ウィンターズ・ボーン(アメリカ映画・2010年) |
<角川映画試写室>
2011年9月29日鑑賞
2011年10月3日記
低予算だって、こんな立派な作品が!『ブラック・スワン』(10年)のナタリー・ポートマンに敗れたとはいえ、ヒロインを演じたジェニファー・ローレンスのアカデミー賞主演女優賞へのノミネートは立派なものだ。父親の失踪後、17歳の少女が幼い弟と妹を抱えてどうやって生きていくの?舞台はミズーリ州オザーク山脈の厳しい大自然。「ミルトン一族」の掟がキーワードとなる中、少女のひたむきさが光る。何ともいえないラストの満足感を、共に味わいたい。
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監督・脚本:デブラ・グラニック
リー(17歳の少女)/ジェニファー・ローレンス
アシュリー(リーの6歳の妹/アシュリー・トンプソン
ソニー(リーの12歳の弟)/
コニー(リーの母親)/
ジェサップ(リーの父親、ドラッグ・ディーラー)/
ティアドロップ(リーの薬物漬けの伯父)/ジョン・ホークス
メラブ/デイル・ディッキー
バスキン保安官/ギャレット・ディラハント
ゲイル(リーの親友)/ローレン・スウィートサー
エイプリル(リーの父親の元愛人)/シェリル・リー
リトル・アーサー(リーの父親の元仕事仲間)/ケヴィン・ブレズナハン
2010年・アメリカ映画・100分
配給/ブロードメディア・スタジオ
<低予算だって、各賞にノミネート、受賞!>
シネコンが普及する中、東宝をはじめとする大手の大量宣伝作のみが目立っている日本だが、そんな中でも低予算、単館上映ながら『フラガール』(06年)(『シネマルーム12』52頁参照)などの名作は多い。
アメリカでは「サンダンス映画祭」がインディペンデント映画の登竜門として有名になり、確立してきたが、低予算の地味な映画ながら、本作は2010年の第26回サンダンス映画祭でグランプリと脚本賞の2冠に輝いた名作。プレスシートによれば、とりわけ全米の賞レースでは、過酷な境遇を生きるごく普通の人々に光を当てた『フローズン・リバー』(08年)、『プレシャス』(09年)に続くインディペンデント映画の傑作と絶賛され、2010年の各種年間ベストテンにも軒並みランクインを果たしたらしい。
私が星5つをつけた『フローズン・リバー』は第81回アカデミー賞主演女優賞と脚本賞にノミネート・受賞し(『シネマルーム24』61頁参照)、星4つをつけた『プレシャス』は第82回アカデミー賞監督賞や主演女優賞など6部門にノミネートされ、助演女優賞と脚色賞を受賞した(『シネマルーム24』24頁参照)。しかして本作は、上記の他17歳の主人公リーを演じたジェニファー・ローレンスが第83回アカデミー賞主演女優賞にノミネート!
『ブラック・スワン』(10年)(『シネマルーム26』22頁参照)のナタリー・ポートマンがあまりにも出色だったのがジェニファー・ローレンスには不幸だったが、低予算だって、各賞にノミネート、受賞!
<過酷さの中でも、少女は大成長!>
本作のヒロインを演ずるジェニファー・ローレンスはシャーリーズ・セロンとキム・ベイシンガーの2大女優の真ん中に割って入ったような『あの日、欲望の大地で』(08年)(『シネマルーム23』38頁参照)での演技が注目された若手女優。日本の昨今の厳しい時代状況の中、虐げられた少女の成長ぶりを見事に描いた映画が、『赤い文化住宅の初子』(07年)(『シネマルーム13』214頁参照)や『百万円と苦虫女』(08年)(『シネマルーム20』324頁参照)だったが、本作はミズーリ州南部のオザーク山脈を舞台とし、健気な17歳の少女リーがある過酷な状況下、成長していくという物語。
ある過酷な状況とは、警察に逮捕され、長い懲役刑を宣告された父親のジェサップが自宅と土地を保釈金の担保にして失踪したため、もしこのまま翌週の裁判に出廷しなかったら、リーたちの家は没収されるとバスキン保安官(ギャレット・ディラハント)から宣告されたこと。父親不在の中で生活資金が尽き果て、飼い馬のエサ代すら捻出できなくなっていたリーは、これまで隣人のソーニャの援助を受けて何とか生き延びてきたが、家を没収されてしまったらどうやって生きていくの?弟のソニーと妹のアシュリー(アシュリー・トンプソン)の世話をしながら気丈な生きザマを見せていたリーは、それでもここで「私が父を捜すわ。絶対に見つけてみせる」と宣言したが、その当ては?
