つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語(日本映画・2012年) |
<梅田ブルク7>
2013年2月3日鑑賞
2013年2月8日記
「恋愛モノ」に定評のある行定勲監督が原作にホレてつくったオムニバス風のさまざまな「男と女の愛のカタチ」は、私にはイマイチ消化不良。6人の女優陣は豪華だが、不治の病であの世に旅立とうとする奔放な女、艶が今なおこんなに影響力を持つのは一体なぜ?女優陣の熱演には拍手だが、人間は忘れっぽい動物だとすれば、本作のストーリー構成はちょっとこじつけ気味では・・・。
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監督:行定勲
原作:井上荒野『つやのよる』(新潮社刊)
松生春二(家族を捨て、艶と大島へ駆け落ちした男)/阿部寛
石田環希(艶の従兄の妻)/小泉今日子
橋本湊(艶の最初の夫の愛人、不動産屋勤務)/野波麻帆
橋川サキ子(艶の愛人だったかもしれない男の妻)/風吹ジュン
池田百々子(艶がストーカーしていた男の恋人)/真木よう子
山田麻千子(艶のために父親から捨てられた娘)/忽那汐里
山田早千子(松生の元妻、麻千子の母親)/大竹しのぶ
石田行彦(艶の従兄、小説家)/羽場裕一
伝馬愛子(教育評論家、石田の愛人)/萩野目慶子
太田(艶の元夫)/岸谷五朗
常盤社長(不動産屋社長、湊の不倫相手)/渡辺いっけい
茅原優(艶がストーカーしていた男、スナックYOUの店長)/永山絢斗
安藤慎二(麻千子の大学の教授)/奥田瑛二
芳泉杏子(艶の担当看護師)/田畑智子
常盤社長夫人(常盤社長の妻)/高橋ひとみ
岩瀬(不動産屋社員)/渋川清彦
橋川康太(サキ子の長男)/水橋研二
萩原ゆかり(優の元恋人、優の子どもの母親)/藤本泉
2012年・日本映画・138分
配給/東映
<阿部寛と6人の女優陣が、どんな「愛のカタチ」を?>
本作は直木賞作家・井上荒野の原作を「恋愛モノ」に定評のある行定勲監督が映画化したもので、「謎の女、艶に翻弄される男と女たちの、センセーショナルな愛の物語。すべての女性へ贈る、新しい愛のカタチ-2013年、愛の常識が変わる。」がキャッチフレーズ。そして、チラシには真ん中の阿部寛扮する松生春二を、①「愛を闘う女」石田環希(小泉今日子)、②「愛を確かめる女」橋本湊(野波麻帆)、③「愛に寄り添う女」橋川サキ子(風吹ジュン)、④「愛を待つ女」池田百々子(真木よう子)、⑤「愛を問いかける女」山田麻千子(忽那汐里)、⑥「愛を包みこむ女」山田早千子(大竹しのぶ)の6人の女性たちが悩ましげな肢体で取り囲んでいるから、本作はきっと松生がドンファンのようにこれらの女たちを遍歴する物語。
私はそう思っていたが、実はそれは全くの誤解だった。艶は今、不治の病に冒され、昏睡状態でベットの上に。そして、延命治療の中止も考えなければならない中、艶と一緒に大島まで駆け落ちし結婚した松生は、艶を心から愛しながらも今は奔放な妻の過去の男たちの亡霊に悩まされていた。しかし、他方で艶を失うことに耐えられない松生が今思いついたのは、過去に艶が関係を持った男たちに愛の深さを確かめようということ。さあ、阿部寛の他、小泉今日子、野波麻帆、風吹ジュン、真木よう子、忽那汐里、大竹しのぶという6人の豪華な女優陣が、どんな「愛のカタチ」を?
