ロボジー(日本映画・2012年) |
<東宝試写室>
2011年12月13日鑑賞
2011年12月24日記
『リアル・スティール』(11年)に見る格闘技ロボットも悪くはないが、お掃除ロボット「Roomba」をはじめ、外科手術や原発事故処理に役立つロボットの方がもっと大切!しかして、『ロボジー』の「ジー」とは一体ナニ?世の中の常識は非常識!そう言える人は立派だが、それはきっと少数派。さて、本作にみる常識の嘘とは?映画の醍醐味は脚本の妙にあり!それを実感させてくれる怪作の誕生に大拍手!
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監督:矢口史靖
鈴木重光(独り暮らしの73歳)/五十嵐信次郎
ニュー潮風(ロボット)/五十嵐信次郎
佐々木葉子(大学生、ロボット研究会員、ロボットオタク)/吉高由里子
小林弘樹(木村電器・ロボット開発部員)/濱田岳
太田浩二(木村電器・ロボット開発部員)/川合正悟
長井信也(木村電器・ロボット開発部員)/川島潤哉
伊丹弥生(ケーブルテレビの新人ディレクター)/田畑智子
斉藤春江(鈴木重光の娘)/和久井映見
木村宗佑(木村電器の社長)/小野武彦
2011年・日本映画・111分
配給/東宝
<格闘技ロボより、やっぱりこんなロボットの方が・・・>
私は今年9月にはじめて自宅用に掃除ロボットの「Roomba」を購入したが、その便利さに驚き、その後事務所用と息子の自宅用にさらに2台も購入した。3・11東日本大震災の津波によって破壊された福島第一原子力発電所の復旧のためには建物内に入り込んで作業をする知能を備えたロボットが不可欠。また、今や脳外科手術を遠隔操作でロボットがやる時代。ロボットなら疲れも知らず長時間、緻密な作業が可能なわけだ。今や、人間はそんなロボットの開発に全力をあげて取り組まなければ・・・。
そう考えると、12月10日に観た『リアル・スティール』(11年)は確かに面白かったが、人間が格闘用ロボットを遠隔操作することによってボクシングをさせ、それを楽しむというのはやはり邪道?そんな時代状況の中、『スウィングガールズ』(04年)が面白かった矢口史靖監督(『シネマルーム4』320頁参照)が、何とも珍妙なロボット映画(?)に挑戦!格闘技ロボットも悪くないが、やっぱりこんなロボットの方が・・・。
<本作の主人公は?>
「父子の絆」をメインテーマにした『リアル・スティール』のクライマックスは旧世代のオンボロロボット「ATOM」と最新鋭の最強ロボット「ゼウス」との死闘で、そこに至るまでのストーリー構成もボクシング映画の王道を歩むものだった。それに対して本作の主人公は、ロボット博にやってきたロボットおたくの女子学生佐々木葉子(吉高由里子)の危ないところを救うというロボット離れした知能を持つ「ニュー潮風」だが、なぜかタイトルは『ロボジー』。
75歳以上の「老人」を後期高齢者と呼ぶことは中止されたが、チラシによると本作の主人公は73歳にして映画初主演を遂げたミッキー・カーチスこと五十嵐信次郎。そんな「じじい」が、なぜ本作の主人公に?ひょっとして、『ロボジー』の「ジー」とはじいさんの「ジー」・・・?
<「災い転じて・・・」、だが・・・>
本作では、準主役となる小林弘樹(濱田岳)、太田浩二(川合正悟)、長井信也(川島潤哉)の3人が面白い。彼らは木村電器の社長・木村宗佑(小野武彦)からロボット開発部員(?)に任命されて、ロボット博までに流行の二足歩行ロボットの開発を命じられた「長太短」のヘッポコ3人組だ。この開発は木村電器の広告が目的だが、彼らは家電の知識はあってもロボット開発の知識など全くなし。しかも、ロボット博まで1週間というところで、なぜか制作途中の「ニュー潮風」が勝手に動き出した挙句、窓から階下に転落して木っ端微塵になってしまったから大変。
そこで思いついたのは、ロボットの中に人間を入れること。広告用にワンカットの撮影さえできればそれでいいのだから、人間が中に入っていてもバレないだろう。そう考えたわけだが、ノッポ、太っちょ、チンチクリンの3人の体型では「ニュー潮風」の中に入ることは不可能。そこで着ぐるみ募集をすると、73歳のじじい・鈴木重光(五十嵐信次郎)の体格がまさにピッタリ!若者をターゲットにしていたが、写真のワンカット用だけならこのじじいでもオーケー。これでうまくいけば、まさに「災い転じて・・・」、だが・・・。
<吉高由里子が「カモメ」から「オタク」へ、大変身!>
今や誰でも大学に入れる時代だから「大学卒」の肩書きにはあまり意味がないが、葉子が通う大学のロボット研究会や、「ニュー潮風」研究のため3人組を講師として招いた講演会での議論を聞いていると、日本の若者も捨てたものではないという気持になってくる。少し残念なのは、本作の舞台が東京に設定されており、東大阪市でないところ。東大阪市なら学生たちのロボットへの熱気が中小企業の研究者たちを交えて、もっと盛り上がっていたのでは・・・?
