スペル(アメリカ映画・2009年) |
<GAGA試写室>
2009年9月28日鑑賞
2009年9月30日記
サブプライムローン問題以降、銀行のローンデスクは大変だが、そんな身近な問題(?)をサム・ライミ監督がものすごいホラー映画に。売りの1つは映像効果だが、それ以上にヒロインの闘う勇気に感動。もっとも、呪いや呪文の世界が人間の力を越えたものだとしたら、彼女の闘いはカラ回り?ハッピーエンド?それとも?あっと驚く結末まで、興味は尽きないが・・・。
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監督・脚本:サム・ライミ
クリスティン・ブラウン(銀行のローンデスクで働く女性)/アリソン・ローマン
クレイ・ダルトン(大学で心理学を教えるクリスティンの恋人)/ジャスティン・ロング
ガーナッシュ夫人(ジプシー風の老婆)/ローナ・レイヴァー
ラム・ジャス(呪文研究家)/ディリープ・ラオ
ジャックス氏(銀行の支店長)/デヴィッド・ペイマー
ショーン・サン・ディナ(霊能者)/アドリアナ・バラッザ
2009年・アメリカ映画・99分
配給/ギャガ・コミュニケーションズ、powerd by ヒューマックス・シネマ
<「90点」に魅かれて鑑賞したが>
私は新作を鑑賞するについては、ネットで公開されている岡本太陽氏の「米映画批評」をよく参考にしているが、本作についての彼の評価は「鬼才サム・ライミ監督の自由な精神を感じる今年最高の映画」とベタ褒めで、何と90点。
私はこの手のホラー映画は苦手だから、「劇場内悲鳴厳禁!」「鑑賞後の放心注意!!」と書かれていたチラシを見ただけで拒絶反応があったが、岡本氏のこの批評を見て「こりゃ必見!」と方向転換。
岡本氏が言うように本作はたしかにホラー映画だが、ユーモアのセンスがたっぷり詰まっているうえ、呪いをかけてきた老婆ガーナッシュ夫人(ローナ・レイヴァー)とどこまでも直接対決していくヒロイン、クリスティン・ブラウン(アリソン・ローマン)の勇気に感激。美人女優ともなれば、ここまでボロボロにされることに抵抗感を覚えるのが普通だが、アリソン・ローマンの女優魂はすごい。
そんな努力賞もあり、私にとってこのホラー映画はそれほど恐怖感も違和感もなかったが、やっぱり私の採点としては星3つ。
<亀井静香式モラトリアム構想は?>
2008年9~10月に起きた世界同時金融危機は、2007年秋に起きたアメリカのサブプライムローン問題に端を発したもの。 その後アメリカ、中国、日本などの膨大な財政出動=公的資金投入と、G8やG20など国際協調路線の進展によって金融危機は納まったかのように見えているが、さて?他方、2009年8月30日総選挙で歴史的な政権交代をなし遂げた民主党政権内では、目下亀井静香金融担当大臣のモラトリアム構想が唱えられているが、これはひょっとして政権内の火種に?
亀井静香大臣のモラトリアム構想は本作が描くようなクリスティンとガーナッシュ夫人の対決を未然に防止するための発想だが、藤井裕久財務大臣や経済界の多くがそれに反発しているのは当たり前。ミサイルでも飛んできた時なら話は別だが、今は政府が私人間の取引に無用に介入すべき時期でないことは明らかだ。
<ガーナッシュ夫人もクリスティンもサブプライムローンの被害者?>
冒頭で見せる汚い手の指、汚い入れ歯をはじめとして、本作で何とも言えない不気味な「怪演」を見せる老婆ガーナッシュ夫人は、言ってみればサブプライムローンの被害者だから、いかにも今日的な人物像。
他方、ジャックス支店長(デヴィッド・ペイマー)のもとでローンデスクに座り、ライバルの男性と次長職を争っているクリスティンは、ガーナッシュ夫人のローンの延長申請を認めるか否かという厳しい審査を自己責任でやらなければならないつらい立場。大きな融資案件を成功させるかどうかというビッグプロジェクトでの成績評価とは別に、個別のローン審査でいかに的確な判断を下していくかが、成績評価の基準となるわけだ。「仏の顔も三度まで」ということわざがあるように、ローンの返済が2度ならず3度も遅れれば、その「延長審査は認められない」と判断するのが普通だが、さてガーナッシュ夫人に対するクリスティンの判断は?
ガーナッシュ夫人はさまざまな泣き落とし戦術を見せたあげく、衆人環視の中で土下座作戦まで試みたが、クリスティンは延長を断固拒否。すると今度は、ガーナッシュ夫人は手のひらを返すように、敵意をむき出しにしてクリスティン襲いかかってきたから大変。ガーナッシュ夫人から逆恨みされコートのボタンを引きちぎられた挙句「次はお前さ。私に請いに来るんだ」と宣言されたうえ、奇妙な呪文をかけられたクリスティンも、実はサブプライムローンの形をかえた被害者?
<「苦しい時の神頼み」の効果は?>
本作はサム・ライミ監督が実兄のアイヴァン・ライミと共に脚本を書いたホラー映画だからそのオリジナリティとひねりの効いたストーリー展開が恐怖を煽る映像効果と共に本作の売り。クリスティンがガーナッシュ夫人からの3度目の延長申請を拒否したため大乱闘になったうえ呪われるというのはえらい迷惑な話だが、そうなるとストーリーは必然的に呪文や霊感というワケのわからない世界に入っていくことになる。クリスティンの恋人クレイ・ダルトン(ジャスティン・ロング)は大学で心理学を教える学者だから、急にワケのわからないことを言い始めたクリスティンを心配し、呪文や霊感の世界に入ることを止めようとしたのは当然だ。
しかし、クリスティンはそんなクレイの制止を振り切り、呪文を専門的に研究しているラム・ジャス(ディリープ・ラオ)やショーン・サン・ディナ(アドリアナ・バラッザ)の元へ飛び込んだが、さて「苦しい時の神頼み」の効果は?
<あなたはハッピーエンド派?それとも?>
「ネタバレ禁止」はホラー映画の原則だが、脚本にヒネリを利かせ映像にもあっと驚く工夫をこらした本作には特にそれが妥当する。しかし、そう言ってしまうと身も蓋もないので、本作のストーリー構成上大切な小道具になるのが、ガーナッシュ夫人が引きちぎったクリスティンのコートのボタンであることだけは書いておきたい。クリスティンの熱演が最高に表現されるのは、死体となって眠るガーナッシュ夫人の棺桶をクリスティンが掘り返し、呪いのかけられたボタンをたたき返すシーン。美しい顔を泥まみれの水の中に突っ込むシーンには、あなたもきっと驚くはずだ。
そんなバトルの甲斐あって、呪いのかけられたボタンがガーナッシュ夫人の棺桶の中に永久に閉じ込められてしまえば問題は解決。あとは、クリスティンとクレイの新婚旅行(?)というハッピーエンドを迎えるばかり?いやいや、ライミ兄弟が練りに練った脚本は、そんな単純なものではないはずだ。あなたがハッピーエンド派かそうでないかは知らないが、最後に明らかになるあっと驚く結末まで、決して集中力を切らさないように。
2009(平成21)年9月30日記