ミックマック(フランス映画・2009年) |
<角川映画試写室>
2010年7月9日鑑賞
2010年7月12日記
主人公プラス7人の侍VS軍需産業の対決!そんな社会問題をヒューマンタッチでユーモラスに表現!注目は、濃いキャラとユニークな作戦の数々。既成の価値観にとらわれない自由な発想が面白い。マイケル・ムーア監督流の「告発」も面白いが、ジャン=ピエール=ジュネ監督のフランス流ユーモア心はもっと面白い。映画はこんな風につくり、楽しまなくちゃ。そして鑑賞後、「世界が平和でありますように」とのメッセージをみんなで共有しなければ・・・
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監督:ジャン=ピエール=ジュネ
バジル(頭の中に弾の残った男)/ダニー・ブーン
フラカス(人間大砲のギネス記録を持つ男)/ドミニク・ピノン
ド・フヌイエ(オーベルヴィリエ軍事会社社長)/アンドレ・デュソリエ
フランソワ・マルコーニ(ヴィジランテ兵器会社社長)/ニコラ・マリエ
プラカール(ギロチン男)/ジャン=ピエール・マリエル
タンブイユ(料理番)/ヨランド・モロー
ラ・モーム・カウチュ(軟体女)/ジュリー・フェリエ
レミントン(言語オタク)/オマール・シー
プチ・ピエール(発明家)/ミッシェル・クレマド
カルキュレット(計算機)/マリー=ジュリー・ボー
2009年・フランス映画・105分
配給/角川映画
<早く本論へ!冒頭のスピード感に感服!>
ハリウッドの超大作には3時間を超える映画がザラだし、園子温監督の『愛のむきだし』(08年)は何と3時間57分とバカ長い。長尺だから悪いわけではなく、3時間以上観客をスクリーンに引きつける魅力があればそれでいいのだが、最近の邦画はシンプルなテーマでも2時間前後のものが多くなっている。そこで私が強く感じるのは、スピード感の欠如。つまり、工夫すれば数秒、数分で状況を観客にわからせることができるはずなのに、あくまで正攻法(?)でくどくどと状況説明をしているものが多いということ。その点、フランス映画は昔からスピード感がある。したがって、フランス映画は一般的に上映時間が短く、その傾向は最近でも変わらない。しかして、本作のスピード感は?
本作のテーマは、主人公プラス7人の侍VS軍需産業の対決だが、その「本論」に入る前の状況説明のスピード感は抜群。本作の主人公は、香港の杜琪峰(ジョニー・トー)監督最新ハードボイルド映画の傑作『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(09年)の主人公コステロと同じように、頭の中に弾丸が残ったままの男バジル(ダニー・ブーン)。なぜ彼はそんな不幸な目に合ったの?また、30年前彼が子供だった頃、なぜ父親は地雷の爆発のために命を失ったの?「本論」に入るための状況説明が本作冒頭に描かれるが、そのスピード感や良し!冒頭の数分間を観ただけで、「本論」への期待感が強まってくるはずだ。
<社会派タッチ?それともヒューマンタッチ?>
バジルが立ち向かうのは、銃弾を製造・販売するオーベルヴィリエ軍事会社と、地雷を製造・販売するヴィジランテ兵器会社。バジルの父親を吹き飛ばしたのがヴィジランテ兵器会社の地雷、そしてバジルの頭の中に残っているのがオーベルヴィリエ軍事会社の銃弾というわけだ。映画を面白くするための最大のポイントは主役だが、それと同じように大切なのが敵役の存在感。その点、『アメリ』(01年)と『ロング・エンゲージメント』(04年)に続くジャン=ピエール=ジュネ監督の本作では、オーベルヴィリエ軍事会社の社長ド・フヌイエ役を演ずるアンドレ・デュソリエとヴィジランテ兵器会社の社長フランソワ・マルコーニ役を演ずるニコラ・マリエが、2人そろって何とも味のあるベテランらしい演技を見せてくれるから、それに注目!
