ゴールデンスランバー(日本映画・2009年) |
<TOHOシネマズ梅田>
2010年2月13日鑑賞
2010年2月17日記
野党初の首相が凱旋パレードで暗殺!ケネディ大統領暗殺犯と言われているオズワルドにされるのは一体ダレ?そんな大胆な問題提起は社会性十分だが、映画のつくり方はテレビドラマの延長?なぜ、こんなに登場人物が多いの?そしてマンガ的キャラが突出しているの?「小泉劇場」ならぬ「逃走劇場」を、仲間たちの人物像を描きながらワイドショー的に追っただけでは、あまり意味がないのでは?
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監督:中村義洋
青柳雅春(仙台運送の元宅配ドライバー)/堺雅人
樋口晴子(青柳の元恋人)/竹内結子
森田森吾(青柳の大学時代の友人)/吉岡秀隆
小野一夫(青柳の大学時代の後輩)/劇団ひとり
佐々木一太郎(警察庁の刑事)/香川照之
保土ヶ谷康志(仙台病院センターの入院患者)/柄本明
キルオ(黒いパーカーの男、連続殺人犯)/濱田岳
凛香(アイドル)/貫地谷しほり
井ノ原小梅(ラジコンヘリが趣味の女性)/相武紗季
轟静夫(花火会社の社長)/ベンガル
樋口伸幸(晴子の夫)/大森南朋
青柳平一(青柳の父親)/伊東四朗
鶴田亜美(一夫の恋人)/ソニン
小鳩沢(刑事、佐々木の部下)/永島敏行
青柳照代(青柳の母親)/木内みどり
金田貞義(首相)/伊藤ふみお
岩崎英二郎(仙台運送の青柳の先輩宅配ドライバー)/渋川清彦
田中徹(仙台病院センターの入院患者)/波岡一喜
矢島(テレビ局ディレクター)/木下隆行
岩崎美智代(岩崎の妻)/安藤玉恵
2010年・日本映画・139分
配給/東宝
<首相暗殺の背景は?動機は?その突っ込みは?>
本作の主人公は、首相暗殺の犯人に仕立て上げられた男青柳雅春。青柳役を演ずるのは、近時『南極料理人』(09年)や『クヒオ大佐』(09年)などの軽妙な演技で存在感を増している堺雅人だ。野党初の首相となった金田貞義(伊藤ふみお)が凱旋パレード中ラジコン爆弾で暗殺されたのは仙台だから、きっと彼の選挙区は仙台?
それはともかく、久しぶりに会った大学時代の友人森田森吾(吉岡秀隆)から、ワケがわからないまま「お前、オズワルドにされるぞ」と言われた直後、ホントに爆発が起きたから、青柳はビックリ。その直後から青柳の逃走劇が始まるわけだが、ところでなぜ2009年5月11日に日本で野党出身の首相が生まれ、仙台でパレードしているの?また、暗殺多発の国アメリカならともかく、平和ボケしてしまった今のニッポン国で首相暗殺を企てる男などホントにいるの?あるいは、そんなことを狙う組織がホントにあるの?本作を観るについては、まずそんな背景事情をそれなりの説得力を持って描き、なぜ青柳が首相暗殺犯に仕立て上げられたうえ逃げ回らなければならなくなったのかのリアリティを持たせてほしかったが、私が観る限り本作ではそういう突っ込みは極めて弱い。これではせっかく期待して観に行ったのに、大きく見込み違い・・・。
<ストーリー展開の中核メンバーは?>
本作のストーリー形成の中核メンバーとなるのは、冒頭に青柳に語りかけた森田の他、大学時代「ファストフード友の会」の仲間だったという後輩のカズこと小野一夫(劇団ひとり)や元恋人の樋口晴子(竹内結子)たち。この2人や仙台運送の先輩宅配ドライバーで、仕事を青柳に教えたことを自慢している岩崎(渋川清彦)たちが、青柳は犯人ではないと信じて青柳の逃走劇を手助けするわけだ。しかし、「犯人蔵匿罪」になることがミエミエなのに、大学時代の仲間だったというだけの理由で青柳の無実を信じ、青柳の逃走劇を手助けできるの?そこらのツメが甘い点も、私には大いに不満だ。本作には、それ以外にも多くの人物が登場する。しかし、私見ではどう考えてもこりゃ多すぎ。しかも、なぜかマンガ的キャラが多いのが気になる。
他方、本作のポイントは青柳を暗殺犯に仕立てあげたのは一体ダレ?また、それは何のため、ということだがそれをめぐる登場人物は?それをめぐって登場するトップバッターが、ラジコンヘリが趣味という謎の女小梅(相武紗季)だが、彼女が何者かという突っ込みがイマイチ不十分。また、本作には全国指名手配されている黒いパーカーの男キルオ(濱田岳)が登場し、なぜか折にふれて青柳を助ける役割を果たすが、彼の存在や役割もイマイチ不明だ。
このように本作のストーリー形成の中核メンバーは多いが、実はこれ意外にも続々と・・・。
<登場人物が多すぎでは?なぜマンガ的キャラばかり?>
本作には、NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』では正岡子規役で、NHK大河ドラマ『龍馬伝』では岩崎弥太郎役で大活躍中の香川照之が佐々木刑事役で登場する。しかし、その能力は見かけ倒し(?)で、やっていることをみるとドジばかり・・・。他方、青柳は一時ひょんなことで有名人になったことがあるが、そのエピソードの主としてアイドルの凛香(貫地谷しほり)が登場する。しかし彼女も、青柳の友人たちから「ところで凛香とヤったのか?」という下ネタの話題として使われる他、最後にワケのわからない形で登場してくるだけだから、その位置づけがイマイチ不明だ。
さらに、『龍馬伝』では「攘夷、攘夷」と叫び、最近は目が血走ってきた大森南朋が、本作ではプロローグとエピローグで妻の晴子と一人娘を連れた買い物客として登場するが、これもわざわざ作った感じでちょっと軽薄な感じ。唯一人、賛否両論の価値判断が分かれるだろうが、あくまで首相暗殺犯とされた息子を唯一人擁護して毅然とマスコミと対決する父親青柳平一(伊東四朗)の存在感が光る。また、後半意外な存在感を示すのが、「地下を走る下水道管には雨水を通す雨水管と汚水管があってさ……」と講釈を垂れる、「その道」の男保土ヶ谷康志(柄本明)だが、そのアドバイスの効用は?この保土ヶ谷をはじめとして、市街地でド派手にショットガンをぶっ放す不気味な小鳩沢刑事(永島敏行)など、本作に登場してくる人物はマンガ的なキャラばかり。こりゃ一体なぜ?
