カムイ外伝(日本映画・2009年) |
<梅田ピカデリー>
2009年9月22日鑑賞
2009年9月23日記
大学時代の愛読書『カムイ外伝』が映画化!あの唯物史観と階級闘争史観にもとづく(?)長編漫画は映像化不可能だったのでは?約2時間の物語に、どんなエッセンスを盛り込むの?そして、下忍で抜け忍のカムイを松山ケンイチがいかに熱演?こりゃ必見!今ドキの映画にはCGとVFXの活用が不可欠だが、「人生で最も過酷な撮影(ロケ)になった」という崔洋一監督は、その調和点をどこに?それによって、本作の好き嫌いと評価が大きく分かれるのでは?
本文はネタバレを含みます!!
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監督・脚本:崔洋一
脚本:宮藤官九郎
原作:白土三平『カムイ伝』(小学館『ビッグコミック』刊)
カムイ/松山ケンイチ
スガル(お鹿)/小雪
半兵衛(スガルの夫、奇ヶ島の漁師)/小林薫
サヤカ(半兵衛とスガルの長女)/大後寿々花
ゲンタ(半兵衛とスガルの長男)/荒井健太郎
ツグミ(半兵衛とスガルの次女)/春名風花
不動(渡衆のリーダー)/伊藤英明
カムイの少年時代/イ・ハソン
ミクモ/芦名星
天人/渡邉邦門
大頭(忍びの長)/イーキン・チェン
水谷軍兵衛(松山藩藩主)/佐藤浩市
アユ/土屋アンナ
吉人(奇ヶ島の漁師)/金井勇太
2009年・日本映画・120分
配給/松竹
<あの長編漫画の脚本をどんな切り口から?>
白土三平の『カムイ伝』は1964年から、『カムイ外伝』は1965年から連載がスタートした長編漫画で、1967年に大学に入った私たちには階級闘争の視点から描かれたこの骨太作品は必読文献の1つとされていた。こりゃ、あたかも1988年から連載がスタートしたかわぐちかいじの『沈黙の艦隊』と同じようなもの?
今回パンフレットを購入してはじめて知ったのは、1932年生まれの原作者白土三平は、「プロレタリア芸術運動の組織者である画家・岡本唐貴(とうき)を父に持ち、国家的な思想弾圧を幼年期から体験」した人物だということ。なるほど、そういう氏素性の人なればこそ唯物史観、階級闘争史観に立った『カムイ伝』や『カムイ外伝』の構想が生まれ、あの印象的な絵となったわけだ。私が司法修習生となった1972~74年当時は小池一夫の『子連れ狼』が大ヒットしていたが、『子連れ狼』の歴史観と『カムイ伝』『カムイ外伝』の歴史観は大違い?
それはともかく、抜け忍カムイと追忍たちのバトルをメインストーリーとした『カムイ外伝』は登場人物も多く、膨大な短編から構成された長編漫画。したがって、これが1969年にテレビアニメとして放映されるについては、2クール全26話で構成されたらしい。そんな長編漫画を崔洋一監督とクドカンこと宮藤官九郎は一体どんな切り口で脚本に?李仁港(ダニエル・リー)監督の『三国志』(08年)は趙雲子龍に視点をあてた『三国志』だった(『シネマルーム22』184頁参照)し、呉宇森(ジョン・ウー)監督の『レッドクリフPartⅠ』(08年)、『レッドクリフPartⅡ』(09年)はそのタイトルどおり、『三国志』のうちの「赤壁の戦い」に焦点をあてたものだった(『シネマルーム21』34頁、『シネマルーム22』178頁参照)が、さて『カムイ外伝』は?
<「スガルの物語」VS「赤壁の戦い」>
『三国志』にも引けをとらないと言うと言い過ぎだが、『カムイ外伝』は日本人に老若男女を問わず有名?しかし、『三国志』の中の「赤壁の戦い」は最も有名な物語だから、『三国志』ファンなら誰でも知っているのに対し、『カムイ外伝』は知っていても、その中の「スガルの物語」を知っている人は少ないのでは?
