プレイ 獲物(フランス映画・2010年) |
<テアトル梅田>
2012年7月7日鑑賞
2012年7月11日記
脱獄、逃走、真犯人の追跡。近時のフレンチ・サスペンスは盛りだくさんだし、身体を張ったアクションは見モノ!主人公が走れば、それを追う女刑事も負けじと、走る!走る!こりゃハリウッド活劇も顔負けだ。もっとも、一見内気そうな連続殺人犯の殺人の動機と目的はイマイチ不明。また、ラストに向けて主人公の頭があまり良くないのでは?と思うところも弱点だが、そこは主人公の驚異的な頑張りに免じて・・・。
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監督:エリック・ヴァレット
フランク・アドリアン(服役中の強盗犯)/アルベール・デュポンテル
クレール・リンネ(エリート女性刑事)/アリス・タグリオーニ
ジャン=ルイ・モレル(フランクと同房の穏やかな男)/ステファン・デバク
クリスティーヌ(ジャン=ルイ・モレルの妻)/ナターシャ・レニエ
マニュエル・カレガ(憲兵と名乗る男)/セルジ・ロペス
アンナ(フランクの妻)/カテリーナ・ムリーノ
アメリ(フランクの一人娘)/ジャイア・カルタジオーネ
2010年・フランス映画・104分
配給/アルシネテラン
<またここに、フランス映画の新潮流の1つが!>
『すべて彼女のために』(08年)(『シネマルーム24』173頁参照)をはじめ近時のフレンチ・サスペンスは、状況設定といいスピード感といい、俳優の演技力といい、面白いものが多い。本作はそんな近時のフランス映画の新潮流の1つで、主役3人のキャラがポイントだ。冒頭、強盗犯として刑務所の中にいるフランク・アドリアン(アルベール・デュポンテル)が、面会にやって来た妻アンナ(カテリーナ・ムリーノ)と愛し合う姿が映し出されるのもフレンチ流、フランクが刑務所内で看守と結託した囚人たちからいびられまくるシーンが、なにやら意味シン。それはフランクが隠した金の在り処に囚人たちが関心を示しているためだが、もちろんフランクの口は堅い。他方、フランクと同房の男がジャン=ルイ・モレル(ステファン・デバク)だが、彼は今なお自分の容疑とされている未成年者の暴行罪は冤罪だと主張。そしてそれが認められた日、フランクはこの物静かで内気そうな男モレルを信用して、妻と娘アメリ(ジャイア・カルタジオーネ)への伝言を依頼したが、さてその当否は?
その後に展開される刑務所からの脱走劇があまり計画的・知的ではなく、ハプニング的な要素が強いのが少し難点だが、脱獄犯フランクを追い詰めるべく登場してくる美人刑事クレール・リンネ(アリス・タグリオーニ)が本作の華。彼女の自己紹介的なシークエンス(?)では、オンナオンナした一面を見せるものの、ラストまで続くフランクの追跡劇では、まさに獲物を追う執念に燃えるエリート女刑事そのものだ。そして中盤以降は、冒頭の弱々しそうな姿からは想像も出来なかった変身ぶりを見せる。モレルの若い女性ばかりを狙った連続殺人鬼ぶりも興味深い。本作では、この三つ巴の、獲物を追うプレイぶりをしっかりと楽しみたい。
<走る、走る!このアクションに感動!>
フランクを演ずるアルベール・デュポンテルは、『アレックス』(02年)(『シネマルーム2』165頁参照)、『ロング・エンゲージメント』(04年)(『シネマルーム7』280頁参照)、『いのちの戦場 アルジェリア1959』(07年)(『シネマルーム22』128頁参照)等に出演し、「フランス映画界の至宝」と呼ばれている1964年生まれの俳優だが、残念ながら私の中では名前と顔が一致せず、フランスの渋い俳優という程度の認識。
ところが、そのアルベール・デュポンテルが本作では刑務所内での囚人達との「死闘」をはじめ、脱獄後はとにかく走る走る!知能戦はもちろん、その肉体のありったけを使ったアクションへの挑戦はけっこう感動モノだ。また、それにつられるかのように、女刑事クレールも車が疾走する高速道路を逆行して走るフランクを追走、同僚の刑事が車に撥ね飛ばされ、車同士が次々と衝突していく中、フランクは車を交わしながらひた走るのはもちろん、建物から建物へと飛び回ったり、移動中の列車の上にダイビングしたり、と決死の逃走を・・・。今やハリウッド映画以上と思えるフレンチ・サスペンスのアクションの冴えをじっくりと楽しみたい。
<フランクの目指すところは?>
しかして、脱獄後のフランクが向かっているのは一体どこ?それは当然妻子の待つ家だが、そこは非常警戒線が張られているはず。今フランクが唯一の手がかりにしているのは、先に刑務所を出て行ったモレルから手渡された電話番号が書かれた一枚のメモだが、そこに電話をかけるとモレルの対応はやはりヘン。フランクの妻アンナはフランクが隠した金の在り処を知っているはず。モレルはそう読んでいるはずだから、ひょっとしてモレルが信用できない悪い奴だったとしたら・・・?そんな観客の予想どおり中盤以降のフランクを取り巻く情勢は悪くなる一方だ。
何とか警察の追跡を切り抜けたフランクがお金を隠していたお墓まで到着し、その墓石を動かしてみると・・・?その中で発見したものとは・・・?絶望状態に陥ったフランクの次の目標は憎きモレルの追跡だが、フランクにはモレルについての情報は何もなし。そこで中盤以降のポイントになるのが第3の男マニュエル・カレガ(セルジ・ロペス)だが、さてこの男の正体は?
