ハンガー・ゲーム(アメリカ映画・2012年) |
<角川映画試写室>
2012年8月2日鑑賞
2012年8月6日記
オリンピックは各国から選抜されたスポーツ戦士の祭典だが、アメリカの近未来の国パネムで毎年開催されるハンガー・ゲームとは?弓を操る美少女戦士はグッド。しかし、12地区からの選抜方式や基本ルールのあり方、さらに試合中のルール変更には異議あり!ハッピーエンドは想定の範囲内だが、シリーズ化が始まればいかなる波瀾万丈の展開が?そして、『トワイライト』シリーズ超えの戦略は?
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監督:ゲイリー・ロス
原作:スーザン・コリンズ『ハンガー・ゲーム』(メディアファクトリー刊)
脚本:ゲイリー・ロス、スーザン・コリンズ、ビリー・レイ
カットニス・エバディーン(第12地区に住む16歳の少女、プレイヤー)
/ジェニファー・ローレンス
ピータ・メラーク(カットニスの同級生、第12地区のプレイヤー)/ジョシュ・ハッチャーソン
ゲイル・ホーソーン(カットニスの狩り仲間の親友)/リアム・ヘムズワース
ヘイミッチ・アバナシー(カットニスとピータの教育係)/ウディ・ハレルソン
エフィー・トリンケット(カットニスの付添人兼PR担当)/エリザベス・バンクス
シナ(カットニスの専属スタイリスト)/レニー・クラヴィッツ
シーザー・フリッカーマン(「ハンガー・ゲーム」の公式インタビュアー)/スタンリー・トゥッチ
スノー大統領(最高権力者)/ドナルド・サザーランド
セネカ・クレーン(ゲームメイカー)/ウェス・ベントレー
クローディアス・テンプルスミス/トビー・ジョーンズ
ケイトー(第2地区のプレイヤー)/アレクサンダー・ルドウィグ
クローヴ/イザベル・ファーマン
ルー(最年少プレイヤー)/アマンドラ・スターンバーグ
プリムローズ・エバディーン(カットニスの妹)/ウィロー・シールズ
2012年・アメリカ映画・143分
配給/角川映画
<アメリカ版『バトル・ロワイアル』の設定は?>
『バトル・ロワイアルⅡ/鎮魂歌(レクイエム)』(03年)(『シネマルーム3』313頁参照)はちょっと薄っペラだったが、3日以内に自分以外のクラスメイト全員を殺すしか生き残る道はない、といういかにも突飛かつ過激なテーマを設定した深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』(00年)は十分刺激的かつ問題提起作としても十分な意味と説得力をもっていた。その舞台は、全国の中学3年生の中から無作為に選ばれた1クラスを、最後の1人になるまで殺し合わせる新世紀教育改革法・通称「BR法」が施行された近未来の日本。それに対して、本作が描くのは、富裕層によって支配され、パネムという名の独裁国家と化した近未来のアメリカだ。
パネムは北米でくり広げられた激しい戦争から復興したのち誕生した国家で、「キャピトル」がその拠点。キャピトルはスノー大統領(ドナルド・サザーランド)が支配する政府の中枢であるとともに、ローマ帝国におけるネロ皇帝時代のローマのように(?)退廃的な様式、ファッション、耽溺の中心地でもあるらしい。本作で描かれる24名の戦士たちのキャピトルへの入場行進は見モノだが、ちょっとマンガチックな面も・・・。またパネムはキャピトルの他、第1地区(高級品製造)、第2地区(宝石採掘・防衛)、第3地区(電子機器製造)、第4地区(水産業)、第5地区(科学・研究)、第6地区(運輸・交通)、第7地区(木工業)、第8地区(織物業)、第9地区(穀類生産)、第10地区(畜産)、第11地区(農業)、第12地区(炭鉱業)、という12の地区を支配しているが、これらはすべてキャピトルに利益を生み出すための工業地域らしい。地区ごとに貧富の差と文化はさまざまだが、どの地区も独裁政権の圧政によって支配されているわけだ。そして、反乱戦争の後、このパネムにおいて12地区の国民を威圧し、服従させる手段として74年間にわたって年に一度開催されている冷酷無比な「娯楽」が、「ハンガー・ゲーム」というわけだ。
<「ハンガー・ゲーム」の基本ルールに、異議あり!>
ハンガー・ゲームのルールは、①年に一度開催される②12の地区より12-18歳の男女各1名、計24名が選出される③参加者は志願、または抽選によって選ばれる④さまざまなテーマが設けられた競技場で戦う⑤飢え(ハンガー)に耐え戦う、サバイバル・ゲーム⑥ゲームは生中継され、国民全員が鑑賞を義務づけられている⑦勝者は生き残った1名のみ⑧勝者には巨万の富が与えられる、という設定だが、このルールにはいくつかの異議がある。その最大のものは、抽選で選ばれるのは戦士でなければ意味がないにもかかわらず、映画冒頭に描かれるストーリーによれば第12地区で選ばれたプリムローズ・エバディーン(ウィロー・シールズ)はとても戦士にはなれない、か弱い女の子だということ。
オリンピックだって各国の代表として選抜されるについては厳しい競争を勝ち抜かなければならないのは当然で、そんな選手が4年に1回開催される最高の舞台で戦うからこそ、観客はその一挙手一投足に熱中し感動するわけだ。「ハンガー・ゲーム」は「バトル・ロワイアル」と同じく究極のサバイバル・ゲームだから、そんなゲームにこれまで志願者がなかったのは当然。しかし、いくら抽選が公正で厳正であっても、選ばれた者がプリムローズの姉・カットニス・エバディーン(ジェニファー・ローレンス)のような「弓の戦士」ではなく、か弱い女の子だったら、そもそも観客が熱狂して喜ぶ「ハンガー・ゲーム」自体が成立しないのでは・・・?
