人生はビギナーズ(アメリカ映画・2010年) |
<角川映画試写室>
2011年12月1日鑑賞
2011年12月5日記
妻と死別した後、75歳にしてゲイであることをカミングアウトし、以降の人生を楽しもう。そんな活動的な「後期高齢者」がいるのに、本作に見る38歳の独身男の不甲斐なさは?人生や女性に対して臆病で不器用な男が最近増殖中だが、いつまでも「人生のビギナーズ」ではダメ。さて、40才近くになってなお独身中の男性諸氏は、本作から何をどのように学ぶ?
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監督・脚本:マイク・ミルズ
オリヴァー(38歳の独身男)/ユアン・マクレガー
ハル(オリヴァーの父親)/クリストファー・プラマー
アナ(オリヴァーの恋人)/メラニー・ロラン
アンディ(ハルのゲイ恋人)/ゴラン・ヴィシュニック
2010年・アメリカ映画・105分
配給/ファントム・フィルム、クロックワークス
<監督の個人的体験が本作に!>
『霜花店(サンファジョム) 運命、その愛』(08年)に描かれた同性愛は重々しかった(『シネマルーム24』164頁参照)が、『フィリップ、君を愛してる!』(09年)におけるヤンキー男の同性愛のカミングアウトは陽気だった(『シネマルーム24』169頁参照)。同性愛をカミングアウトした男で最も有名かつ英雄的な男はショーン・ペンが第81回アカデミー主演男優賞を受賞した『ミルク』(08年)が描いた男、ミルク。「カストロ・ストリートの市長」と呼ばれたミルクの「プロポジション6(提案6号)」の実現に向けた闘いは壮絶だった(『シネマルーム22』42頁参照)。
他方、75歳にして自分がゲイであることをカミングアウトしたマイク・ミルズ監督の父親の場合は?本作は、マイク・ミルズ監督がそんな自分自身の体験を元に書いた脚本にもとづく私的な映画だ。
<38歳にして、まだ父親離れが?>
45年間連れ添った妻に先立たれた後、75歳にしてハル(クリストファー・プラマー)が「俺はゲイだ」とカミングアウトしたのが異例なら、「これからは同性愛者として、残りの人生を楽しみたい」と公言したうえそれを大胆に実行するのはもっと異例。日本では75歳以上を「後期高齢者」と呼ぶことにはその年代の人たちから強い反発が巻き起こったが、広い世の中には75歳にして新たな人生のスタートを切り、残りの人生を謳歌しようとする老人がたくさんいるのだから、確かにそんな呼び方は失礼だ。私が生涯のベスト1に挙げる映画『サウンド・オブ・ミュージック』(65年)でトラップ大佐を演じ、「エーデルワイス」を歌った当時のクリストファー・プラマーは最高にカッコよかったが、あれから46年。1929年生まれの彼は既に80歳を超えているが、本作では若い恋人(?)アンディ(ゴラン・ヴィシュニック)とのイチャイチャを見せつけるなど、実にカッコいいゲイじじいを演じている。
それに対し、アートディレクターの仕事をしている息子のオリヴァー(ユアン・マクレガー)は元来臆病な性格で、38歳になってもまだ独身でガールフレンドもおらず、唯一の友達が犬のアーサーというからさびしいもの。ハルから思いもかけない宣言を受けたオリヴァーは、とまどいながらもそんな父親をそのまま受け止めたが、ガンに冒された父親との別れの日がくると、大きな喪失感が。たしかに、それもわからないではないが、38歳にもなればいい加減父親離れをし、「あんたはあんた!俺は俺!」と割り切らなければダメなのでは?日本でも最近この手の独身男が増殖しているらしいから、大いに心配だ。
<今時の若者はこんな距離感しか・・・>
父親と死別した後自分の殻に閉じこもってしまったオリヴァーを心配した仲間が、オリヴァーをホームパーティーに連れ出したことによって、彼が出会ったちょっと不思議な雰囲気を持った女性がアナ(メラニー・ロラン)。喉の病気にかかっているため声を出せず、筆談で話をしたという出会いが余計アナの不可解な魅力を増幅したらしく、以降オリヴァーの頭の中は彼女のことでいっぱいに。こんなに美人でちょっと変わった魅力をもったアナと知り合えば、誰でもそうなるだろうと思うのだが、私の目にはその後のオリヴァーの行動はぎこちなく、まどろっこしい。
この年になって女性とつき合い始め、合意のもとでセックスまで交わしたとなれば、当然「結婚しよう」と考えるのが普通だと思うのだが、オリヴァーの行動は?今時の若者は愛する女性に対して、こんな距離感しかとれないの?
<愛犬もいいが、やっぱり女性の方が・・・>
大阪府知事を辞任してまで大阪市長と大阪府知事のダブル選挙を仕掛けた橋下徹氏の自己主張の強さはピカイチだが、その正反対がオリヴァー?また、私の目にはアナも「受け身型」で、オリヴァーとの関係をどう評価しているのか、何が問題で何を改善すべきかなどの問題意識は何も見えない。そんな中、オリヴァーが「2人で一緒に暮らそう」と提案したのは一大決心だったようだが、アナがすんなりこれに応じたのだから、なぜ彼はもう一歩進んで「結婚しよう!」と言わないの?そこらあたりがどうも私にはわからないから、少しイライラ。
本作では、一緒に生活している2人がまともにケンカするシーンは全く登場しないかわりに、真剣に自分の思いをぶちまけているシーンも登場しない。ただ、オリヴァーの愛犬アーサーを共通項としながら2人が日常の生活を淡々と過ごしているだけ、という感じが強い。そんな中ある日、オリヴァーはアナとの同棲生活を解消しようという決断を下し、アナもそれにスンナリ応じたため、オリヴァーは再び愛犬との生活に戻るのだが、それってなぜ?愛犬もいいが、やっぱり一緒に過ごすのは人間の女性の方がいいのでは?
<単に、ものわかりが遅かっただけ?>
『イングロリアル・バスターズ』(09年)(『シネマルーム23』17頁参照)でその美しさに驚き、即座に名前を覚えてしまった女優メラニー・ロランは、その後の『オーケストラ!』(09年)(『シネマルーム24』210頁参照)や『黄色い星の子供たち』(11年)(『シネマルーム27』118頁参照)でも強い印象を残したが、それは本作でも同じ。しかし、ストーリー展開上アナは受け身なだけで能動的な行動が全く見られないから、私の目にはその魅力はイマイチ。もっとも、「何が大切かは、そのものを失ってみてはじめてわかる」というケースはよくある。本作の後半からラストにかけて展開されるストーリーを観ていると、マイク・ミルズ監督の自叙伝ともいうべき本作におけるオリヴァーは、まさにそれ。そう考えると、単にオリヴァーは自分にとって何が大切なのかということについて、ものわかりが遅かっただけ?世の中には、いったんコトに遅れてしまうともはや取り返しがつかなくなることがよくあるが、さてオリヴァーの場合は?
本作の原題は『Beginners』で、邦題は『人生はビギナーズ』と本作のテーマをわかりやすくしたが、38歳にして「人生のビギナーズ」ではホントは困ったものなのだが・・・。
2011(平成23)年12月5日記