<第3のキーマンは、元憲兵のマニュエル!>
日本で戦前に存在していた「憲兵」には良いイメージは全然ないから、フランスに今なお「憲兵」という職種が存在することにまずビックリ。もっとも、刑務所に収容されていたフランクに面会に来た時のマニュエルは憲兵と名乗っていたが、脱獄後調べてみると正確には「元憲兵」らしい。フランクがマニュエルを拉致して(?)、マニュエルが持っているモレルについての情報を調べていくうちにそんな事実も判明したが、マニュエルは自分の捜査に確信を持ち、憲兵退職後も怪しい男モレルを1人で追っているようだから、かなりいい奴。すると、このままフランクとマニュエルが共同戦線を張ってモレルを追っていけば、フランクの妻を殺して大金を奪い、一人娘アメリを人質にとっているモレルの発見や、モレルが過去に犯した大量の殺人事件の解明も可能なのでは・・・。
一方ではそんな期待が広がるが、クレールたち警察陣は体制を立て直し、「女の勘」だけで動くクレールは頼りにならないとばかりにクレールの上司が直接指揮をとり始めたから、フランクの逮捕は時間の問題・・・。今やモレルの巧妙な策略によってモレルが過去に犯した大量の殺人事件もすべてフランクのせいにされていたから、フランスでは至るところでフランクの指名手配書だらけだ。そんな中マニュエルの協力とマニュエルの尊い犠牲を経て、やっと今フランクは南仏のシャセーニュという村でモレルを発見したが、モレルはここで一体ナニを・・・?
<連続殺人の動機は?目的は?それがイマイチ・・・>
本作は主人公フランクとその獲物を追う女刑事クレールを中心とする捜査陣との追跡劇がストーリーの軸だが、そこにモレルという本物の悪人を介在させたところがミソ。フランクの銀行強盗はたしかに重罪だが、その罪を償う直前に脱走までして妻の元へ走ったのは一体何のため?再三警察の追及を振り切ったフランクは今、連続殺人犯として全国指名手配されているが、それはレッキとした冤罪で、連続少女殺人事件の犯人はモレルだ。スクリーン上では、シャセーニュの田舎町で人質のアメリを連れたまま妻のクリスティーヌ(ナターシャ・レニエ)と共に静かに暮らすモレルの姿が映し出されるが、ここでもある日モレルは地元の娘に魔の手を・・・。
ここで、私が疑問に思うのは、そんな罪を犯すモレルの動機は?目的は?ということ。マニアックな少女誘拐、拉致、強姦、殺人事件は世界中どこにでもあるが、本作を観ているとモレルの犯行は妻クリスティーヌとの共同作業だが、拉致した後強姦に及ぶわけでもなく、ただ殺し放置しているだけだから、モレルの殺人目的がわからない。それに加えて、元憲兵のマニュエルの追及がここまで来ているのだから、フランクは逃亡を続けず自首して真相を語った方がいいのでは?いくら警察が信用できないといっても、妻のアンナまで殺されているのだから、犯罪の全体像の説明が可能なのでは・・・?そんな疑問を持ちながら観ていると、偶然フランクは隠れ家の窓から歩いているモレルを発見。ただちに、これを追跡してみると・・・・。
<あまり頭が良くないのも、魅力のうち・・・?>
『すべて彼女のために』では主人公の頭の良さが光っていたが、本作ではフランクがモレルの屋敷に忍び込んで一人娘のアメリを救出しようとするシークエンスにおいて、フランクの頭があまり良くないことが顕著になる。つまり、ここでもフランクの目的が、①愛する一人娘アメリの救出②妻アンナを殺されたモレルへの復讐③自分の容疑とされている連続殺人事件の真犯人の解明、のどれなのかが明確でないため、せっかくピストルで撃たれた傷を庇いながら、ありったけの身体能力を駆使して屋敷内に侵入しても、結局モレルに追われる羽目になってしまうわけだ。ここまでクレールが1人で駆けつけてきたのは、一体何のため?それを考えれば、フランクはもう少しクレールに協力してモレルを逮捕してもらう方向にもっていけば、前述の3つの目的を同時に達成できるのでは?しかるに、フランクは盲目的に①の娘アメリの救出のみに絞って行動しているから、遂にはズドンと撃たれてしまうことに。
もっとも、この後の展開には触れないでおこう。主人公をあまりに不死身のヒーローに仕立てあげてしまうと、ストーリーの現実味が失われてマンガっぽくなってしまうが、さて本作では・・・。同じようにズドンと撃たれたモレルの死体が発見されたにもかかわらず、あれだけズドンと撃たれたフランクの死体は?それが発見されないということは、ひょっとしてフランクは今なおどこかで警察の追及を避けて1人で・・・。そんな可能性もないではないが、さて・・・・?
本作のラストは少し混乱気味になるが、そんなフレンチ・サスペンスに仕上がった理由の1つは、主人公フランクの頭があまり良くないため。そう考えれば、あまり頭が良くないのも魅力のうち・・・?
2012(平成24)年7月11日記