奇ヶ島(くしきがじま)の漁師半兵衛(小林薫)の妻スガルは、今長女サヤカ(大後寿々花)、長男ゲンタ(荒井健太郎)、幼い次女ツグミ(春名風花)という3人の子供たちと共に静かな生活を送っていたが、彼女の14年前の正体は忍びのお鹿。お鹿は抜け忍として逃走していたが、大頭(イーキン・チェン)の襲撃によってあえなく落命。となりかけたが、海に落ちたお鹿は奇ヶ島に流れ着き、半兵衛に助けられてその妻となっていた。崔洋一監督と宮藤官九郎が『カムイ外伝』というタイトルで約2時間のドラマに仕上げるについて目をつけたのが、そんな「スガルの物語」。それは、抜け忍カムイVS追忍のストーリーだけでは、あまりにも女っ気がなさすぎてダメと考えたため?
映画の冒頭、大頭と少年時代のカムイ(イ・ハソン)が抜け忍お鹿を追い詰めるシーンが登場するが、そこで得意の千本針の技をはじめとするアクションの数々を披露するのは何と小雪。『レッドクリフ』を題材としたパナソニックのCMで魅せた小雪の太ももあらわな肢体は記憶に新しいが、本作ではその長い足を封印し、17世紀、戦国時代の女らしいスタイルで登場する。さて、抜け忍お鹿こと半兵衛の妻スガルは、本作でどんな運命を?
事前情報がないことは映画を楽しむ上で必ずしもハンディキャップになるものではないから、「赤壁の戦い」の有名さにはとても及ばない「スガルの物語」を本作でじっくり味わってみたい。おっと、もう1つ近時の邦画らしく、半兵衛の長女サヤカとカムイとの淡い恋模様にも注目!
<松山藩主のキャラは?>
『カムイ外伝』のストーリーにおけるキーワードは「下忍」と「抜け忍」。他方、カムイの生き方におけるキーワードは、「生きる」と「自由」そして「強くなりたい」。
カムイが生まれたのは日置藩だが、本作ではカムイの少年時代のエピソードは回想シーンで少し描かれるだけで、本作の舞台は備中松山藩。この備中松山藩5万石の藩主が水谷軍兵衛(佐藤浩市)だが、これがきわめてケッタイなキャラの暴君。そんな暴君がかわいがる愛馬一白(いちじろ)に半兵衛が襲いかかり、鉈でその右前脚を切り取ったところからメインストーリーが始動していくことになる。半兵衛は一体なぜそんな暴挙を?
偶然その場に居合わせたカムイは、軍兵衛に追われる半兵衛の逃亡を手助けしてやったが、その恩を仇で返したのが半兵衛。つまり、荒海の中を小船に乗って島へ向かう途中、カムイは半兵衛から荒海の中へ突き落とされてしまうわけだ。もちろん、主人公のカムイがそんなことで命を落としてしまうはずはない。嵐が去った後カムイは奇ヶ島の浜に打ち上げられ、半兵衛の家族の手厚い看護によって一命をとりとめるわけだが、さて半兵衛の妻スガルは今目の前にいるカムイが14年前のあの少年だと気づくの?また、やっと目を覚ましたカムイの方は?そんなメインストーリーが備中松山藩の藩主軍兵衛の残忍なキャラを背景として展開されていくから、軍兵衛のキャラにも注目を。
<中盤からは渡衆とその頭に注目!>
本作には注目すべきアクションが数多く配されている。中盤のアクションのハイライトは、長女サヤカの婿候補だった漁師吉人(金井勇太)の密告によって、軍兵衛に処刑されようとしている半兵衛をカムイとスガルが共同で救出するシーン。ところが、それ以上にビックリするのが、何とか半兵衛を救出した後のサメに襲われるシーンにおける、渡衆(わたりしゅう)とその頭不動(伊藤英明)の登場シーンだ。人間が乗った船を襲うサメがホントにいるのかどうかは知らないが、何とも奇怪な姿の千石船に乗った渡衆はサメ退治を生業にしているから、その得意技に注目。
伊藤英明は『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07年)でも佐藤浩市扮する平清盛らと早撃ち競争で頑張っていた(『シネマルーム16』14頁参照)が、本作では善玉か悪玉かを容易に明らかにしないまま、魅力的な堂々としたリーダー像を熱演している。約束したとおり不動たち渡衆は10日間でサメ退治を完了し、村人たちとの間で盛大な宴会がもたれたが、なぜか千石船に戻ったカムイは渡衆から襲われる事態に。思いがけない攻撃の中カムイはかろうじて海の中に逃れたが、海の上に顔を見せた途端、そこに鉄製の檻が投げつけられたから大変。
こんな手荒い歓迎(?)の後、不動は「腕を試しただけだ」と述べ、「自分たちも抜け忍だ」と告白し、「抜け忍が生きていくためには1人よりも2人、2人よりも3人だ」と力説したが、さてその言葉はホント?それともウソ?本作中盤からは、そんな渡衆の頭である不動のキャラに注目!
