宇宙戦艦ヤマト 復活編(日本映画・2009年) |
<東宝試写室>
2009年12月1日鑑賞
2009年12月3日記
経済的パワーと国際競争力を低下させつつある、平和だが志を失った日本国の復活は?そんな願望と期待の中、あの宇宙戦艦ヤマトが復活!西暦2220年巨大なブラックホールの太陽系への接近により、地球の滅亡は必至。そんな状況下パワーアップしたヤマトが目指すのはイスカンダルではなく、地球からアマール星への移民船団の護衛。さて、その前途に立ちはだかる星間国家連合とは?今ドキの若い男女も、就活や婚活に悩むだけでなく、地球のため、愛する者のために生命をかけて任務に励む男たちの姿に感動してほしいものだが・・・。
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企画・原作・総監督:西﨑義展
新ヤマトクルー
古代進(宇宙戦艦ヤマトの艦長)/山寺宏一
大村耕作(新ヤマト副艦長)/茶風林
上条了(新ヤマト戦闘班長)/伊藤健太郎
小林淳(チーフパイロット)/浪川大輔
折原真帆(第三艦橋・電算室チーフナビゲーター)/柚木涼香
桜井洋一(第一艦橋レーダーパネル担当)/野島健児
徳川太助(新ヤマト機関長)/古谷徹
佐々木美晴(戦闘機パイロット)/大浦冬華
地球人
古代美雪(古代進の娘)/藤村歩
真田志郎(地球連邦宇宙科学局長官)/青野武
島次郎(地球連邦移民船団本部長)/置鮎龍太郎
佐渡酒造(獣医)/永井一郎
アナライザー(ロボット)/緒方賢一
古代雪(古代進の妻)/由愛典子
SUS軍
バルスマン総司令官/飯塚昭三
メッツラー総督(SUS国第7艦隊司令長官)/家中宏
アマール
女王イリヤ(星間国家連合の一惑星国家アマール星の女王)/田中敦子
パスカル将軍(アマール軍司令官)/井上和彦
エトス軍
ゴルイ提督(星間国家連合の一惑星国家エトス星艦隊の司令長官)/伊武雅刀
シーガル艦長(エトス星の軍人)/子安武人
ナレーション/羽佐間道夫
2009年・日本映画・135分
配給/東宝
<あの感動が再び!しかし今の若者は?>
『宇宙戦艦ヤマト』の最初のテレビ放映は1974年、最初の劇場版公開は1977年だが、その頃の私は弁護士登録直後で公害訴訟に熱中しており、映画どころではなかった。しかし「戦争モノ」や「軍艦モノ」が大好きな私はこのシリーズに注目し、テレビの再放送で時々観ていた。他方『宇宙戦艦ヤマト』を体系的に鑑賞して勉強し「軍事オタク」に成長したのが、現在東京で弁護士をしており来年4月から大阪に戻ってくる我が息子だからビックリ。血は争えないものだ。したがって、我が家には『宇宙戦艦ヤマト』のDVD全巻はもちろん立派なプラモデルまである。私はこの映画を映画館で観たことはなく自宅でビデオを観ただけだが、『宇宙戦艦ヤマト』シリーズは1度聞いたらすぐに覚えてしまうあの主題歌と、古代艦長以下乗組員たちのいかにも日本(軍)人らしい潔さが印象的。そしてまたストーリーは至って単純だが、地球を救うため、愛する者を守るために生命をなげうって戦うその姿は感動的だ。
前向きの進路を見失い、希望の星を喪失している今の日本人にとって、1964年の東京オリンピックと同じように、1970年代の『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの感動をもう1度、と願うのは当然。しかし、私たちの世代はともかく、今の20代前後の若者たちは『宇宙戦艦ヤマト』の復活に感動できるのだろうか?
<ヤマトの復活に、日本国復活の姿をオーバーラップ?>
私は戦後の昭和24年生まれだから、「大和魂」という戦争時代の日本的な精神主義には反発が強い。しかし平成21年の今、将来への展望を失いながら安穏な平和ニッポンに多くの日本国民が安住している姿をみると、日本国や日本人の復活はどうあるべきかということを考えざるをえない。『宇宙戦艦ヤマト』が大ヒットした1970年代の日本は、まさに前向き・上昇志向で、GNPは西ドイツを抜きアメリカに次ぐ第2位になろうとしていた時代だが、現在の日本は?
