超強台風(中国映画・2010年) |
<宣伝用DVD鑑賞>
2010年11月1日鑑賞
2010年11月2日記
ディザスター・ムービーはハリウッドの専売特許ではない!中国映画だって!浙江省温州市を襲った“藍鯨(あいげい)”はニューオリンズを襲った“カトリーナ”にも匹敵する「超強台風」だが、そんな危機に直面した市長の対応と決断は?こんなスーパー市長、いるはずがない!一方ではそう思うが、次々と襲ってくる危機の中、ベストと信じる決断と人間性あふれる行動を示す市長を見ていると、思わず目頭が熱くなってくる。そこで思うのは、日本になぜこんなリーダーがいないの?ということだが、それって所詮ないものねだり?菅直人総理以下の、危機管理を担当する大臣はくだらない会議をやめて、早急に本作の鑑賞を!
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監督・脚本・撮影・特撮美術・編集:馮小寧(フォン・シャオニン)
市長/巫剛(ウー・ガン)
気象学者/宋暁英(ソン・シャオイン)
研修医/劉小微(リウ・シャオウェイ)
町長/尹国華(イン・グォホワ)
出稼ぎ労働者/周征波(ジョウ・ジェンポー)
2008年・中国映画・94分
配給/ブロードメディア・スタジオ
<はじめて中国産ディザスター・ムービーを鑑賞、製作費はHow Much?>
日本には『日本沈没』(73年)やそのリメイク版『日本沈没』(06年)、ハリウッドには『パーフェクト・ストーム』(00年)、『デイ・アフター・トゥモロー』(04年)などのディザスター・ムービーがあり、大規模災害をテーマとした映画は1つのジャンルとして確立している。私は中国映画が大好きで過去200本以上観ているが、中国産ディザスター・ムービーは本作がはじめてだ。同じ馮小寧(フォン・シャオニン)監督が約20年前に撮った『大気層消失』(89年)があるらしいが、中国映画ではディザスター・ムービーは少ないはず。
近時はCGの進歩が著しいうえ、ディザスター・ムービーには特にCGがつきもの。したがって、ディザスター・ムービーの製作費が高くつくのはやむをえない。ちなみに『パーフェクト・ストーム』は1億4000万ドル(約140億円)、『デイ・アフター・トゥモロー』は1億2500万ドル(約125億円)とハリウッド大作では100億円単位の製作費が当たり前だし、リメイク版『日本沈没』も20億円だ。ところが本作は極力CGを使わず、「手づくり」が多いことが、スクリーンを観ているとよくわかる。逆に「これはきっと模型だ」というのもすぐにわかるが、生身の人間の身体を張った演技も多く、そのハードさがモロに伝わってくる。しかして、中国産の本格的ディザスター・ムービーたる本作の製作費は、何と5000万元(6~7億円)とバカ安!