その他にもスポンサー、キャリア、エスコート等々のちょっと変わったルールがあるが、これもヘン。それらはあなた自身の目で確認してもらいたいが、本作を楽しむについてはそんなヤボは言いっこなしという声もあるだろうから、ルールへの異議はこれぐらいに。
<あの若手女優より、この若手女優の方がグッド!>
最近急激に人気を伸ばしているのが、『トワイライト~初恋~』(08年)に始まる『トワイライト』シリーズで主演し、『スノーホワイト』(12年)でシャーリーズ・セロンと「対決」したクリステン・スチュワートだが、私はこの若手女優はあまり好きではない。他方、シャーリーズ・セロン、キム・ベイシンガーという二大女優と共演した『あの日、欲望の大地で』(08年)(『シネマルーム23』38頁参照)で、私が注目した若手女優がジェニファー・ローレンス。彼女は『ウィンターズ・ボーン』(10年)(『シネマルーム27』59頁参照)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされるほどに成長したが、さて本作ではどんな演技を?
日本では「美少女戦士」の代表はセーラームーン(?)だが、本来はそもそも美少女と戦士は矛盾する概念。それはオリンピックの女子柔道や女子レスリングを見れば明らか(?)だが、時としては例外も・・・?ジェニファー・ローレンスが本作で演ずるカットニスは「弓の戦士」としてサバイバル・ゲームで最後まで生き延びる戦士でなければならないと同時に、スポンサーから大きな支持を集める魅力あふれる美少女でなければならないから大変。『スノーホワイト』ではクリステン・スチュワートが戦士に豹変する白雪姫を演じていたが、ジェニファー・ローレンスは本作でそれと同じような美少女戦士に挑戦!クリステン・スチュワートは戦士の面に大きな違和感があったが、本作でのジェニファー・ローレンスは戦士ぶりが見事決まっているうえ美少女ぶりもまずまず。そう考えると、同じ1990年生まれの若手成長株女優だが、演技力の面も含めて、私はやっぱりクリステン・スチュワートよりジェニファー・ローレンスの方が断然グッド!
<サバイバルとチームプレーは、矛盾するのでは?>
卓球、テニス、バドミントン等にはシングルスとダブルスがあるから、ダブルスで組んだ者同士がシングルスでは敵として戦うこともあるが、それはあくまで競技上のこと。しかし、各地区から男女2名ずつ、合計24名が選抜されて戦うハンガー・ゲームでは生き残る者は1人だけだから、「バトル・ロワイアル法」と同じで、自分以外はすべて敵。するとそこには、卓球、テニス、バドミントンにおけるダブルスとか、バレーボール、サッカー、野球等におけるチームプレーなる概念は存在しないはず。それを前提とするからこそ、追跡装置を腕に注射された24名のプレイヤーたちが競技場に送り出されるや否や、武器や物資を奪おうと手当たり次第に殺し合う風景を見ていると、大きな緊張感が走ってくる。
ところが、教育係のヘイミッチ・アバナシー(ウディ・ハレルソン)のアドバイスに従って、最初の殺し合いを避け、ひたすら森の中への「逃げ出し作戦」を選んだカットニスが目にしたのは、第2地区代表のケイトー(アレクサンダー・ルドウィグ)たち数名のプレイヤーがチームを組んでいる風景。もちろん一時的にチームを組んで孤立するプレイヤーをやっつけるという作戦は成り立つだろうが、いずれはそのチーム内でバトルが起こるのだから、そう簡単にチームは組めないし、チームプレーもできないはず。大きな傷を負ったまま木の上に逃げ込んだカットニスを見張りつつ気楽に(?)眠っているケイトーたちのチームを見ていると、そんな違和感でいっぱいになったが・・・。
<ゲーム中の根本ルールの変更はなぜ・・・?>
日本列島は連日猛暑が続いているが、目下、日本国民の熱い眼差しもロンドンオリンピックにおける日本選手の活躍に注がれている。しかし、①男子柔道の海老沼匡VSチョ・ジュンホにおける前代未聞の判定変更②体操の男子団体総合決勝での抗議による4位から2位への繰り上げ③女子バドミントンにおける、勝とうとする意思を見せなかった強豪4チームへの失格宣言など、勝敗の判定をめぐる異例の展開が続いている。ところが、本作ではそれを上回る、何とゲームの途中で勝者を1名から同郷の2名が生き残っている場合はその2名を勝者とするルールに変更するという異例の措置がとられたからビックリ!
