キリング・ショット(アメリカ映画・2011年) |
<東映試写室>
2012年3月8日鑑賞
2012年3月9日記
1980年生まれの若手監督が、クエンティン・タランティーノ風のケッタイな(?)映画作りに挑戦!時系列をバラバラにした脚本の工夫は面白いが、3人の美女たちの「ガールズトーク」が不調和なら、『ラストキング・オブ・スコットランド』(06年)のフォレスト・ウィテカー演ずる大男の奇怪さは一体なに?さらに、トップキャストたるブルース・ウィリスのキャラの奇妙さは・・・?メインストーリーは巴え戦(三すくみ戦?)の展開だが、そこに至るまでの伏線の仕込みと結末にはイマイチ工夫が必要では・・・。
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監督・脚本:アーロン・ハーヴェイ
テス(ドラッグ・ディーラーの女性)/マリン・アッカーマン
メル(マフィアのボス、テスの雇い主)/ブルース・ウィリス
ロニー(狂気の殺し屋)/フォレスト・ウィテカー
カラ(テスの仲間の女性、ドーンの妹)/ニッキー・リード
ドーン(テスの仲間の女性)/デボラ・アン・ウォール
ビリー(妄想癖があるコック)/シェー・ウィガム
フランシーヌ(キレやすい女店主)/ジル・ストークスベリー
2011年・アメリカ映画・94分
配給/プレシディオ
<新人監督の感性に注目!>
本作の脚本・監督はカリフォルニアで1980年に生まれたというアーロン・ハーヴェイ。そんな年代の「映画好き」なら、1990年代のクエンティン・タランティーノ監督作品の影響を受けたであろうことは容易に推測できる。しかして、本作にはそんな臭いがプンプンと・・・。
プレスシートにある森直人氏の「REVIEW」では、そんな新人監督の感性への賛美と期待がテンコ盛りに書かれている。そりゃ頼まれたら褒める所を探して書くのが当然だが、私の目には本作の登場人物のキャラはあえて奇をてらった感がある。また、本作の主たる舞台はラスベガスの郊外にある小汚い(?)ダイナーだが、そこでは当初いとも簡単に銃がブッ放されるのに対し、メインストーリーの部分になると、互いに銃を突きつけたままのセリフ劇があまりにも冗長すぎる。森氏が言うように「映画ファンなら、彼に注目しておいて損はない」とは思うが、私の目にはデビュー作たる本作の出来は、せいぜい星3つ。
<3人のガールズトークに注目!>
クライム・サスペンスだって今ドキは美女を登場させなければ観客が喜ばないのは当然。しかして本作冒頭には、ダイナーに乗りこんだリーダー格のテス(マリン・アッカーマン)が姉のドーン(デボラ・アン・ウォール)、妹のカラ(ニッキー・リード)と何やら難解そうな哲学談義(?)をするシーンが登場する。この3人はどうやら真っ当な女ではなくヤクの売人らしいが、3人が車の中で展開するガールズトークは面白い。
本作はあえて時系列をいじくって構成しているから少しわかりにくいが、どうも彼女たちは前回の仕事の汚名をそそぐべく今回の仕事に向かっているらしい。ところが今回の仕事への取り組み方をめぐっては、テスとカラとの対立が顕著だ。車の運転手役をしているカラの姉ドーンは『ウエスト・サイド物語』(61年)で有名になった『Cool』の曲と同じように、「冷静に!」と2人の対立を押さえているが、意思統一がこんな不十分なままでは今回の仕事も失敗するのでは?車の中で、「ブルース・ウィリス」ネタで3人が盛り上がるシーンは私には理解不能だが、本作では仕事(のやり方)をめぐる3人のガールズトークに注目!
