冬の小鳥(韓国、フランス映画・2009年) |
<東映試写室>
2010年9月13日鑑賞
2010年9月15日記
1975年頃の韓国には「孤児輸出問題」があったらしいが、それってナニ?その実態は?それは、9歳の時養女となってフランスへ渡った体験を持つ、女流監督による本作を観ればよくわかる。実の父親から捨てられた絶望とは?そして、養護施設での交流の中で見い出した再生とは?日本人には馴染みの薄いテーマだが、ここでも映画から学べることがいっぱい!
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監督・脚本:ウニー・ルコント
ジニ(9歳の少女)/キム・セロン
スッキ(ジニの友人となる年上の女の子)/パク・ドヨン
イェシン(足の悪い年長の女の子)/コ・アソン
寮母/パク・ミョンシン
児童養護施設の院長/オ・マンソク
ジニの父/ソル・ギョング
医師/ムン・ソングン
2009年・韓国、フランス映画・92分
配給/クレストインターナショナル
<女性監督自身の体験から>
本作は韓国生まれでフランス育ちの女性監督ウニー・ルコントのデビュー作。彼女自身、9歳の時フランス人の両親に養女として引き取られたというから、本作で強い印象を残すキム・セロン演ずる9歳の女の子ジニは実はウニー・ルコント自身?まず、その邦題に注目してほしい。日本初公開時の邦題は『旅人』だったらしいが、日本公開時には『冬の小鳥』とされた。それは一体なぜ?
誰でも子どもの頃、可愛がっていた金魚や鳥などが死んだとき、土の中にその死骸を埋めてお墓を作ってやった経験があると思うが、本作にもそんなシーンが登場する。ジニはソウル郊外にある児童養護施設に入所した後、何かと世話をやいてくれる年長者の女の子スッキ(パク・ドヨン)と仲良しになるが、二人でこっそり世話をやいていた小鳥が死んでしまうと、二人はこれを土の中に埋めるしか方法がなかった。しかし、一緒にアメリカに行こうと約束していたスッキがなぜか約束をやぶって一人で施設を出て行ってしまうと、ジニは 小鳥の死骸を埋めていた穴を掘り返して自らの身体を掘った穴の中へ。
9歳の女の子がなぜこんな行動を?ジニは自分をあの死んだ小鳥と同じ状況にしたかったの?自ら脚本を書いたウニー・ルコント監督の9歳の時の心のひだを、あなたはいかに理解?
<韓国における「孤児輸出問題」とは?>
映画は感性!映画は勉強!私は常にそう言っている。しかして本作では、9歳の女の子ジニが①父親(ソル・ギョング)に捨てられてしまったことの絶望、②児童養護施設の中での女の子らしいさまざまな人間的交流の姿、③父親との決別と養親のもとへ旅立つことによるジニの再生への希望、をあなた自身の感性によっていかに感じとるかがポイント。本作はテーマが一点に絞られているため、わかりやすいといえばたしかにそうだが、逆に少し退屈する面もある。しかし、上映時間は92分だから決して飽きることはないはずだ。
他方、本作で勉強できることは韓国における孤児輸出問題。プレスシートには武蔵大学 人文学部日本・東アジア比較文化学科准教授、渡辺真紀氏の「映画『冬の小鳥』と韓国の海外養子縁組」という解説あるので、詳しくはそれを参照してもらいたいが、1975年頃の韓国では朝鮮戦争終了後、米軍兵士との間に生まれた戦争孤児が多く児童養護施設に引き取られ、海外養子縁組の成立を心待ちにしていたらしい。本作の主人公ジニはそういう境遇ではなく、父親の再婚によってはみ出されてしまったかわいそうな境遇だが、韓国におけるそんな海外養子縁組は孤児輸出問題として社会問題化していたらしい。
日韓併合100年を迎えた今年はさまざまな日韓問題を掘り起こす作業が続けられているが、1950年代後半以降高度経済成長を続けた日本では考えられない韓国における孤児輸出問題を、本作を契機としてじっくり考えてみたい。
<この女優にも注目!>
本作の主演女優は全編出ずっぱりのジニを演じたキム・セロン。他方、助演女優の一人はキム・セロンと同じく、映画初出演ながら大きな存在感を示したスッキ役のパク・ドヨンで、ジニとの絡みでストーリー構成上大きな役割を果たしている。他方、もう一人別の視点から海外養子縁組をめぐるストーリー形成に大きく関与している助演女優が、なかなか外国人からお呼びがかからず、韓国人からの養女の申し入れに悩む年長者の少女イェシン役を演ずるコ・アソン。足の悪いイェシンにいいお呼びがかからないのは当然かもしれないが、映画はイェシンについてだけは、ちょっとした恋愛模様を描いていく。女ばかりの児童養護施設だから、出会う男がそこに出入りする男に限られるのは当然だが、思い切って書いたラブレターに対する男からの反応は?ポイントを絞った本作の中で、唯一の脇道的ストーリーがこのイェシンを主人公として展開されるが、これもきっとウニー・ルコント監督が体験したストーリー?
そんな複雑な女の子イェシンを演じる何とも芸達者な女優コ・アソンは韓国映画興行収入第1位の座をキープしている『グエムル 漢江の怪物』(06年)で、グエムルに囚われた女の子を演じていた女優(『シネマルーム11』220頁参照)。1992年生まれというから、『グエムル 漢江の怪物』の時の彼女は14歳だが、本作では既に17歳。汚い格好で足を引きずっているからあまり目立たないが、よくよく見ればかなりの美人だから、この女優コ・アソンにも注目!こりゃ本作を契機として、さらにステップアップしていくのでは。
2010(平成22)年9月15日記