キング・オブ・マンハッタン-危険な賭け-(アメリカ映画・2012年) |
<テアトル梅田>
2013年3月29日鑑賞
2013年3月30日記
『フォーブス』の表紙を飾るヘッジファンドの大物は「一番の誇りは家族!」とキレイ事を言うが、彼が率いる投資会社の内実は火の車・・・?そんな心労が続く中、飲酒運転による交通事故で愛人を死亡させてしまうと、その対処は?どんな男にも、どんな富豪にも二面性があることをトコトン思い知らされる展開と、リチャード・ギアのカッコ良さにホレボレ。さらに、一難去ってまた一難!前門の虎、後門の狼!という本作の結末に大注目!
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監督・脚本:ニコラス・ジャレッキー
ロバート・ミラー(投資家)/リチャード・ギア
エレン・ミラー(ロバートの妻)/スーザン・サランドン
ブライヤー刑事(ニューヨーク市警の刑事)/ティム・ロス
ブルック・ミラー(ロバートの娘、会社の最高財務責任者)/ブリット・マーリング
ジュリー・コテ(ギャラリーのオーナー、ロバートの愛人)/レティシア・カスタ
ジミー・グラント(ロバートに恩のある黒人の青年)/ネイト・パーカー
シド弁護士(ロバートの友人)/スチュアート・マーゴリン
2012年・アメリカ映画・107分
配給/東京テアトル、プレシディオ
<ホリエモンはたたかれたが、こちらの社長は・・・?>
最高裁で懲役2年6カ月の実刑判決が確定していたホリエモンこと堀江貴文が、仮釈放によって去る3月27日、1年9カ月ぶりに「社会復帰」を果たしたことが報じられた。収監時の95kgから現在は65kgと大幅に減量しているものの、その表情にかつての精悍さが失われたのは残念だが、「メールマガジンでやっていることも一緒だけど、インターネットを使った新しいニュース批評の形を事業化していきたい」と今後の展望を語ったのはせめてもの救いだ。日本でもかつては(というよりほんの10年前には)ホリエモンのような起業家がヒーローとされる時代があったが、出るクイが打たれる傾向が強い日本では、今やそんなエネルギーは失われてしまっている。しかし、アメリカでは相変わらず起業は盛んだし、ロバート・ミラー(リチャード・ギア)のような「ヘッジファンドの大物」(日本ではこんな形容そのものが怪しげだが)が今なおゴロゴロいるようだ。テレビのインタビューで、幼少の頃から「世界はM-O-N-E-Yの5文字で回っている」と悟った、と語る彼は08年の世界的金融危機も回避したらしいが、それってホントに先見の明があったため?それとも単なる偶然?
彼が率いる投資会社は飛ぶ鳥をも落とす勢いらしいが、ジェット機に乗って3200kmも飛び回りながら所定の契約ができず、失意の中で帰国している冒頭のシーンを見ると、彼はかなり大きな苦悩を抱えているようだ。いくら外見上は華やかでも、内実は火の車。そんな現実はどこにでもあるが、ひょっとして彼が率いる投資会社も・・・?
<株価が上がっている今、絶好の教科書に!>
2012年12月26日の衆議院議員総選挙によって、民主党政権から「安倍晋三」自公政権への「政権交代」が実現してから3カ月。いわゆる「アベノミクス」によって、日本の株価は大きく上昇した(2012年3月末比で2013年3月末は約23%上昇、衆議院解散後43%上昇)。私は個人的にはこのことを大いに喜んでいるが、他方で円安になれば輸出関連企業の業績は良くなるものの、石油や電気など多くの種類の物価上昇は避けられない。また、企業の業績が良くなっても従業員の給料が上がらなければ消費が改善することもないから、2%のインフレになると逆に国民生活を圧迫することになってしまう。所詮「経済」とはそんなもので、どれが正解という政策はないから、少なくとも「バブルの頂点」から「奈落の底」までを体験してきた私たち世代の日本人は、しっかり経済のあり方を考え、良き舵取りをするべき義務があるはずだ。
そんな私にとって、「世界はM-O-N-E-Yの5文字で回っている」というロバートの信念はいかがなもの?と言う他ない。もっとも、そうかといってこの種の「金持ち」を毛嫌いし、警察権力を乱用(?)してまでロバートの「犯罪」を追及しようとするニューヨーク市警のブライヤー刑事(ティム・ロス)の価値観ややり方にも同調できない。本作が描くスリリングな企業合併のストーリーと大成功した起業家の人生の光と影は、株価が上がっている今、絶好の教科書に!