<評価の視点 その1ーアクションは?>
本作は崔洋一監督にとって「人生で最も過酷な撮影(ロケ)になった」らしいが、そうなれば演ずる俳優たちもその過酷さは同じ。現にカムイを演じた松山ケンイチのケガによって撮影中断、スタッフ解散という異例の事態も体験したらしい。本作のアクションが大変だったことは容易に想像できるが、さてその出来と評価は?
忍びがさまざまな技を持っているのは当然だが、映画の中でそのアクションをどう表現するのかはきわめて難しい。カムイの2大得意技は「変移抜刀霞切り」と「飯綱落とし」だが、その技とは?また、抜け忍のカムイにとって何より大切なことは速く走ること。そんなアクションを生身の人間がナマのまま演ずるの?それともワイヤーを使って空を飛んだり、木を駆け降りたりするの?そこらあたりが、撮影技術が進んだ今、ホントに難しいところだ。ちなみに、張藝謀(チャン・イーモウ)監督がハリウッド進出を目指した『HERO(英雄)』(02年)とそれに続く『LOVERS(十面埋伏)』(04年)は大ヒットしたが、私にはそのワイヤーアクションに多少の違和感も?
他方、ワイヤーなし、スタントなし、CGなしにこだわり、あくまで生身の人間のアクションを魅せたのが、「高校時代には96年バンコク・ユース・テコンドー大会で金メダルに輝き、さらに97年には国家が育成するテコンドー強化選手トレーニングにも参加した」という少女“ジージャー”ヤーニン・ウィサミタナンが驚異的な格闘能力をみせつけたプラッチャヤー・ピンゲーオ監督の『チョコレート・ファイター』(08年)。“ジージャー”ヤーニン・ウィサミタナンは本作のためにさらに、「4年間にわたり体力、耐久力、柔軟性増強のための厳しいトレーニングに加え、ムエタイ、体操の基本、武器の使い方、スタントマンとのアクションシーンにおける立ち位置やタイミング、表情のつくり方、受け身の技法などの武術テクニックをたたき込まれた」というからすごい。
そんな少女と同じ格闘能力を松山ケンイチや小雪に要求するのは所詮ムリだから、ワイヤー、CG、スタントに頼らなければならないのは当然だが、さてその調和点はどこに?
<評価の視点 その2ーVFXは?>
アクション撮影におけるワイヤーやCGと同じように、近時の映画づくりで重要なのがVFX。私にはその技術的なことはわからないが、山崎貴監督の『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年)や樋口真嗣監督の『ローレライ』(05年)等を引き合いに出すまでもなく、近時はVFXの良し悪しが映画の良し悪しを決めると言っても過言ではないほど大きなウエイトを持っている。本作は備中松山藩が舞台だが、現実には半兵衛たちが住む奇ヶ島のシーンと海のシーンが圧倒的に多い。とりわけ、不動らが乗る千石船でのサメ狩りのシーンはそのハイライトだ。
パンフレットによると、本作には約650ものVFXカットがあるらしい。たしかに、それらは視覚的にはよくできているが、そんなVFXシーンが気に入るかどうかは別問題。その好き嫌いによって本作の評価は大きく変わることになるが、さてあなたの採点は?