<なるほど、こんなつくり方も・・・>
なるほど、こりゃ確かに「新しい愛のカタチ」かも・・・。しかし、艶が死ぬ段階に至って松生はなぜそんなことを考えたの?本作に登場する艶はベットの上に横たわっているだけで回想シーンも全くないから、艶の奔放な男性遍歴の様子はスクリーン上には全く登場しない。しかし、6人の女たち一人一人の心の中に艶の残像が根強く宿っているとすれば、松生からの連絡によって艶の現在を知った彼女たちは、それぞれどんな行動を?なるほど、「新しい愛のカタチ」を描くにはこんな作り方も・・・。それはそれでわからないでもないが、6人の女たちは今死んでいこうとする艶に対して、なぜ今なおそんな強いこだわりを持ち続けているの?それがイマイチ私にはわかりにくいから、本作への私の共鳴度もイマイチ・・・。
朝日新聞社広告局の大版の広告特集には、FM大阪『happiness!!』のDJ・赤松悠実氏が「自分を見つめ直すきっかけになる映画です」というタイトルでコメントを寄せている他、数名の映画館スタッフ等が「男とは?女とは?すべての女性に問いかける愛のカタチ」についてのコメントを寄せている。そこで共通する感想は、「あそこまで艶を愛し抜いた松生はすごいと思う」ということだが、私には艶を愛し抜いていた松生がなぜ本作のような行動をとるのか、についてもイマイチ理解できない面が・・・。
<妻と愛人のこのバトルは、すごい!>
本作は全体的に進行がゆったりしているうえ、過去に艶が関係を持った男に絡まる6人の女たちが松生からの連絡を受けていかに行動するかを、第1章から第5章に分けてオムニバス調で描いていくから、ストーリーとしてはわかりやすい。もっとも前述のように、私には今さら艶のことを聞かされたことによってなぜそんな展開になるのか、という根本の部分がイマイチ共鳴できないので、6人の女たちの行動もイマイチ理解できない。しかし、「おさらい」の意味で今一度松生と6人の女たちの「愛のカタチ」をたどってみると・・・。
「第1章」の見どころは、艶の従兄で小説家の夫・石田行彦(羽場裕一)の華やかな受賞パーティーで見せる行彦の妻・石田環希と行彦の愛人・伝馬愛子(萩野目慶子)との激しいバトル。赤ワインをかけあい、テーブルクロスをひっつかみ、けたたましい悲鳴を上げながら殴り合う(?)2人の女の修羅場は見応え十分だから、これに注目!もっとも、妻の環希が行彦に対してある種の「疑惑」を抱いたのは、行彦が受賞した小説『つややかな獣』が12歳の時に行彦が従妹の艶の処女を奪ったという体験にもとづくことを聞かされたため。しかし、授賞式におけるバトルは単に夫の浮気相手が抜け抜けとパーティー会場に登場し、いろいろと嫌味を言われたのが直接の原因だから、石田環希を「愛を闘う女」と定義づけるのはちょっとカッコ良すぎるうえ、艶と夫の行彦との昔のそんな「疑惑」が今、何の関係があるの?
<野波麻帆の艶技には納得だが・・・>
「第2章」の見どころは「艶の最初の夫の愛人」と定義づけられる橋本湊を演じる野波麻帆の艶技。彼女は今、不動産会社に勤務し、常盤社長(渡辺いっけい)と不倫関係にあるが、それは湊に好意を持つ社員の岩瀬(渋川清彦)にも薄々感づかれているようだから、社長夫人(高橋ひとみ)にバレるのも時間の問題?そんな湊はアパートのオーナーである太田(岸谷五朗)ともダブル不倫しているから、太田に会社の周りをウロウロされるとえらく迷惑そう。このように湊は今なお男を渡り歩きながら人生に悩んでいるが、それはそれでよくある話。
私が今まで知らなかった野波麻帆という若手女優が見せる大胆なベットシーンには感心したが、その野波麻帆が演ずる湊のストーリーに艶が何の関係を持ち、どんな影響を与えているの?たしかに艶を中心に定義づけていくと湊は「愛を確かめる女」だが、艶の存在が湊の生き方や男遍歴に一体何の関係があるの?私にはそれがイマイチ。さらにストーリー展開をみても、太田が艶に一目会うべく大島に行っている間、湊は少しさびしい思いをした程度の影響しか与えていないから、野波麻帆という女優を発見できたのは収穫だったが、それ以外はイマイチ・・・。
