アナザー・ハッピー・デイ ふぞろいな家族たち(アメリカ映画・2011年) |
<シネ・リーブル梅田>
2012年12月9日鑑賞
2012年12月11日記
離婚し別の男女と再婚した元夫婦と、3世代にわたる親子たちが、息子の結婚式のため実家に集合!普通それは楽しいはずだが、問題児ばかりのふぞろいな家族が織りなす会話劇は?第27回サンダンス映画祭で脚本賞を受賞したのはダテではない。身勝手な人間たちと、その相互関係が見事に浮き彫りに。その挙げ句に起きた大事件と大悲劇の結果、さてこの家族たちの絆は?やはり、悲劇の中にこそ家族の絆は・・・?
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監督・脚本:サム・レヴィンソン
製作:エレン・バーキン
リン(情緒不安定の主人公)/エレン・バーキン
リー(リンの現在の夫)/ジェフリー・デマン
エリオット(リンの息子、ドラッグ中毒)/エズラ・ミラー
ベン(リンの自閉症の息子)/ダニエル・イェルスキー
パティ(ポールの2番目の妻)/デミ・ムーア
ドリス(神経衰弱のリンの母)/エレン・バースティン
ジョー(認知症のリンの父)/ジョージ・ケネディ
ポール(離婚したリンの元夫、パティの現在の夫)/トーマス・ヘイデン・チャーチ
アリス(リンと元夫との間の娘、自傷行為がやめられない)/ケイト・ボスワース
ディラン(結婚式を迎えたリンと元夫との間の息子)/マイケル・ナルデリ
2011年・アメリカ映画・119分
配給/彩プロ
<問題児ばかりの家族を描いて脚本賞に!>
『レインマン』(89年)でオスカー監督となったハリウッドの名匠バリー・レヴィンソンを父に持つ弱冠26歳の青年サム・レヴィンソンが、初監督と初脚本を務めた本作で、第27回サンダンス映画祭においていきなり脚本賞を受賞!それが本作の「売り」だが、本作のテーマは家族の絆。と言っても、感動的なそれを謳いあげた映画ではなく、本作に登場する元妻のリン(エレン・バーキン)と元夫のポール(トーマス・ヘイデン・チャーチ)を軸とした2組の夫婦と、3世代にわたる家族たちはそれぞれ問題児ばかり。
そもそも、リンには離婚したポールとの間に長男ディラン(マイケル・ナルデリ)と長女アリス(ケイト・ボスワース)がいるうえ、再婚した現在の夫リー(ジェフリー・デマン)との間に、長男エリオット(エズラ・ミラー)とその弟のベン(ダニエル・イェルスキー)がいること自体が、少子高齢化の今かなりの奇跡。そして、今回結婚式を挙げることになったディランはまともそう(?)だが、アリスは自傷行為がやめられない、エリオットはドラッグ中毒、ベンは自閉症というから、母親のリンは大変。こんな状況ではリンが情緒不安定になるのも仕方なし・・・?
本作はディランの結婚式に出席するべく、リンが運転する車にエリオットとベンを乗せ、実家に向かうシークエンスから始まる。しかし、そこにはディランの父親ポールが再婚したディランの育ての母であるド派手な女パティ(デミ・ムーア)も来ているはず。リンとパティは「犬猿の仲」だから、さあそこではどんなドタバタ劇やハプニングが・・・?
<面白い会話劇だが、疲れもどっと・・・>
本作は登場人物が多いにもかかわらず、人物の相関関係を説明するシーンはまったくなく、いきなりの会話劇からテンポよく進んでいくから、人物相関関係を理解するのにそれなりの時間がかかる。冒頭から会話をリードするのはおしゃべりなエリオットだが、アイロニーに満ちた彼の会話はいつも面白い。しかし、それを四六時中聞かされている母親のリンは大変だ。
実家に到着したリンたちを両親が迎えてくれたが、ここで明らかになるのは家の中に認知症の老人が一人いるということはいかに大変かということ。リンの父親のジョー(ジョージ・ケネディ)は既に重度の認知症らしく、ちょっと目を離すと一人で家を出て森の中を徘徊するので大変。そうかと言って家の中に紐で縛りつけておくのはいかがなもの?とも思うが、これではジョーの妻のドリス(エレン・バースティン)が神経衰弱になるのも当然だ。また、久しぶりに実家に戻ってきたリンや孫たちに十分構ってやれないのも仕方ない。結婚式には当然ディランの父親ポールとその現在の妻であるパティが参加するし、式の段取りはすべてパティが取り仕切っているようだが、さてその采配ぶりは?またリンとしては、久しぶりに再会する別れた夫とどんなスタンスで接すればいいのかも不安。他方、ポールは若い頃に自傷行為をくり返していたアリスと全然会っていないから、結婚式での再会を楽しみにしているようだが、久しぶりの父娘の「ご対面」の展開は?