2009(平成21)年9月23日記
ここからはネタバレを含みます!!
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監督・脚本:崔洋一
脚本:宮藤官九郎
原作:白土三平『カムイ伝』(小学館『ビッグコミック』刊)
カムイ/松山ケンイチ
スガル(お鹿)/小雪
半兵衛(スガルの夫、奇ヶ島の漁師)/小林薫
サヤカ(半兵衛とスガルの長女)/大後寿々花
ゲンタ(半兵衛とスガルの長男)/荒井健太郎
ツグミ(半兵衛とスガルの次女)/春名風花
不動(渡衆のリーダー)/伊藤英明
カムイの少年時代/イ・ハソン
ミクモ/芦名星
天人/渡邉邦門
大頭(忍びの長)/イーキン・チェン
水谷軍兵衛(松山藩藩主)/佐藤浩市
アユ/土屋アンナ
吉人(奇ヶ島の漁師)/金井勇太
2009年・日本映画・120分
配給/松竹
<あの長編漫画の脚本をどんな切り口から?>
白土三平の『カムイ伝』は1964年から、『カムイ外伝』は1965年から連載がスタートした長編漫画で、1967年に大学に入った私たちには階級闘争の視点から描かれたこの骨太作品は必読文献の1つとされていた。こりゃ、あたかも1988年から連載がスタートしたかわぐちかいじの『沈黙の艦隊』と同じようなもの?
今回パンフレットを購入してはじめて知ったのは、1932年生まれの原作者白土三平は、「プロレタリア芸術運動の組織者である画家・岡本唐貴(とうき)を父に持ち、国家的な思想弾圧を幼年期から体験」した人物だということ。なるほど、そういう氏素性の人なればこそ唯物史観、階級闘争史観に立った『カムイ伝』や『カムイ外伝』の構想が生まれ、あの印象的な絵となったわけだ。私が司法修習生となった1972~74年当時は小池一夫の『子連れ狼』が大ヒットしていたが、『子連れ狼』の歴史観と『カムイ伝』『カムイ外伝』の歴史観は大違い?
それはともかく、抜け忍カムイと追忍たちのバトルをメインストーリーとした『カムイ外伝』は登場人物も多く、膨大な短編から構成された長編漫画。したがって、これが1969年にテレビアニメとして放映されるについては、2クール全26話で構成されたらしい。そんな長編漫画を崔洋一監督とクドカンこと宮藤官九郎は一体どんな切り口で脚本に?李仁港(ダニエル・リー)監督の『三国志』(08年)は趙雲子龍に視点をあてた『三国志』だった(『シネマルーム22』184頁参照)し、呉宇森(ジョン・ウー)監督の『レッドクリフPartⅠ』(08年)、『レッドクリフPartⅡ』(09年)はそのタイトルどおり、『三国志』のうちの「赤壁の戦い」に焦点をあてたものだった(『シネマルーム21』34頁、『シネマルーム22』178頁参照)が、さて『カムイ外伝』は?
<「スガルの物語」VS「赤壁の戦い」>
『三国志』にも引けをとらないと言うと言い過ぎだが、『カムイ外伝』は日本人に老若男女を問わず有名?しかし、『三国志』の中の「赤壁の戦い」は最も有名な物語だから、『三国志』ファンなら誰でも知っているのに対し、『カムイ外伝』は知っていても、その中の「スガルの物語」を知っている人は少ないのでは?