<夫のかつての愛人に、どこまで興味が・・・?>
昔から私の大好きだった女優の一人が風吹ジュンだが、本作で彼女は「愛に寄り添う女」と定義づけられた、「艶の愛人だったかもしれない男の妻」橋川サキ子役を演じている。もっとも、これはあくまで艶の視点からの説明(定義)で、橋川サキ子の立場から言うと、艶は1年前に自殺で死亡した夫の「かつての愛人だったかもしれない女」だ。
しかし、そんな存在の女は世の中にいくらでもいるから、現在の艶の夫である松生からメールで連絡を受けた橋川サキ子はなぜそんなに動揺し、大島まで出かけていくの?そこらが私にはイマイチ理解できないから、風吹ジュンが登場する「第3章」の物語もあまり納得できない。そのうえ、わざわざ大島までやってきた橋川サキ子に対して松生が、橋川の亡き夫と艶との生々しいメールのやりとりを言って聞かせるという行動は不可解であるとともに不愉快と言わざるをえない。
<艶は若い男のストーカーまで・・・?>
茅原優(永山絢斗)が登場する「第4章」の愛のカタチは、さらにややこしい。艶は松生と一緒に大島へ駆け落ちしておきながら、何と大島でスナックYOUの店長をしているカッコいい若者・茅原優にストーカー行為をしていたらしい。もっとも、女にモテモテの茅原優には現在同棲中の恋人・池田百々子がいるから、茅原優は艶のことなど全く関心がないようだ。むしろ茅原優にとっての今の問題は、茅原優の元恋人の萩原ゆかり(藤本泉)が優の子供だという6歳の男の子を連れて店までやってきたこと。その目的によってはかなりヤバイ展開になるところだが、第4章の主人公はあくまで「艶がストーカーしていた男の恋人」で「愛を待つ女」と定義されている池田百々子。
この第4章では茅原優の男としての「軽さ」が目につくが、なるほどこんな「愛のカタチ」も。しかし、この展開に艶の存在はどこまで絡んでいるの?
<今ドキの女子大生は・・・?>
「第5章」では「松生の元妻で山田麻千子の母親」である山田早千子が「愛を包みこむ女」として、また「艶のために父親から捨てられた娘」山田麻千子が「愛を問いかける女」として登場する。そして結局2人して大島まで艶を訪ねて出かけていくという「愛のカタチ」が展開する。麻千子は、艶と共に駆け落ちした夫に対して怒りの気持を見せず、いつもどこかで夫を想っている母親の気持がわからないらしい。また麻千子は大学に入っても良く言えば良家の子女、悪く言えば母親ベッタリで男友達もいないようで、「男と女のこと」はよくわからないらしい。そこで、「男と女のこと」を女関係のうわさが高い文学部の教授・安藤慎二(奥田瑛二)に質問に行き、そのまま教授とホテルで関係を持ってしまうという行動になるのだが、これはあまりに不可解。今ドキの女子大生は一体何を考えているの?
他方、夫(松生)が妻(早千子)や子供(麻千子)を捨てて女(艶)のところに走ってしまえば、残された妻や子が心の痛手を受けるのは当然だが、今、その女が死にかけているからといって、妻と子はなぜわざわざ大島まで出かけていくの?大竹しのぶの演技の上手さと忽那汐里の演技の率直さは認めるものの、そこらの「愛のカタチ」が私にはイマイチ・・・。
<このラストをどう理解すれば?>
本作では総じて男たちの「軽さ」が目立つ。物語全体をリードし、自分が一番艶を愛していると信じている松生ですら、第5章で美しく成長した自分の娘・麻千子と対面すると逃げ出していく体たらくだから、情けないものだ。そして今、展開されてきたさまざまな「愛のカタチ」も艶が死亡し、その「通夜」のシーンで終わることになるが、ここではじめて松生の「心情」が吐露されるからそれに注目!
それは、「お前が思いをかけた男たちは誰も来ない。お前を愛したのは俺だけだった。ざまあみろ」というものだが、こんな松生の思いを一体どう理解すればいいの?それから、もう一つ、私にわからないのは、ずっと艶の看護を担当していた看護士・芳泉杏子(田畑智子)とその息子の登場。さて、あなたはこれをどう理解?
2013(平成25)年2月8日記