<“藍鯨”のモデルは“桑美”!“カトリーナ”と比べると?>
台風は毎年1月1日以降発生順位に応じて番号がつけられるが、同時に呼び名(愛称?)がつけられることも多い。本作のそれは“藍鯨(あいげい)”だ。日本では「昭和の三大台風」と言われている室戸台風(1934年)、枕崎台風(1945年)、伊勢湾台風(1959年)があるし、アメリカでは05年8月にニューオリンズを襲ったハリケーン“カトリーナ”などがある。しかして、中国のそれは、06年8月で福建省や浙江省で多大な被害をもたらした台風8号、通称“桑美(さおまい)”らしい。“桑美”は“カトリーナ”にも匹敵するもので、「とくに被害の大きかった浙江省温州市では死者・行方不明者が100人を超え、経済損失は約45億元に及んだ」とのことだ。
『日本沈没』の映画を作っても、これによって「日本沈没」を防止しようという意欲には結びつかないが、浙江影視集団が本作の製作に投資したのは、「温州市を舞台としたこうした災害を映画に再現することで、潜在的な予防につなげたい」との願いが込められているらしい。なるほどなるほど、そういう願いが込められているからこそ、こんな主人公やあんな脇役を登場させ、このような感動的なつくり方に・・・。
<主役は「市長」だが、冒頭が面白い!>
本作の舞台は人口120万人の都市である浙江省の温州市。そして、主役は私が今回はじめて知った巫剛(ウー・ガン)演じる温州市長。中国では市長はもちろん中国共産党員だが、近時共産党の幹部や市の幹部たちの汚職・腐敗がひどい。ちなみにネット情報によると、中国では国を挙げて「反腐敗闘争」を展開しているが、08年の公式統計によると、汚職で処分された人は15万1000人に上っており、うち共産党幹部は4960人もいるらしい。また、06年に起きた党上海市委員会の書記というトップにいた陳良宇(党中央政治局員)の解任劇は、最大級の汚職事件によるものだ。ちなみに、陳良宇事件を特集した雑誌のサブタイトルは「愛人12人、パスポート16冊」だったというから、汚職・腐敗の底深さがよくわかる。しかし、温州市の市長はその正反対。市長は何よりも市民の生命・財産のことを考え、重圧がかかる状況下で決断を下し、市民に危険が迫れば自ら身体を張ってその防止に向かっていく理想の市長だ。本作は全編を通じて、それが大きな見どころとなっている。
しかし、最初からそんな市長像を示したのでは面白くない。そこで馮小寧監督は冒頭、市場内をうろつくコソ泥と市長との力の対決(?)と「このシマは俺のものだ」という言葉の対決、さらにその挙句の逮捕劇という面白いシークエンスを用意しているので、それに注目。この導入シーンだけで市長のスーパーマンぶりに唖然とするとともに、その人間的魅力にひきずり込まれるはずだ。
<市長の「決断」には、専門家の「意見」が不可欠>
民主党政権の「売り」は政治主導だが、それは官僚たたきではなく、官僚やさまざまな専門家に十分な資料や意見を提出させたうえで政治家が決断を下すことのはず。ところが、民主党のもう1つの「売り」である「事業仕分け」をみていても、官僚のやっていることに文句をつけることはできても、政治家としての決断ができないことに気づいてしまう。さらに消費税問題をみても尖閣諸島問題をみても、政治家とりわけ鳩山由紀夫前総理、菅直人現総理の政治家としての決断力の無さが目についてしまう。
そんな腐った日本の政治状況に見馴れた私の目には、本作に見る市長と専門家のコンビによる理想的な奮闘ぶりにうっとり。市長が“藍鯨”対策の決断を下すについて必要な専門家としての知見と意見を具申するために、急遽召集されたのは1人の気象学者(宋暁英/ソン・シャオイン)。市長の決断する姿も立派だが、この気象学者の「私は専門家として意見を述べるだけ。決断はあなたが」と述べる姿も立派。もっとも、このコンビがうまくいったのは、気象学者が市長がワンパク坊主だった小学生の時の先生だったことが効いたのかも・・・。
<脚本の巧さにも感心>
