中国人俳優のハリウッド進出が顕著だが、そのチャレンジの壁になるのが英語力。しかし日本語より中国語の方が英語の文法に近いから、英語を習得するのは日本人より中国人の方が有利?そんな屁理屈をこねるまでもなく、チャン・ツィイーの英語力はお見事!
他方、本作でチャン・ツィイーが演じたのは、母親のメリー・アンがサスペンション殺人の犠牲者となった美少女クリスティン役。クリスティンがそのおぞましい死体の第一発見者らしいから、そのショックはいかばかり。観客はもちろんブレスリン刑事もそう考え、何かあれば連絡をするようにと優しく述べて名刺を渡した。ところが何と、後日このクリスティンが自ら母親を殺したと告白したから、そこから局面は急転換していくことに。どうもクリスティンは、ブレスリンの長男アレックスと同じように親の愛に飢えていたらしい。そんな本性を現したクリスティンとブレスリンとの取調室における対決が本作の見どころの1つだ。
クリスティンは黙示録における4人の騎士のうちの「赤い騎士」らしいが、なぜ彼女はそんな恐ろしい計画を立て、それを実行したの?現在発見された被害者は、メリー・アン・スピッツと銀のトレーの中に入っていた歯の持ち主である33歳の教師の2人だけ。するとこのおぞましい犯行はまだ半分?あと2人の被害者が登場?不気味な表情で次々と不気味な予言をし、取り調べ室でベテラン刑事ブレスリンを翻弄する「赤い騎士」クリスティン役でチャン・ツィイーはどんな新境地を?
2009(平成21)年9月2日記