<このケッタイな大男は何の役割を?>
本作では『ラストキング・オブ・スコットランド』(06年)(『シネマルーム14』106頁参照)で圧倒的な存在感を見せつけてアカデミー賞主演男優賞に輝いたフォレスト・ウィテカーが、後に本名がロニーだとわかるケッタイな大男役で登場する。前述のように、本作は時系列をあえてバラバラにしているうえ、3人の美女(?)とロニーとの接点を何も見せてくれないから、停止していた車に近づいてきた警察官をなぜロニーが殺すのかサッパリわからない。また、ロニーのしゃべり方はかなりヘンだし、警察の制服に着替えたロニーがなぜテスたちの乗る車を停めて、うんざりするような1人トークを長々とやるのかも不明。一体この男は何のためにこの映画に登場しているの?どんなストーリー展開の中でどんな役割を果たすの?それがなかなかわからないから、ついイライラ・・・。
<ロニーのキャラは最後までヘン?>
それが見えてくるのは後半の「三つ巴戦」になってからだが、修羅場と化したダイナーの中でコックたるビリー(シェー・ウィガム)とテスが2人で銃を向け合って対峙しているところになぜロニーが登場してくるの?ここらあたりからがアーロン・ハーヴェイ監督の脚本の腕の見せ所だからこれ以上は書かないが、その展開の中でもロニーの立ち位置や狙いは容易に判明しない。もっとも、ここで登場するある回想シーンによって、なるほどロニーとテスはこんなきっかけで知り合いに?さらに、なるほどその後ロニーはテスのことをそんな風に考えていたの?ということがわかるが、その展開の説得力は?このケッタイな大男ロニーのキャラは最後までヘン。私にはそうしか思えなかったが・・・。
<この三つ巴(三すくみ)状態をどう打開?>
1950年代の東西冷戦時代は、核をどちらが先に、どこに撃ってくるかが大問題だったが、既にドーンとカラが撃ち殺され、一人生き残ったテスが、ビリーと銃を向け合って対峙している姿を見ると、その問題点はそれと全く同じ。もっとも、お互いに「早く銃を下ろせ!」と言い合いながらあちこちに目を配らなければならないから、ちょっとした隙くらいは見つけられそうだが、もしそうなると再びハチャメチャの修羅場になってしまう。つまり、ここでのアーロン・ハーヴェイ監督の狙いは、あくまで緊張状態の中での議論(?)の展開だから、東西冷戦状態をいかにキープしていくかがテーマとなる。
ここで展開される会話のポイントは、麻薬取引のボスとしてテスたちに命令を下している男メル(ブルース・ウィリス)の命令内容だが、テスとビリー二人の理解の混乱ぶりが面白い。その場にロニーが登場してくることによって、その混乱と緊張状態はさらに高まっていくが、それが本作最大のポイントとなる。当初ロニーは二人に対して「とにかく銃を下ろしクールに話し合おう」と説得していたが、いつの間にか、「愛の告白」めいたお話(?)の展開になると、ロニーも銃を手に持つことになったから大変。大相撲の巴戦は二人ずつ順番にというルールがあるから必ず勝負がつき、一人の勝者が決まるが、スクリーン上に見る巴戦、というより三すくみ状態は一体どうすれば打開できるの?
<マフィアのボスも、かなりヘン>
ブルース・ウィリスの本籍はアクション俳優(?)だが、『シックス・センス』(99年)のような個性的な演技にも定評がある。本作ではこのブルース・ウィリスがトップキャストとされているが、これは半分インチキで、彼が扮するメルの出番はごくわずかしかない。前述のように、ロニーのキャラはかなりケッタイだが、マフィアのボスだというメルのキャラもかなりヘン。というより、無理やりヘンにつくっている感じがあるから、私はあまり好きになれない。テスたちがメルの部下として働くようになったいきさつはあるシークエンスで語られるが、そこでもメルがなぜ『ゴッド・ファーザー』のドン・コルレオーレのような力を持っているのかが全く不明だから、このヘンなボスの魅力が全然浮かび上がってこない。
テスの本来の出番は3人の巴戦が何らかの結末を迎えた後になるが、さてテスは何を狙ってどんな策略をめぐらしていたのだろうか?「漁夫の利」とか、「敵の敵は味方」とかいろんなことわざがあるが、麻薬取引の総元締めともいうべきテスは、本作のトップキャストとしていかなる役割を?そして、最後に迎える意外な結末とは・・・。
2012(平成24)年3月9日記