それはともかく、本作では『カメリア(時にあらがう三つの物語)』(11年)の「カモメ」役で透明な美しさを見せつけた吉高由里子(『シネマルーム27』166頁参照)が、何とも弾けたロボットオタクの葉子役で存在感を示している。人間がロボットに恋するなんて!凡人なら誰でもそう思うところだが、危ういところを「ニュー潮風」に助けられた葉子の「ニュー潮風」への恋心はホンモノ?本作のストーリー展開を見ていると、それは誰が見てもまちがいなさそうだが、少しずつ「ニュー潮風」の本性がバレてくると・・・?
<世の中の常識は非常識・・・>
大阪13区選出の自民党の元衆議院議員だった塩川正十郎は、小泉純一郎内閣時代に「塩爺」の愛称で存在感を示した。それに対して、本作中盤以降は、とっさの人命救助というロボットにあるまじき能力(?)を発揮した「ニュー潮風」ことロボジー(?)が大きな存在感を発揮していく。ヘッポコ3人組は「ニュー潮風」がこれ以上目立つことに困惑気味だが、「ニュー潮風」にはマスコミ取材やイベント依頼がひっきりなしだから、木村社長は大喜び。
当初は「詐欺」の片棒を担いだのではないかと心配し、ヘッポコ3人組に怒りをぶつけた鈴木さんだったが、「ニュー潮風」人気が高まってくると、次第に「内緒だけど、ニュー潮風の中に入っているのはホントは俺なんだ」と冗談交じりの自慢まで・・・。こんな知能をもったロボットなど2011年現在完成しているわけないのが常識だが、映画の中で多くの国民が現実に目にする現象の前には、そんな世の中の常識は非常識・・・。
<映画の醍醐味は脚本の妙にあり!>
1年間の司法研修所での司法修習を終えた、新64期司法修習生約2000名が、裁判官、検事、弁護士になる予定だった今年、そのうち約400名が弁護士登録しなかったことが数日前に報じられた。これは、弁護士事務所への就職が困難な状況になっているためだ。弁護士になろうという人でもそうなのだから、今4年制の大学を卒業しただけでは就職口を探すのは至難のワザ?そう考えると、「ニュー潮風」に恋心を抱いた葉子が大企業志向ではなく、零細企業であってもすばらしいロボット開発をしている木村電器に就職しようと考えたのは立派。木村電器のヘッポコ3人組を講師として招いた研究会をくり返したおかげで「ニュー潮風」の分析は大いに進んだが、実はそれはすべてインチキで、「ニュー潮風」の中には73歳のじじいが入っていることを、もし葉子が知ったら・・・。矢口史靖監督が自ら脚本を書いた本作は、後半以降そんな怒涛の展開を見せていく。
近時発生したオリンパスの「飛ばし事件」や大王製紙御曹子のカジノでのご乱行を見ると、一部上場企業を含めて世の中は不条理なことだらけ。しかして、遂に「ニュー潮風の中には人間が入っているらしい」という疑惑がマスコミを賑わし始めたから大変。これが公になれば、ヘッポコ3人組だけの責任では済まされず、木村社長の退任、木村電器の倒産は必至!そんな状況が迫る中、独り暮らしの73歳のじじいが見せる、あっと驚く才覚とは?映画の醍醐味は脚本の妙にあり!そんなことを実感させてくれる怪作に拍手!
2011(平成23)年12月24日記