東京島(日本映画・2010年) |
<GAGA試写室>
2010年6月23日鑑賞
2010年6月24日記
漂着した無人島で始まった、43歳の女と16人の若者たちの生活とは?そのバランスは難しいが、さらにそこに屈強な6人の中国人が漂着!さあ、そこで展開されるパワーバランスとは?そして、意外な生命力を見せる女の生きザマと選択とは?そんなテーマは今日的かつ現実的で面白いが、後半のドタバタ劇は少し残念。極限状況下での女の生きザマ論と昨今の日中若者論に、論点を絞った方がよかったのでは?
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監督:篠崎誠
原作:桐野夏生『東京島』(新潮社刊)
清子(専業主婦)/木村多江
ワタナベ(グループに加わらない変わり者)/窪塚洋介
GM、ユタカ、森軍司(清子の3人目の夫)/福士誠治
オラガ(グループの穏健派)/柄本佑
カスカベ(清子の2人目の夫)/山口龍人
ヤン(中国人グループのリーダー)/テイ龍進
キム(フィリピン人のダンサー兼歌手のリーダー)/サヘル・ローズ
マリア(ダンサー団の一員)/大貫杏里
隆(清子の夫)/鶴見辰吾
2010年・日本映画・129分
配給/ギャガ
<テーマは絶品!ヒロインも絶品!しかし・・・>
本作の冒頭は面白い。「いる?いらない?」「いらない?いる?」と洋服選びをしているのは、専業主婦で43歳になる清子(木村多江)。どこのブランドか私にはわからないが、結局ボストンバッグにつめ込まれてしまった高級そうなシルクのスカーフとタオル地の大きなシーツ(?)は、清子が流れ着いた無人島(=東京島)で、どんな風に役立つの?
せっかく夫の隆(鶴見辰吾)からプレゼントされた船旅に出たのに、その船が嵐にあって無人島に漂着。そんな話は現実にはありえないが、そこで女1人、男16人が生活するという構図になったら、島の秩序はどうなるの?さらに、何とか島に持ち込んできたものの中で、1番役に立たないものが生活能力ゼロの夫だということがわかった時の清子の対応は?そんなテーマは絶品だ!また、女の多面性をむきだしにしたヒロイン清子に、進境著しい演技派の木村多江を選んだのもベストチョイス!
ところが、私の目には本作後半の展開と結末はイマイチ。それは、登場人物を多くしすぎてテーマが散漫になったことと、シリアス路線かユーモア路線かの選択が中途半端で、「二兎を追うものは一兎も得ず」の結果になってしまったため?
<女1人、男16人のバランスは?>
ロビンソン・クルーソーの例を見れば、無人島に流れ着いたら食料、水、衣類、燃料、家など自力で準備しなければならないものが多いから大変。しかし、与那国島での厳しいバイトから逃げてきた男ばかり16人のフリーター集団と清子との共同生活を観ていると、東京島は割と豊からしい。
本作第1の論点は、謎の死亡を遂げた清子の夫・隆の死亡の原因は?ということだが、さてあなたの考えは?本作はその点について明確な答えを出さないまま、清子が第2の夫・カスカベ(山口龍人)、そしてカスカベも謎の死亡(?)を遂げた後の第3の夫・GM(福士誠治)を迎えるサマを描いていく。本作前半に展開されるそのストーリーは結構面白い。
あえて他人の深部に立ち入らず、表面上だけで仲良くつき合っていこうとする今ドキの若者の人生観が、東京島の秩序維持の源泉となっていることは明らかだ。また、島にたった1人しかいない女・清子の夫をクジ引きで選ぼうという穏健派のオラガ(柄本佑)の現実的提案(?)やそれを具体化していく若者たちの民主主義の成熟度(?)もなかなか大したものだ。夫死亡後の16人の若者たちと清子との間の奇妙な共同生活は、このような微妙なバランスの上で立派に維持されているように思えたが・・・。
<本作が描く日中の若者の生態は、現状にピッタシ!>
