ニューヨーク、恋人たちの2日間(フランス、ドイツ、ベルギー合作映画・2012年) |
<GAGA試写室>
2013年5月24日鑑賞
2013年5月27日記
ウディ・アレン監督が作品の舞台をパリやローマに移したのなら、私は逆にニューヨークへ!『パリ、恋人たちの2日間』(07年)で大成功したフランス人女流監督ジュリー・デルピー監督がそう考えたかどうかは知らないが、今度は「人種のるつぼ」ニューヨークで何とも面白いドタバタ劇を!パリからニューヨークへの3人の「闖入者」はフランス人ではなくゴール人!そう言われてもわからないだろうが、本作に見るかみ合わない会話劇は最高に面白い。内向き志向からの脱却を目指す日本人は、是非本作を!
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監督・共同脚本:ジュリー・デルピー
マリオン(フランス人写真家)/ジュリー・デルピー
ミンガス(マリオンの新しいボーイフレンド、ラジオDJ、ジャーナリスト)/クリス・ロック
ジャノ(マリオンの父)/アルベール・デルピー
ローズ(マリオンの妹、児童心理学者)/アレクシア・ランドー
マニュ(ローズの彼氏、マリオンの元カレ)/アレックス・ナオン
ルル(マリオンと前のボーイフレンドとの間の一人息子)/オーウェン・シップマン
ウィロー(ミンガスと前妻との間の一人娘)/ターレン・ライリー
ベラ/ケイト・バートン
ロン/ディラン・ベイカー
妖精/ダニエル・ブリュール
エリザベス/マリンダ・ウィリアムズ
ヴィンセント・ギャロ(本人)/ヴィンセント・ギャロ
2012年・フランス、ドイツ、ベルギー合作映画・95分
配給/アルバトロス・フィルム
<前作は観ていなくても、続編だけで・・・>
フランス人女優で脚本・監督したジュリー・デルピーの前作『パリ、恋人たちの2日間』(07年)を、私は観ていない。舞台をパリからニューヨークに移しただけの、同じタイトルを観れば、この続編は前作の二番煎じ?と考えてしまうが、そんな心配は全く無用。また、前作を観ていなければ続編はわからないのでは?という心配も全く無用だ。ロンドンやニューヨークを舞台にしたロマンティック・コメディをたくさんつくってきたアメリカ人のウディ・アレン監督は、前作の『ミッドナイト・イン・パリ』(11年)(『シネマルーム28』25頁参照)から今度はローマに舞台を移して『ローマでアモーレ』(12年)を撮ったが、逆にフランス人女流監督ジュリー・デルピーはパリからニューヨークに舞台を移して彼女なりのロマンティック・コメディを。
前作と本作を通じてヒロインとなるジュリー・デルピー自身が演ずるマリオンはパリで生まれ育った女性写真家だが、今はニューヨークで新しい恋人ミンガス(クリス・ロック)と共に暮らしていた。もっと正確に言えば、マリオンの以前のボーイフレンドであるアダム・ゴールドバーグとの間に生まれた一人息子のルル(オーウェン・シップマン)と、「バツ2」であるミンガスの一人娘ウィロー(ターレン・ライリー)を含めた4人暮らしだが、ニューヨークで3つのラジオ番組を抱えている人気DJであるミンガスとの仲は順調で、幸せそうだ。
今マリオンは大事な個展のオープニングを控えていたが、そこにフランスから妻を亡くしたばかりのマリオンの父親ジャノ(アルベール・デルピー)と、マリオンの妹ローズ(アレクシア・ランドー)、そしてマリオンの元カレで今はローズの彼氏になっているというマニュ(アレックス・ナオン)がやってくることに。そこから生まれる、ニューヨークでの2日間のドタバタ劇が本作のテーマだから、前作は観ていなくても、この続編だけで十分楽しめそう。
<かみ合わない会話劇の楽しさを存分に!>
中国第6世代監督の旗手、張元(チャン・ユアン)監督の『我愛你』(03年)は、中国四大女優の一人、徐静蕾(シュー・ジンレイ)が夫に対してヒステリックにわめく夫婦ゲンカをテーマにしたもので、エキセントリックなかみ合わない会話が見どころだった(『シネマルーム17』345頁参照)。それと同じように、本作では英語を少ししかしゃべれないジャノやマニュと、フランス語は全くわからないミンガスとの間で展開される、全くかみ合わない会話劇が面白い。ミンガスは弁護士と同じように(?)しゃべりを業としているのだから、会話には自信を持っている男。またニューヨークでは離婚を二度くらい経験しているからといって「変人」と言われる筋合いはない。そう考えると、男同士の会話が全くかみ合わない原因は、一方的にパリからの来客にあり・・・?