本作が描くのは、西暦2220年の地球。太陽系に接近してきた巨大ブラックホールが地球を飲み込むため地球の滅亡は必至という状況下。やむをえず人類は地球から惑星アマールの衛星への移民を決意。6億人を乗せた第1次、第2次移民船団が出発したが、突如謎の艦隊の襲撃を受け相次いで消息を絶ったため、第3次移民船団の司令として古代進(山寺宏一)が宇宙戦艦ヤマトの艦長に任命されることに。地球滅亡まであと3カ月。大幅にパワーアップされた宇宙戦艦ヤマトは、古代艦長指揮の下第3次移民船団を地球から惑星アマールの衛星へ運ぶため、いかなる苦難を?そんな宇宙戦艦ヤマトの復活に、私は日本国と日本国民復活の姿をオーバーラップさせたが、さて?
<『ヤマト・オリジナルスコア』と日本フィルの演奏に注目!>
本作のストーリー構成上のポイントは、第1にすべてを飲み込んでしまうカスケードブラックホールの出現と地球からの移民を襲う強国SUSを中心とした異星人連合。そこで微妙な立場に置かれるのが、第1に星間国家連合に属しながら地球からの移民受け入れを決めたアマール星。第2に星間国家連合の一惑星国家でありながらSUS軍の理不尽な地球軍への攻撃に異議を唱える、誇り高き武士道の持ち主であるエトス星艦隊の司令長官ゴルイ提督(伊武雅刀)だ。
他方本作の映像上のハイライトは、第1に第3次移民団を護衛するヤマトとSUS軍の一員として働くエトス軍との戦い。そして第2に、SUS軍との決別を決意したアマール軍司令官パスカル将軍(井上和彦)とエトス軍ゴルイ提督がヤマトと連携してSUS軍と戦うシーン。その迫力は『U・ボート』(81年)のような実写の名作とは異質だが、見どころ十分だ。
またここで特筆すべきが、これらの戦いのシーンで奏でられる宮川泰、羽田健太郎らによる『ヤマト・オリジナルスコア』だ。いくつかの有名なピアノ協奏曲の旋律をうまく活用し、戦いのシーンをダイナミックに盛り上げてくれるから、そのオリジナルスコアと日本フィルハーモニー交響楽団の演奏に注目!
<リーダー像を本作から学ぼう>
小泉純一郎総理の後、安倍晋三・福田康夫・麻生太郎と3代続けて自公政権は短命に終わったが、その1つの原因がリーダー像にあったことはまちがいない。他方、政権交代の直前に民主党代表が小沢一郎から鳩山由紀夫に変わったことが、リーダー像という視点からはかえって良かったのではないかと思えたが、母親から提供を受けた9億円の政治資金が貸付金か贈与かという問題に一切口をつぐむ姿を見ていると、やはりそのリーダー像に疑問符がついてしまう。日本のマスコミや評論家たちは外野席から無責任なコメントをする傾向が強いうえ、上げては下ろすのが大好きだから、ひょっとすると鳩山政権の寿命も安倍・福田・麻生らと同じようにほぼ1年?そんな政治の現実を見ているだけに、本作にみるリーダー像は興味深い。
少し理想的すぎる面はあるが、何よりも素晴らしいのはヤマトの艦長に任命された古代進のリーダー像。温かい人柄の魅力はもちろんだが、際立つのは危機に陥った時の冷静沈着な分析力と行動力、そして苦渋の決断であっても決断せざるをえない時は断固とした決断を下す決断力。普天間基地問題の年内決着をアメリカから迫られているにもかかわらず、民社国の連立政権維持を優先してその方針決定を先延ばしにした鳩山首相の迷走ぶり(?)を見ていると、本作における古代艦長の毅然とした決断との差異が際立ってくる。古代艦長の決断は当然ヤマトのクルーやヤマトそのものに犠牲を強いるものだが、クルーがそれを受け入れたのはなぜ?それは、地球を守るため、愛する者を守るための尊い自己犠牲だという位置づけが明確にされているからだ。そして面白いのは、あえてそんな自己犠牲の道を選びそれに邁進すると、結果的に予想もしない味方が登場したり、敵のエラーを誘ったりすることだ。
政治家をはじめとする日本のリーダーたちは、去る11月29日から始まったNHK大河ドラマスペシャル『坂の上の雲』の秋山好古・真之兄弟をはじめ、本作にみる古代艦長のリーダー像をじっくり観察し学ぶ必要があるのでは?
2009(平成21)年12月3日記