ゲキ×シネ「薔薇とサムライ」(日本映画・2011年) |
<梅田ブルク7>
2011年6月7日鑑賞
2011年6月15日記
「天下の大泥棒」石川五右衛門は今、地中海で女海賊の用心棒として大活躍!そんな自由奔放な発想で、薔薇(天海祐希)とサムライ(古田新太)が大激突!アンヌは唯一の正当な王位継承者?それとも、ペテンにかけられた被害者?アンヌがなすべきことは、ナニ?仲間と友情を結ぶの?それとも国のために尽くすの?菅総理退陣をめぐる政局も終末を迎えようとする今、こんなゲキ×シネを楽しみながらしっかりお勉強も!
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作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
作詞:森雪之丞
石川五右衛門(海賊)/古田新太
アンヌ・ザ・トルネード(女海賊)/天海祐希
シャルル・ド・ボスコーニュ(隣国の王子)/浦井健治
デスペラート豹之進(賞金稼ぎ)/山本太郎
ポニー・デ・ブライボン(大宰相の孫娘)/神田沙也加
エリザベッタ(将軍の妻)/森奈みはる
バルバ・ネグロ(海賊)/橋本じゅん
マローネ(アバンギャルド公爵夫人)/高田聖子
ガファス・デ・ナルビオッソ(将軍)/粟根まこと
ラーカム・デ・ブライボン(大宰相)/藤木孝
2011年・日本映画・197分
配給/ヴィレッヂ、ティ・ジョイ
<この自由かつ奔放な発想力に感服!>
「劉備玄徳は女であった」という物語がスーパー歌舞伎の『新・三国志Ⅱ-孔明篇-』だった(『シネマルーム5』149頁参照)が、これは「源義経が大陸にわたってジンギス・カンになった」という伝説(?)と同じくらいに奇想天外なもの。そんな自由な発想がOKなら、ゲキ×シネ『五右衛門ロック』(09年)で大活躍した天下の盗人・石川五右衛門が日本を離れ、はるか遠くイベリア半島近くの地中海で海賊の用心棒として活躍していたとしてもおかしくはない。
海賊といえば、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのジョニー・デップ扮するジャック・スパロウ船長が大人気だが、私的には天海祐希扮する美しい女海賊の方がもっと魅力的。しかして、中島かずき作、いのうえひでのり演出でおなじみの劇団☆新感線の最新作『薔薇とサムライ』が登場!もちろん、薔薇とは天海祐希扮するアンヌ・ザ・トルネードであり、サムライとは古田新太扮する石川五右衛門だ。冒頭、橋本じゅん扮する海賊バルバ・ネグロ退治の中でこの2人が熱い友情で結ばれていることが披瀝されるが、アンヌを襲うあっと驚くストーリー展開の中、2人の友情は?そんな自由かつ奔放な発想力に感服!
<女海賊を襲う運命とは?>
イベリア半島の小国コルドニア王国をラーカム・デ・ブライボン大宰相(藤木孝)が実効支配しているのは王家の継承者がいないためらしいから、もし正当な継承者が現れたら・・・?ブライボン大宰相の横暴に異を唱えるガファス・デ・ナルビオッソ将軍(粟根まこと)は、女海賊アンヌの左目が伊達政宗や柳生十兵衛と同じようにアイパッチでおおわれていることに注目し、アンヌこそが国王の忘れ形見にして正当な王位継承者であると確信!そこで近衛兵に命じて海賊取締りという名目の下にアンヌを逮捕したため、ここにナルビオッソの「執務室」でナルビオッソとアンヌがご対面!
妻のエリザベッタ(森奈みはる)がナルビオッソの説明をいちいち歌にして解説する趣向も面白いが、ナルビオッソの説明もホントらしくてウソらしく、かつウソらしくてホントらしいから面白い。男気の強い(?)アンヌは株式会社パソナの社長である南部靖之と同じように「迷った時はGO!」という精神構造の持ち主だから、結局女王への就任をOKしたが、こんなじゃじゃ馬の女海賊にホントに女王サマがつとまるの?
<新女王の内政改革と外交は?>
1789年のフランス革命は、王様と貴族、僧侶が支配し、平民は働いて年貢を納めるだけの存在となっている現状に対して、自由・平等・博愛の旗印の下に平民が決起したものだが、17世紀の小国コルド二ア王国でもそれは似たようなもの。したがって、海賊あがりのアンヌが最初に手がけた内政改革は税制で、平民の税金は安く、貴族からは高くという至極当然なもの。この急激な改革に対して、ブライボン大宰相を始めとする貴族たちが猛反対するかと思いきや、大宰相は意外にもすんなりそれを認めたからビックリ!もっともこれは、面従腹背の典型で、海賊対策におけるスペインなどの大国との連携で新女王が失敗することを期待?