<この企業合併をどう考える?>
冒頭の3200kmの旅は、ロバートがスタンダード銀行の代表たるメイフィールド氏と会見して自分の投資会社をスタンダード銀行へ高く売りつける(合併の話をまとめる)ためだったことがその後のストーリー展開の中でわかるが、なぜロバートはその合併話を急いでいたの?私は一部上場企業の(非常勤)監査役をしているが、それを長年続けていると会社の業績はすべて数字でわかるから、「二重帳簿」による会計のゴマカシなど到底できるものではないことがわかる。ところが、ロバートは合併話を有利に進めるため(自分の会社を高く売りつけるため)に、「オリンパス」がやっていたのと同じような「粉飾決算」に手を染めているようだ。
後半にはこれが会社のCFO(最高財務責任者)をしている実の娘ブルック・ミラー(ブリット・マーリング)にバレて、ロバートは企業人としても家庭人としても窮地に陥るのだが、投資家や従業員を守るためにはロバートとしてはそれしか方法がなかったことも理解できる。もちろん、これはレッキとした「犯罪」だから、『フォーブス』の表紙を飾るような成功者であっても、そのロバートが率いる投資会社の実態とは・・・?企業の合併話は常にゴマンとあるが、その際には会計処理の適正さのチェックをくれぐれも怠らないように!
<60歳は元気盛りだが、ちょっと無理しすぎ?>
リチャード・ギアは私と同じ1949年生まれだが、本作では3200kmの旅から帰国した直後の60歳を迎えた誕生日での「私の一番の業績はここにいる家族だ。君たちは誇りでもあり大切な贈り物だ」というスピーチが興味深い。というのは、これは決してウソではなく彼の正直な気持の大きな部分を占めているはずだが、同時にこの男が別の気持、つまり愛人のジュリー・コテ(レティシア・カスタ)のことを真剣に考えていることがその直後に明らかになるからだ。ジュリーはロバートとロバートの妻エレン・ミラー(スーザン・サランドン)が設立した基金で出資しているギャラリーのオーナーだが、こんな「美人」を応援するについては、ロバートにはきっと何か別の魂胆があったはず・・・?
本作が「企業合併」をテーマとした企業映画色を薄め、「ジュリー死亡の真犯人は誰だ!」というサスペンス映画色を強めるのはそのためだ。合併話が進展しないことに疲れ、かつジュリーの絵画展のオープニングパーティーに遅刻したことをジュリーからなじられたことに疲れたロバートは、大胆にも夜中にこっそり家を抜け出してジュリー宅へ。そして、このまま彼女の車で「北の別荘」に向かい、2人で朝を迎えようとロマンティックなことを考えたのはいいが、その顛末は?睡眠不足と飲酒そして過労運転による交通事故によってひっくり返ってしまった車から何とか自分だけは脱出できたものの、助手席のジュリーは即死してしまったから、さあ大変!60歳は元気盛りだが、いくら何でもちょっと無理しすぎでは?
<黒人青年ジミーがキーパーソンに!>
あなたは性善説?それとも性悪説?その議論は大切だが、本作のロバートを見ているとそのどちらかに割り切ることはできず、人間にはその両面があると言わざるをえない。本作最大のポイントは、悪夢の交通事故直後に見るロバートの決断と行動だ。交通事故を起こしたら、家族や保険会社よりも真っ先に警察に連絡を。それが常識だが、本作に見るロバートの行動はその正反対。すなわち、助手席で死亡しているジュリーを見捨てたロバートは、車が爆発・炎上する姿を見届けた後、ロバートから恩義を受けていた黒人青年ジミー・グラント(ネイト・パーカー)に連絡をとり、直ちに現場に来るよう指示。それは一体なぜ?自分の携帯を使わず、わざわざ近くのガソリンスタンドの公衆電話を、しかもそれをコレクトコールで使ってジミーを呼び寄せたロバートは、「今夜の件は一切他言無用」「私は妻と自宅で、君は恋人と自宅で、それぞれ寝ていたことにする」とジミーを説得(強要?)したが、さてその意図は?