本作の脚本は馮小寧の他2人がクレジットされているが、その1人思蕪(スー・ウー)は霍建起(フォ・ジェンチィ)監督の妻で、『山の郵便配達』(99年)(『シネマルーム1』56頁参照、『シネマルーム5』216頁参照)、『ションヤンの酒家』(02年)(『シネマルーム4』28頁参照、『シネマルーム5』218頁参照)、『台北に舞う雪~Snowfall in Taipei』(09年)(『シネマルーム24』143頁参照)、『初恋の想い出』(05年)(『シネマルーム21』117頁参照)を手がけた有名な脚本家とのこと。そんなこともあってか、本作は1時間34分と標準的な長さだが、面白い人物がたくさん登場する。すなわち、①冒頭に登場するコソ泥や、②風を見るだけで気象状況がわかると豪語する漁師、③「台風の目」を撮影することに命がけで挑むアメリカ人カメラマン、④妻の出産の日に運悪く「超強台風」に出会ってしまい、さまざまな「事件」を引き起こしてしまう出稼ぎ労働者(周征波/ジョウ・ジェンポー)、⑤その妻の出産に、資格もないのに立ち会うことになってしまった女性研修医(劉小微/リウ・シャオウェイ)、⑥超強台風の日が娘の結婚式と重なったため、市長命令を無視して娘の結婚式を優先させてしまう町長(尹国華/イン・グォホワ)、の3人がスリル満点のストーリー形成に大きな役割を果たす。
シークエンスが切り替わり、これらの人物が登場するたびに、「なるほど○○は△△のための布石だな」ということがある程度読みとれるが、それがストーリーを安易なものにしていないところが脚本の巧さだ。さあ、次はどう展開していくのだろう。接近と離脱、そして勢力を増大しての再接近。“藍鯨”の動きとともに、そんな人間たちの営みに、きっとあなたも身を乗り出してしまうはずだ。
<結果オーライだが、もし逆目だったら?>
映画は所詮つくりものだから、脚本によって如何ようにでもストーリーを組み立てることができる。したがって、本作ではハラハラドキドキの状況をつくり出し、そんな緊張感の中で市長にギリギリの決断を迫るシーンが続出する。そして、どこかの国の総理大臣と違い、市長はそのたびにギリギリの決断を下すのだが、場合によればそれが独断先行と評価され糾弾される危険性もあるからそこが難しい。
日中戦争の引き金となった1931年9月18日の柳条湖事件は、石原莞爾などの関東軍参謀が仕組んだ陰謀。また、その後の満州事変も天皇陛下の奉勅命令を得ることなく、関東軍が独断先行した結果であることは歴史上明らかな事実。そして、結果的にそれは非難されている。
しかし、本作に見る市長の決断にもそれと似たような独断先行的決断が少なくとも2つあるから、それに注目!1つは、中国共産党の中央や中央政府の指示を仰いでいると「時間的に間に合わない」として、市長が市民全員に避難の命令を下すシーン。もう1つは、出血多量の妊婦を目の前にした緊急事態の中で、法律よりも人命救助の可能性を優先させるべきと判断し、法律違反を覚悟のうえで輸血の資格のない研修医に輸血の指示を与えるシーン。もちろんこれは映画の中、脚本づくりの中でのことだから、「結果オーライ」となるのだが、もし台風がそれていれば?また輸血が失敗していれば・・・?
<知っているのは宋暁英だけだったが、中国語の勉強は・・・>
中国映画を200本以上観ている私だが、本作はそのものを全く知らなかったうえ、馮小寧監督や主演の巫剛の名前と実績を知ったのは本作がはじめて。すると、その他のスタッフや出演者は全員知らない人ばかり?そう思っていると、1人だけ知っている女優がいた。それは、気象学者を演じた宋暁英だ。
宋暁英は、霍建起が監督し、趙薇(ヴィッキー・チャオ)と陸毅(ルー・イー)が共演した「中国版ロミオとジュリエット」ともいうべき映画『初恋の想い出』で観た女優だ。ここでなぜそんなことを書くの?それは、NHKラジオ講座「まいにち中国語」の2010年10月号からは、応用編として水野衛子氏を講師とする「映画で身につく!応用会話」が始まり、その最初の作品として『初恋の想い出』が取り上げられ、私がそれを勉強しているからだ。そこに登場する宋暁英は陸毅が演じる侯嘉(ホウ・ジア)の母親役。この母親は、かなり厳しい姿勢でかたくなにその恋人である趙薇演じる屈然(チー・ラン)との交際に反対したがそれはなぜ?そんな風に映画のセリフから中国語を学んでいると、本作で語られる中国語のセリフもわかるところが結構あるから面白い。俳優、スタッフ、中国語のセリフそれらを何でも関連づけていろいろ勉強しなければ・・・。
2010(平成22)年11月2日記