<タイトルの意味は?その活用は?>
『ゴールデンスランバー』の意味は、「最高のまどろみ(うたた寝)」ということらしいが、本作では森田のiPODに収録されているビートルズの楽曲『GOLDEN SLUMBERS』が映画全編にわたって大きな意味をもってくる。青柳が大学時代に「ファストフード友の会」の仲間である森田、カズ、晴子たちとファストフードを食べながら交わした会話の1つが、「ポールは……、バラバラになった皆をさ、もう一度つなぎ合わせたかったんだよ」だが、今バラバラになっているのはビートルズではなく、俺たち4人の仲間。
そんな思いで青柳は逃げ回るわけだが、それを支えるのは4人の仲間たちへの信頼だ。しかして、車に仕掛けられた爆弾の爆発によって死んでしまった森田を除く他の仲間たちは青柳の逃亡にいかなる協力を?ラスト近く、再度雨水管に逃げ込んだ青柳の胸には確実に佐々木刑事が放ったピストルの弾が当たったはずだが、なぜ青柳は生きているの?それを解く鍵は青柳の胸ポケットに入れてあったあのiPOD。ところで、iPODってホントに拳銃の弾を防ぐことができるほどの強度があるの?
<今や首相暗殺事件も、「逃走劇場」に?>
私は2001年4月に登場した小泉内閣と小泉純一郎総理のリーダーシップを高く評価しているが、反小泉論者はこれを「小泉劇場」と批判し、小泉改革=格差の拡大と攻撃した。しかし、小泉劇場をつくり出し、これに乗っかってバカみたいな政治ニュースを量産したのは当のマスコミであって、小泉純一郎総理はそれを利用しただけ。そう考えると、明らかにステレオタイプなマスコミより、したたかな小泉純一郎総理の方が上だったということだ。私はここ10年ほどテレビのバラエティー番組は全く観なくなったが、それはあまりにもそのレベルが低すぎるため。
そんな目で本作をみると、一国の危機を招きかねない首相暗殺という大事件さえ、その報道は犯人の逃走をめぐる「逃走劇場」と化し、視聴率万能主義のマスコミの取材はあくまでバラエティー風。青柳からたった一社だけ連絡をもらったテレビ局ディレクターの矢島(木下隆行)の取材ぶりを観ているとそれががよくわかるし、何よりも本作の描き方そのものがテレビ的かつバラエティー風。しかし、首相暗殺をテレビが報道するについては、犯人捜しも大切だが、なぜそんな社会状況になったのかという分析の方が大切。貧困化の進む今の日本が1930年代の日本に類似しており、そのうち北一輝が登場したり、2.26事件が起きる可能性があるなどと真剣に考えている人は少ないはずだが、2010年のわが日本国、ホントにこれでいいの?
<「暗殺犯死亡」のニュースにひと安心?>
トヨタの名車プリウスの「ブレーキ不具合」とこれに続く「リコール」のニュースが全世界をかけ巡っているが、これはアメリカによる陰謀だという説があることをご存知?青柳の父親平一宅に駆けつけてコメントを取ろうとする記者たちの姿をみていると、彼らは全員青柳が暗殺犯であることを前提としているようだが、それってホントはおかしいのでは?したがって、そこで見る平一の対応と反論は誰でもできるものではないが、私には胸がスカっとする思い。
しかして、マスコミ大注視の中で展開される大捕物帳や、その中で突如起きる花火大会(?)のクライマックスを経て、今テレビニュースで流れるのは犯人死亡のニュース。しかし、こんなマスコミ報道ってホントに信用できるの?そんなテーマの設定は面白いが、ラストのあっと驚く展開は少しマンガ的?買い物の途中、晴子から「よくできました」と二重丸のハンコをもらったのは一体ダレ?また、岩崎の浮気を妻の美智代(安藤玉恵)に密告した(タレこんだ)のは一体ダレ?エンディングに余韻を残そうとする狙いは理解できるが、大胆な問題提起作だけにこんな中途半端な終わり方は、私には少し残念。
2010(平成22)年2月17日記