奇ヶ島(くしきがじま)の漁師半兵衛(小林薫)の妻スガルは、今長女サヤカ(大後寿々花)、長男ゲンタ(荒井健太郎)、幼い次女ツグミ(春名風花)という3人の子供たちと共に静かな生活を送っていたが、彼女の14年前の正体は忍びのお鹿。お鹿は抜け忍として逃走していたが、大頭(イーキン・チェン)の襲撃によってあえなく落命。となりかけたが、海に落ちたお鹿は奇ヶ島に流れ着き、半兵衛に助けられてその妻となっていた。崔洋一監督と宮藤官九郎が『カムイ外伝』というタイトルで約2時間のドラマに仕上げるについて目をつけたのが、そんな「スガルの物語」。それは、抜け忍カムイVS追忍のストーリーだけでは、あまりにも女っ気がなさすぎてダメと考えたため?
映画の冒頭、大頭と少年時代のカムイ(イ・ハソン)が抜け忍お鹿を追い詰めるシーンが登場するが、そこで得意の千本針の技をはじめとするアクションの数々を披露するのは何と小雪。『レッドクリフ』を題材としたパナソニックのCMで魅せた小雪の太ももあらわな肢体は記憶に新しいが、本作ではその長い足を封印し、17世紀、戦国時代の女らしいスタイルで登場する。さて、抜け忍お鹿こと半兵衛の妻スガルは、本作でどんな運命を?
事前情報がないことは映画を楽しむ上で必ずしもハンディキャップになるものではないから、「赤壁の戦い」の有名さにはとても及ばない「スガルの物語」を本作でじっくり味わってみたい。おっと、もう1つ近時の邦画らしく、半兵衛の長女サヤカとカムイとの淡い恋模様にも注目!
<松山藩主のキャラは?>
『カムイ外伝』のストーリーにおけるキーワードは「下忍」と「抜け忍」。他方、カムイの生き方におけるキーワードは、「生きる」と「自由」そして「強くなりたい」。
カムイが生まれたのは日置藩だが、本作ではカムイの少年時代のエピソードは回想シーンで少し描かれるだけで、本作の舞台は備中松山藩。この備中松山藩5万石の藩主が水谷軍兵衛(佐藤浩市)だが、これがきわめてケッタイなキャラの暴君。そんな暴君がかわいがる愛馬一白(いちじろ)に半兵衛が襲いかかり、鉈でその右前脚を切り取ったところからメインストーリーが始動していくことになる。半兵衛は一体なぜそんな暴挙を?
偶然その場に居合わせたカムイは、軍兵衛に追われる半兵衛の逃亡を手助けしてやったが、その恩を仇で返したのが半兵衛。つまり、荒海の中を小船に乗って島へ向かう途中、カムイは半兵衛から荒海の中へ突き落とされてしまうわけだ。もちろん、主人公のカムイがそんなことで命を落としてしまうはずはない。嵐が去った後カムイは奇ヶ島の浜に打ち上げられ、半兵衛の家族の手厚い看護によって一命をとりとめるわけだが、さて半兵衛の妻スガルは今目の前にいるカムイが14年前のあの少年だと気づくの?また、やっと目を覚ましたカムイの方は?そんなメインストーリーが備中松山藩の藩主軍兵衛の残忍なキャラを背景として展開されていくから、軍兵衛のキャラにも注目を。
<中盤からは渡衆とその頭に注目!>
本作には注目すべきアクションが数多く配されている。中盤のアクションのハイライトは、長女サヤカの婿候補だった漁師吉人(金井勇太)の密告によって、軍兵衛に処刑されようとしている半兵衛をカムイとスガルが共同で救出するシーン。ところが、それ以上にビックリするのが、何とか半兵衛を救出した後のサメに襲われるシーンにおける、渡衆(わたりしゅう)とその頭不動(伊藤英明)の登場シーンだ。人間が乗った船を襲うサメがホントにいるのかどうかは知らないが、何とも奇怪な姿の千石船に乗った渡衆はサメ退治を生業にしているから、その得意技に注目。
伊藤英明は『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07年)でも佐藤浩市扮する平清盛らと早撃ち競争で頑張っていた(『シネマルーム16』14頁参照)が、本作では善玉か悪玉かを容易に明らかにしないまま、魅力的な堂々としたリーダー像を熱演している。約束したとおり不動たち渡衆は10日間でサメ退治を完了し、村人たちとの間で盛大な宴会がもたれたが、なぜか千石船に戻ったカムイは渡衆から襲われる事態に。思いがけない攻撃の中カムイはかろうじて海の中に逃れたが、海の上に顔を見せた途端、そこに鉄製の檻が投げつけられたから大変。
こんな手荒い歓迎(?)の後、不動は「腕を試しただけだ」と述べ、「自分たちも抜け忍だ」と告白し、「抜け忍が生きていくためには1人よりも2人、2人よりも3人だ」と力説したが、さてその言葉はホント?それともウソ?本作中盤からは、そんな渡衆の頭である不動のキャラに注目!