その「伏線」はハンガー・ゲームの公式テレビインタビュアーであるシーザー・フリッカーマン(スタンリー・トゥッチ)のインタビューで、カットニスと同じ第12地区から選ばれた男子のピータ・メラーク(ジョシュ・ハッチャーソン)が、カットニスに対する恋心を発表したこと。この告白はテレビ鑑賞を義務づけられている国民に大受けだったが、同郷で一緒に狩りをしていたボーイフレンド(?)のゲイル・ホーソーン(リアム・ヘムズワース)がいるカットニスにとっては、全くの想定外。しかも、これからサバイバル・ゲームが始まろうとする時にそんな告白をされても・・・。そのうえ、ゲームが始まってみると、何とピータはケイトーたちのチームの一員としてカットニスの攻撃に加担していたから、その思惑は・・・?
アメリカで本作が大ヒットした要因は、『バトル・ロワイアル』と同じサバイバル・ゲームの厳しさの中、美少女戦士の友情や恋愛感情が等身大で描かれたり、格差社会のひずみを真正面から描くその構成力にある。しかし、そもそも「ハンガー・ゲーム」を毎年1回開催している趣旨は前述のとおりだから、このゲームが反パネム感情を盛りあげるものになっては元も子もない。ところが、ゲームが進行する中でカットニスとピータとの距離が縮まったうえ、それが次第に恋愛感情に変わっていくと・・・。いわゆる韓ドラの人気は今なお続いているが、今全国民の前で展開されているカットニスとピータの恋物語はまさに韓ドラのそれ。そんな中、スノー大統領がゲーム中の根本ルールを変更したのは一体なぜ・・・?
<予想どおり、更なるルール変更だが・・・>
24人のプレイヤーたちがたった1人の勝者を目指して戦うのは現実の世界だが、ゲームの進行を一手にコントロールしているセンターでは、これは疑似ゲームのようなもの。したがって、木の上で休んでいるカットニスを見て、突然競技場に火の玉を投げ込んだり、スポンサーからの支援物資を適宜配置したり、とゲームを盛りあげるためやりたい放題。そして、ゲーム終盤が迫ってくるとより一層ゲームを盛りあげるべく送り込んだのが、獰猛な動物たちだ。カットニスとピータを含めて残った3人のプレイヤーたちはいかにこれを撃退するの?
本作はゲイリー・ロス監督が共同脚本を書いたそうだが、カットニスとピータの2人が勝者として生き延びる結果になることは容易に想定できる。しかしてその後想定できるのは、更なるルールの変更で、「やっぱり勝者は2人ではなく、1人だけ」にすることだ。そう思っていると、案の定そんな読みどおりの展開になっていったが、ここであっと驚く展開が起きるからお立ち会い!ロミオとジュリエットは2人とも死んでしまったから悲恋物語の代表として長く文学史に残ることになったが、前述の目的で毎年開催しているハンガー・ゲームにおいて、勝者として生き残った2人が2人とも死んでしまったのではお話にならない。16歳の少女カットニスに諸葛孔明のような知恵がないのは当然だから、どこまで先の展開を読んで手を打っているのかはわからないが、本作では結局カットニスが立てた戦略の勝ちとなる。しかして、勝者として無事故郷の第12地区に戻った2人を待ち受けている次の試練とは?
それはきっと、今後「シリーズ」として続いていくであろう本作の第2作、第3作で見えてくるはずだ。そしてそこでは、本作の冒頭にしか登場しなかったカットニスのボーイフレンドであるゲイルが大きな役割を果たすことになるのでは・・・?
2012(平成24)年8月6日記