キッズ・オールライト(アメリカ映画・2010年) |
<角川映画試写室>
2011年3月7日鑑賞
2011年3月9日記
あなたは進歩派それとも保守派?同性婚や人工授精への賛否は?『ミルク』(08年)にみる同性婚承認のための戦いとは?真正面からそんな議論に向き合うのもいいが、2人のママを持つ4人家族の「あるハプニング」を楽しみながら、夫婦の絆、母子の絆そして家族の絆をしっかり確認したい。それにしても、同性婚が認められた2番目の州であるカリフォルニア州では、これから続々とこんな家族が・・・?
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監督・脚本:リサ・チョロデンコ
共同脚本:スチュアート・ブルムバーグ
ニック(同性婚の女性)/アネット・ベニング
ジュールス(同性婚の女性)/ジュリアン・ムーア
ポール(遺伝子上の父親)/マーク・ラファロ
ジョニ(ニックの娘、18歳)/ミア・ワシコウスカ
レイザー(ジュールスの息子、15歳)/ジョシュ・ハッチャーソン
2010年・アメリカ映画・107分
配給/ショウゲート
<2人のママを持つ4人家族とは?>
本作はアカデミー賞こそ逃したものの、2010年のサンダンス映画祭とベルリン映画祭で絶賛され、第68回ゴールデン・グローブ賞では作品賞と主演女優賞(アネット・ベニング)を受賞した映画。なるほど、サンダンス映画祭やベルリン映画祭はこんな映画が大好きなのだ。幸せな家族風景を描いた作品は数多いが、2人のママと2人の子供という4人家族での楽しい食事風景は珍しい。大人2人、子供2人の4人家族なら食卓の長辺に2人ずつ対面して座るのが普通だが、大学への進学が決まったばかりの18歳の長女ジョニ(ミア・ワシコウスカ)の前には、主婦役の母親ジュールス(ジュリンアン・ムーア)と15歳の弟レイザー(ジョシュ・ハッチャーソン)が座っている。医療機関で働き、経済的に一家の大黒柱となっている(らしい)母親のニック(アネット・ベニング)は、ジョニの右側の短辺に座っているが、それはなぜ?私の興味はまずそんなところから・・・。
仕事から帰ってきたばかりのニックを囲むかのように、おいしそうなステーキと赤ワインの話題で盛り上がり、おしゃべりが弾むそんな4人家族の食事は実に楽しそうだが、アメリカでは既にこうした「家族」がたくさんあるの?
<こんな疑問、あんな疑問が次々と・・・>
この家族が住むのは、南カリフォルニアだが、カリフォルニ州では同性婚はOK?また、「2人のママ」という言い方はわかるけど、ジョニのママはどちらで、レイザーのママはどちら?そして何よりの問題は、ジョニとレイザーの父親は?人工授精で子供を生むことは今や頻繁に行われているが、それが夫婦でない場合、精子提供者を明かすことは厳禁とされているのでは?弁護士である私の頭の中ではそんな疑問が次々と・・・。
カナダでは2005年6月28日の市民結婚法案の可決によって、アルゼンチンでは2010年5月5日の同性婚を可能とする民法改正によって同性婚が合法とされているが、さてアメリカでは?カリフォルニア州は2008年5月15日に州最高裁が「同性婚を認めないのは州憲法違反」との判決を、4対3の多数決で下し、シュワルツェネッガー知事も「判決を尊重する」と表明したことによって、マサチューセッツ州に続いて同性婚を合法とする2番目の州となった。その戦いに命を捧げたのが、カリフォルニア州サンフランシスコ市にあった同性愛社会で「カストロ通りの市長」と呼ばれた男ミルク。映画『ミルク』(08年)はその男の戦いを描いた傑作だが、そこでミルクを演じたショーン・ペンが、第81回アカデミー賞で主演男優賞を受賞したことは記憶に新しい(『シネマルーム22』42頁参照)。カリフォルニア州ではその後も同性婚をめぐってさまざまな動き(対決)が続いたが、2010年8月現在、同性結婚は合法だが実務上新たに同性結婚することはできないという状況になっているらしい。
自分自身が、パートナーの女性との間に子供を持とうとして、人工授精によって子供を産んだ経験を持つリサ・チョロデンコ監督は、自分の体験を踏まえつつ、スチュアート・ブルムバーグとの共同脚本によってそんなタブー(?)に挑戦。もっとも、それを医学的に追及していくとかなりシビアな問題作になるため、リサ・チョロデンコ監督はあくまで家族愛をテーマとした、明るく楽しい映画に。
<子供と遺伝子上の父親とのご対面は?>