コルド二ア王国が裏で海賊とつるんでいたのでは?と大国から指摘され、また海賊退治の連合国軍が結成されるとなれば、コルドニア王国としては率先してその模範を示さなければ・・・?国を取るか、友情を取るかの決断を迫られる新女王は辛いが、アンヌは敢然と女王としての義務を選択。しかして、ここに熱き友情で結ばれていた薔薇とサムライは止むなく対決することに・・・。
<誰が善人で誰が悪人?王位継承はホンモノ?インチキ?>
中島かずきといのうえひでのりコンビによるゲキ×シネは一見単純なストーリーだが、その実奥が深く、あっと驚く展開が次々と待っているから面白い。今や菅直人という政治家が総理大臣の器でなかったことは白日の下にさらされたが、さてアンヌの女王としての器は?本作前半では悪玉らしきブライボン大宰相が意外に計算高い悪玉でナルビオッソ将軍がそれに反発する善玉として扱われているが、政治は悪玉か善玉か以上に政策実行力の有無が大切だ。税制改革を断行し、海賊退治でも大成功を収めたアンヌの人気は今やうなぎ上りだが、そんな中で誰が善玉で誰が悪玉なのかについて少しずつ異変が生じてくるから、後半からはそこに注目!
さらに、アイパッチに覆われたアンヌの左目の黄金の光によってアンヌがれっきとした王位継承者であることが証明され、大宰相らもそれに納得したわけだが、意外にもナルビオッソ将軍の妻エリザベッタの働きによって、それにも疑問符が?仮に、これまでのナルビオッソ将軍の説明が一世一代のインチキだとしたら?一体誰が悪玉で誰が善玉?また、アンヌの王位継承はホンモノ?インチキ?
<まさに水を得た魚!躍動する天海祐希をタップリと!>
背の高い宝塚の男役には、何といっても「ベルばら」のオスカル役がお似合い。したがって、コルドニア王国の女王としてフランスの近衛兵オスカルのような服装で海賊たちと対峙する天海祐希は、まさに水を得た魚!ジョニー・デップは何でもこなせる器用な俳優だからジャック・スパロウ船長像を自らの個性でつくりあげたが、天海祐希にはアイパッチをした野性美豊かな女海賊役もピッタリ!本作では、石川五右衛門に扮する古田新太がズングリムックリのおっさん体型だから、スラリと背の高い天海祐希のカッコ良さが余計に目立っている。
そして、もちろん天海祐希は元宝塚トップスターだから、歌も踊りもうまいのは当たり前で、森雪之丞作詞の数々の曲も天海祐希が歌い込むと説得力がある。歌といえば、本作ではアンヌに恋する隣国の王子シャルル・ド・ボスコーニュ(浦井健治)の歌唱力が際立っているが、この2人によるデュエット曲は、まるでモーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」を彷彿させる(?)ほど息もピッタリだ。本作では、そんな躍動する天海祐希の魅力をタップリと楽しみたい。
<現在の政局のキーワードが、2つも登場!>
ゲキ×シネ『蛮幽鬼』(10年)ではクライマックスに向けて「国のため!民のため!」という叫びが登場した(『シネマルーム25』117頁参照)から、2010年9月の民主党代表選挙における小沢一郎VS菅直人による怨念の権力闘争ぶりと対比して非常に興味深かった。しかして現在は、去る6月2日午前中の民主党代議士会と同日午後からの衆議院における内閣不信任案否決というドタバタ劇と、本作にみる権力闘争との対比が面白い。
映画後半、権謀術策うず巻く宮廷において、ナルビオッソ将軍が暴露したアンヌの出生の秘密が実は真っ赤な嘘だったことが白日の下にさらされるから大変。昨今わが国の1枚の紙切れの3項目の記載をめぐって前総理が現総理を「ペテン師」と罵る姿は前代未聞だが、菅現総理の言動をみていると、鳩山前総理の怒りもまことにごもっとも。こうなると、福島第1原発1号機への海水注入問題について、原子力安全委員会の斑目委員長が発した「中断がなかったのなら、私はいったい何だったのか」と同じように、本作のアンヌが「私って一体何だったの?」と言いたくなる気持もわかる。しかし、それ以上の大問題は、アンヌが女王を詐称した大悪人になってしまうこと。石川五右衛門は豊臣秀吉によって釜ゆでの刑に処せられたが、アンヌはその罪によって磔に?
いよいよ菅総理への退陣要求網は、枝野幸男官房長官、仙石由人官房副長官、岡田克也幹事長まで狭まってきたが、コトここに至ってもなお6月11日には被災地を訪れて「決然と生きる」と書くなど、菅総理の執念は政敵を次々と蹴落としたスターリン並み?このように、本作には現在の政局のキーワードである「早期退陣」と「ペテン師」という言葉が登場するので、それに注目!菅総理退陣の日は近いが、さてアンヌの退陣は?逆に、その復活は?
2011(平成23)年6月15日記