弁護士の目から見ればこれは明らかな証拠隠滅行為だが、世間もうらやむ大富豪でフォーブスの表紙を飾るような一流の企業人が、なぜこんな行動を?現場を確認したブライヤー刑事は、助手席のドアが蹴破られているのを見てすぐにこの事故はジュリーの飲酒による自損事故ではないことを確信。コレクトコールの調査やジュリーとロバートの関係などを調べた結果、ジュリーを死亡させた犯人はロバートではないか?いやきっとそうに違いない、とにらんだが、そのためにはコレクトコールの架電先であるジミーを追いつめることが不可欠。そこで、本作中盤の犯人探しのサスペンスでは、この黒人青年のジミーがキーパーソンに!
<アメリカの警察の腐敗は、ここまで・・・?>
私がはじめてDVDの「解説」を書いた『リンカーン弁護士』(11年)は弁護士の「秘匿特権」をキーワードにした面白い映画で、随所に日本では絶対に考えられない「そこまでやるか!」というストーリーがあった(『シネマルーム29』178頁参照)。それと同じように本作でも、ブライヤー刑事がジュリー死亡の真犯人だと確信するロバートをあぶり出すべく、当面のターゲットたるジミーを追いつめていく姿は、まさに警察権力の「乱用」そのものだ。逮捕令状も持ってないのにしつこくネチネチと尋問したり、証拠写真もないのに現場でジミーの車がカメラに映っているとウソをついてジミーを揺さぶったり、そのやり方はメチャクチャだ。さらに、無理を重ねて逮捕令状を取ったのに、ロバートが依頼する友人の弁護士シド(スチュアート・マーゴリン)と相談してジミーのために立てたスラム街に強い弁護士の働きによってジミーが保釈されると、ブライヤー刑事はさらに陰険な手段を。それは警察や検察が決してしてはならない「証拠の捏造」だ。
実際に、あくまで黙秘を続けるジミーを司法妨害の罪で起訴しようとしたブライヤー刑事は、その大陪審で現場付近の料金所の監視カメラが捉えた、ジミーの車のナンバーが映った写真を証拠品として提出。さすがにこれには、とことんロバートに協力することを誓ったジミーも参ったようだが、その後のロバートの弁護士顔負けの「行動力」によってこの証拠写真がブライヤー刑事の捏造だったことが判明すると・・・。アメリカの警察の腐敗はここまで進んでいるの・・・?
<こちらも解決、あちらも解決で万々歳だが・・・>
アメリカのオバマ大統領も日本の安倍総理も、一時間単位、30分単位ではなく、3~5分単位で行動しているはずだが、その点はロバートも同じ。また、一人でこの件もあの件も決断しなければならないから、神経が一時も休まらないのも同じはずだ。本作冒頭に見るロバート最大の懸案は、スタンダード銀行との合併話をいかにまとめるかだった。それだけでも大変なのに、あの夜の「交通事故」以降は、それ以上のウエイトでブライヤー刑事の追及から自分とジミーがいかに逃れるかという問題が加わったから、ロバートはさらに大変。しかし、ブライヤー刑事の証拠捏造作戦の大失敗によってジミーが安泰になれば、ロバートもひと安心だ。
世の中はコトが一つ順調に進み始めると、他のコトも「右に倣え」になるもの。そんな状況下でロバートとスタンダード銀行の代表メイフィールド氏との一対一の話し合いが実現すると、いかにも「アメリカ的な駆け引き」による買収価格の決定によって、合併契約は一発で成立!これにてすべてが万々歳!会社の幹部たちと祝杯を挙げたロバートの今夜の仕事は、エレンと共にチャリティーパーティーに出席して挨拶をすることだが、さて・・・。
<一難去ってまた一難!前門の虎、後門の狼!>
本作のサスペンスはジミーをメインに展開していくが、実はあの日家を抜け出したロバートが明け方近くベットに戻ってきたことに妻のエレンが気づかないはずはない。また、ロバートの右の額についた傷や、腹部に負ったかなり大きな傷にも気づかないはずはない。エレンはブライヤー刑事の追及を巧妙に逃れていたが、その実ロバートがジュリーと男女関係にあったことはしっかり知っていたのでは?さらに、あの日の交通事故でジュリーが死亡したことにロバートがどのように絡んでいたのかも、すべて知っていたのでは?
ロバートの娘で会社のCFOを務めるブルックは、ロバートの帳簿改竄、粉飾決算を知った後もさすがにロバートを告発するような行動はとらなかったが、長年連れ添ってきた最愛の妻エレンは今ロバートに対してどんな要求を?まさに一難去ってまた一難!前門の虎、後門の狼!だが、果たしてロバートはこの苦境を切り抜けることができるのだろうか?そんな結末は、じっくりあなた自身の目で・・・。
2013(平成25)年3月30日記