軍需産業の告発!死の商人の告発!といえば何とも重々しい社会的テーマだから、社会派タッチで描けば問題提起作になるのは必至。例えば、マイケル・ムーア監督の『キャピタリズム ~マネーは踊る~』(09年)は、資本主義そのものを告発するという社会的テーマに真正面から立ち向かったものだが、本作はそれとは全然違うヒューマンタッチそしてユーモアタッチ。オドレイ・トトゥを一躍有名にした『アメリ』が面白かったのはなぜ?それは恋に無器用な主人公アメリのキャラをはじめ、全編にユーモアが溢れ、ヒューマニズムに満ちていたからだ。ジャン=ピエール=ジュネ監督は本作でもその路線を狙っているから、そのヒューマンタッチの温かさを心ゆくまで味わいたい。
<フランス版「七人の侍」たちの濃いキャラに注目!>
レンタルビデオ店で働いていたバジルはある晩発砲事件に巻き込まれ、命は助かったものの頭の中に流れ弾が残ったまま生きていかざるをえないことに。これによって、職も家も持ち物もすべて失ってしまったバジルに対して救済の手を差し伸べたのは、廃品回収場で共同生活をしている個性的な7人の男女。その個性とキャラの濃さは映画の中でタップリと味わってもらいたいが、バジルの復讐に協力することになるフランス版、現代版「七人の侍」たちのキャラを紹介しておくと、次のとおりだ。
①まず、バジルに最初に接触した「ギロチン男」ことプラカール(ジャン=ピエール・マリエル)
②「料理番」の肝っ玉母さん、タンブイユ(ヨランド・モロー)
③何でもすぐに計測できる「計算機」の女の子、カルキュレット(マリー=ジュリー・ボー)
④ガラクタから精巧なからくり人形をつくる「発明家」の老人、プチ・ピエール(ミッシェル・クレマド)
⑤人間大砲のギネス記録が自慢のフラカス(ドミニク・ピノン)
⑥冷蔵庫の野菜室に入ることができるほどの「軟体女」ことラ・モーム・カウチュ(ジュリー・フェリエ)
⑦元・民俗学研究者の「言語オタク」ことレミントン(オマール・シー)
黒澤明監督の『七人の侍』(54年)では、リーダーの島田勘兵衛(志村喬)と三船敏郎演ずる菊千代のキャラが際立っていたが、本作における7人の侍たちは全員個性的。戦後日本は画一的な教育を目指したため、一芸に秀でた人を育てることに失敗してしまったが、本作を観れば、人間にとって何より大切なのは個性だというフランス的な主張がよくわかる。
もっとも、もともとバジルの復讐に何の関係もない「七人の侍」たちは、木枯し紋次郎ばりに「あっしには関わりねえことでござんす」と言ってもいいのだが、最近何かと個人的な行動が目につくバジルの「告白」を聞いた「七人の侍」たちの人間味豊かな決断は?
<ユーモアいっぱいの○○作戦、△△作戦を楽しもう!>
太平洋戦争では、当初の日本海軍の「真珠湾奇襲作戦」「ハワイ・マレー沖作戦」などは大成功だったが、「ミッドウェイ作戦」で大失敗。以降は「キスカ島撤退作戦」で奇跡の成功を収めたのが唯一の例外で、それ以外の作戦は失敗の連続となった。陸軍も「インパール作戦」では世紀の大失敗を犯してしまった。しかして本作で、バジルと7人の侍たちが仕掛ける「煙突からマイクで盗聴作戦」をはじめとするさまざまなユニークな作戦は?
日本海軍・陸軍の作戦を立案したのは「参謀」たちだが、本作で作戦を立案するのはバジルと7人の侍たち。日本の参謀が当時最も優秀な軍事官僚だったことは確かだが、残念ながら個性が薄かった?少なくとも、本作におけるバジルと7人の侍たちほどの濃い個性がなかったことは確実だ。したがって、その作戦は前例の成功にとらわれたり、情報が漏れていることに気づかなかったりという欠陥が露呈したわけだ。しかし、本作における数々の作戦は、そのすべてが個性的かつユニークだから、成功の確率は高い。また軟体女が大活躍するように、頭脳だけではなく、強力な実践部隊がいることも強みだ。私が最高に面白いと思い、ゲラゲラ笑ったのは「警備主任を色じかけ作戦」。ユーモアいっぱいの○○作戦、△△作戦を堪能したい。
<さすがフランス映画!恋模様もしっかりと!>
2010年6月11日から南アフリカ共和国で開催された2010FIFAワールドカップは、世界の注目を集める中スペインの初優勝で幕を閉じた。本作では元独裁者のブルンガの密使トリオが登場し、オーベルヴィリエ軍事会社とヴィジランテ兵器会社との取引が進んでいく。この国がアフリカのどこにあるのかよくわからないが、ひょっとして南アフリカ共和国のすぐ近く?
バジルたちはそんな取引に目をつけ、さまざまなイタズラを仕掛けることによってオーベルヴィリエ軍事会社とヴィジランテ兵器会社を反目させていくことに少しずつ成功していく。そこでは、ある大きな黒人男が面白い役割を果たすのでそれにも注目したいが、フランス映画に欠かせないのが恋模様。7人の侍のうち女性は3人だが、作戦が激化していくにつれて恋模様が深まっていくのはバジルと軟体女のカウチュ。これはきっと、2人とも第一線で危険な作戦に従事しているからという理由からだが、さてそれだけの理由かどうかは本作を味わう中でじっくり確認したい。中国旅行に行くと雑技団の舞台でカウチュのような軟体女をよく見かけるが、それはすべて若い女の子。ところが、カウチュを演ずるジュリー・フェリエは1971年生まれ。よくもまあ、あんな演技(?)ができることだと感心。
映画はハッピーエンドが一番。そんな原則どおり(?)本作は「北アフリカでバカンス作戦」で胸のすくハッピーエンドになるが、復讐が終わったバジルの人生はそれでおしまい?いやいや、それでは味気ない。『七人の侍』は「勝ったのはあの百姓たちだ。俺たちではない。百姓は土と共に何時までも生きる」という勘兵衛の最後のセリフが大きな意味を持っていたが、娯楽作の本作にはそんな大層なセリフはない。ただ全体として「世界が平和でありますように」という温かいメッセージが伝わってくるだけだ。本作のラストは、さまざまな試練を共に重ねる中で「戦友」となったバジルとカウチュが交わすはじめてのキス。さすがフランス映画!恋模様もしっかりと!こんなイキでおしゃれなフランス映画、私は大好き!
2010(平成22)年7月12日記