いくら同性婚が合法と認められていても、それはあくまでレアケースだから、社会の中で現実に生きていくについてそんな家族関係を維持していくのは大変。私はつい深刻にそう考えてしまうが、ジョニとレイザーの「2人のママ」は、持ち前の明るさと馬力(?)で社会的偏見を乗り越えているみたいだし、本作が描く2人の性生活(?)も興味深い。また、「2人のママ」というきわめて奇妙な環境下で育っていると、子供たちも外からのいじめにあったりしてヘンな子供に育つ危険があるはずだが、本作をみている限り、ジョニもレイザーも心身共に発育は正常のようだ。
そんな状況下、レイザーが18歳になったジョニに対して2人の母親には内緒で2人の遺伝子上の父親を捜しだそうという提案をしたことによって、本作のストーリーが動き始めることに。本作によれば、18歳になれば、自分の出生の秘密を知る権利を得るらしいが、それってホント?ネット情報によれば、アメリカには150以上の精子バンクがあり、その市場規模は1億7000万ドルにも達しているらしいが、精子提供者(ドナー)とそれによって生まれる子供とは連絡が取れないことにされているのでは?ところが、本作を観ていると、精子バンクからの一本の電話を受けて、ポール(マーク・ラファロ)が子供たちから連絡を受けることにOKすると、話はたちまちトントン拍子に。そして遺伝子上の父親であるポールとジョニ、レイザー2人の子供たちとの父子の「ご対面」がすぐに実現したが、これってホントは映画だけの世界のはず・・・。
<「5人の食卓」も良かったが・・・>
アメリカでは金銭的な動機から精子提供者(ドナー)となる18~25歳の若者が多いらしいが、本作における遺伝子上の父親であるポールは人気レストランのオーナーとして経済的にもリッチそう。また、定期的にお相手をしてくれる女性もいるようだから、セックスライフを含む独身生活を満喫している様子もありありだ。2人の子供たちがそんなポールにすぐなついたのは当然だが、大人の女だって基本的にそんな男には弱いもの。一家の支柱として働いているしっかり者のニックは、自分の仕事が忙しいからポールとの接点は少なかったが、造園業の仕事を始めたばかりでポールの自宅の庭の改造をオファーされたジュールスはポールの家に通い始めたからひょっとして・・・?
最近は邦画でも、出会いからベッドインするまでのスピードが早まる傾向にあるが、ハリウッド映画は一般的にそれ以上。もっとも、本作ではジュールスは独身女ではなく、ニックと同性婚をしている妻であるとともに2人の子供のママなのだから、奔放なセックスライフは到底ムリ。誰もがそう思っていたが、リサ・チョロデンコ監督の脚本は容赦なくジュールスの生身の女の姿を見せていく・・・。冒頭にみる「4人の食卓」も良かったが、意外や意外、ポールを含む「5人の食卓」も最高!そんなふうにどんどん高揚していくジュールスの気持に反比例するかのように、家族を奪われるのではないかというニックの不安が増大していったのは当然。そして、ある日の楽しい「5人の食卓」の最中、トイレに立ったニックが発見した「あるもの」とは?
<「崩壊」は一瞬、しかし「再生」は?>
単に噂やカンだけで妻から浮気を指摘されても、夫は普通それを否定するものだが、証拠品を提示された場合は?裁判にだって冤罪があるのだから、浮気の有無についても当然冤罪があり得るはず。したがって、夫がトコトン否認する場合は、ひょっとしてそれにも少しは信憑性あり?
弁護士の仕事をしているとそこらの判断は難しいが、本作ではニックからある証拠を指摘されるとジュールスはあっさりポールとのセックスを自認。これによる夫婦喧嘩の発生は免れないが、両親が不仲になると、目下の大問題はジュールスとポールとの浮気を知った思春期にある娘ジョニの動向だ。急に酒を飲み始めたり、急に好きでもない男にキスをする姿を見ていると、この年頃の女の子の心の揺れはあまりにも危なっぽい。これによってあれほど幸せそうだった2人のママを持つ奇妙な4人家族は一瞬にして崩壊してしまうの?ジョニの大学の寮への引っ越しの日が近づいてきたが、そんなある日ジュールスが家族3人に対して見せる一世一代の演説とは?
何でも腹の中に収めておくのがベストとは限らず、正直に思っていることをブチまけた方がかえって良いことはよくあるもの。特にアメリカは言論の国だから、日本以上にその傾向が強い。家族の崩壊は一瞬だが、再生は難しい。しかして、リサ・チョロデンコ監督が描くラストに向けてのこの奇妙な4人家族の再生の姿に注目!
2011(平成23)年3月9日記