女1人、男16人のバランスがうまく成り立っていたのは、若者たちがみんな日本人だったからだが、そこに、ある日中国人の屈強な男たち6人が流れ着いたから大変。彼らは日本への密航に失敗した男たちだが、リーダーのヤン(テイ龍進)の筋骨のたくましさ、野性の豚を殺し、捕った魚を乾燥させて保存する生命力のたくましさは日本人の若者とは大違い。日本の男たちは彼らを恐がったが、清子は女の魅力を適度に振りまきながら(?)、1人おいしそうに豚肉を食べ、生きるたくましさは増していく一方だ。
他方、東京島での現状に安住し、脱出のための方策など何も考えない日本の若者に比べ、ヤンたちは立派な(?)脱出用の船を完成!ここでのヤンの決めゼリフは「俺と一緒に行くか?」だが、2番目の夫・カスカベを持つ身の清子はさすがに慎み深い日本人の建前論でそれを拒否。ここで面白いキーワードが、小籠包や麻婆豆腐などの日本人でもわかる中国語。それを聞いて思わず足を止めた清子への決めゼリフは、たどたどしいケンタッキーの言葉だ。
婚カツの後押しをしなければ女も口説けない日本の若者と違って、ヤンは女の口説き方も積極的でパワフルそして実利的!ケンタッキー食べたさにつられて清子が船に乗り込む姿を観ていると、思わず「これでいいのかニッポン人!」と叫び出しそうになったが、本作が示す日中の若者の生態はまさに現状ピッタシ!
<キーマンは、変わり者のワタナベ>
日本の若者はみんなダメ男ばかり?いやいや、あながちそうでもないことはゴルフ界の石川遼クンを見れば明らかだ。カリフォルニア州のペブルビーチゴルフリンクスで開催された全米オープンでは、6月20日の最終日に大きく崩れて結果的に33位にとどまったが、彼がレポーター役としてついていた青木功プロを追い越す日はそう遠くないのでは?
本作のキーマンは、東京島で暮らしながら日本人の集団に1人だけ加わらない変わり者のワタナベ(窪塚洋介)。ワタナベの生きザマはきっと石川遼路線ではなく、青木功路線。つまり、他の16人の若者とは異なり、自分の意見をしっかり持ち、いかに孤立してもそれを貫いていくというものだ。もっとも、私がわからないのは、ワタナベが清子を「ばばあ!」と罵倒し、徹底的に嫌っていること。ある状況下で、ある一瞬、この2人が砂浜の上で上と下になり、「こりゃひょっとして・・・」と思わせるシーンもあるが、さてその展開は?
さらに、私が納得できないのは、中国語を勉強したことのないワタナベが、なぜかヤンたちとコミュニケーションができるという設定。1年前から一生懸命中国語を勉強している私なればこそ、ヤンがしゃべる中国語は理解できたが、ワタナベがあのセリフを理解するのは到底ムリなはずだ。それはともかく、本作ではこの変わり者のキーマン、ワタナベに注目!
<後半のドタバタ劇をどう評価?>
本作は清子の妊娠が発覚したあたりから、ドタバタ劇的傾向を強めていく。清子を船に乗せるかわりにワタナベをノックアウトして島から脱出したヤンたち中国人グループはどうなったの?妊娠した清子の父親は一体誰?そしてまた、漂流時に記憶を喪失したという清子の第3の夫GMは意外にやさしい男だったが、ある日彼の記憶が回復した後の日本人たちが構築しようとした島の秩序とは?
そんなこんなが入り交じりながら後半のストーリーが展開していくが、子供を産むために清子が頼りない日本人たちを離れて、再度中国人グループへの接触を図るところで、新たにあっと驚く女たちが登場する。それが、キム(サヘル・ローズ)をリーダーとするフィリピン人たちのダンサー兼歌手だ。しかし、清子の妊娠が明らかになったところで、そしてまた日本人グループと中国人グループとの「決着」がついていないところで、新たにこんな女たちが5人も登場したらどうなるの?やっと訪れてくる(?)、日本人グループによる中国人グループへの急襲シーンを含む、後半のドタバタ劇をあなたはどう評価?私は「二兎を追うものは一兎も得ず」の失敗例とみたが、さて・・・?
2010(平成22)年6月24日記