<掟とは?家族を守る闘いとは?>
本作中盤は、「私が父を捜すわ。絶対に見つけてみせる」と宣言したリーが、同年代の女性ゲイル(ローレン・スウィートサー)の協力や、敵か味方かよくわからない薬づけの伯父ティアドロップ(ジョン・ホークス)の「協力」を得て、父親捜しに奔走するストーリーが描かれる。そこでリーの前に立ちふさがる大きな壁がこの地域に代々根づいて生きてきたというミルトン一族の掟。田舎には風習や掟がつきものだが、本作の大きな特徴となっているミズーリ州オザーク山脈の美しくも厳しい大自然に生きるミルトン一族の掟とは?
父の元愛人エイプリル(シェリル・リー)から、父親が深刻なトラブルに巻き込まれたらしいとの目撃証言を得たリーは果敢にもミルトン一族の長老サンプへの直談判を試みたが、その結果受けたのは、ミルトン一族の女たちによる凄まじいリンチ。ティアドロップの登場とその「交渉力」によって血だらけのリーは何とか助け出されたものの、これにてリーの父親捜し、そして家族を守る闘いはジ・エンド?
<保釈保証金の「没取」を免れる唯一の方法は?>
日本でもまだまだ誤解が多いが、いわゆる保釈金の正式名称は「保釈保証金」。これは、①逃亡しない(必ず公判に出廷する)、②証拠隠滅をしない、③証人を威迫しないという3つの条件を守ることの保証として預託するお金のことだ。したがって、裁判で有罪になるかどうかとは無関係に無事判決言い渡しに至れば保釈保証金は戻ってくるが、もし有罪になることを恐れて逃走し公判に出廷しなかったら、これは「没取」(没収と区別するため関係者は“ボットリ”と表現している)されてしまうことに。
案の定(?)リーの父親は公判日に出頭してこなかった。娘が家族を守るためこんなに必死に闘っているのに、そりゃ一体なぜ?もっとも、父親が出頭しないのではなく、出頭できないのなら話は別だ。保釈保証人から一週間以内に家を出ていくように告げられたリーが、保釈保証金の「没取」を免れる唯一の方法とは?それは父親が既に死亡しているという明確な証拠を突きつけることだが、徒手空拳のリーにそんなことがホントに可能?
<この勇気あればこそ、こんな結末に!>
本作は、父親が失踪してしまった後、厳しい自然と厳しい経済状況の中、幼い弟と妹の世話をしながら生き抜こうとするヒロイン・リーのひたむきさがテーマだが、年若いリーが父親捜しのためとはいえミルトン一族の掟の中にズケズケと入り込んでくるのを、とりわけミルトン一族の女たちが快く思わなかったのは当然。その結果リーは、ティアドロップが助けに入らなければそのうち御陀仏というレベルにまでリンチを受けることに。もっとも、ティアドロップの抗議(?)に対してミルトン一族の男たちは、かよわい少女に対して自分たちは一切手を下していない、手を下したのはミルトン一族の女たちだけだというから、それはそれで驚き。したがって今、家の明渡しを通告されて途方に暮れているリーの家をミルトン一族の女たちが訪れ、「お前は父親の骨が必要なんだろう?ついて来るといい」と言われても、リーはもちろんスクリーン上でそんなシーンを観ている私たちもこれから一体何が始まるのか不安でいっぱいだ。
ミルトン一族の女たちは一様に口が重い(?)から、女たちがリーをあちこちと連れ回し、あれこれと指図するシークエンスは緊張感がある。とりわけ、ボートを湖の上に走らせ、とある場所で「身体を乗り出して水の中にあるものをつかみ出せ」と言われ、ボートの片側から水中に身を乗り出しているリーの姿を見ると・・・。ひょっとして、リーはこのまま水の中につき落とされるのでは?そんな心配が頭の片隅をよぎったが、さてここでリーが発見したものとは?
本作に興味と関心を持つ人のために、これ以上は書かないでおこう。自宅の没収を免れるためには何としても父親の死体をバスキン保安官のところに持っていかなければ・・・。17歳の少女リーのそんな強い執念があればこそ、ラストにはこんな結末が・・・。
2011(平成23)年10月3日記