蜂蜜(トルコ、ドイツ映画・2010年) |
<東宝試写室>
2011年5月12日鑑賞
2011年5月16日記
映画を楽しむには目と耳を使うのが普通だが、ベルリン国際映画祭金熊賞の本作はあえて目のみで!本作は映画?それとも絵画?『卵』『ミルク』に続く「ユスフ3部作」の3作目である本作の主人公は、少年ユスフ。彼はなぜ吃音に?また、なぜ蜂たちはある日忽然と森の中から姿を消したの?たしかに本作は神秘的、幻想的そして美しい。しかし音響がないと、つい瞼が下に落ちてきて・・・。
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監督・脚本:セミフ・カプランオール
ユスフ(6歳の男の子)/ボラ・アルタシュ
ヤクプ(父、養蜂家)/エルダル・ベシクチオール
ゼーラ(母)/トゥリン・オゼン
2010年・トルコ、ドイツ映画・103分
配給/アルシネテラン
<映画賞を総ナメ!こりゃ必見!>
2010年の第60回ベルリン国際映画祭で、寺島しのぶが主演女優賞を受賞した若松孝二監督の問題提起作『キャタピラー』(10年)(『シネマルーム25』215頁参照)や、後にヨーロッパ映画賞を総なめにしたロマン・ポランスキー監督の『ゴーストライター』(10年)を退けて金熊賞を受賞した作品、と聞けばこりゃ必見!しかし、私はトルコ共和国出身のセミフ・カプランオール監督の名前も知らなければ、本作がセミフ監督の「ユスフ3部作」の完結編だということも全く知らなかった。
ユスフとは、本作が映画初出演となった少年ボラ・アルタシュが演じた本作の主人公である6歳の男の子の名前だが、第1部『卵』は彼の壮年期を、第2部『ミルク』は彼の青年期を描いているらしい。よほど世界の映画に通じていればそんな事情も知っているだろうが、いくら映画評論家といっても弁護士業との2足のわらじを履く私は、とてもそこまでの情報と知識は持ち合わせていない。ただ、そんなすごい映画らしいから「こりゃ必見!」と思って試写室に赴いたが・・・。
<「静かさ」が特徴だが・・・>
近時の画一的な映像、説明過多気味な邦画、そしてけたたましい音量とスピード過剰気味のハリウッド映画にはいささかうんざりしている私は、どちらかといえば個性的かつ問題提起的映画が大好き。そんな嗜好性から言えば本作はピッタリだが、同時に私は静かすぎる映画はダメ。なぜなら、はっきり言って日常業務の疲れがあるため、暗い試写室の中で音響がほとんどない静かな映画を観ていると、つい居眠りをしてしまうため。
説明過多な映画よりは監督がつくり出すシーンからそれぞれ観客に考えさせる映画の方がベターなことは明らかだが、本作の舞台は、神秘に満ちた手つかずの森。6歳の少年ユスフの父親である養蜜家のヤクプ(エルダル・ベシクチオール)は、縄1本で森の中にある高い木に登り、そこにセットした手作りの蜂の巣箱で養蜂を行い生計をたてていた。また母親のゼーラ(トゥリン・オゼン)はそんな夫ヤクプと息子のユスフをしっかり見守る気丈な女性。したがって、本作全編を貫くテーマはそんな自然と森であり、それに調和しながら幸せに生きているユスフたちの家族だが、さて人間の営みと自然との調和は?ハリウッド映画特有の激しい効果音はもちろん、登場人物の会話もほとんど無い中で、父親と息子そして母親の営みが静かにかつ美しく描かれていくが、そんな中、私のまぶたは自然に・・・。
<ユスフはなぜ吃音に>
本作は説明が全くない映画だから、小学校に入ったばかりの少年ユスフがなぜ吃音になったのかは不明。吃音のため、上手に音読できたら先生からもらえる「よくできましたバッジ」をクラスで1人だけもらえないことにユスフが焦ったのは当然だが、そんな姿を見ていると、「競争が不可欠」という私の持論も少し説得力を失ってくる。
それはともかく、そんなユスフでも、森の中で養蜜家として働いている父親と夢の中でみたお話をしていると、なぜか言葉はスムーズに。これはきっと、高い木の上に登って仕事をしている父親をユスフが神様みたいに尊敬しているから。つまりユスフは父親に対してはすべてを許し、何も身構えることなく話せるため・・・?
<なぜ、こつ然と蜂たちが?>
黒蜂蜜をつくり出すために、なぜ高い木の上に登らなければならないのか私にはよくわからないが、本作に観るヤクプが黒蜂蜜をつくり出す姿は実に神秘的。ところが、なぜかある日森の中から蜂たちがこつ然と姿を消してしまったから大変。ヤクプは蜂を探すためより深い森の中に入っていく決心をしたが、ヤクプが1人森の中へ旅立った日にユスフの口から完全に言葉が失われてしまうことに。ことほど左様にユスフの吃音が父親の行動と密接に関連しているのは、この父と子が心の深いところで結びついていたためだろう。
ところが、ヤクプは森の中に入ったまま、なかなか帰ってこない。母親はヤクプを心配し、ユスフの心も晴れなかったが、そんなイライラ状態の中、ついにある報告が・・・。
<少年は1人、美しい森の中へ>
本作は『卵』『ミルク』に続く「ユスフ3部作」の3作目だが、本作を観ていると、ユスフはミルクが大嫌いだということがよくわかる。自然の中に住んでいてなぜミルクが嫌いなのかはよく理解できないが、ラスト近くになって見せるユスフがミルクを飲む姿は、ある意味感動的。だって、それは夫を失ったかもしれないと悩み苦しんでいる母親を力づけるために、ユスフができるもっとも身近かつ効果的な行動だったはずだから。しかし、そんな勇気を振り絞ったユスフの行動にもかかわらず・・・。
しかして本作のラストは、ユスフが1人幻想的な森の中へ入っていくシーン。もちろん、そこにはセリフは一言もない。スクリーンいっぱいに広がるのは、深い森の中の風景のみだ。さあ、そんなラストの美しい絵画的な展開を、あなたはいかに鑑賞?
2011(平成23)年5月16日記