第27回サンダンス映画祭で脚本賞を受賞した作品らしく、それぞれに問題を抱えた2つの家族、3世代の男女たちが次々とくり出す会話劇はたしかに面白いが、観ていて疲れることもまちがいない。だって、何一つとして楽しく、明るく、前向きな会話はなく、その一つ一つがイラつくだけ、腹が立つだけ、挙げ句の果ては怒鳴り合い、罵倒し合うだけの会話になってしまうのだから。弁護士としてはこれほどバリエーションに富んだ会話劇は大いに参考になるが、疲れもどっと・・・。
<花婿の母はどっち?父娘の相互理解は?>
本作は、人間は本来身勝手なもので自分に都合のいいことばかり主張する動物だということを実践的に理解するうえで、実によくできている。それがもっとも顕著になるのは、花婿の母としてどちらが表に出るのか、についてのリンとパティの対立(対決?)。結婚式の段取りをすべて自分の采配で決めている、何事にも派手好きなパティは、自分を花婿の母として演出しようとしていたが、直前になってディランが実の母親のリンにその役割を求め始めると当然おかんむり。さらに、それはそれだけの問題で済まず、息子にそんな意見を吹き込んだのは一体誰だ!と論点がズレていき、結局リンとパティの感情的な対立になってしまうから、そうなると収拾不可能なことに。
また、美しく成長した娘アリスと久しぶりに再会できた父親のポールは、今後も何かと話し合い、理解し合いたい旨を申し出て、いったんはその話がうまく進むかに見えた。しかし、リンがポールに対して投げかけた言葉によって、ある日の夫婦ゲンカの際の生々しい情景が浮かび上がってくると・・・。そんな過去を思い出したアリスは、結婚式の披露パーティーの席で、「2人だけで話したい」というポールの申し出を断固拒否。こんなケースを代表として、ディランの結婚式に集まったふぞろいな家族たちは、それぞれの会話においてスレ違いばかり。こんなバラバラの状態で式は無事に終わるの?また、披露パーティーもスムーズに終わるの?
<祝いの席が一転して、大事件と大悲劇に・・・>
実家における2家族3世代の男女たちの集まりに居心地が悪いのは、リンだけではなくその息子エリオットとベンも同じらしい。そしてそこでは、何かとおしゃべりで行動的なリンの言葉とビデオ撮りを中心とする行動が、次々と問題を起こしていくことに。
何をドラッグと定義するのかは人それぞれだから、リンにとって危険なドラッグでもエリオットにとっては普通らしい。したがって、久しぶりの家族の集まり、そして結婚披露パーティーという「開放感」もあって、エリオットのドラッグやウイスキーへの欲望は膨れ上がるばかり。もちろん、リンとの話し合いではドラッグの危険性を十分理解しており、バカなことはしないと答えているエリオットだが、披露パーティーでウイスキーを一気に3杯も引っかけたエリオットがパーティーを抜け出して一人ふらふらと出向いた先は・・・?
他方、結婚披露パーティーに興奮を覚えたのは、認知症のジョーも同じらしい。席に静かに座ってお祝いの言葉を聞いている時はみんなの「監視」が効いているから大丈夫だが、酒が入り、音楽が入り、ダンスが始まる中、パーティーが盛況になってくると、ジョーに対する「監視」の目は?そんな中、エリオットについて「ある大事件」が起こり、ジョーについて「ある悲劇」が起きてしまったから、こりゃ大変!祝いの席が一転して、大事件と大悲劇に・・・。
<悲劇の中でこそ、家族の絆は・・・?>
高齢で重度の認知症にかかっているジョーについては、ドリスが「朝起きたらベッドの上で息を引き取っているのではないかと毎日心配している」と告白していたように、いつお迎えが来てもおかしくない。それが客観的な状況だが、そうなったのならともかく、結婚式の披露パーティーであんな大悲劇が起きてしまうと・・・。
世の中には「求心力」と「遠心力」という言葉がある。そして、野球やサッカーなどの団体競技、あるいは現在戦われている衆議院議員総選挙のような政治闘争においては、どんなリーダーやどんな出来事に求心力が働くか、遠心力が働くかが重要なポイントになることが多い。たとえば、2012年に完全優勝を果たした読売巨人軍の原辰徳監督による一億円支払い問題や、去る12月7日の藤村官房長官による「北朝鮮はミサイルをさっさと打ち上げて」との発言に遠心力が働いたのは当然だ。他方、自然災害や天災事変は大きな悲劇だが、その悲劇の中から思わぬ人間の絆が生まれることがあるのは、2011年の3.11東日本大震災を見れば明らかだ。
本作が第27回サンダンス映画祭で脚本賞を受賞したのは、数多くのふぞろいな家族たちの会話劇の中で人間の本質と人間同士の相互関係の本質を鮮やかに浮かび上がらせたためだが、ディランの結婚式と披露パーティーがこの家族たちの相互関係に「遠心力」として働き、家族たちがよりバラバラになったのでは、その映画は観客に感動を与えることはできないことになる。すると、東日本大震災の時に見たように、本作でもやはり悲劇の中でこそ家族の絆は?そんなラストに向けての大団円は、あなた自身の目でしっかりと。
2012(平成24)年12月11日記