<評価の視点 その1ーアクションは?>
本作は崔洋一監督にとって「人生で最も過酷な撮影(ロケ)になった」らしいが、そうなれば演ずる俳優たちもその過酷さは同じ。現にカムイを演じた松山ケンイチのケガによって撮影中断、スタッフ解散という異例の事態も体験したらしい。本作のアクションが大変だったことは容易に想像できるが、さてその出来と評価は?
忍びがさまざまな技を持っているのは当然だが、映画の中でそのアクションをどう表現するのかはきわめて難しい。カムイの2大得意技は「変移抜刀霞切り」と「飯綱落とし」だが、その技とは?また、抜け忍のカムイにとって何より大切なことは速く走ること。そんなアクションを生身の人間がナマのまま演ずるの?それともワイヤーを使って空を飛んだり、木を駆け降りたりするの?そこらあたりが、撮影技術が進んだ今、ホントに難しいところだ。ちなみに、張藝謀(チャン・イーモウ)監督がハリウッド進出を目指した『HERO(英雄)』(02年)とそれに続く『LOVERS(十面埋伏)』(04年)は大ヒットしたが、私にはそのワイヤーアクションに多少の違和感も?
他方、ワイヤーなし、スタントなし、CGなしにこだわり、あくまで生身の人間のアクションを魅せたのが、「高校時代には96年バンコク・ユース・テコンドー大会で金メダルに輝き、さらに97年には国家が育成するテコンドー強化選手トレーニングにも参加した」という少女“ジージャー”ヤーニン・ウィサミタナンが驚異的な格闘能力をみせつけたプラッチャヤー・ピンゲーオ監督の『チョコレート・ファイター』(08年)。“ジージャー”ヤーニン・ウィサミタナンは本作のためにさらに、「4年間にわたり体力、耐久力、柔軟性増強のための厳しいトレーニングに加え、ムエタイ、体操の基本、武器の使い方、スタントマンとのアクションシーンにおける立ち位置やタイミング、表情のつくり方、受け身の技法などの武術テクニックをたたき込まれた」というからすごい。
そんな少女と同じ格闘能力を松山ケンイチや小雪に要求するのは所詮ムリだから、ワイヤー、CG、スタントに頼らなければならないのは当然だが、さてその調和点はどこに?
<評価の視点 その2ーVFXは?>
アクション撮影におけるワイヤーやCGと同じように、近時の映画づくりで重要なのがVFX。私にはその技術的なことはわからないが、山崎貴監督の『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年)や樋口真嗣監督の『ローレライ』(05年)等を引き合いに出すまでもなく、近時はVFXの良し悪しが映画の良し悪しを決めると言っても過言ではないほど大きなウエイトを持っている。本作は備中松山藩が舞台だが、現実には半兵衛たちが住む奇ヶ島のシーンと海のシーンが圧倒的に多い。とりわけ、不動らが乗る千石船でのサメ狩りのシーンはそのハイライトだ。
パンフレットによると、本作には約650ものVFXカットがあるらしい。たしかに、それらは視覚的にはよくできているが、そんなVFXシーンが気に入るかどうかは別問題。その好き嫌いによって本作の評価は大きく変わることになるが、さてあなたの採点は?
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