かみ合わないのは初対面の男同士だけではなく、マリオンとローズの姉妹も同じ、いや男たち以上だ。そもそも、なぜローズはマリオンの元カレをわざわざパリからニューヨークまで連れてくるの?それも事前の連絡を何もしないままで。本作では監督を兼ねているジュリー・デルピーがアパートの隣人から苦情を言われたことを契機として見せる「ウソつき怪演」が面白いが、これはどうもマリオン自身が天然に持っているキャラクターらしい。それと同じように、マリオンが「同じ遺伝子の妹とは思えない」と評する妹のローズの方も天然ボケで男好きのキャラは、あくまで天然のものだ。それがニューヨークで発揮されると「パワー10倍」になるからメチャ面白い。レストラン内で見せる、周りに人がいる状態でのたたき合い、罵り合いの姉妹ゲンカは、『我愛你』の夫婦ゲンカの罵り合いに比べればまだおとなしい(?)が、そうそう一般的に見られるものではない。本作では、そんなかみ合わない会話劇の楽しさを存分に!また、内向き志向からの脱却を目指す日本人は是非本作を!
<これがフランス人?いやいや彼らはゴール人!>
「税関」通過時におけるチェックは麻薬などの薬物や銃器などの危険物の持ち込みを水際で防ぐ意味で重要なもの。ところが、本作冒頭の「ソーセージの密輸劇」を見ていると、そんなチェックがいかにもバカバカしくなってくる。ジャノやマニュは、身体中に身につけていたおみやげの“ソーセージ密輸”容疑で4時間も取り調べを受けたことに不満タラタラだが、こんなドタバタ劇の面白さはくれぐれも映画だけのものに・・・。
先進国の中でセックスに対して最も開放的な国は1番がイタリア、2番がフランスだと私は思っているが、食事時におけるジャノやマニュのあけっぴろげなセックスに関する話題を聞いていると、1番と2番を逆転させるべき、と思うようなものが次々と。さらにフランス人は昔から政治談議が好き(?)だから、「人種のるつぼ」と言われているニューヨークにおけるマリオンたちのアパートのディナーでもそれについての本音がズバズバと。そこまではまだかろうじてセーフだが、ここはまるでパリであるかのように(?)、マリファナの売人をアパートに呼びつけて子供たちの目の前で堂々とそれを購入するというマニュの「暴挙」には、さすがにマリオンもミンガスもビックリだ。さらに、2日目のレストランのランチで、ミンガスが偶然ワシントンでオバマ政権のスタッフをしている知り合いにばったり出会い、大統領の記者会見に招待されるという幸運に恵まれたが、そこでのジャノたちの「オバマ大統領批判」はいかがなもの・・・。いくらフランス人は人権に敏感で政治的発言も自由だといっても、これでは・・・。
私はミンガスが相手にしているジャノやマニュはパリからやってきたフランス人だと思っていたが、プレスシートにおけるジュリー・デルピー監督の「PRODUCTION NOTE」を見ると、ミンガスが相手にするのは、「ゴール人よ」すなわち「ローマ帝国の時代、支配者であるユリウス・カエサルと戦い、イノシシを崇拝していたフランス人の祖先」らしい。そして「彼らの頭の中には、食べることとセックスのことしかなかった。私たちはそんな変わり者の祖先たちの血を引いている」そうだ。なるほど、なるほど・・・。
<「魂を1万ドルで売る!」が個展のテーマだが・・・>
写真家はセンスが何よりも大切。しかして、マリオンがはじめて開く個展のテーマは「魂を1万ドルで売る!」だが、それって一体ナニ?本作はタイトルどおりニューヨークにおけるマリオンとミンガスという2人の恋人たちの2日間を、パリからの3人の闖入者(?)と共に描く、「ウディ・アレンばり」のロマンティック・コメディだが、ここではスマートさよりもリズム感とユーモア感にあふれたドタバタ劇の面白さが際立っている。2日間にわたるドタバタ劇の最後に、はじめて開いたマリオンの個展で展示された写真が全然売れない中、マリオンがテーマにした「魂」だけが匿名の人物によって5000ドルで購入されたことが発表されるが、この購入者とは一体誰?会場に現われた有名なアート評論家の意見では、会場に展示されているマリオンの写真はイマイチらしいうえ、展示品が全く売れないのだから、ひょっとしてこの「魂」が売れたというのはサクラ・・・?観客の中にそんな疑問が生まれてくるくらいだから、どうもマリオン自身もそう疑問に思ったらしい。そんな中、アート評論家とのケンカに疲れ果てたマリオンはギャラリーを飛び出し、自分の「魂」を購入した人物の名前を聞き出そうとしたが、さてここからフィナーレに向かう展開は・・・?
マリオンが疲れているのなら、それはマリオンだけではなくミンガスも同じ。ジャノ、マニュ、ローズの3人を家から追い出せ、と強くマリオンに迫ったミンガスだったが、交渉の結果アパートを出ることになったのはマニュのみ。それはそれで仕方ないとしても、マリオンとミンガスの2人の子供たちを放り出したままギャラリーから帰ってこないマリオンは、一体ナニを考えているの?こちらも憔悴しきったミンガスがそう考えたのは当然だが、さて、ジュリー・デルピー監督が描く本作のフィナーレは・・・?それは、あなた自身の目でしっかりと!
2013(平成25)年5月27日記